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番外編 獣人国の刺客
第897話 手紙
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「あ、あら……ごめんなさい、お邪魔だったわね」
「う、ううん!!そんな事はないよ!?」
「そ、そうそう!!それで何かあったの!?」
ヒナの言葉にナイとモモは頬を赤らめながら答えると、申し訳なさそうな表情を浮かべながらもヒナはナイに手紙を差し出す。その手紙は既に封が開かれていた。
「この手紙は?」
「ごめんなさい、ナイ君宛ての手紙だったんだけど、差出人の名前が書いてないから怪しいと思って私が中身を確認したの。それで落ち着いて聞いて頂戴……どうやらこの手紙、イリアさんからの手紙なの」
「イリアさんの?」
手紙の内容を確認したヒナは差出人は記されていないが、イリアが送り届けた手紙だと判断し、すぐにナイは内容を確認する。どうして先日に手紙を送ってきたばかりのイリアがまた手紙を書いたのか不思議に思ったが、内容を確認して驚愕する。
「この手紙は……!?」
「え、えっ……な、なんて書いてあるの!?」
「……どうやら思っていたよりもまずい状況に陥ったみたいだ」
イリアが送ってきた二通目の手紙はとんでもない内容が記されていた――
――イリアからの二通目の手紙の内容、要約すれば一刻も早く自分を迎えに古城へ来てほしいと記されていた。イリアはどうやら古城の調査に赴き、なんと彼女は既に古城の内部への侵入を果たしていた事が発覚する。
迷宮都市に到着後にイリアは独自に調査した結果、彼女は古城へと繋がる秘密の抜け道を発見した。その抜け道を利用してイリアは古城内部に侵入する事に成功し、人造ゴーレムの監視の目を擦り抜けて古城への侵入に成功したという。
調査の途中で偶然にも迷宮都市の魔物の生態系の調査を行っていたがリーナと合流し、彼女と行動を共にしている時に古城へと繋がる秘密の抜け道を発見した。古城に関しては噂を聞いていたリーナはイリアの調査に興味を抱き、彼女に同行して一緒に古城の中に侵入した。
今まで誰一人として足を踏み入れる事ができなかった古城に二人は到達した事になるが、ここで最悪の問題が発生した。それは二人が利用した抜け道はとある理由で封じられてしまい、引き返す事ができなくなる。しかも別の出入口から抜け出そうとすれば人造ゴーレムに見つかるため、完全に二人は古城の中に閉じ込められてしまう。
リーナだけではイリアを守りながら自力で古城を脱出するのは難しく、二人は人造ゴーレムに取り囲まれた古城から逃げられない状況だった。しかも手紙を送ったのは数日前の話であり、二人が持参した食料や水は底を尽きかけて限界も近い。
この手紙を確認したナイはすぐに迷宮都市に出発する事を決め、二人を救い出すために急いで他の者を呼び集めて王都を発つ。今回の面子はアルト、ミイナ、ヒイロの白狼騎士団、さらには聖女騎士団からはエリナを連れて行く。
本当はもっと時間があれば他の人間も集める事はできたのだが、生憎と今は相談する時間も惜しく、二人を救うためにナイ達はビャクの狼車に乗り込んで迷宮都市に向けて出発する。しかし、ここで思いもよらぬ同行人がいた。
「迷宮都市かぁ……どんな所か楽しみだね、プルミンちゃん」
「ぷるぷるんっ」
「……どうしてモモも一緒に乗ってるの?」
迷宮都市に向けて出発した狼車には何故かスライムのプルミンを抱きかかえるモモも参加しており、王国騎士でもない彼女が一緒に乗り込んでいるのかとミイナは疑問を抱く。それは他の者も一緒でヒイロはナイに問い質す。
「ど、どうしてモモさんまで乗っているんですか!?今から行くのは迷宮都市なんですよ!!魔物の巣窟と呼ばれる恐ろしい場所なんです!!それなのに一般人のモモさんを連れて行くなんて……」
「いや、そういわれても……モモを連れて行く事を決めたのは僕じゃなくてアルトだよ」
「えっ!?アルト王子が!?」
「ああ、君達も知っているだろうがモモ君は優秀な回復役だ。彼女が同行しているだけでも心強いだろう?」
「私、皆の役に立てるように頑張るよ!!怪我をした時はすぐに言ってね、必ず治してあげるから!!」
