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最終章
第1021話 出発の日
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――時は現代に戻り、王都では飛行船が出発準備を整えていた。旧式の飛行船の調整が終了すると全員が乗り込み、ここから先は王国各地に存在する湖を転々と移動して目的地へと向かう。
旧式の飛行船フライングシャーク号は地上に着地する事はできず、湖や大きな川などにしか降りる事ができない。また、着陸した後は定期的に風属性の魔石を取り換えなければならず、二代目の飛行船と比べると進行速度はどうしても遅くなる。
それでも現在動かせる乗り物の中で飛行船フライングシャーク号が一番移動速度が速く、大勢の人間を連れていく事もできる。全員が準備を終えて乗り込むと、操縦席にてアルトは緊張した様子で舵を取る。
「ふうっ……」
「王子、時間を迎えましたぜ」
「分かっている、ちょっと集中させてくれ」
出発の時刻を迎えるとアルトは緊張をほぐすために頬を叩く。そして彼はハマーンの弟子達に船を動かす様に指示を出した。
「フライングシャーク号、発進!!」
「「「発進!!」」」
旧式の飛行船の名称の「フライングシャーク号」この名前は亡き王妃が付けた。名前の通りに空を飛ぶ鮫の如く、船体には鮫の絵が描かれている。
アルトが合図を出すと飛行船は動き出し、まずは上空へ向けて浮上を開始した。その様子を地上の者達は見送り、十分な高度まで上昇すると飛行船の後部に搭載された噴射機から火属性の魔力が放出された。
「衝撃に備えるんだ!!」
「「「おうっ!!」」」
飛行船が動き出すと船内に衝撃が加わり、凄まじい速度で目的地へ移動を開始した――
――同時刻、聖女騎士団はアンの行方を追って街を転々としてきたが、ここで彼女達は森の中で奇妙な物を発見した。彼女達が発見したのは鋭い刃物のような物で切り裂かれた樹木と、まるで虫に食い荒らされたような跡が残っていた。
「何だいこれは……?」
「斧か何かで切られたにしては……切断面が綺麗すぎるな」
「それに切られた木が……食い荒らされている?」
聖女騎士団は見事な太刀筋で切り裂かれた切り株と、巨大な虫に食い荒らされた様な倒木を確認して疑問を抱く。まるで何者かが大木を鋭い刃物で切り裂き、その後に魔物が切り倒した気を食い荒らしたように見える。
優れた武芸者であるテン達は切り株の切断面を一目見ただけで、大木が一撃で切り倒された事を悟る。これほど見事に大木を切れるとしたら切った人間は相当な腕を誇る剣士であり、もしかした魔剣の類で切り倒した可能性もある。
「テン、これは誰が切ったんだ!?」
「知らないよ、あたしに聞かれても……けど、ここまで見事に大木を切れるなんて相当な腕力を誇るね」
「だろうな……恐らく、相当な達人だろう」
「しかし、何者の仕業だ?まさかアンがやった……とは考えられないな」
アンの行方を追う途中にテン達は斬り倒された倒木を発見したが、この大木を斬り倒したのがアンの仕業だとは考えにくい。彼女が魔剣の類を所持していてそれを利用して大木を斬り倒したとは考えにくい。
気になる事があるとすれば切り倒した大木が虫に食い散らされたかのように放置されているのも気にかかり、テンは嫌な予感を抱く。食い荒らされた大木を見て彼女は野生の魔物の仕業とは思えず、冷や汗が止まらない。
(いったい何がどうなってるんだい……くそっ)
倒木を食い荒らした存在は後に彼女達を追い詰める程に恐ろしい相手だった――
――飛行船が出発した日、イチノに暮らすドルトンの元にイーシャンは久々に訪れた。彼が訪れた理由はドルトンが倒れたという噂を聞き、急いで駆けつけたのだが実際に来てみると彼が倒れたのは疲労が原因だった。
「全く、年を考えろ!!お前さんはもう若くないんだぞ、無茶をしやがって……」
「すまん……」
ドルトンが倒れた理由は仕事での過労が原因であり、しばらくの間は絶対安静を命じてイーシャンは滋養効果の高い薬を渡す。
