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プロローグ 《魔術師と弟子》
第21話 無色の魔力
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――元々はタケルは普通の人間だったが、拷問のような実験を受けている最中、隙を突いて自分を召喚した魔術師を殺害した。その結果、魔術師の魔力を奪うことに成功した。しかし、残念ながらこの世界の人間ではないタケルは魔法の力を完璧に扱うことはできなかった。
ゴウカが言っていたタケルが「魔法を使えない魔術師」という話は真実であり、彼は膨大な魔力を手に入れたが魔法を行使する能力を持ち合わせていなかった。扱えるのは魔力を操作する技術だけであり、タケルは実は一度も魔法を使ったことがない。
自分を召喚した魔術師を殺してからタケルは逃げ出し、世界中を転々として自分が安全に暮らせる場所を探す。途中で何度も命を狙われたが、それらを返り討ちにしていく度にタケルは強くなった。
タケルが召喚した国は滅びた後も彼を狙う輩は現れ、命を狙う理由はタケルの魔力を奪うためだった。タケルは魔力を伸ばす唯一の方法はレノには魔物を殺して血晶を破壊し、秘められた魔力を摂取すれば魔力を増やせると教えた。その教えは間違いではないが、実はもう一つだけ別の方法がある。
魔力を伸ばす一番効率が良い方法、それは他の魔術師を殺して魔力を奪い取ることだった。魔物にとっての血晶は人間で例えると心臓に等しい部位であり、だからタケルは魔術師の心臓を刺した時、膨大な魔力を奪い取ることに成功した。
「儂は本来ならば魔術師を名乗ることも許されん人間なんじゃ……この世界では他の魔術師を殺して魔力を奪い取る方法は外道とされておる。だから儂は魔術師を名乗らずにひっそりと暮らすしかなかった」
「じ、爺ちゃんが別の世界の人間だったなんて……」
「……お前には誤魔化していたが、儂はこの世界の人間ではない。それが原因なのか儂の魔力は色が無い。お前が見ていた表面上の魔力は儂が殺した人間の魔力に過ぎん……」
吸血鬼が言っていた「無色の魔術師」とはタケルの魔力の本来の色を示しており、タケルはこの世界の人間ではないせいか、魔力は本来は透明で目視できない。レノが今まで見えていた魔力はタケルが殺した魔術師の魔力を外側に纏っていただけだと明かす。
「今まで黙っていてすまなかった。儂は本来は魔術師を名乗れるような立場ではない……魔法をまともに使うこともできない落ちこぼれだったんじゃ」
「そんなことない!!爺ちゃんは立派な魔術師だったよ!!」
「すまない、お前に嫌われたくなくてずっと黙っていた……本当にすまん」
「爺ちゃん!!そんなことで俺は爺ちゃんを嫌いになんかならないよ!!」
いくらレノが必死に声をかけてもタケルに耳には届かず、ただ手を握りしめることしかできない。タケルは涙を流しながらレノに握られていない方の手を懐に伸ばし、手帳を取り出す。
「お前にこれを託す……お前にいつか教えようと思って書いていた技術をいくつか記してある。これを儂の形見だと思ってくれ」
「形見って……爺ちゃん!!」
「レノ……お前は儂の――」
タケルは最後に何か言い残そうとしたが、言葉を言い終える前に逝ってしまった――
――レノはタケルが亡くなった後、しばらくは彼の亡骸に泣き縋っていた。レノにとっては父親と同じぐらいに慕っていた相手であり、身寄りを失った彼にとって唯一頼れる人間だった。だが、いくら泣きわめこうとタケルが目を覚ますことはなく、一晩かけてレノはタケルの墓を山小屋の前に作った。
「爺ちゃん、今までありがとう……」
タケルの墓の前でレノは彼に託された手帳を握りしめ、最後にお礼を告げる。タケルが亡くなった以上はこの山に留まる理由はなく、レノは山を下りる決意をした。
