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辺境伯の縁談
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マシューに辞めたいと告げてから二週間が経ったが、状況は全く変わらなかった。それでも理緒は以前よりも格段に字が読めるようになり、今では昼寝と寝る前にルイに絵本の読み聞かせをするのが理緒の課題になった。
これはエルシーが提案してくれたもので、理緒は毎日新しい絵本を二冊読めるようにならなければいけなくなり、中々にハードだったが、その分上達も格段に早くなった気がした。幸いにもこの屋敷にはルイ用の子供向けの絵本が大量にあったため、読む本には事欠かなかった。
エルシーによると本は高価で一般庶民には手が届かないから、こんな風にただで読めるのはラッキーなのだという。そういう事ならと、理緒は益々本を読む事に時間を割くようにした。本が読めるのもこの屋敷にいる間だけだからだ。
そして理緒が必死に絵本を読んでいると、ルイやアレンが興味を持つようになり、気が付けば毎日二冊のペースが、二週間経った今では五冊くらいまで増えていた。理緒も読むスピードが上がったのを実感するくらいには、こちらの文字に馴染んできていた。
「リオ~今度はこのおはなし~」
「え~ルイしゃま~こっちがいい~」
「えええ?アレンのそれ、さっきよんだ」
「もういっかい、ね、リオ」
子供達は理緒の都合そっちのけで、読みたい本を持って来たが、ここでも二人の性格の違いがはっきり出て理緒は微笑ましく感じた。ルイは毎回違う話を好むが、アレンは同じ本を何度もとせがんでくるのだ。お陰でアレンのお気に入りの本は、理緒ですらも暗記できるほどにまでなっていた。
「はいはい、じゃ順番ね。どっちが先?」
「え~ぼくがさき!」
「ぼくの~」
「う~ん、じゃ、さっきはルイ様からだったから、今度はアレンからね」
「うん、わかった」
「わ~ありがと~」
どちらかと言うとせっかちなルイに、のんびりおっとりしたアレンだったが、二人は意外にも互いに譲り合うようになっていた。まぁ、理緒が繰り返し順番を守る事を二人に言い聞かせたからなのだが。立場的にはルイが上でも、理緒はルイを無駄に甘やかせたりはしなかった。順番を守る、人を叩かない、何かして貰ったらお礼を言う、悪い事をしたら謝るなどは、元の世界で妹弟達に教えてきたそのままを教えた。
この屋敷ではルイが優先されるが、大きくなって他の貴族の中に入れば事情が違ってくる。その時になって急に教えても直ぐには身に付かない。トラブルにならないように最初から、というのが理緒の考えだった。この考えも最初はマシューやネリーに反対されたが、理由を話せば意外にも受け入れられた。
「どうも辺境伯様に縁談が来ているらしいわよ」
理緒が辞意を伝えてから三週間ほど経ったある日の晩、理緒はエミーからそんな話を聞いた。既にルイは夢の中で、今は護衛と侍女が寝ずの番をしているし、エルシー一家も寮に戻った。エミーやダリルの他、若い家令たちが時々食堂でこうして集まってお喋りの一時を楽しんでいたのだが、理緒がこの話を初めて聞いたのはこの時だった。
「そうそう、何でも王女様との縁談だっていうわよ」
「ええ、王女様が?」
「それって、あの第二王女様の事?」
「そう、それそれ!」
皆の話では、この国の第二王女との縁談の話が辺境伯に来ているのだという。
第二王女は名をマーガレットと言い、十歳の時に隣国の王子と婚約したという。十八歳で婚儀を行う予定だったが、その前の年の婚約者の王子が病を得た。さすがに療養中に婚儀を行う訳にも行かず、かといって今更婚約破棄をするわけにもいかず、婚儀は王子の回復後にとなったのだ。その当時、この結婚は両国にとって非常に重要な意味合いを持っていたからだ。
こうして婚儀が延び延びになっていたのだが、王女が二十一歳になった時、療養の甲斐なく王子は亡くなってしまったのだ。この頃には情勢が変わって意味が薄れており、結果この政略結婚は流れた。
結局婚期を逃した王女は、改めて国内で相手を探す事になった。この時すでに王女は適齢期を過ぎており、有力貴族の令息は相手が決まっていて、王女に見合う相手が見つからなかった。それなら国の要でもある辺境伯と王家の結びつきを深めようという流れになり、この度辺境伯家の者が候補に挙がったのだという。
今候補に挙がっているのは、ルイの叔父のファレル辺境伯アルバートの他、ロートン辺境伯の令息のエドマンド、サーグッド辺境伯の令息オリバーの三人で、年齢や能力などからこのファレル辺境伯が一番の有力候補なのだという。
「はぁ…辺境伯様がねぇ…」
「そうなの。この地に王女様が降嫁されたら賑やかになるかしら?」
「でも…そうなるとルイ様やルイ様のお母様はどうなるんだろう…」
辺境伯が誰と結婚しようとどうでもいい理緒だったが、ルイやその母親の処遇が気になった。今のところ辺境伯が独身で子供もいないため、辺境伯はルイを後継者と公言しているが、王女が降嫁して子供が出来た場合、ルイを排除しようとしないだろうか…