「ぷるるんっ(その意気やで)」
意外な事にモモの動向を認めたのはアルトらしく、彼によるとこれから赴く迷宮都市は危険地帯であり、回復役が一人でもいれば非常に心強い。だからアルトは無理を言ってモモに協力してもらう。
しかし、アルト以外の人間は一応は一般人であるモモを今回の旅に同行させる事に不安を抱き、特にナイはモモを危険な目に遭わせたくはないので最初は反対したのだが、モモは「親友」でもあるリーナの危機と聞いて放っておけるはずがなかった。
「モモ……今から行く場所は本当に危険なんだよ。無理をしない方がいいよ」
「大丈夫だってば!!それにリーナちゃんが危ない目に遭ってるかもしれないのにじっとなんかしてられないし……それに何があってもナイ君が守ってくれるよね?」
「それは……そうだけど」
「私も絶対にナイ君の役に立てるように頑張るから!!だから、一緒に行かせてよ!!」
モモはナイが納得するまで彼を離さないとばかりに後ろか抱きしめ、そんな彼女の行動にナイとしてはどうしても反対できず、結局は今回の旅にモモも加わる事が決定した。
「はあ、分かったよ……でも、プルミンは久しぶりだね。今まで何処に居たの?」
「ぷるん?」
「あれ?ナイ君は知らないの?プルミンちゃんは大分前から白猫亭で一緒に暮らしてるんだよ。お客さんからも人気があって今ではお茶くみ係として活躍してるんだから」
「そうだったの!?」
ナイは今までしなかったが、プルミンは現在はモモに飼われており、ヒナの指導でお客様にお茶を出す仕事を任されている。プルミンは何処からか水筒を取り出すと、中身のお茶をアルトに差し出す。
「ぷるんっ(粗茶ですがどうぞ)」
「あ、ありがとう……スライムからお茶を貰うのは流石の僕も初めての経験だよ」
「小さくて可愛い」
「……プニプニして気持ちいいですね」
「でしょ~」
「ぷるるんっ♪」
「グルルルッ……!!(←嫉妬)」
お茶を受け取ったアルトは戸惑い、女性陣からは見た目の愛らしさにプルミンは人気だった。そんな様子を見てビャクは唸り声をあげる――
――それから三日後、何事もなくナイ達は目的地である迷宮都市へと辿り着く。迷宮都市は現在の王都と比べると規模は小さいが、それでも都市と呼べるほどの広さを誇り、ナイ達が暮している王都よりも広い可能性もあった。
都市を取り囲む城壁はあちこちが崩れており、簡単に都市内に入る事ができた。昔の王国は今ほどに魔物に対抗する技術は発展しておらず、魔物除けの魔道具の類も存在しなかった。そのせいで都に魔物が押し寄せた時はどうする事もできず、結局は遷都する以外に方法はなかったという。
大昔の王都が野生の魔物に攻め込まれた理由は未だに解明されておらず、一つだけはっきりとしている事は現在の迷宮都市は人造ゴーレムと魔物の住処と化している。
リーナを含めた冒険者達は迷宮都市の生態系を調べるために派遣されたのだが、途中でリーナだけはイリアと偶々合流し、彼女と共に古城に閉じ込められてしまう。二人を救うためにはナイ達も古城へ向かう必要があるが、アルトは到着早々に古城へ向かう前にまずは安全確保のために地図を取り出す。
「よし、まずは迷宮都市の中でも安全な区域に移動しよう」
「安全?ここは魔物の巣窟ではないのですか?」
「確かにこの都市の殆どの場所が危険区域といっても過言じゃないが、実はある一画だけ人間が暮らせる場所があるんだ」
「それは何処?」
「教会だよ。この教会付近には魔物が立ち寄る事はない」
「なるほど、教会か……」
どれだけ強い力を持つ魔物であろうと陽光神を信仰している教会には近づけず、実際にイチノがゴブリンの大群に襲われた時でさえも、ヨウが管理する教会に避難した人々は難を逃れていた事をナイは思い出す。
魔物達が教会に近付けない理由は教会を建てる際に必ず用意する石像が関係している。陽光教会では彼等が崇拝する陽光神の女神像を教会に設置する事が義務付けられており、この女神像は強力な魔除けの効果を持つため、どんなに力の強い魔物も教会に近づく事はできない。
「この街に赴く冒険者は教会を拠点にして活動している。きっとリーナとイリアも立ち寄っているはずだ、もしかしたら彼女達の仲間も滞在しているかもしれない。そこで情報を収集しよう」
