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森で出会った女の子
第34話 お別れ
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「コトミンの魔法を見た時、俺も魔力を飛ばせるんじゃないかと思ってたんだ。でも、一年近くも掛かったな」
「……おめでとう」
「フゴォッ……」
「何だよ、二人とも……何かあんまり嬉しそうじゃないけど?」
レノはコトミンとボア子の様子がおかしいことに気付き、いつもの二人ならば一緒に喜んでくれると思った。だが、何故かどちらも寂しそうな表情を浮かべていた。
「……ねえ、どうしたの?俺何かまずいことをした?」
「レノ……ごめんね」
「えっ……うわっ!?」
コトミンは掌を構えると風の斬撃を地面に打ち込み、レノと自分の間の地面に線を描く。唐突な彼女の行動にレノは戸惑うが、コトミンはボア子の背中に乗せていた袋をレノに放り込む。
「これ、受け取って」
「うわっ!?な、何だよこれ……」
「その中に数日分の食料と旅に役立ちそうな道具をまとめておいた……この森から出ていって」
「フゴォッ……」
「出ていけって……どういう意味だよ!?」
レノはコトミンの言葉に衝撃を受け、彼女のことは信頼できる友達だと思っていた。それなのに急に森から出て行けと言われて納得ができない。だが、コトミンは悲しそうな表情を浮かべながら説明する。
「レノに秘密にしていたことがある。エルフは人間と関わることを厳しく禁止している……だから本当だったら私はレノと関わることは許されていない」
「ど、どうして!?」
「大昔、人間はエルフを裏切った。だからエルフは二度と人間と交わってはならないと掟を作ったと聞いている」
遥か昔、人間はエルフに対して取り返しのつかないことをしてしまった歴史があった――
――今から何百年も前、魔法の力を扱えたのはエルフだけだった。人間と違ってエルフは生まれた時から膨大な魔力を持ち合わせ、その力を利用することができた。しかし、そんな彼等の力を妬む種族は多かった。
ある時にエルフの元に人間の国から使者が訪れ、彼等の魔法の力を自分達にも授けて欲しいと頼み込む。エルフは他の種族に魔法を教えれば自分達を脅かす存在になるかもしれないと判断し、最初は要求を拒否した。しかし、エルフの国で謎の病が広まる。
魔法の力では病気の類は治すことはできず、治療法が判明するまでの間に数多くのエルフが犠牲となる。しかも肝心の治療法とは人間の国でしか手に入らない素材を使った薬の生成だった。
病に侵された同胞を救うためにエルフは魔法の知識を人間に与える条件として薬の提供を求めた。交渉は成立して人間の薬のお陰で多くのエルフの命は救われたが、彼等は途轍もない代償を支払う。
人間達は魔法の知識を得るとその力を利用して戦争を引き起こした。戦争の過程で人間達は魔術師が魔術師を殺せば魔力を奪い取れることも知り、何度も戦争を繰り返す事に強力な魔術師が誕生する。その魔術師たちの力はエルフの力を越え、彼等はエルフの国も襲撃した。
エルフと人間の間で激しい戦争が怒り、結果から言えばエルフは破れて国は滅びた。生き残ったエルフは世界中に散らばり、人間側も被害が大きかった。後に判明したのはエルフの間に広まった病は人為的な物であり、最初に交渉を行った使者が病の素を持ちこんでいたことが発覚する。
最初から人間はエルフの国に病を伝染させ、その治療と引き換えに魔法の力を奪うつもりだったと判明した。これによって世界中のエルフは人間は決して心を許してはならない存在だと認識し、彼等との交わりを禁じる掟を生み出した――
「――これがエルフと人間の間に起きた出来事、今の話を聞いてレノはどう思う?」
「人間が魔法を奪ったなんて……そんな話聞いたこともない」
「大昔の話だから人間は覚えていない。でも、人間よりも長く生きられるエルフは決して忘れない」
コトミンの話を聞いてレノは動揺を隠し切れず、まさか人間の間に広まる魔法の知識が元々はエルフから奪った物だとは夢にも思わなかった。そしてコトミンはエルフであるが故に人間のレノと何時までも一緒に居られないと語る。
「レノの事は好きだけど、人間である以上はエルフの私とはずっと一緒にいられない……私がこの森に住んでいるのは私の一族が代々この森の管理を任されているから」
「一族?」
「……私の役目はこの森を乱す輩を排除すること、だから魔物だろうと人間だろうと自然を破壊する存在は許さない」
「でも、俺は!!」
「レノは酷い人間じゃないことは分かってる……でも、何時かここに他のエルフがやってくる。その時に人間のレノを見たら必ず始末しようとする。そして人間と交わった私も……」
「そんな……」
