貧弱の英雄

カタナヅキ

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砂漠の脅威

第951話 砂漠との別れ

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――王国の討伐隊と巨人国の軍隊は力を合わせ、連合軍として土鯨の討伐のために共に戦い、見事に勝利した。犠牲も大きかったが災害級の魔物を屠る事に成功し、これでアチイ砂漠の砂漠化を引き起こした原因は取り除かれた。

しかし、砂漠化を引き起こす魔物を退治したからといって砂漠が元に戻るわけではなく、土鯨に喰いつくされた大地の栄養は簡単に戻る事はない。それでもアチイ砂漠がこれ以上に広がる事はなくなり、砂漠が元に戻れば砂船などの乗り物の需要が無くなってしまうため、必ずしも砂漠が元に戻る事が良いとは言えない。

土鯨という脅威が消えた事で今後も王国と巨人国の国交は復活し、今まで通りに両国の商売の流通も行われる。他にも今回の一件で王国と巨人国の繋がりが強まったと言える。

しかし、土鯨を倒した後もまだまだ問題は残っており、グマグ火山とグツグ火山に出現した大量のマグマゴーレムの対処、ゴノの街を襲撃したトロールの集団の調査を行わなければならない。


「本当にもう行くのか?君達には色々と礼をしたいのだが……」
「気持ちは有難いが、こちらも事情があって戻らなければならない。気持ちだけ受け取っておこう」


土鯨を討伐してから翌日、討伐隊は帰還の準備を整えて飛行船へ乗り込む。別れ際にバッシュはテランと握手を行い、その一方でナイは激戦を繰り広げたライトンと拳を交わす。


「お前との決着はまだ付いていない……次に会う時は俺はもっと強くなっているぞ」
「あははっ……それは怖いな」
「お前も強くなれ……何時の日か俺は大将軍になる、その時はお前も王国一の騎士となれ」
「王国一の騎士?」


ライトンの言葉にナイは咄嗟に言い返す事ができず、彼は最後にナイと熱い抱擁を交わすと別れの言葉を告げて見送ってくれた――





――飛行船に乗り込んだナイ達は倒れている土鯨の死骸に視線を向け、討伐を果たしてから一日は経過しているが土鯨は未だに放置されていた。正確に言えば死骸があまりにも大きすぎてどのように処理するべきか困っている。


「巨人国の人たちは土鯨をどうするんだろうね」
「さあ、解体して食べるんじゃないですか?」
「た、食べるのですか!?」
「いくら巨人族が大喰らいでも……あれを食べるのには何年もかかりそう」
「冗談ですよ」


飛行船の甲板からナイ達は土鯨の死骸を眺め、この土鯨の死骸を巨人国はどの様に扱うのかは気になったが、もしかしたら本当に食べる可能性もあった。

一つだけ気がかりな事は土鯨が生身の生物である事だと判明し、討伐される前は土鯨は砂鮫やゴーレム種のような生物だと思われていたが、実際の所は生身の生物が外殻うで全身を覆っていた事が判明する。こんな魔物は今までに見た事がなく、色々と謎の多い魔物だった。


「さてと、私達も王国へ戻れば忙しくなりますよ。まずはゴノの街を襲撃したトロールの集団の調査ですね」
「マホ魔導士たちは大丈夫かな……」
「まあ、大丈夫でしょう。私としては火山に現れたマグマゴーレムをどのように処理するかですね」
「そういえば火山に残った人たちは大丈夫でしょうか」
「それは知りません、忠告を無視して残った人たちの心配なんていりませんよ」
「う~ん……」


グツグ火山に暮らす鍛冶師達は結局はナイ達の忠告を無視した形となり、今でも無事かどうかは分からない。しかし、忠告を無視した彼等を心配する義理はないとイリアは断言すると、彼女は飛行船を浮上する前に船内に戻るように促す。


「そろそろ出発しますよ。自分の部屋に移動して下さい」
「ちょっと待って……もう少しだけこの風景を眺めて居たい」


ナイは次はいつアチイ砂漠へ訪れるのか分からないため、飛行船が飛び立つ前に砂漠の風景を眺めて置く。ここまで色々とあったが無事に目的を果たした事で充実感はあり、ナイは砂漠に心の中で別れを告げる。


(さよなら)


最後に一言だけ別れを告げたナイは船内へと戻り、こうして飛行船は王国へ向けて帰還した――





――グツグ火山に暮らす鍛冶師達は荷物を纏め、村を放棄して近くの街に避難する事を決めた。グツグ火山に大量発生したマグマゴーレムのせいで彼等の村も何時襲われるか分からず、彼等は街に向けて歩を進める。


「これから儂等はどうしたらいいんじゃ……」
「さあな……こんな事になるならあの時、王子様の言う事を聞いて避難しておけばよかったな」
「今更言っても遅いわ……」


バッシュ王子の忠告を受け入れていればドワーフ達は労せずに飛行船に乗って安全な場所まで避難はできたはずだった。しかし、火山でずっと暮らし続けてきたドワーフ達は火山を離れた生活に不安を抱いて結局は忠告を受け入れを拒否したが、それは大きな間違いだと気付かされる。

飛行船が出立してからしばらくすると、村の方にまでマグマゴーレムが押し寄せ、村に甚大な被害を及ぼした。運よく雨が降ったお陰でマグマゴーレムは退散したが、村はもう人が暮らせる状態ではなかった。

次にマグマゴーレムが襲い掛かってきたらドワーフ達ではどうしようもできず、彼等は優れた武器や防具を作る事ができたとしても、それを使いこなす戦闘技術は持ち合わせていない。


「腕の良い冒険者を雇って奴等を追い払えんのか?」
「王子に言われた事を忘れたのか?あの山には黄金級冒険者でも手に負えない化物が潜んでおるんじゃぞ。それに冒険者を雇うにしてもどれだけ金が掛かるか……」
「こんな事なら素直に王子の言葉を聞いておけばよかったな……」
「後悔先に立たず……正に今の儂等に相応しい言葉じゃな」


ドワーフ達は山を下りながら飛行船に乗らなかった自分達の判断が間違っていた事を思い知らされ、深々と溜息を吐きながら近くの街に向けて出発する――






――アチイ砂漠から帰還中、ナイは飛行船の甲板で外の景色を眺めていた。現在の飛行船は移動速度を落としており、帰還までにかなり時間が要する。

移動速度を落とした理由は土鯨との戦闘で無理に動かした影響なのか、噴射機の調子がおかしくなり、これまでのように高速移動はできなくなった。本格的に修理するには王都まで戻る必要があり、しばらくの間は低速飛行で移動しなければならない。


「師匠の話によると王都に戻るまで10日は掛かるそうだ。それに途中で置いて来た他の者も合流しないといけないからね。戻るのは当初の予定よりも大分遅れそうだ」
「そっか……」
「まあ、いいんじゃないですか?問題も解決しましたし、ゆっくりと過ごしましょう」
「い、いいんでしょうか……」
「私達にはどうにもできない。なら、飛行船の旅を楽しんでも罰は当たらない」


イリアの言葉を聞いてヒイロは複雑な気持ちを抱くが、実際の所は飛行船の不調はナイ達にはどうしようもできず、ここから先は王都へ戻るまで各自自由に過ごす事が決まる。

アチイ砂漠での戦闘で王国騎士達も疲労が蓄積されており、飛行船の見張り番以外の人間は休息を取る事を指揮官のバッシュも認める。騎士達も先日の土鯨との戦闘の疲労が抜けきっておらず、大半の人間は部屋に籠って身体を休ませていた。


「ふうっ……やっぱり、凄い景色だな」
「あ、ナイ君!!ここにいたんだね!!」
「リーナ?」


甲板にてナイは外の景色を楽しんでいると、リーナが彼を見つけて嬉しそうに近付いてきた。まるで主人を見つけた飼い犬のようにリーナはナイに身体を摺り寄せる。


「えへへ~」
「うわっと……リ、リーナ?なんだかいつもより近くない?」
「だって最近は二人きりになる事も少なかったし……」


嬉しそうに自分に擦り寄ってくるリーナにナイは戸惑いながらも拒否する事はできず、彼女の好きなようにさせておく。しかし、リーナは不意にナイの顔を見つめ、意を決したように告げた。


「ねえ、ナイ君……こっちを向いてくれる?」
「え?どうかし……!?」


振り返った瞬間、リーナはナイの唇を奪う。彼女の行動にナイは驚くが、リーナは瞼を閉じてナイの身体から離れない。やがて数秒ほど経過すると唇は離れるが、リーナは舌を出して悪戯をした子供のように笑いかける。


「えへへ……ごめんね、我慢できなくて」
「リーナ……」
「ねえ、ナイ君は僕の事が好き?」


自分に抱きついて来たリーナに対してナイは咄嗟に言い返す事ができず、正直に言えばナイはリーナに対して好意を抱いていた。しかし、同時にモモに対しても彼女と同じような気持ちを抱く。

子供の時は色々と事情があって女の子と触れ合う機会がなかったため、恋愛方面に関してはナイは鈍かった。だが、モモやリーナが自分に対して好意を抱いている事は流石に理解しており、それと同時に二人のどちらかを選ぶ事に恐れを抱いていた。


「リーナの事は……好き、だと思う」
「ほ、本当に?」
「でも、モモの事も……好きなんだ」


ナイの言葉にリーナは嬉しそうな表情を浮かべるが、続けてナイがモモの事を話すとリーナは少し落胆した表情を浮かべるが、彼を怒らずにそれでも頬を膨らませながらもナイに抱きつく。


「もう、ナイ君は欲張りだな……僕もモモちゃんも一緒にお嫁さんにしたいの?」
「えっ……いや、でもそんな事は」
「多分、できると思うよ?だって僕と結婚すればナイ君は公爵家の跡継ぎになるし、そうすればモモちゃんとも結婚できるよ」
「えっ!?」
「でも……その場合は正妻は僕になるからね」


リーナの言葉にナイは驚いた表情をうかべるが、そんな彼にリーナは笑顔を浮かべた。






「ふっ、ふふっ、ふふふっ……あはははははっ!!」
「……な、何だい、そんな悪役みたいな笑い方をして」


飛行船の研究室にてイリアが高笑いすると、彼女の実験を強制的に手伝わされていたアルトが不気味に思う。まるで悪の黒幕のような笑い方をするイリアだったが、彼女の手には緑色の丸薬が手に乗っていた。


「見てください、これを!!緑聖水を遂に丸薬にする事にできましたよ!!」
「丸薬?確か、和国の薬だったかい?」
「そうです、普通の回復薬と違って丸薬は飲み込むか噛み砕くだけで効果を発揮します。しかも私の丸薬なら回復速度も向上させています!!」


和国の丸薬の技術を応用して、イリアは自分が作り出した回復薬と聖水の効果を併せ持つ「緑聖水」に改良を加える。彼女が作り出した丸薬は緑聖水の効果を発揮する新薬だった。

世界に広まっている回復薬の殆どはであるが、戦闘の最中に飲み薬を飲む余裕がない状況に陥る事は多い。しかし、丸薬の類ならば口に含むだけで効果を即座に発揮する。特にイリアの制作した丸薬は市販の回復薬よりも回復量も回復速度も高い。


「この薬が量産化に成功すれば薬社会に革命が起きますよ……そうすれば私は歴史に名を刻む天才薬師として讃えられるでしょう」
「世も末だな……(ぼそっ)」
「今、何か言いました?」
「いや、何でもないよ」


新薬が完成した事にイリアは嬉しがるが、彼女にとっては自分の想像する最高の薬とは言い切れない。確かに現時点で造り出せる最高の薬である事は間違いないが、更にイリアは改良の余地を考える。


「ですけど丸薬にしたところで薬の本来の効果を強化する事はできません。戦闘中でも使いやすくて回復速度も上がりましたが、別に戦わない人にとっては飲み薬だろうと丸薬だろうとどうでもいい話ですからね」
「丸薬の方が作り出すのに時間が掛かるんだろう?それなら戦わない人間には飲み薬を販売して、戦える人間には丸薬を売り込めばいいじゃないか」
「別に私はお金を稼ぐ目的で薬を作っているわけじゃないんです。どんな人間でも気軽に使える最高の薬を作り出したいんです」
「へえっ、意外だな……君の事だからお金儲けの目的もあると思っていたよ」
「まあ、それは3割ほどありますが……」
「やっぱり、あるんじゃないか!!」


イリアにアルトは突っ込みを入れるが、当のイリアは緑聖水の丸薬を覗きながらここからどのように改良を加えるのかを考えた。その結果、彼女はある事を思い出す。


「そうですね、次は魔力回復薬の効果も加えましょう」
「ど、どういう意味だい?」
「緑聖水は怪我を治すだけではなく、疲労回復効果もあります。これは回復薬の回復効果と聖水の聖属性の魔力を活性化させる性質を併せ持っているからです。そこで更に魔力回復薬の効果を合わせます。そうすれば怪我を治療し、疲労を和らげて、更には魔力も回復するとんでもない薬ができますよ!!」
「……そんなに上手くいくのかな?」


アルトはイリアが優れた薬師だとは認めているが、回復薬や聖水や魔力回復薬といった3つの薬の効果を併せ持つ新薬を作り出せるのか疑う。しかし、彼女ならば不可能な事でも可能にしてしまうような気がした。


「さあさあ、王都に戻り次第に忙しくなりますよ!!まずは今回完成した緑聖水を大量生産して売り払い、その利益で得たお金で今度は王国中の魔力回復薬を購入して最も質のいい魔力回復薬を売っている場所を探し出します!!場合によっては他国にも薬を売りつけて稼ぎますよ!!」
「ほ、ほどほどに頑張ってくれ……」


自分の目的のためなら何でも利用するというイリアの熱意にアルトは圧倒され、恐らくは彼女の研究のためにこれからも自分は付き合わされると考えた彼は深いため息を吐き出す――




※何だかんだでこの二人の相性はいいと思います。(´・ω・)テエテエ……ナノカ?



~後日談~

イリア「アルト王子、薬が逃げました!!捕まえてください!!」
謎の物体「(# ゚Д゚)シャアアッ」
アルト「薬!?これ、薬なのかい!?」

===ヘ(;´・ω・)ノ ===ヘ( ゚Д゚)ノ虫アミ ===(# ゚Д゚)つ
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