「ほら、これを飲め。一角兎の角から作った滋養強壮剤だ」
「助かる……ふむ、一角兎か」
「何だ?」
「いや……昔、ナイもよくこれと同じ薬を作っていたと思ってな」
「ナイか……あいつ、元気かな」
ナイとはドルトンは定期的に手紙のやり取りを行っているが、この間も飛行船がアチイ砂漠に向かう際に途中で彼が来てくれた。だから最近顔を合わせたばかりだが、彼の事を孫のように大切に想うドルトンとしては、ナイが今頃何をしているのか気になる。
イーシャンもナイの事は息子のように大切に想い、彼が元気である事を祈る。その後は二人は雑談をしていると、扉がノックされて慌てた様子の使用人の声が響く。
『ドルトン様!!お客様です!!』
「客?いったい誰じゃ、こんな時間に……」
「悪いが追い返せ、今はこいつは身体を動かすわけにはいかないんだ」
『そ、それがどうしても直にお会いしたいらしく……』
「ふむ……何者じゃ?」
ドルトンは自分の元に尋ねに来た客が気にかかり、使用人に客の正体を問い質すと、思いもよらぬ人物が合いに来た事を知る――
――屋敷に訪れた客の正体を知るとドルトンはすぐに衣装を整え、イーシャンと共に応接室に赴く。訪れた人物は陽光教会のヨウとインであり、二人はドルトンとイーシャンが部屋の中に訪れると頭を下げる。
「お忙しい所、誠に申し訳ございません」
「いえいえ、顔を上げてくだされ。まさかヨウ司祭殿がここへ来られるなんて……」
「お久しぶりです」
「イン修道士も一緒だったのか」
ヨウとインが訪れるとドルトンとイーシャンは戸惑いながらも彼女達と向かい合うように座り、話を聞く事にした。ただの客ならばともかく、この二人は陽光教会の人間でしかもナイの世話を見ていた二人でもあった。
ナイが陽光教会に保護された時、本来ならば忌み子である彼は他の人間と接触しないように隔離されて育てられるはずだった。しかし、ヨウが特別に彼を街の教会で保護してくれたお陰でナイは隔離されずに済み、ドルトン達と定期的に面会する事ができた。だからヨウはナイにとっては恩人でもあり、彼女に簡単な魔法を教わってもいた。
「ドルトン様は療養中と聞いておりましたが身体は大丈夫でしょうか?もしもきついのであれば遠慮なく申してください」
「どうぞ、こちらを……聖水です。これを飲めば身体も楽になるかと」
「おお、これは助かるのう」
「飲み過ぎには注意しろよ」
どうやらドルトンが療養中だと知っていたらしく、ヨウはインに用意させていた聖水が入った瓶を渡す。聖水は体力の回復を促す効果もあり、有難くドルトンは受け取ると、改めて彼は今回の用件を尋ねる。
「それで御二人が今回訪れた理由は?」
「また何かあったのか?例の予知夢か?」
「……はい、残念ながら」
「ヨウ司祭……」
イーシャンが渋い表情を浮かべてヨウに尋ねると、彼女は顔色を悪くしながら頷く。ヨウは生まれた時から異能のせいで「予知夢」を見れるため、彼女は夢で未来を見通す事ができた。
かつてヨウはナイがゴブリンキングに挑む夢を見た事があり、その夢を見ていたからこそヨウは陽光教会本部を説得し、彼を自分の傍に置いた。そして夢の通りにナイはたくましく成長してイチノを守るためにゴブリンキングと戦った。
その後も彼に関する未来をヨウは見てきたが、大抵の場合はナイが命を賭けて戦う夢しか見た事がなかった。これまでにヨウが見た予知夢は全て実現し、幾度もナイは死にかけたがそれでも彼は過酷な運命を打ち破って生き延びてきた。
――しかし、ここ最近にヨウが見る予知夢は過去最大級の夢であり、彼女はナイが飛行船に乗って強大な魔物と対峙する姿を見てきた。その魔物は巨人族の十倍以上の巨躯を誇り、このイチノを襲撃したゴブリンキングよりも恐ろしい存在に見えたという。
「ナイの身に危険が迫っています。近い将来、彼は人生最大の敵と戦う事になるでしょう」
「な、何だと!?」
「最大の……敵!?」
ヨウの言葉にドルトン達は衝撃を受けるが、既にヨウはナイの予知夢を見るのはこれで最後だという予感を抱いていた。