どうして一人でコトミンが森に住んでいたのかはレノも気になっていたが、彼女の役目は森を守ることであり、この場所を離れられない理由があった。そしてレノを傍に置いておくと同胞に命を狙われる可能性もあり、自分と一緒に居ればレノも危険に巻き込むことを伝える。
「レノと最初に会った日、正直に言えば私は怖かった。人間は凄い悪い存在だと聞かされていたから……でも、それなのにレノは命を懸けて救ってくれた。だから本当に人間が悪い存在なのか気になった。だからしばらく一緒に生活してレノが本当に悪い人間なのか確かめようと思った」
「だから俺の世話をしてくれたの?」
「一緒に過ごしていくうちにレノが良い人なのは分かった。本当はもっと早くお別れしないといけないとは分かってたけど、レノが私の術を覚えたいと言ってくれたから最後まで付き合おうと思った」
「じゃあ……俺が技術を習得したからもうここには置いておけないということか」
「フゴゴッ……」
コトミンの話を聞いてレノは納得し、彼女なりに自分のことを気遣っていたのだと知る。本当ならコトミンの立場を考えればレノは傍に置いておくだけでも危険だが、それなのに掟を破ってまで技術を教えてくれた。
話を理解した上でレノはコトミンと別れたくはないと思ったが、ここに残れば何時の日か訪れる他のエルフに命を狙われる。そして危なくなるのは自分だけではなく、コトミンも一緒に危険に巻き込むと聞かされれば出ていかないわけにはいかない。しかし、本当に他の方法はないのかを問う。
「コトミン……俺と一緒に森を出ようと言ったらどうする?」
「……魅力的な提案だけど、それはできない。私はこの森で生まれてこの森を死ぬまで守るのが私の役目、それを放棄して逃げ出せば必ず他のエルフが報復に訪れる」
「くそっ……だったら俺が守るよ!!」
「ごめんね、レノも好きだけど……私はこの森を放っておけない。役目とか関係なく、私はこの森が大好きなの」
「フゴォッ」
ボア子を撫でながらコトミンは目元に涙を溜め、森から離れられないことを伝えた。彼女の言葉を聞いてレノは胸が張り裂けそうになるが、説得は諦めるしかなかった。
「分かったよ……俺はもう行く、今までありがとう」
「あっ……」
「フゴォオオッ!!」
荷物を受け取ったレノは背中を向けると、それに対してコトミンは何か言いたげな表情を浮かべるが黙って見送る。ボア子も悲し気な鳴き声を上げるが、レノは振り返らずに歩む。しかし、一度だけ立ち止まって告げた。
「コトミン、大好きだったよ」
「……私もレノと出会えて良かった」
お互いに最後の言葉を交わすと背中を向けて別々の方向に歩む。ボア子はそんな二人を見て悲し気な表情を浮かべることしかできなかった――
「……おめでとう」
「フゴォッ……」
「何だよ、二人とも……何かあんまり嬉しそうじゃないけど?」
レノはコトミンとボア子の様子がおかしいことに気付き、いつもの二人ならば一緒に喜んでくれると思った。だが、何故かどちらも寂しそうな表情を浮かべていた。
「……ねえ、どうしたの?俺何かまずいことをした?」
「レノ……ごめんね」
「えっ……うわっ!?」
コトミンは掌を構えると風の斬撃を地面に打ち込み、レノと自分の間の地面に線を描く。唐突な彼女の行動にレノは戸惑うが、コトミンはボア子の背中に乗せていた袋をレノに放り込む。
「これ、受け取って」
「うわっ!?な、何だよこれ……」
「その中に数日分の食料と旅に役立ちそうな道具をまとめておいた……この森から出ていって」
「フゴォッ……」
「出ていけって……どういう意味だよ!?」
レノはコトミンの言葉に衝撃を受け、彼女のことは信頼できる友達だと思っていた。それなのに急に森から出て行けと言われて納得ができない。だが、コトミンは悲しそうな表情を浮かべながら説明する。
「レノに秘密にしていたことがある。エルフは人間と関わることを厳しく禁止している……だから本当だったら私はレノと関わることは許されていない」
「ど、どうして!?」
「大昔、人間はエルフを裏切った。だからエルフは二度と人間と交わってはならないと掟を作ったと聞いている」
遥か昔、人間はエルフに対して取り返しのつかないことをしてしまった歴史があった――
――今から何百年も前、魔法の力を扱えたのはエルフだけだった。人間と違ってエルフは生まれた時から膨大な魔力を持ち合わせ、その力を利用することができた。しかし、そんな彼等の力を妬む種族は多かった。
ある時にエルフの元に人間の国から使者が訪れ、彼等の魔法の力を自分達にも授けて欲しいと頼み込む。エルフは他の種族に魔法を教えれば自分達を脅かす存在になるかもしれないと判断し、最初は要求を拒否した。しかし、エルフの国で謎の病が広まる。
魔法の力では病気の類は治すことはできず、治療法が判明するまでの間に数多くのエルフが犠牲となる。しかも肝心の治療法とは人間の国でしか手に入らない素材を使った薬の生成だった。