「なるほど……確かに抜け道の事も気になるし、話を聞きに行こうか」
「では行きましょう!!」
アルトの言葉を聞いてナイ達は納得し、まずは情報収集のために教会がある区域に向けて出発する。しかし、その道中でビャクとプルミンは何かに気付いた様に身体を震わせる。
「グルルルッ……!!」
「ぷるぷるぷるっ……」
「あれ、プルミンちゃんどうしたの?トイレ?」
「ぷるんっ(ちゃうわっ)」
「あいたっ!?」
唐突に震え始めたプルミンにモモは不思議そうに尋ねると、プルミンは怒った風にモモの頭の頭の上に乗っかる。どうやらプルミンが震えているのは皆に危険が迫っている事を伝えている様子だった。
「ぷるぷるっ!!」
「……どうやら何かを感じ取ったようだね」
「魔物でしょうか……」
「えっ!?まだ入ったばかりなのに!?」
「分からない……でも、嫌な予感がする」
「ナイがそういうのなら間違いない」
ナイ達は非戦闘員のモモとアルトを狼車に残して外に出る。エリナは狼車の上に移動して周囲を警戒する様に弓矢を構えると、彼女は傍にある建物の屋根の上に人影を発見した。
「あそこの建物に人がいますよ!!」
「人?魔物じゃないのかい?」
「いいえ、あれは間違いなく人間です!!今は隠れてますけどはっきりと見えました!!」
エリナの言葉を聞いてナイは建物に視線を向けるが人の姿は見えなかった。気配感知の技能を発動させると、エリナの言う通りに人間と思われる気配を感知する。どうして隠れているのかは分からないが、念のためにナイは武器に手を回す。
迷宮都市は危険区域で一般人の立ち入りは厳重に禁止されており、都市に入れるのはギルドから許可を貰った冒険者だけである。しかし、仮に隠れている相手が正規の冒険者ならば自分達の前に姿を晒さない事にアルトは疑問を抱く。
「そこに誰かいるんだろう!!僕達はこの国の第三王子のアルトだ!!君が冒険者ならばすぐに姿を見せるんだ!!」
「……出てきませんね」
「ということは……」
アルトが正体を告げても屋上に隠れている人物は現れず、不審に思ったナイ達は警戒態勢に入った。数秒後、建物の屋根からではなく出入口の扉から10人近くの男達が現れ、全員がオークの毛皮を纏っていた。
「う、ううん!!そんな事はないよ!?」
「そ、そうそう!!それで何かあったの!?」
ヒナの言葉にナイとモモは頬を赤らめながら答えると、申し訳なさそうな表情を浮かべながらもヒナはナイに手紙を差し出す。その手紙は既に封が開かれていた。
「この手紙は?」
「ごめんなさい、ナイ君宛ての手紙だったんだけど、差出人の名前が書いてないから怪しいと思って私が中身を確認したの。それで落ち着いて聞いて頂戴……どうやらこの手紙、イリアさんからの手紙なの」
「イリアさんの?」
手紙の内容を確認したヒナは差出人は記されていないが、イリアが送り届けた手紙だと判断し、すぐにナイは内容を確認する。どうして先日に手紙を送ってきたばかりのイリアがまた手紙を書いたのか不思議に思ったが、内容を確認して驚愕する。
「この手紙は……!?」
「え、えっ……な、なんて書いてあるの!?」
「……どうやら思っていたよりもまずい状況に陥ったみたいだ」
イリアが送ってきた二通目の手紙はとんでもない内容が記されていた――
――イリアからの二通目の手紙の内容、要約すれば一刻も早く自分を迎えに古城へ来てほしいと記されていた。イリアはどうやら古城の調査に赴き、なんと彼女は既に古城の内部への侵入を果たしていた事が発覚する。
迷宮都市に到着後にイリアは独自に調査した結果、彼女は古城へと繋がる秘密の抜け道を発見した。その抜け道を利用してイリアは古城内部に侵入する事に成功し、人造ゴーレムの監視の目を擦り抜けて古城への侵入に成功したという。
調査の途中で偶然にも迷宮都市の魔物の生態系の調査を行っていたがリーナと合流し、彼女と行動を共にしている時に古城へと繋がる秘密の抜け道を発見した。古城に関しては噂を聞いていたリーナはイリアの調査に興味を抱き、彼女に同行して一緒に古城の中に侵入した。
