貧弱の英雄

カタナヅキ

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番外編 獣人国の刺客

第906話 巨像兵

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「こ、これはいったい……ま、まずい!?」
「王子!?」
「早く離れてください!!」


アルトのペンダントは磁石のようにオリハルコンの巨像の額に引き寄せられ、完全に嵌まってしまう。それを見たドリスとリンはアルトを離れさせると、額にペンダントが嵌め込まれた瞬間に巨像が徐々に震え出し、やがて兜の目元の部分が青く光り輝く。


「ドゴォオオンッ!!」
『うわぁあああっ!?』


が動き出したのを見て宝物庫の前に集まっていた騎士達は驚愕し、慌てて武器を抜いて巨像兵と向かい合う。

額に王家のペンダントを嵌めた事で巨像兵は起動したらしく、ゆっくりとアルトの方に視線を向けた。この時にアルトは骸骨騎士の事を思い出し、全員下がらせて自分が対応する事を告げる。


「皆、下がるんだ!!これは王家が作り出した物ならば僕を襲わない可能性もある!!」
「ですが、古城の外に居た人造ゴーレムはアルト王子も襲いましたよ!?」
「……お、襲われそうになった時は助けてくれ!!」


骸骨騎士は王族には手出しできないように仕込まれていたが、王城を守護していた人造ゴーレムの類はアルトが相手でも容赦なく襲い掛かった。しかし、この巨像兵が保管されている場所は王城内の宝物庫であり、外で古城を守っていた人造ゴーレムとは形も役目も異なる。

この宝物庫の守護役として設置されていたと思われる巨像兵にアルトは近づき、敵意がない事を示すために両腕を広げる。するとアルトを見た巨像兵は動きを止め、しばらくの間はじっと彼を見つめて動かなくなった。


「ドゴンッ……」
「……ぼ、僕は君達を造り出した王族の子孫だ。言葉は……分かるかい?」
「ドゴンッ……?」


アルトの言葉を聞いて巨像兵は首を傾げ、その様子を見てどうやらある程度の意思疎通はできるらしく、巨像兵は額に嵌め込まれたペンダントに触れてアルトを見下ろす。


「ドゴォンッ……」
「こ、これは……」
「ひ、跪いた!?」


巨像兵は何かを察したようにアルトの前に跪くと、その光景を見ていた者達は驚く。一方でアルトは巨像兵の額に嵌め込まれた自分のペンダントを確認してある推論を立てる。


「ど、どうやら僕のペンダントの魔力で動いているようだ。そのペンダントには僕の魔力が宿っているはずだからね、きっとそれで僕を主人か何かだと思っているんだろう」
「えっ……アルトのペンダントは魔石なの?」
「正確に言えば聖光石と呼ばれる魔水晶だよ。伝説の聖剣エクスカリバーにも使用されている魔水晶だ」


王国の王族だけが所持を許されるペンダントは「聖光石」と呼ばれる希少な聖属性の魔水晶であり、アルトは自分が所有するペンダントの魔力を吸い上げて巨像兵が動き出したと予測する。

アルトのペンダントには彼の魔力も混じっており、そのために巨像兵はアルトを自分の主人だと思い込んだらしい。恐らくは他の王族がペンダントを嵌めればその人物に従うと思われ、とりあえずは危害を与える様子はない事にアルトは安心した。


「ちょっと君……名前がないと不便だな。ドゴン君と呼んでいいかい?」
「ドゴンッ」
「う、頷いた……」
「こちらの言葉を理解できるようですわね……ちょっと可愛く見えてきました」


あまりの巨体に圧倒されるが巨像兵はアルトの言葉に素直に従い、とりあえずは独特な鳴き声をする事からアルトは「ドゴン君」と呼ぶことにした。

ドゴンはアルトの言葉を理解し、彼の指示に従って行動する。試しにアルトがいくつかの命令を与えるとドゴンは全てに従い、アルトの意思で自由に動かせる様子だった。


「どうやら完全に僕の言う事なら何でも聞くみたいだね」
「凄いです、アルト王子……ですけど、宝物庫の財宝は何処にあるんでしょうか」
「そこが一番気になる所だが……」


宝物庫の中には巨像兵のドゴン以外には特に何も見当たらず、宝物の類は保管されていなかった。ここまで来て何の収穫も無しとは拍子抜けしてしまうが、駄目元でアルトはドゴンに宝物庫にあった財宝の事を尋ねる。


「ドゴン君、君はここにずっといたんだろう?なら、ここにあった宝物は何処に移動したのか教えてくれるかい?」
「ドゴン?」
「宝物だよ、金貨とか魔石とか……何だったら武器でも防具でもいい。何か心当たりはないかい?」
「ドゴォンッ!!」


アルトの言葉を聞いてドゴンは自分の胸元を強く叩き、その行動を見てアルトは彼が何か知っているのかと思ったが、突如としてドゴンの胸元の部分が割れて左右に開かれる。



――ドゴンの胸元の甲冑部分が左右に分かれると、ドゴンの体内から大量の金貨や宝石が放出されて地面に散らばる。その光景を見たアルト達は唖然としてしまい、宝物庫の床に大量の金貨と宝石の山が出来上がった。