理由としてはヨウが見た予知夢の「敵」はこれまでにナイが戦った敵の中でも最大級の相手であり、これ以上の存在がこの世に居るとは思えない。つまりはナイがこの敵を打ち倒した時、彼に敵う存在はいない。それはつまりナイの人生で最大の敵が間もなく現れようとしていた――
旧式の飛行船フライングシャーク号は地上に着地する事はできず、湖や大きな川などにしか降りる事ができない。また、着陸した後は定期的に風属性の魔石を取り換えなければならず、二代目の飛行船と比べると進行速度はどうしても遅くなる。
それでも現在動かせる乗り物の中で飛行船フライングシャーク号が一番移動速度が速く、大勢の人間を連れていく事もできる。全員が準備を終えて乗り込むと、操縦席にてアルトは緊張した様子で舵を取る。
「ふうっ……」
「王子、時間を迎えましたぜ」
「分かっている、ちょっと集中させてくれ」
出発の時刻を迎えるとアルトは緊張をほぐすために頬を叩く。そして彼はハマーンの弟子達に船を動かす様に指示を出した。
「フライングシャーク号、発進!!」
「「「発進!!」」」
旧式の飛行船の名称の「フライングシャーク号」この名前は亡き王妃が付けた。名前の通りに空を飛ぶ鮫の如く、船体には鮫の絵が描かれている。
アルトが合図を出すと飛行船は動き出し、まずは上空へ向けて浮上を開始した。その様子を地上の者達は見送り、十分な高度まで上昇すると飛行船の後部に搭載された噴射機から火属性の魔力が放出された。
「衝撃に備えるんだ!!」
「「「おうっ!!」」」
飛行船が動き出すと船内に衝撃が加わり、凄まじい速度で目的地へ移動を開始した――
――同時刻、聖女騎士団はアンの行方を追って街を転々としてきたが、ここで彼女達は森の中で奇妙な物を発見した。彼女達が発見したのは鋭い刃物のような物で切り裂かれた樹木と、まるで虫に食い荒らされたような跡が残っていた。
「何だいこれは……?」
「斧か何かで切られたにしては……切断面が綺麗すぎるな」
「それに切られた木が……食い荒らされている?」
聖女騎士団は見事な太刀筋で切り裂かれた切り株と、巨大な虫に食い荒らされた様な倒木を確認して疑問を抱く。まるで何者かが大木を鋭い刃物で切り裂き、その後に魔物が切り倒した気を食い荒らしたように見える。
優れた武芸者であるテン達は切り株の切断面を一目見ただけで、大木が一撃で切り倒された事を悟る。これほど見事に大木を切れるとしたら切った人間は相当な腕を誇る剣士であり、もしかした魔剣の類で切り倒した可能性もある。
「テン、これは誰が切ったんだ!?」
「知らないよ、あたしに聞かれても……けど、ここまで見事に大木を切れるなんて相当な腕力を誇るね」
「だろうな……恐らく、相当な達人だろう」
「しかし、何者の仕業だ?まさかアンがやった……とは考えられないな」
アンの行方を追う途中にテン達は斬り倒された倒木を発見したが、この大木を斬り倒したのがアンの仕業だとは考えにくい。彼女が魔剣の類を所持していてそれを利用して大木を斬り倒したとは考えにくい。
気になる事があるとすれば切り倒した大木が虫に食い散らされたかのように放置されているのも気にかかり、テンは嫌な予感を抱く。食い荒らされた大木を見て彼女は野生の魔物の仕業とは思えず、冷や汗が止まらない。
(いったい何がどうなってるんだい……くそっ)
倒木を食い荒らした存在は後に彼女達を追い詰める程に恐ろしい相手だった――
――飛行船が出発した日、イチノに暮らすドルトンの元にイーシャンは久々に訪れた。彼が訪れた理由はドルトンが倒れたという噂を聞き、急いで駆けつけたのだが実際に来てみると彼が倒れたのは疲労が原因だった。
「全く、年を考えろ!!お前さんはもう若くないんだぞ、無茶をしやがって……」
「すまん……」
ドルトンが倒れた理由は仕事での過労が原因であり、しばらくの間は絶対安静を命じてイーシャンは滋養効果の高い薬を渡す。
「ほら、これを飲め。一角兎の角から作った滋養強壮剤だ」
「助かる……ふむ、一角兎か」
「何だ?」
「いや……昔、ナイもよくこれと同じ薬を作っていたと思ってな」
「ナイか……あいつ、元気かな」