今まで誰一人として足を踏み入れる事ができなかった古城に二人は到達した事になるが、ここで最悪の問題が発生した。それは二人が利用した抜け道はとある理由で封じられてしまい、引き返す事ができなくなる。しかも別の出入口から抜け出そうとすれば人造ゴーレムに見つかるため、完全に二人は古城の中に閉じ込められてしまう。
リーナだけではイリアを守りながら自力で古城を脱出するのは難しく、二人は人造ゴーレムに取り囲まれた古城から逃げられない状況だった。しかも手紙を送ったのは数日前の話であり、二人が持参した食料や水は底を尽きかけて限界も近い。
この手紙を確認したナイはすぐに迷宮都市に出発する事を決め、二人を救い出すために急いで他の者を呼び集めて王都を発つ。今回の面子はアルト、ミイナ、ヒイロの白狼騎士団、さらには聖女騎士団からはエリナを連れて行く。
本当はもっと時間があれば他の人間も集める事はできたのだが、生憎と今は相談する時間も惜しく、二人を救うためにナイ達はビャクの狼車に乗り込んで迷宮都市に向けて出発する。しかし、ここで思いもよらぬ同行人がいた。
「迷宮都市かぁ……どんな所か楽しみだね、プルミンちゃん」
「ぷるぷるんっ」
「……どうしてモモも一緒に乗ってるの?」
迷宮都市に向けて出発した狼車には何故かスライムのプルミンを抱きかかえるモモも参加しており、王国騎士でもない彼女が一緒に乗り込んでいるのかとミイナは疑問を抱く。それは他の者も一緒でヒイロはナイに問い質す。
「ど、どうしてモモさんまで乗っているんですか!?今から行くのは迷宮都市なんですよ!!魔物の巣窟と呼ばれる恐ろしい場所なんです!!それなのに一般人のモモさんを連れて行くなんて……」
「いや、そういわれても……モモを連れて行く事を決めたのは僕じゃなくてアルトだよ」
「えっ!?アルト王子が!?」
「ああ、君達も知っているだろうがモモ君は優秀な回復役だ。彼女が同行しているだけでも心強いだろう?」
「私、皆の役に立てるように頑張るよ!!怪我をした時はすぐに言ってね、必ず治してあげるから!!」
「ぷるるんっ(その意気やで)」
意外な事にモモの動向を認めたのはアルトらしく、彼によるとこれから赴く迷宮都市は危険地帯であり、回復役が一人でもいれば非常に心強い。だからアルトは無理を言ってモモに協力してもらう。
しかし、アルト以外の人間は一応は一般人であるモモを今回の旅に同行させる事に不安を抱き、特にナイはモモを危険な目に遭わせたくはないので最初は反対したのだが、モモは「親友」でもあるリーナの危機と聞いて放っておけるはずがなかった。
「モモ……今から行く場所は本当に危険なんだよ。無理をしない方がいいよ」
「大丈夫だってば!!それにリーナちゃんが危ない目に遭ってるかもしれないのにじっとなんかしてられないし……それに何があってもナイ君が守ってくれるよね?」
「それは……そうだけど」
「私も絶対にナイ君の役に立てるように頑張るから!!だから、一緒に行かせてよ!!」
モモはナイが納得するまで彼を離さないとばかりに後ろか抱きしめ、そんな彼女の行動にナイとしてはどうしても反対できず、結局は今回の旅にモモも加わる事が決定した。
「はあ、分かったよ……でも、プルミンは久しぶりだね。今まで何処に居たの?」
「ぷるん?」
「あれ?ナイ君は知らないの?プルミンちゃんは大分前から白猫亭で一緒に暮らしてるんだよ。お客さんからも人気があって今ではお茶くみ係として活躍してるんだから」
「そうだったの!?」
ナイは今までしなかったが、プルミンは現在はモモに飼われており、ヒナの指導でお客様にお茶を出す仕事を任されている。プルミンは何処からか水筒を取り出すと、中身のお茶をアルトに差し出す。
「ぷるんっ(粗茶ですがどうぞ)」
「あ、ありがとう……スライムからお茶を貰うのは流石の僕も初めての経験だよ」
「小さくて可愛い」
「……プニプニして気持ちいいですね」
「でしょ~」
「ぷるるんっ♪」
「グルルルッ……!!(←嫉妬)」
お茶を受け取ったアルトは戸惑い、女性陣からは見た目の愛らしさにプルミンは人気だった。そんな様子を見てビャクは唸り声をあげる――
――それから三日後、何事もなくナイ達は目的地である迷宮都市へと辿り着く。迷宮都市は現在の王都と比べると規模は小さいが、それでも都市と呼べるほどの広さを誇り、ナイ達が暮している王都よりも広い可能性もあった。