やっと落ち着きを見せた二人だから、理緒は出来る事ならこの状態をこのまま維持して、少しずつルイと母親が交流を増やし、いずれはルイも母親達と一緒に暮らせるように…と思っていたのだ。
これはエルシーが提案してくれたもので、理緒は毎日新しい絵本を二冊読めるようにならなければいけなくなり、中々にハードだったが、その分上達も格段に早くなった気がした。幸いにもこの屋敷にはルイ用の子供向けの絵本が大量にあったため、読む本には事欠かなかった。
エルシーによると本は高価で一般庶民には手が届かないから、こんな風にただで読めるのはラッキーなのだという。そういう事ならと、理緒は益々本を読む事に時間を割くようにした。本が読めるのもこの屋敷にいる間だけだからだ。
そして理緒が必死に絵本を読んでいると、ルイやアレンが興味を持つようになり、気が付けば毎日二冊のペースが、二週間経った今では五冊くらいまで増えていた。理緒も読むスピードが上がったのを実感するくらいには、こちらの文字に馴染んできていた。
「リオ~今度はこのおはなし~」
「え~ルイしゃま~こっちがいい~」
「えええ?アレンのそれ、さっきよんだ」
「もういっかい、ね、リオ」
子供達は理緒の都合そっちのけで、読みたい本を持って来たが、ここでも二人の性格の違いがはっきり出て理緒は微笑ましく感じた。ルイは毎回違う話を好むが、アレンは同じ本を何度もとせがんでくるのだ。お陰でアレンのお気に入りの本は、理緒ですらも暗記できるほどにまでなっていた。
「はいはい、じゃ順番ね。どっちが先?」
「え~ぼくがさき!」
「ぼくの~」
「う~ん、じゃ、さっきはルイ様からだったから、今度はアレンからね」
「うん、わかった」
「わ~ありがと~」
どちらかと言うとせっかちなルイに、のんびりおっとりしたアレンだったが、二人は意外にも互いに譲り合うようになっていた。まぁ、理緒が繰り返し順番を守る事を二人に言い聞かせたからなのだが。立場的にはルイが上でも、理緒はルイを無駄に甘やかせたりはしなかった。順番を守る、人を叩かない、何かして貰ったらお礼を言う、悪い事をしたら謝るなどは、元の世界で妹弟達に教えてきたそのままを教えた。
この屋敷ではルイが優先されるが、大きくなって他の貴族の中に入れば事情が違ってくる。その時になって急に教えても直ぐには身に付かない。トラブルにならないように最初から、というのが理緒の考えだった。この考えも最初はマシューやネリーに反対されたが、理由を話せば意外にも受け入れられた。
「どうも辺境伯様に縁談が来ているらしいわよ」
理緒が辞意を伝えてから三週間ほど経ったある日の晩、理緒はエミーからそんな話を聞いた。既にルイは夢の中で、今は護衛と侍女が寝ずの番をしているし、エルシー一家も寮に戻った。エミーやダリルの他、若い家令たちが時々食堂でこうして集まってお喋りの一時を楽しんでいたのだが、理緒がこの話を初めて聞いたのはこの時だった。
「そうそう、何でも王女様との縁談だっていうわよ」
「ええ、王女様が?」
「それって、あの第二王女様の事?」
「そう、それそれ!」
皆の話では、この国の第二王女との縁談の話が辺境伯に来ているのだという。
第二王女は名をマーガレットと言い、十歳の時に隣国の王子と婚約したという。十八歳で婚儀を行う予定だったが、その前の年の婚約者の王子が病を得た。さすがに療養中に婚儀を行う訳にも行かず、かといって今更婚約破棄をするわけにもいかず、婚儀は王子の回復後にとなったのだ。その当時、この結婚は両国にとって非常に重要な意味合いを持っていたからだ。
こうして婚儀が延び延びになっていたのだが、王女が二十一歳になった時、療養の甲斐なく王子は亡くなってしまったのだ。この頃には情勢が変わって意味が薄れており、結果この政略結婚は流れた。
結局婚期を逃した王女は、改めて国内で相手を探す事になった。この時すでに王女は適齢期を過ぎており、有力貴族の令息は相手が決まっていて、王女に見合う相手が見つからなかった。それなら国の要でもある辺境伯と王家の結びつきを深めようという流れになり、この度辺境伯家の者が候補に挙がったのだという。
今候補に挙がっているのは、ルイの叔父のファレル辺境伯アルバートの他、ロートン辺境伯の令息のエドマンド、サーグッド辺境伯の令息オリバーの三人で、年齢や能力などからこのファレル辺境伯が一番の有力候補なのだという。
「はぁ…辺境伯様がねぇ…」
「そうなの。この地に王女様が降嫁されたら賑やかになるかしら?」
「でも…そうなるとルイ様やルイ様のお母様はどうなるんだろう…」
辺境伯が誰と結婚しようとどうでもいい理緒だったが、ルイやその母親の処遇が気になった。今のところ辺境伯が独身で子供もいないため、辺境伯はルイを後継者と公言しているが、王女が降嫁して子供が出来た場合、ルイを排除しようとしないだろうか…
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