山小屋はタケルとゴウカの戦闘のせいで焼け崩れてしまい、とても住める状況ではなかった。それでもレノは残骸の中から使えそうな道具を探し、荷物をまとめると山を下りる。その途中でレノは首無しの吸血鬼の死体を発見して驚く。
「どうなってるんだ?骨になっている……もしかして太陽のせいか?」
夜が明けたことで太陽の光が降り注ぎ、そのせいなのか吸血鬼の肉体は灰と化して骨だけが残っていた。レノは骨を拾い上げようとすると、その骨さえも触っただけで崩れてしまう。このまま放置しても完全に灰と化して消えるのは時間の問題だった。
「……ちょっと哀れだな」
吸血鬼とゴウカのせいでタケルは死んでしまったが、灰と化して消えていく死体を見てレノは恨む気になれなかった。灰の山の前でレノは手を合わせて冥福を祈ると、四肢を引きちぎられたゴウカを思い出す。
「そういえばあいつの死体は何処にあるんだ?確かあっちの方に落ちたよな……」
ゴウカのことも気になったレノは彼が落ちたと思われる場所へ向かう。ゴウカは吸血鬼に見えなかったので太陽に晒されても死体が消えるとは思えず、急いでレノはゴウカが落下した場所に向かうと、そこには隕石が落ちたかのようなクレーターが出来上がっていた。
「うわっ、酷いな……無茶苦茶だ」
クレーターを確認してレノはゴウカの死体が見当たらず、跡形もなく吹き飛んだと判断した。それだけは確認すれば十分であり、レノは久々に故郷に戻ることにした。
「……いったい何だったんだこいつら」
吸血鬼とゴウカの正体はレノには分からず、二人がタケルとどんな因縁があったのかも知らない。話を聞く限りでは吸血鬼はタケルに何十年前も命を狙ったが返り討ちにされ、ゴウカの方は曾お爺さんのモウカをタケルに殺されたと言っていた。
この二人はタケルの命を狙っていたが、目的は別々だった。吸血鬼はタケルを殺して彼の魔力を奪い取るつもりだったが、ゴウカの場合はモウカを殺したタケルを殺すことで自分こそが一族で最強だと証明するために訪れた。二人がどのような経緯で行動を共にしていたのかは今となっては分からないが、レノにとっては関係のない話だった。
「帰るか……あの村に」
村の人間は吸血鬼の話によればゴウカに殺されたらしいが、一応は確認しなければならず、レノは数年ぶりに故郷に帰還する――
ゴウカが言っていたタケルが「魔法を使えない魔術師」という話は真実であり、彼は膨大な魔力を手に入れたが魔法を行使する能力を持ち合わせていなかった。扱えるのは魔力を操作する技術だけであり、タケルは実は一度も魔法を使ったことがない。
自分を召喚した魔術師を殺してからタケルは逃げ出し、世界中を転々として自分が安全に暮らせる場所を探す。途中で何度も命を狙われたが、それらを返り討ちにしていく度にタケルは強くなった。
タケルが召喚した国は滅びた後も彼を狙う輩は現れ、命を狙う理由はタケルの魔力を奪うためだった。タケルは魔力を伸ばす唯一の方法はレノには魔物を殺して血晶を破壊し、秘められた魔力を摂取すれば魔力を増やせると教えた。その教えは間違いではないが、実はもう一つだけ別の方法がある。
魔力を伸ばす一番効率が良い方法、それは他の魔術師を殺して魔力を奪い取ることだった。魔物にとっての血晶は人間で例えると心臓に等しい部位であり、だからタケルは魔術師の心臓を刺した時、膨大な魔力を奪い取ることに成功した。
「儂は本来ならば魔術師を名乗ることも許されん人間なんじゃ……この世界では他の魔術師を殺して魔力を奪い取る方法は外道とされておる。だから儂は魔術師を名乗らずにひっそりと暮らすしかなかった」
「じ、爺ちゃんが別の世界の人間だったなんて……」
「……お前には誤魔化していたが、儂はこの世界の人間ではない。それが原因なのか儂の魔力は色が無い。お前が見ていた表面上の魔力は儂が殺した人間の魔力に過ぎん……」
吸血鬼が言っていた「無色の魔術師」とはタケルの魔力の本来の色を示しており、タケルはこの世界の人間ではないせいか、魔力は本来は透明で目視できない。レノが今まで見えていた魔力はタケルが殺した魔術師の魔力を外側に纏っていただけだと明かす。