都市を取り囲む城壁はあちこちが崩れており、簡単に都市内に入る事ができた。昔の王国は今ほどに魔物に対抗する技術は発展しておらず、魔物除けの魔道具の類も存在しなかった。そのせいで都に魔物が押し寄せた時はどうする事もできず、結局は遷都する以外に方法はなかったという。
大昔の王都が野生の魔物に攻め込まれた理由は未だに解明されておらず、一つだけはっきりとしている事は現在の迷宮都市は人造ゴーレムと魔物の住処と化している。
リーナを含めた冒険者達は迷宮都市の生態系を調べるために派遣されたのだが、途中でリーナだけはイリアと偶々合流し、彼女と共に古城に閉じ込められてしまう。二人を救うためにはナイ達も古城へ向かう必要があるが、アルトは到着早々に古城へ向かう前にまずは安全確保のために地図を取り出す。
「よし、まずは迷宮都市の中でも安全な区域に移動しよう」
「安全?ここは魔物の巣窟ではないのですか?」
「確かにこの都市の殆どの場所が危険区域といっても過言じゃないが、実はある一画だけ人間が暮らせる場所があるんだ」
「それは何処?」
「教会だよ。この教会付近には魔物が立ち寄る事はない」
「なるほど、教会か……」
どれだけ強い力を持つ魔物であろうと陽光神を信仰している教会には近づけず、実際にイチノがゴブリンの大群に襲われた時でさえも、ヨウが管理する教会に避難した人々は難を逃れていた事をナイは思い出す。
魔物達が教会に近付けない理由は教会を建てる際に必ず用意する石像が関係している。陽光教会では彼等が崇拝する陽光神の女神像を教会に設置する事が義務付けられており、この女神像は強力な魔除けの効果を持つため、どんなに力の強い魔物も教会に近づく事はできない。
「この街に赴く冒険者は教会を拠点にして活動している。きっとリーナとイリアも立ち寄っているはずだ、もしかしたら彼女達の仲間も滞在しているかもしれない。そこで情報を収集しよう」
「なるほど……確かに抜け道の事も気になるし、話を聞きに行こうか」
「では行きましょう!!」
アルトの言葉を聞いてナイ達は納得し、まずは情報収集のために教会がある区域に向けて出発する。しかし、その道中でビャクとプルミンは何かに気付いた様に身体を震わせる。
「グルルルッ……!!」
「ぷるぷるぷるっ……」
「あれ、プルミンちゃんどうしたの?トイレ?」
「ぷるんっ(ちゃうわっ)」
「あいたっ!?」
唐突に震え始めたプルミンにモモは不思議そうに尋ねると、プルミンは怒った風にモモの頭の頭の上に乗っかる。どうやらプルミンが震えているのは皆に危険が迫っている事を伝えている様子だった。
「ぷるぷるっ!!」
「……どうやら何かを感じ取ったようだね」
「魔物でしょうか……」
「えっ!?まだ入ったばかりなのに!?」
「分からない……でも、嫌な予感がする」
「ナイがそういうのなら間違いない」
ナイ達は非戦闘員のモモとアルトを狼車に残して外に出る。エリナは狼車の上に移動して周囲を警戒する様に弓矢を構えると、彼女は傍にある建物の屋根の上に人影を発見した。
「あそこの建物に人がいますよ!!」
「人?魔物じゃないのかい?」
「いいえ、あれは間違いなく人間です!!今は隠れてますけどはっきりと見えました!!」
エリナの言葉を聞いてナイは建物に視線を向けるが人の姿は見えなかった。気配感知の技能を発動させると、エリナの言う通りに人間と思われる気配を感知する。どうして隠れているのかは分からないが、念のためにナイは武器に手を回す。
迷宮都市は危険区域で一般人の立ち入りは厳重に禁止されており、都市に入れるのはギルドから許可を貰った冒険者だけである。しかし、仮に隠れている相手が正規の冒険者ならば自分達の前に姿を晒さない事にアルトは疑問を抱く。
「そこに誰かいるんだろう!!僕達はこの国の第三王子のアルトだ!!君が冒険者ならばすぐに姿を見せるんだ!!」
「……出てきませんね」
「ということは……」
アルトが正体を告げても屋上に隠れている人物は現れず、不審に思ったナイ達は警戒態勢に入った。数秒後、建物の屋根からではなく出入口の扉から10人近くの男達が現れ、全員がオークの毛皮を纏っていた。
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