貧弱の英雄

カタナヅキ

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番外編 獣人国の刺客

第898話 猪頭団

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「え?オーク……じゃないっすよね」
「人間だよ。どう見ても……」
「あ、貴方達は何者なんですか!?それにその珍妙な格好はいったい何なんです!?」
「……猪の被り物?」
「「「…………」」」


ナイ達の前に現れたのはオークの毛皮を纏とオークの頭を想像させる覆面を被った男達だった。異様な格好をした男達の登場にナイ達は動揺を隠せず、最初に見た時は新種のオークかと勘違いしかけた。

奇妙な格好をした男達の登場にナイ達は警戒するが、男達の中でも一際大きい人物が前に出る。背丈が3メートルを超えるので巨人族だと思われるが、意外な事にその人物は頭の被り物を取り外すと素顔を晒す。


「待ってくれ、君達に危害を与えるつもりはない」
「えっ?」
「……そうなの?」


覆面を外した巨人族の男の顔は30代前半ぐらいだと思われ、他の者達も次々と覆面を外すと、殆どが20代後半ぐらいの男性だと判明する。ここで屋上に隠れていた人物も姿を現し、驚く事にナイ達の知る顔だった。


「ふむ、少し驚かせてしまったかのう」
「えっ……まさか、マホ魔導士!?」
「ええっ!?魔導士様!?」
「どうして貴女がここに……」


屋上に隠れていた人物はマホである事が判明してナイ達は驚愕すると、彼女は少し意地悪い笑みを浮かべながら事情を説明してくれた。


「驚かせて悪かったのう。少し前に風の精霊がお主等が近付いている事を知らせてくれたのだが、ちょっと脅かそうとここでこの者達と共に隠れておったのじゃ」
「脅かそうって……じゃあ、この人達は誰なんですか?」
「この者達は儂が今、面倒を見ている傭兵団じゃ」
「……どうも、猪頭団の団長のイノと申します」
「い、いのかしらだん?」


聞いた事もない傭兵団の名前と彼等の格好にナイ達は戸惑うが、マホは一から自分がここにいる理由と猪頭団なる傭兵団との出会いを説明する――





――マホはとある街で傭兵ギルドに所属する猪頭団と出会う。彼等は元々は王都から遠く離れた街の傭兵ギルドに所属していた傭兵団だったのだが、実はその傭兵団の頭を勤めるイノはマホの友人の息子だった。

風の噂で友人が病で亡くなったと聞いてはマホは息子の事を心配し、王都を離れて友人の息子の様子を見に行く。すると、彼は傭兵となっていた。

イノは傭兵団をまとめ上げ、彼が暮らす街ではそれなりに有名だった。しかし、ある時に他の傭兵団との共同で仕事を行った時、彼等は他の傭兵団に嵌められてしまう。

とある街の商人の商団の護衛を頼まれたイノが率いる傭兵団は、旅の道中で依頼人の商人が運んでいた荷物の宝石が盗まれたと言い張り、真っ先に疑われたのはイノであった。そして一緒に行動を共にしていた傭兵団の頭がイノが荷物を盗んだと証言する。

当然だがイノは商団の荷物など盗んではおらず、身の潔白を訴えたが彼の部下だった傭兵の一人がいきなりイノを糾弾する。実はイノの配下だった男の一人が他の傭兵団と組んでおり、彼はイノに窃盗の罪を被せようとした。

結局はイノの荷物から盗まれた宝石が発見され、イノは盗人だと疑われて他の傭兵に捕まりそうになるが、それに激高したイノの部下達が彼を守るために戦う。



――結果的にはこの行動が仇となり、イノの傭兵団は商団の荷物を奪って他の傭兵団に手を出した事にされ、犯罪者として指名手配されてしまう。そのためにイノと彼に従った傭兵達は街を追われた。

事情を知ったマホはイノと彼に従う傭兵団を見捨てる事は忍びなく、仕方なく彼女は誰も立ち入らぬ場所に一時的に彼等を避難させるため、この迷宮都市にまで誘導した事を伝える。

ちなみにこの街で発見された新種の魔物の正体に関しても実はオークの姿に擬態した猪頭団の仕業である事が判明し、その辺の事情は既に調査に赴いたリーナと他の冒険者にも伝えている事をマホはナイ達に告げた。



「じゃあ、冒険者ギルドに報告が上がった人型の魔物の正体は猪頭団の人たちだったんですか!?」
「うむ、そういう事になるな。調査に出向いたリーナ達にも報告しておいたのだが……もっと早く儂が連絡しておくべきだった」
「何だか迷惑を掛けた様で申し訳ない……だが、俺達もこの都市で生きるためにはこの格好になるしかなかったんだ」
「な、なるほど……魔物の姿に擬態する事で他の魔物に襲われないようにしてたのですか」
「う~ん……でも、その恰好だと確かに人型の魔物だと勘違いされても仕方ないっすね」
「最初に見た時はびっくりしたよね、プルミンちゃん?」
「ぷるぷるっ(食われるかと思った)」
「ウォンッ(道理でまずそうなオークだと思った)」


猪頭団が珍妙な格好をしているのも理由があり、彼等はオークに擬態する事で他の魔物から襲われないように変装していた事が判明した。別に彼等も好き好んでこのような格好をしていたわけではないらしいが、その割には「猪頭団」なる名前を付けている事に関しては少々疑問は残る。しかし、今は彼等の事よりもナイはマホからリーナの詳しい話を伺う。