病に侵された同胞を救うためにエルフは魔法の知識を人間に与える条件として薬の提供を求めた。交渉は成立して人間の薬のお陰で多くのエルフの命は救われたが、彼等は途轍もない代償を支払う。
人間達は魔法の知識を得るとその力を利用して戦争を引き起こした。戦争の過程で人間達は魔術師が魔術師を殺せば魔力を奪い取れることも知り、何度も戦争を繰り返す事に強力な魔術師が誕生する。その魔術師たちの力はエルフの力を越え、彼等はエルフの国も襲撃した。
エルフと人間の間で激しい戦争が怒り、結果から言えばエルフは破れて国は滅びた。生き残ったエルフは世界中に散らばり、人間側も被害が大きかった。後に判明したのはエルフの間に広まった病は人為的な物であり、最初に交渉を行った使者が病の素を持ちこんでいたことが発覚する。
最初から人間はエルフの国に病を伝染させ、その治療と引き換えに魔法の力を奪うつもりだったと判明した。これによって世界中のエルフは人間は決して心を許してはならない存在だと認識し、彼等との交わりを禁じる掟を生み出した――
「――これがエルフと人間の間に起きた出来事、今の話を聞いてレノはどう思う?」
「人間が魔法を奪ったなんて……そんな話聞いたこともない」
「大昔の話だから人間は覚えていない。でも、人間よりも長く生きられるエルフは決して忘れない」
コトミンの話を聞いてレノは動揺を隠し切れず、まさか人間の間に広まる魔法の知識が元々はエルフから奪った物だとは夢にも思わなかった。そしてコトミンはエルフであるが故に人間のレノと何時までも一緒に居られないと語る。
「レノの事は好きだけど、人間である以上はエルフの私とはずっと一緒にいられない……私がこの森に住んでいるのは私の一族が代々この森の管理を任されているから」
「一族?」
「……私の役目はこの森を乱す輩を排除すること、だから魔物だろうと人間だろうと自然を破壊する存在は許さない」
「でも、俺は!!」
「レノは酷い人間じゃないことは分かってる……でも、何時かここに他のエルフがやってくる。その時に人間のレノを見たら必ず始末しようとする。そして人間と交わった私も……」
「そんな……」
どうして一人でコトミンが森に住んでいたのかはレノも気になっていたが、彼女の役目は森を守ることであり、この場所を離れられない理由があった。そしてレノを傍に置いておくと同胞に命を狙われる可能性もあり、自分と一緒に居ればレノも危険に巻き込むことを伝える。
「レノと最初に会った日、正直に言えば私は怖かった。人間は凄い悪い存在だと聞かされていたから……でも、それなのにレノは命を懸けて救ってくれた。だから本当に人間が悪い存在なのか気になった。だからしばらく一緒に生活してレノが本当に悪い人間なのか確かめようと思った」
「だから俺の世話をしてくれたの?」
「一緒に過ごしていくうちにレノが良い人なのは分かった。本当はもっと早くお別れしないといけないとは分かってたけど、レノが私の術を覚えたいと言ってくれたから最後まで付き合おうと思った」
「じゃあ……俺が技術を習得したからもうここには置いておけないということか」
「フゴゴッ……」
コトミンの話を聞いてレノは納得し、彼女なりに自分のことを気遣っていたのだと知る。本当ならコトミンの立場を考えればレノは傍に置いておくだけでも危険だが、それなのに掟を破ってまで技術を教えてくれた。
話を理解した上でレノはコトミンと別れたくはないと思ったが、ここに残れば何時の日か訪れる他のエルフに命を狙われる。そして危なくなるのは自分だけではなく、コトミンも一緒に危険に巻き込むと聞かされれば出ていかないわけにはいかない。しかし、本当に他の方法はないのかを問う。
「コトミン……俺と一緒に森を出ようと言ったらどうする?」
「……魅力的な提案だけど、それはできない。私はこの森で生まれてこの森を死ぬまで守るのが私の役目、それを放棄して逃げ出せば必ず他のエルフが報復に訪れる」
「くそっ……だったら俺が守るよ!!」
「ごめんね、レノも好きだけど……私はこの森を放っておけない。役目とか関係なく、私はこの森が大好きなの」
「フゴォッ」
ボア子を撫でながらコトミンは目元に涙を溜め、森から離れられないことを伝えた。彼女の言葉を聞いてレノは胸が張り裂けそうになるが、説得は諦めるしかなかった。
「分かったよ……俺はもう行く、今までありがとう」
「あっ……」
「フゴォオオッ!!」
荷物を受け取ったレノは背中を向けると、それに対してコトミンは何か言いたげな表情を浮かべるが黙って見送る。ボア子も悲し気な鳴き声を上げるが、レノは振り返らずに歩む。しかし、一度だけ立ち止まって告げた。
「コトミン、大好きだったよ」
「……私もレノと出会えて良かった」
お互いに最後の言葉を交わすと背中を向けて別々の方向に歩む。ボア子はそんな二人を見て悲し気な表情を浮かべることしかできなかった――
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