877 / 1,110
王国の闇
第861話 飛行戦艦
しおりを挟む
火竜が上空に向けて火炎を吐き出している最中、突如として火竜の頭上に大きな影が出現した。驚いた火竜は振り返ると、そこには巨大な鮫が浮かんでいた。自分よりも遥かに巨大な鮫を見た瞬間、火竜は驚愕のあまりに火炎を吐き出すのを止めてしまう。
「グガァッ……!?」
空を浮揚する「鮫」を見て火竜は頭の理解が追いつかず、混乱のあまりに身体を硬直させた。自分よりも何倍もの大きさを誇る巨大生物に戸惑うが、実際の所は火竜が目撃したのは本物の鮫でもなければ生物でもない。
――火竜が目撃したのは急遽ハマーンとアルトの手によって改造を施された飛行船であり、噴射口の動力源である火竜の経験石はシャドウに奪われてしまったが、実は王国が所有する経験石は一つだけではない。
かつてグマグ火山にて倒した火竜の死骸からも経験石が回収されており、その経験石の一部はハマーンも所持していた。彼はそれを利用して急遽新しい動力源として改造し、飛行船を飛ばして火竜の元へ迫る。
更に甲板には以前には搭載されていなかった大型の大砲が存在し、その大砲を操作するのはアルトと彼に付き添っていた王国騎士だった。アルトは火竜に向けて大砲型の魔兵器(兵器型の魔道具の通称)を構え、発射の合図を出す。
「よし、今だ!!」
「はっ!!」
「放てぇっ!!」
飛行船に搭載されている魔兵器の名称は「魔大砲」であり、砲口が火竜に向けられると、次の瞬間に光線の如き電撃が砲口から放たれた。魔大砲に詰め込まれていたのは砲弾の類ではなく、雷属性の魔石を装填していた。
雷属性の魔力が雷撃と化して火竜の元へ放たれ、いかに火竜と言えども雷の速度には対応できず、電撃を受けて悲鳴を上げる。
「グガァアアアアッ!?」
「よし、当たったぞ!!」
「王子、ですがもう……!?」
攻撃が的中した事にアルトは喜ぶが、甲板に搭載した魔大砲は徐々に熱を帯びてやがて砲身の部分が溶けてしまう。アルトとハマーンが急ごしらえに作り出した魔兵器のため、一発撃つのが限界だった。
それでも火竜にこれまでで一番の損傷を与えた事は確かであり、火竜は電撃を受けて痺れたのか街道に倒れ込むと動かず、絶好の好機だった。この時に飛行船を操縦するハマーンの声が響く。
『お主等!!今じゃ、さっさと火竜に止めを刺せ!!』
「この声は……ハマーンか!?」
飛行船からハマーンの声が響き、皆が驚いた表情を浮かべる。飛行船のお陰で火竜の攻撃は食い止める事ができたが、肝心の他の人間達はこれまでの戦闘で体力を使い果たし、もう誰も戦える状態ではない。
「くそがっ……無茶言うんじゃねえよ、こっちだってもう動けねえっ」
「ううっ……」
「くっ……魔力を使いすぎたか」
先ほどの火竜の吐息の攻撃によって全員が身を防ぐのに体力を使い果たし、マホでさえも魔力が殆ど残っていなかった。しかし、今は魔大砲の一撃で痺れている火竜だが、いずれは痺れが抜けて暴れ始めるのは目に見えている。
動けない今のうちに止めを刺すのが一番だが、その肝心の止めを刺す人間がいない状態だった。しかし、この時に路地裏から現れる人影が存在した。
「ガオウ、何だその姿は!!そっきの威勢はどうした!?」
「お、お前……動けるのか!?」
「えっ……だ、誰?」
「まさか、ゴウカか!?」
路地裏から現れたのはゴウカであり、その姿を見てガオウは驚く。ゴウカは火竜に噛みつかれた際に鎧を破壊され、酷い怪我をっていたはずだが、彼の傷口を見て驚く。
「お前、まさか傷口を焼いて塞いだのか……!?」
「うむ、死ぬかと思ったがな!!マリンのお陰でどうにか命拾いしたぞ!!」
「……助かってない、怪我を塞いだだけで治ったわけでもない」
路地裏からマリンが現れると、彼女は酷く疲れた様子だった。マリンは残された魔力でゴウカの傷口を火属性の魔法で焼く事で火傷で傷口を塞いだのだ。いくら傷口を塞いだからといって怪我が治るわけではないし、逆に感染症を引き起こす可能性もある。
だが、ゴウカからすれば出血を食い止めるだけでも十分であり、怪我の治療など後回しにして彼はドラゴンスレイヤーを構えた。そして倒れ込んだ火竜に視線を向け、彼は気合の込めた雄叫びを上げて走り出す。
「行くぞぉっ!!火竜ぅううっ!!」
「て、てめえっ……また良い所を持って行くつもりか!?」
「くっ……動けるものは後に続け!!」
「ルナはまだ戦えるぞ!!」
「わ、私だって……!!」
聖女騎士団の中からルナは起き上がり、ゴウカの後に続くとそれを見ていたヒイロも立ち上がろうとした。しかし、そんな彼女に対してマホが呼び止めた。
「待て、ヒイロよ……お主にこれを貸そう」
「えっ……こ、これは!?」
「炎華じゃ……お主にはまだ使いこなせぬだろうが、それでも火竜に止めを刺すにはこれしかない」
マホは王城を出る際に持ち込んだ炎華を差し出し、それを受け取ったヒイロは驚いた表情を浮かべる。だが、この場で炎華を扱える可能性があるのは同じ火属性の魔剣「烈火」を扱えるヒイロだけである。
「グガァッ……!?」