「マホ魔導士はリーナと会ったのは何日前ですか?」
「丁度一週間前じゃ。そういえば儂が送った手紙は無事に届いたか?」
「手紙?あの手紙はマホ魔導士が送ったんですか?」
「そうじゃ、儂が風の精霊に頼んで送って貰ったんじゃ」
「さ、流石は魔導士様……凄いっす!!」


ナイの元に届いた例の手紙はマホが「風の精霊」とやらを利用して送り付けたらしく、リーナとは一週間も前に分かれた事を告げる。マホも事情は既に把握しているらしく、困った風に腕を組む。


「どうやらあの二人は地下道を潜り抜けて古城に向かったようじゃ」
「地下道?この街にも下水道があるんですか?」
「いいや、下水道ではない。どうやらこの街の地下には古城の王族が万が一の場合に抜け出すための秘密の通路があったようでな。そこを利用してイリアとリーナは古城へ向かった様じゃが、既にその通路は天井が崩壊して瓦礫で埋まっておる」
「魔導士の力でどうにかできないのですか?」
「無理じゃな、そもそも通路が崩壊した原因はどうやら侵入者対策として罠が仕掛けられておったようじゃ。あの二人はまんまとその罠に引っかかり、出られなくなったようじゃな……」


マホによるとイリアとリーナが抜け出せなくなった理由は秘密の通路の罠に引っかかり、二人が潜り抜けた後に通路が崩壊したのはただの偶然ではなかった。しかし、それならば疑問に残るのはどうやって古城内に取り残されたイリアがマホに手紙を渡したかである。


「マホ魔導士は僕に届いたイリアさんの手紙を受け取って王都に送ってくれたんですよね?それならどうやって古城に居るはずの手紙を受け取ったんですか?」
「もしかして魔導士様なら古城に侵入できるんですか!?」
「いや、流石の儂でもあの古城には迂闊に近付く事はできん。しかし、人造ゴーレムを潜り抜けて手紙を儂の元に送り届けた者がおる」
「えっ!?いったい誰ですか!?」
「うむ、それはな……この者のお陰じゃ」
「どうぞ」


猪頭団の団長のイノが小さな箱を取り出すと、その箱の蓋を開いてナイ達に見せつける。なんのつもりかとナイ達は不思議に思いながらも箱の中身を覗き込むと、そこには小さな鼠型の魔獣がチーズに嚙り付いていた。


「チュチュッ(うまうまっ)」
「ひいっ!?ネ、ネズミ!?」
「違う、これは……灰鼠?」
「あれ、この子……もしかしてテンさんのお母さんの所のネズミさん!?」
「その通りじゃ、このネズミはただのネズミではない。あの情報屋ネズミが飼育していたネズミじゃ」


箱の中に代われているネズミの正体はテンの養母であり、王都で情報屋を営んでいたネズミという名前の老婆が飼育していた灰鼠という魔獣だった。この灰鼠を魔物使いのネズミが使役して操り、何処にでも潜り込める灰鼠を利用してネズミは王都の情報収集を行っていた。

だが、ネズミは現在は王都から姿を消して消息不明であり、噂ではシャドウに始末されたと囁かれていた。そして彼女に従っていた灰鼠達も王都から姿を消したと聞いているが、その内の一匹を実はイリアが引き取っていた事が判明する。


「どうやらこのネズミはイリアがこっそりと飼育していたらしくてな。あの手紙もこのネズミが運んできたんじゃ」
「そ、そうだったんですか……」
「こやつは小さくてすばしっこいから、人造ゴーレムの目を盗んで古城から手紙を運び込む事ができた。その手紙を儂が風の精霊の力を借りてお主の元に送り届けたんじゃ」
「なるほど……そう言う事だったんですか」
「君、偉いね~」
「チュチュッ(照れるぜ)」
「ぷるぷるっ(やるな)」
「ウォンッ(ネズミにするには惜しいぜ)」
「ビャク君たちが意気投合している気がする……」


モモは指先で灰鼠の頭を撫でると少しくすぐったそうな表情を浮かべ、プルミンとビャクが褒めると灰鼠は気恥ずかしそうに頭を掻く。かなり人間臭い動作をする灰鼠を見てナイは感心する。

マホが手紙を受け取ったのはリーナとイリアが姿を消してから二日後の話であり、ネズミが手紙を運んできた事で全てを察したマホは、王都のナイの元にイリアの手紙を送る。それから三日後にナイ達は到着した。。

既に二人が古城へ突入してからも経過しており、恐らくは二人が持参した水も食料も尽きているだろう。しかし、まだ二人が生きている可能性は残っていおり、ナイはマホに二人がいる古城への行く道を教えてもらう。


「マホさん、古城まで案内してもらえますか?」
「……人造ゴーレムに挑むつもりか?」
「はい、どうかお願いします」
「や、止めておけ……あいつらは化物だ、人間の敵う相手じゃないぞ」


ここで猪頭団の団長のイノが怯えた表情を浮かべてナイを引き留め、ここで隠れ住んでいる彼等は人造ゴーレムの恐ろしさを嫌という程理解していた。
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