――王城の宝物庫に隠されていた巨像兵《ドゴン》には重大な秘密が隠されていた。それはドゴンの胸の部分は宝物を保管するために空洞となっており、そこには大量の宝物が隠されていた。

グマグ火山に出現した火竜、イチノでのゴブリンキングの引き起こした事件、そしてシンが引き起こした王都の反乱、これまでに起きた問題のせいで財政難を迎えていた王国だったが、ドゴンが保管していた財宝の回収に成功した事で経済の負担が大きく減った。

古城から膨大な財宝とさらにはオリハルコン製の巨像兵《ドゴン》を手に入れた事は喜ばしく、特に巨像兵に関しては後々に古城内の資料を調べたところによると、大昔の人間が「竜種」を倒すために作り出した人造ゴーレムだと発覚する。

人造ゴーレムは元々は魔物に対抗するために作り出された兵器だが、巨像兵の場合は宝物庫の番人という役目だけではなく、竜種を打ち倒すために作り出された最初の人造ゴーレムだと発覚した。しかし、製作の段階で色々と問題が起きた。

まずは巨像兵を造り出すためだけに大量のオリハルコンを使用してしまい、これによって当時の経済は圧迫された。オリハルコンは希少金属で加工するにも相当な技術が必要であるため、当時の王国の財政では一体作り出すだけで精いっぱいだった。そこで二体目以降は大きさと素材を変更し、最終的には人造ゴーレムを造り出す際はオリハルコン以外の素材を使うようになったという。

骸骨騎士は巨像兵の次に作り出された人造ゴーレムであり、その他の人造ゴーレムは特殊な鉱石で作り出された量産型の人造ゴーレムだった。だが、量産型の人造ゴーレムは巨像兵と異なって最初に命じた命令しか効かず、味方であろうが古城に近付く存在は容赦しない。

巨像兵は聖光石を動力にする事である程度の意思疎通はできるが、他の人造ゴーレムの場合は聖光石以外の魔石を動力にしており、しかも外側ではなく内側に動力を内蔵しているので動かす事はできない。比較的にまともに動いたのは骸骨騎士だけであり、この骸骨騎士だけは王族には手を出さない。



結局のところは人造ゴーレムの中で唯一の完成形は最初に作り出した巨像兵だけであり、それ以降の人造ゴーレムは魔物を倒すためだけの兵器としてしか利用されなかった。そして既に巨像兵以外の人造ゴーレムはナイの手によって破壊され、これでもう古城を守護する存在は消えてしまった――





――迷宮都市から帰還した後、アルトは自分のペンダントで起動させた巨像兵を王都まで連れ帰る事にした。正確にはアルトが離れようとしても巨像兵が勝手に付いてきてしまい、結局は巨像兵も一緒に連れて王都に帰るしかなかった。


「ドゴンッ、ドゴンッ♪」
「やれやれ……いい加減に解放してくれないかな」
「だ、大丈夫ですか王子?」
「割と楽しそう」
「うわぁっ……こうしてみると本当に大きいな」


王都の街道にてアルトは巨像兵に肩に担がれた状態で運んでもらい、そのせいで周囲の人々は唖然とした表情を浮かべて彼を見つめる。かなり恥ずかしい姿だがアルトが起動させたドゴンは彼の傍から離れず、結局は移動の際も彼を肩に担いで歩いていく。

どうやらドゴンはアルトの位置を確認する術があるらしく、こっそりと彼が離れようとするとドゴンはすぐに異変に気付いて彼の元に向かう。アルトが命令を与えればある程度の距離を開く事はできるが、あまりに離れ過ぎると勝手にドゴンはアルトの元へ向かう。

自分を起動したアルトを慕い、命令がない限りはアルトの傍から離れようとはしない。まるで騎士というよりはペットであり、一応はアルトが側にいれば危害を与えるわけではないため、仕方なく王都まで連れて行くしかなかった。


「あっ、皆!!お帰り~!!」
「ナイ君、帰ってきたんだね!!」
「あ、二人とも……迎えに来てくれたの?」


街道を歩いているとナイの元にモモとリーナが駆けつけ、二人は嬉しそうにナイの元に駆け寄ろうとしたがドゴンを目にして驚愕の表情を浮かべる。


「わわっ!?な、なにこの大きくて格好いいの!?」
「きょ、巨人族よりもデカい!?こんなの宿に入らないわよ!!」
「いやっ……ちょっと色々とあってね」
「たくっ……今度は何を連れ込んできたんだい」


二人が巨像兵を目にして驚いていると、今度はバルが聖女騎士団を率いて姿を現す。彼女は巨像兵を見て呆れた表情を浮かべ、他の女騎士達も動揺を隠せない。


「おおっ!?な、何だこれ!?第三王子、巨人族を騎士にしたのか!?」
「こらっ!!第三王子じゃなくて王子様と呼びな!!」
「あいてっ!?バ、バルだって王子と呼んでる癖に……」
「あたしはいいんだよ、ガキの頃から王子の世話をしてきたからね」
「はははっ……まあ、好きに呼んでくれて構わないよ」


約一か月ぶりのバル達との再会にアルトは朗らかな笑みを浮かべるが、まずは王城に戻って報告する方が先であり、一向は王城へと向かった。



――後に巨像兵は王族の守護者として歴史に名前を刻む事になるのだが、それはまだ先の話である。
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