「今まで黙っていてすまなかった。儂は本来は魔術師を名乗れるような立場ではない……魔法をまともに使うこともできない落ちこぼれだったんじゃ」
「そんなことない!!爺ちゃんは立派な魔術師だったよ!!」
「すまない、お前に嫌われたくなくてずっと黙っていた……本当にすまん」
「爺ちゃん!!そんなことで俺は爺ちゃんを嫌いになんかならないよ!!」
いくらレノが必死に声をかけてもタケルに耳には届かず、ただ手を握りしめることしかできない。タケルは涙を流しながらレノに握られていない方の手を懐に伸ばし、手帳を取り出す。
「お前にこれを託す……お前にいつか教えようと思って書いていた技術をいくつか記してある。これを儂の形見だと思ってくれ」
「形見って……爺ちゃん!!」
「レノ……お前は儂の――」
タケルは最後に何か言い残そうとしたが、言葉を言い終える前に逝ってしまった――
――レノはタケルが亡くなった後、しばらくは彼の亡骸に泣き縋っていた。レノにとっては父親と同じぐらいに慕っていた相手であり、身寄りを失った彼にとって唯一頼れる人間だった。だが、いくら泣きわめこうとタケルが目を覚ますことはなく、一晩かけてレノはタケルの墓を山小屋の前に作った。
「爺ちゃん、今までありがとう……」
タケルの墓の前でレノは彼に託された手帳を握りしめ、最後にお礼を告げる。タケルが亡くなった以上はこの山に留まる理由はなく、レノは山を下りる決意をした。
山小屋はタケルとゴウカの戦闘のせいで焼け崩れてしまい、とても住める状況ではなかった。それでもレノは残骸の中から使えそうな道具を探し、荷物をまとめると山を下りる。その途中でレノは首無しの吸血鬼の死体を発見して驚く。
「どうなってるんだ?骨になっている……もしかして太陽のせいか?」
夜が明けたことで太陽の光が降り注ぎ、そのせいなのか吸血鬼の肉体は灰と化して骨だけが残っていた。レノは骨を拾い上げようとすると、その骨さえも触っただけで崩れてしまう。このまま放置しても完全に灰と化して消えるのは時間の問題だった。
「……ちょっと哀れだな」
吸血鬼とゴウカのせいでタケルは死んでしまったが、灰と化して消えていく死体を見てレノは恨む気になれなかった。灰の山の前でレノは手を合わせて冥福を祈ると、四肢を引きちぎられたゴウカを思い出す。
「そういえばあいつの死体は何処にあるんだ?確かあっちの方に落ちたよな……」
ゴウカのことも気になったレノは彼が落ちたと思われる場所へ向かう。ゴウカは吸血鬼に見えなかったので太陽に晒されても死体が消えるとは思えず、急いでレノはゴウカが落下した場所に向かうと、そこには隕石が落ちたかのようなクレーターが出来上がっていた。
「うわっ、酷いな……無茶苦茶だ」
クレーターを確認してレノはゴウカの死体が見当たらず、跡形もなく吹き飛んだと判断した。それだけは確認すれば十分であり、レノは久々に故郷に戻ることにした。
「……いったい何だったんだこいつら」
吸血鬼とゴウカの正体はレノには分からず、二人がタケルとどんな因縁があったのかも知らない。話を聞く限りでは吸血鬼はタケルに何十年前も命を狙ったが返り討ちにされ、ゴウカの方は曾お爺さんのモウカをタケルに殺されたと言っていた。
この二人はタケルの命を狙っていたが、目的は別々だった。吸血鬼はタケルを殺して彼の魔力を奪い取るつもりだったが、ゴウカの場合はモウカを殺したタケルを殺すことで自分こそが一族で最強だと証明するために訪れた。二人がどのような経緯で行動を共にしていたのかは今となっては分からないが、レノにとっては関係のない話だった。
「帰るか……あの村に」
村の人間は吸血鬼の話によればゴウカに殺されたらしいが、一応は確認しなければならず、レノは数年ぶりに故郷に帰還する――
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