空を浮揚する「鮫」を見て火竜は頭の理解が追いつかず、混乱のあまりに身体を硬直させた。自分よりも何倍もの大きさを誇る巨大生物に戸惑うが、実際の所は火竜が目撃したのは本物の鮫でもなければ生物でもない。
――火竜が目撃したのは急遽ハマーンとアルトの手によって改造を施された飛行船であり、噴射口の動力源である火竜の経験石はシャドウに奪われてしまったが、実は王国が所有する経験石は一つだけではない。
かつてグマグ火山にて倒した火竜の死骸からも経験石が回収されており、その経験石の一部はハマーンも所持していた。彼はそれを利用して急遽新しい動力源として改造し、飛行船を飛ばして火竜の元へ迫る。
更に甲板には以前には搭載されていなかった大型の大砲が存在し、その大砲を操作するのはアルトと彼に付き添っていた王国騎士だった。アルトは火竜に向けて大砲型の魔兵器(兵器型の魔道具の通称)を構え、発射の合図を出す。
「よし、今だ!!」
「はっ!!」
「放てぇっ!!」
飛行船に搭載されている魔兵器の名称は「魔大砲」であり、砲口が火竜に向けられると、次の瞬間に光線の如き電撃が砲口から放たれた。魔大砲に詰め込まれていたのは砲弾の類ではなく、雷属性の魔石を装填していた。
雷属性の魔力が雷撃と化して火竜の元へ放たれ、いかに火竜と言えども雷の速度には対応できず、電撃を受けて悲鳴を上げる。
「グガァアアアアッ!?」
「よし、当たったぞ!!」
「王子、ですがもう……!?」
攻撃が的中した事にアルトは喜ぶが、甲板に搭載した魔大砲は徐々に熱を帯びてやがて砲身の部分が溶けてしまう。アルトとハマーンが急ごしらえに作り出した魔兵器のため、一発撃つのが限界だった。
それでも火竜にこれまでで一番の損傷を与えた事は確かであり、火竜は電撃を受けて痺れたのか街道に倒れ込むと動かず、絶好の好機だった。この時に飛行船を操縦するハマーンの声が響く。
『お主等!!今じゃ、さっさと火竜に止めを刺せ!!』
「この声は……ハマーンか!?」
飛行船からハマーンの声が響き、皆が驚いた表情を浮かべる。飛行船のお陰で火竜の攻撃は食い止める事ができたが、肝心の他の人間達はこれまでの戦闘で体力を使い果たし、もう誰も戦える状態ではない。
「くそがっ……無茶言うんじゃねえよ、こっちだってもう動けねえっ」
「ううっ……」
「くっ……魔力を使いすぎたか」
先ほどの火竜の吐息の攻撃によって全員が身を防ぐのに体力を使い果たし、マホでさえも魔力が殆ど残っていなかった。しかし、今は魔大砲の一撃で痺れている火竜だが、いずれは痺れが抜けて暴れ始めるのは目に見えている。
動けない今のうちに止めを刺すのが一番だが、その肝心の止めを刺す人間がいない状態だった。しかし、この時に路地裏から現れる人影が存在した。
「ガオウ、何だその姿は!!そっきの威勢はどうした!?」
「お、お前……動けるのか!?」
「えっ……だ、誰?」
「まさか、ゴウカか!?」
路地裏から現れたのはゴウカであり、その姿を見てガオウは驚く。ゴウカは火竜に噛みつかれた際に鎧を破壊され、酷い怪我をっていたはずだが、彼の傷口を見て驚く。
「お前、まさか傷口を焼いて塞いだのか……!?」
「うむ、死ぬかと思ったがな!!マリンのお陰でどうにか命拾いしたぞ!!」
「……助かってない、怪我を塞いだだけで治ったわけでもない」
路地裏からマリンが現れると、彼女は酷く疲れた様子だった。マリンは残された魔力でゴウカの傷口を火属性の魔法で焼く事で火傷で傷口を塞いだのだ。いくら傷口を塞いだからといって怪我が治るわけではないし、逆に感染症を引き起こす可能性もある。
だが、ゴウカからすれば出血を食い止めるだけでも十分であり、怪我の治療など後回しにして彼はドラゴンスレイヤーを構えた。そして倒れ込んだ火竜に視線を向け、彼は気合の込めた雄叫びを上げて走り出す。
「行くぞぉっ!!火竜ぅううっ!!」
「て、てめえっ……また良い所を持って行くつもりか!?」
「くっ……動けるものは後に続け!!」
「ルナはまだ戦えるぞ!!」
「わ、私だって……!!」
聖女騎士団の中からルナは起き上がり、ゴウカの後に続くとそれを見ていたヒイロも立ち上がろうとした。しかし、そんな彼女に対してマホが呼び止めた。
「待て、ヒイロよ……お主にこれを貸そう」
「えっ……こ、これは!?」
「炎華じゃ……お主にはまだ使いこなせぬだろうが、それでも火竜に止めを刺すにはこれしかない」
マホは王城を出る際に持ち込んだ炎華を差し出し、それを受け取ったヒイロは驚いた表情を浮かべる。だが、この場で炎華を扱える可能性があるのは同じ火属性の魔剣「烈火」を扱えるヒイロだけである。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
もういらないと言われたので隣国で聖女やります。
ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。
しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。
しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる