貧弱の英雄

カタナヅキ

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番外編 獣人国の刺客

第907話 一番強いのは誰?

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――全ての発端は一人の少女の何気ない一言だった。迷宮都市から莫大な宝物の回収に成功し、機嫌を良くした国王は迷宮都市に派遣した王国騎士達を労うために宴を開く。王国騎士だけでなく黄金級冒険者を呼び集め、アルトの招待でヒナとモモもまぬかれた。だが、事件の切っ掛けは何気ないモモの一言だった。


「ねえねえ、王都の中で一番強い人って誰だろうね?やっぱりナイ君?それとも女将《テン》さんかな?」
「「「っ――!!」」」


モモの言葉はそれほど大きくはなかったが、不思議と宴に集まった人間全員の耳に届いた。彼女からすれば世間話の延長に過ぎなかったが、慌ててヒナが注意する。


「ちょ、ちょっとモモ……急に何を言い出すのよ?」
「え~……ヒナちゃんは気にならないの?」
「そ、それはまあ興味はないといったら嘘になるけど……でも、時と場所を考えなさい」
「ほほう、面白い話をしておるのう」


ヒナは慌ててモモの口を塞ごうとしたが、真っ先に反応したのはマホ魔導士だった。彼女はモモの言葉を聞いて腕を組み、興味深そうに彼女が告げた人物達に視線を向けた。


「ふむ、確かにかたや聖女騎士団の団長、もう片方はこの国の英雄……どちらか強いのかは気になるのう」
「えっ……」
「おいおい、冗談は止してくれよ。いくらあたしでもナイにはもう敵わないよ。まあ、この国で一番強い剣士の称号はこいつに譲ってやるよ」
「お待ちください!!その言い方だとまるでテンさんが二番目に強い剣士だと聞こえますわ!!」
「それは流石に聞き捨てならないな」


流石のテンも今のナイには力が及ばない事は認めるが、彼を除けば自分こそが一番の剣士だと振舞う。しかし、そんな彼女の態度に異議を申し立てのはドリスとリンだった。

二人とも立場的には銀狼騎士団と金狼騎士団の副団長だが実際の実力は各々の団長を凌ぐ。それに不服を申し立てたのは二人だけではなく、聖女騎士団の中からも文句を告げる者がいた。


「ちょっと待て!!この間の組手は私が勝ったぞ!!だから私の方がテンより強い!!」
「ルナ、あんたは黙ってな。だいたいこの間の組手の時はあたしは腹の調子が悪かっただけで……」
「あら、テンさんともあろう人が体調管理を怠るなんてらしくありませんわね。年齢も年齢ですし……そろそろ引退されてはどうですか?」
「そうだな、昔と比べたら動きに切れもなくなったように見えるな」
「何だと!?あたしを年寄り扱いする気かい!?いい度胸だね小娘共!!」


ドリスの挑発にテンは憤慨して顔を真っ赤にして怒るが、他の者たちも彼女達の会話に割り込む。


「おいおい、今のは聞き捨てならねえな。俺達を抜きにして一番強い人間を決める話なんてするんじゃねえよ」
「あん?お前さん……誰だ?馴れ馴れしい奴だね」
「ガオウだよ!!黄金級冒険者!!あんたとも何度か顔を合わせた事もあるだろ!?」
「僕だって前より強くなったよ!!今ならお父さんにだって負けないんだから!!」
「ほう、それは面白い……なら久しぶりに手合わせをするか?」


テンに突っかかってきたのは黄金級冒険者のガオウとリーナであり、ゴウカが収監されてハマーンも引退した事で二人とも王都に滞在する黄金級冒険者の中では1、2を争う実力者である。そしてリーナの父親は若い時はテンや大将軍にも張り合う実力を持つ武芸者として有名だった。

だんだんと話がおかしな方向に向かい、いつの間にか「最強の剣士は誰か」という話題から「最強の人間は誰か」という内容に変わっていた。


「ルナ、この間に財布を忘れて私が飯代払った貸しがある」
「あうっ……で、でも私もミイナがサボっているのをテンや他の人に話さないようにしたぞ」
「ちょっと待ってください!!そんな事をしてたんですか貴方達!?」
「ヒイロだってこっそり勤務中にお菓子を買ってた癖に……」
「あんたらそんな事をしてたのかい!?それでも王国騎士かい!!」
「そういうテンだって仕事中にこっそりお酒を飲んでるのを知ってるぞ!!」
「い、いや……酒はあたしにとっては水みたいなもんだから」
「そんなはずはないでしょう!!何をしてるんですか貴女は!?」


全く関係ない話まで始める者達も現れ始め、賑やかな誕生会が徐々に不穏な雰囲気になってきた事を察した者達は慌てて全員を落ち着かせようと声をかける。


「皆の物、落ち着いて欲しいでござる!!折角の祝いの席だというのに喧嘩は駄目でござるよ!!」
「全く、子供ではあるまいし誰が強いかなどどうでもいい事だろう」
「いやいや、どうでもいいとは限らんだろう。武芸者ならば一度は誰よりも強くなりたいと考えた事はある。こうなっては話し合いでは収まらん……ならばいっその事、ここではっきりと答えを決めようではないか」
「ハマーン殿、いったい何を……」


この状況下で意外な事に話を盛り上げようとしたのはハマーンであり、彼は自分が連れてきた弟子達に準備させる。誕生会の余興としてハマーンはアルトの屋敷の中庭の中央部にを用意していた。


「よく聞けお前達!!どうせ話し合いでは収まらないのであれば実力を示して証明すればいい!!自分こそが最強という自信があるのならばこの闘技台に上がってこい!!」
「闘技台!?そんな物を用意していたのですか!?こんな宴の席で無粋ですわよ!!」
「いや、お前も誕生日の時は似たような催しをしているだろう……」
「はっはっはっ!!可愛い弟子の誕生会を盛り上げようと思ってな、巨人族が暴れようと壊れる事のない頑丈な闘技台を用意したぞ!!」
「上等だ!!あんたら全員かかってきな!!」
「「「うおおおおっ!!」」」


ハマーンの作り出した特注の闘技台に誕生会に集まった武芸者が殺到し、折角の宴だというのにその日は夜が明けるまで武芸者同士が戦う羽目になったという――





――後に乱闘騒ぎを起こした者達は国王が叱りつけ、この一件に関わった王国騎士は一か月間の減給、更に黄金級冒険者は二週間の謹慎処分を命じられた。

ちなみに夜が明けた時点で乱闘に参加した者は全員が倒れて眠り込み、結局は最後まで乱闘に参加しなかったナイが自動的にこの国最強の称号を得た(尤も当の本人は勝手に最強の称号が手に入った事に心底戸惑ったが)。




※没案

プルミン「ぷるぷるっ(やはりお前が生き残ったか)」
ビャク「ウォンッ!!(どちらが最強か今日こそ決着を付けてやる!!)」
ナイ「えっ!?勝ち残ったのこの二人(匹)!?」
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