ナイとはドルトンは定期的に手紙のやり取りを行っているが、この間も飛行船がアチイ砂漠に向かう際に途中で彼が来てくれた。だから最近顔を合わせたばかりだが、彼の事を孫のように大切に想うドルトンとしては、ナイが今頃何をしているのか気になる。
イーシャンもナイの事は息子のように大切に想い、彼が元気である事を祈る。その後は二人は雑談をしていると、扉がノックされて慌てた様子の使用人の声が響く。
『ドルトン様!!お客様です!!』
「客?いったい誰じゃ、こんな時間に……」
「悪いが追い返せ、今はこいつは身体を動かすわけにはいかないんだ」
『そ、それがどうしても直にお会いしたいらしく……』
「ふむ……何者じゃ?」
ドルトンは自分の元に尋ねに来た客が気にかかり、使用人に客の正体を問い質すと、思いもよらぬ人物が合いに来た事を知る――
――屋敷に訪れた客の正体を知るとドルトンはすぐに衣装を整え、イーシャンと共に応接室に赴く。訪れた人物は陽光教会のヨウとインであり、二人はドルトンとイーシャンが部屋の中に訪れると頭を下げる。
「お忙しい所、誠に申し訳ございません」
「いえいえ、顔を上げてくだされ。まさかヨウ司祭殿がここへ来られるなんて……」
「お久しぶりです」
「イン修道士も一緒だったのか」
ヨウとインが訪れるとドルトンとイーシャンは戸惑いながらも彼女達と向かい合うように座り、話を聞く事にした。ただの客ならばともかく、この二人は陽光教会の人間でしかもナイの世話を見ていた二人でもあった。
ナイが陽光教会に保護された時、本来ならば忌み子である彼は他の人間と接触しないように隔離されて育てられるはずだった。しかし、ヨウが特別に彼を街の教会で保護してくれたお陰でナイは隔離されずに済み、ドルトン達と定期的に面会する事ができた。だからヨウはナイにとっては恩人でもあり、彼女に簡単な魔法を教わってもいた。
「ドルトン様は療養中と聞いておりましたが身体は大丈夫でしょうか?もしもきついのであれば遠慮なく申してください」
「どうぞ、こちらを……聖水です。これを飲めば身体も楽になるかと」
「おお、これは助かるのう」
「飲み過ぎには注意しろよ」
どうやらドルトンが療養中だと知っていたらしく、ヨウはインに用意させていた聖水が入った瓶を渡す。聖水は体力の回復を促す効果もあり、有難くドルトンは受け取ると、改めて彼は今回の用件を尋ねる。
「それで御二人が今回訪れた理由は?」
「また何かあったのか?例の予知夢か?」
「……はい、残念ながら」
「ヨウ司祭……」
イーシャンが渋い表情を浮かべてヨウに尋ねると、彼女は顔色を悪くしながら頷く。ヨウは生まれた時から異能のせいで「予知夢」を見れるため、彼女は夢で未来を見通す事ができた。
かつてヨウはナイがゴブリンキングに挑む夢を見た事があり、その夢を見ていたからこそヨウは陽光教会本部を説得し、彼を自分の傍に置いた。そして夢の通りにナイはたくましく成長してイチノを守るためにゴブリンキングと戦った。
その後も彼に関する未来をヨウは見てきたが、大抵の場合はナイが命を賭けて戦う夢しか見た事がなかった。これまでにヨウが見た予知夢は全て実現し、幾度もナイは死にかけたがそれでも彼は過酷な運命を打ち破って生き延びてきた。
――しかし、ここ最近にヨウが見る予知夢は過去最大級の夢であり、彼女はナイが飛行船に乗って強大な魔物と対峙する姿を見てきた。その魔物は巨人族の十倍以上の巨躯を誇り、このイチノを襲撃したゴブリンキングよりも恐ろしい存在に見えたという。
「ナイの身に危険が迫っています。近い将来、彼は人生最大の敵と戦う事になるでしょう」
「な、何だと!?」
「最大の……敵!?」
ヨウの言葉にドルトン達は衝撃を受けるが、既にヨウはナイの予知夢を見るのはこれで最後だという予感を抱いていた。
理由としてはヨウが見た予知夢の「敵」はこれまでにナイが戦った敵の中でも最大級の相手であり、これ以上の存在がこの世に居るとは思えない。つまりはナイがこの敵を打ち倒した時、彼に敵う存在はいない。それはつまりナイの人生で最大の敵が間もなく現れようとしていた――
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