子守を引き受けただけなのに、その保護者から不審者扱いされています

四葉るり猫

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新しい仕事

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 マシューに、ルイの子守を辞めたいと告げた理緒だったが、残念ながら辺境伯が忙しいらしく、話はちっとも進まなかった。マシューによると重要な問題が起きたとかで、そちらに忙殺されているらしい。
理緒としては忙しい時にわざわざ話をして相手の機嫌を損ねてまで勧めたい話でもないため、ある程度落ち着くまでは…と待つ事にした。マシューも余裕のない時は避けた方がいいとも言うし、差し当たって急ぐ理由もない。理緒は今後の準備期間と思う事にして、辺境伯が落ち着くのを待った。



「身元保証がなくても出来る仕事ってあるでしょうか?」

 理緒はある日の午後、ルイ達が庭で遊んでいるのを眺めながら、同じく子供達を見守っていたエルシーに尋ねてみた。ルイの子守を辞めたらまた冒険者に戻るつもりだが、正直言って理緒は自分が冒険者に向いていない事を、ここにきて実感したからだ。
 体力もないし、武の心得もない。この世界の常識にも疎いし、この辺の地理もよくわかっていない自分では、この先冒険者を続けるのは難しいだろう。怪我のリスクなどを考えれば、出来ればどこかの屋敷に雇って貰った方がずっと安全で確実だ。

 だが理緒は、この世界の者ではないため、いわゆる戸籍のようなものはない。この世界では生まれた子供は町や村の長を通して領主に届け出をする義務があるため、一応戸籍のようなものはある。理緒の感覚で言えば発展途上国のような感じで、戸籍などもザルに思えるのだが、現実問題として理緒には身元保証するものが存在せず、仕事に就くにも制限が多かったのだ。
 ここで働いているのだって、異例の異例なのだ。先々代の辺境伯の一声がなければ、雇ってはもらえなかっただろう。

「リオは、孤児なの?」
「そんな感じですね。家族も親戚もいませんから…」
「そう…苦労したのね」
「え~っと、まぁ、それなりには…」

 実際には元の世界には両親も妹弟もいるが、さすがに本当の事を話す事も出来ず、曖昧に笑ってやり過ごした。エルシーからすると理緒はまだ子供に見えるらしく、深い青の瞳が曇った。

「そうねぇ…ちゃんとした仕事は身元保証が必須だし…今まではどうしていたの?」
「今までは冒険者に登録して、日雇いの仕事をしていました」
「冒険者かぁ…あれって騎士とか腕に覚えがある人向けだし…確かにリオには難しそうね」
「そうなんです。やっぱり体力的に厳しくて…それで今みたいに子守とか家の雑用係としてどこかのお屋敷で雇って貰えないかなぁ…と」
「あら、それだったら出ていく必要ないんじゃない?マシューさんやネリーさんもリオにはずっと居て貰いたいって言っていたわよ」
「…そう言って頂けるのは嬉しいんですけど…最初から辺境伯様は自分が気に入らなかったので、まぁ、何と言うか…」
「ああ、辺境伯様かぁ…なにか、誤解されてるみたいね」

 そう言って苦笑したエルシーだったが、あれは誤解と言って済む話なのだろうか…と理緒は思った。完全に濡れ衣レベルだろうと思う…
 でも、これまでもルイは誘拐されそうになったと聞くし、それなら過剰に警戒されても仕方ないのかもしれない…とも思えるくらいにはなっていた。この世界では、身元保証のない冒険者は確かに犯罪予備軍なのだ。

「う~ん、読み書きとか、計算は出来るの?」
「文字は今、マシューさん達から教わっていますが…まだ十分ではないです。計算は、まぁ、多少は…」

 理緒はこの屋敷に来てから、マシュー達から読み書きや計算を習っていた。さすがに文字は元の世界とは全く違うので、一から覚える必要があって、現在進行形で四苦八苦しているところだ。こちらの文字は元の世界のアラビア文字に近い感じで覚えにくく、かなり苦戦していた。
 一方、計算はこちらの世界も10進法が基本で、これは幸運中の幸運だった。ただ、計算は出来るのだが、文字が読めなくてどう計算すればいいのかわからないので役に立てていないのだが…

「計算が出来るのなら、仕事には困らない筈よ」
「そうなんですか?」
「ええ、計算できる人って少ないもの。大きな数字の計算が出来ればなおいいわね」
「そうなんですか。でも、文字が読めないから、どう計算すればいいのかわからなくて…」
「あ~なるほど…それもそうね。だとすれば、まずは読み書きかぁ…でも、平民だと読み書き出来る人はまだ少ないから、それを覚えれば仕事も格段に増える筈よ。ギルドでもそういう類の仕事はあるんじゃないかな」
「そうなんですか?」
「ええ、私の知り合いもギルドを通じてとある商会で働いているわ。冒険者ギルドに登録出来ているならリオでも大丈夫の筈よ」

 エルシーの話は理緒に新しい可能性を示してくれた。エルシーの知り合いは、それで理緒が貰っている倍以上の報酬を貰っているらしい、との情報はリオの新しい希望になった。
 今までは依頼書すら読めなかったため、薬草採取などのいわゆる採取系や、皿洗いや掃除などの簡単な仕事しか紹介して貰えなかったのかもしれない。だが、文字が読めて計算が出来るとなれば仕事の幅も広がりそうだった。

 エルシーの話を聞いてからは、理緒は一層文字を覚えるために時間を割いた。時間があれば子供向けの絵本をマシュー達から借りて読んでいたが、これは意外な副産物を呼んだ。
 子供達が遊んでいるのを見守りながら絵本を読んでいた理緒に、ルイやアレンが絵本を読んで欲しいとせがんでくるようになったのだ。実地付きでの学習になったため、理緒には一石二鳥だった。

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