貧弱の英雄

カタナヅキ

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王国の闇

第714話 騎士団の反撃

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「ちっ……懐かしい感じがしたと思ったら、そういう事かい。あんたら、この魔剣を何処で手に入れたんだい!?」
「えっ!?いや、それは……」
「テン、落ち着いて下さい。私の方から説明します」
「エルマ……あんたの仕業かい?」


氷華と炎華に気付いたテンは険しい表情を浮かべ、彼女からすれば母親のように慕っていたジャンヌの魔剣がこんあ場所にある時点で頭がどうにかなりそうだった。そんな時にエルマが彼女に声を掛ける。

エルマは元々は聖女騎士団の一員であり、一時期はテンの相棒として行動を行っていた。他の騎士団とも顔見知りであり、エルマが居る事に気付いた者達は喜びの声を上げた。


「そこにいるのはエルマか!?久しぶりだね、元気にしてたか!!」
「どうやら息子が世話になったようだな……礼を言う」
「おおっ、エルマ!!元気だったか!?」
「話は後です!!テン、貴方に話したいことがあります!!」
「……なら、さっさと言いな。あたしが納得するように説明してくれるんだろうね?」


エルマは他の者に対しても適当に返事を行い、改めてテンと向かい合うと彼女に事の経緯を話す。ジャンヌの墓から彼女の魔剣を回収した事、そして彼女の代わりに新しく魔剣に認められる者が現れるまではマホが預かっていた事を話す。

ガロが魔剣を手にしていたのは緊急事態だからであり、正式に彼が魔剣の継承者として選ばれたわけではない。ガロが氷華の能力を使用した件に関しても緊急事態だったからであり、もしもガロが能力を使用していなければ自分達は今頃は死んでいた事も伝えると、テンは呆れた表情を浮かべる。


「成程、そういう事情だったのかい……分かったよ、あんたがそこまで言うのなら信じてやるよ」
「テン、貴女の気持ちも分かりますが今は抑えてください」
「抑える?あんた、まさかあたしがこの小僧から魔剣を取り上げるとでも思っているのかい?」
「こ、小僧……」


テンの言葉に普段のガロならば逆上してもおかしくはないが、聖女騎士団を率いた状態のテンは若かりし頃と同じか、あるいはそれ以上の迫力を誇る。そんなテンを見てガロは圧倒され、格の違いを思い知った。


(こ、この女……強い、俺よりもずっと……)


気迫のみでガロはテンとの力量差を思い知り、その一方でテンはガロの右手首が掴まった状態の氷華を見下ろし、それを掴んで彼の元へ運ぶ。


「ほら、しっかりと傷口を繋ぎな……誰か、回復薬を分けてやりな」
「えっ!?いや、待ってくれ!!そんな事をしたら……」
「いいから、さっさとしな」


ガロは自分の右腕と切り落とされた右手首を繋げた場合、右手首が握りしめている氷華がまた暴走すると思ったが、テンは構わずに回復薬を掛けて彼の腕を繋げる。

右腕に激痛が走り、ガロは歯を食いしばるがやがて無事に傷口が繋がった。自分の右腕が戻った事にガロは唖然とするが、すぐに氷華に気付いて注意する。


「ま、まずい!!離れろ、このままだとあんたも氷漬けに……」
「平気さ、よく見てみな?」
「えっ?」


ガロは氷華がまた暴走すると思ったが、右手首を繋げても氷華は特に変化はなく、その代わりに右手に異変が生じた。いったいどういうわけか繋げたはずの右手が思うように動かず、簡単に氷華を手放してしまう。


「うがっ……な、何だっ!?」
「あんたの右手に残されていた魔力が根こそぎ奪われたのさ。だからこいつも能力が封じられた……それだけの話さ」
「み、右手の魔力だと……」
「ガロ、貴方のその手……!?」


エルマの言葉にガロは右手を確認すると、右手首から先はまるでミイラのように手がしぼんでいる事に気付き、ガロは唖然とした表情を浮かべる。それを見たテンは彼の手から氷華を回収し、この魔剣の危険性を伝える。


「この魔剣「氷華」はね、強い精神力を持つ人間にしか扱えないんだ。こいつは能力を使用すると、強制的に使用者の魔力の限界まで搾り取るんだ。こいつを制御するには必要以上の魔力を奪われない様に魔力を抑え込む必要がある。つまり、魔操術を極めた人間にしか扱えないんだよ」
「そ、そんな……」
「あんたが右手を切り裂いた時にこいつは右手に宿っていた魔力を全て吸収した。その影響であんたの手はそんな感じになったのさ。まあ、身体と繋げる事が出来たんだから回復薬でもしばらく浸しておけば元に戻るよ」
「テン……妙に詳しいですね」
「そりゃ知ってて当然さ、あたしもガキの頃にこいつのせいで腕を切り落とされた事があったからね」
「ああ、そういえば確かにあったな……」
「まだテンが入り始めた頃だな……」
「えっ!?そうなのか!?知らないぞ、そんな話!?」


エルマとルナはテンの話は初耳だが、聖女騎士団の古株の人間知っているらしく、かつてテンは氷華を誤って手にした際に今現在のガロと同じように大変な目に遭った事を思い出す。



――まだテンが聖女騎士団に入団したばかりの頃、当時の彼女はジャンヌに対して敵対心を抱いていた。聖女騎士団に入ったのも彼女に半ば無理やり連れ出されただけであり、ジャンヌの事をテンは完全には認めていなかった。

他の人間がジャンヌの武勇を称える度にテンは嫉妬し、毎日のように彼女に試合を申し込む。しかし、テンはどれだけ挑もうとジャンヌには勝てなかった。そこで彼女はジャンヌの強さの秘密を探るため、彼女の魔剣を勝手にする。


『この魔剣さえ使いこなせれば、あたしだってあの女のように……』
『待ちなさい、何をしているの!?その魔剣に触れては駄目よ!!』
『うわっ!?』


夜中にテンはジャンヌの部屋に忍び込み、彼女は炎華と氷華を持ち上げて訓練場まで移動すると、彼女は力を使おうとした。だが、その結果は最悪の事態を引き起こす。


『な、何だこれ……手が離れない!!』
『テン!!駄目よ、精神を集中して制御して!!』
『そ、そんな事を言われても……うわぁあああっ!?』
『テン!?』


必死にジャンヌはテンから魔剣を引き剥がそうとしたが、暴走する魔剣を食い止める事は出来ず、彼女は仕方なく訓練場に存在した本物の剣を利用してテンの腕を切り裂く。


『ごめんなさい!!』
『がああっ!?』


ジャンヌの手によって魔剣を手にした腕を切り裂かれたテンは悲鳴を上げるが、腕が切り離された事によって魔剣の暴走は抑えられ、すぐに彼女は救助された――





――その後、テンは切り裂かれた腕は回復薬で繋げる事は出来たが、しばらくの間はミイラのようにしなびれた状態の腕で過ごす。彼女の腕が元に戻るまでに数日ほど経過し、更に感覚を完全に取り戻すまではもっと時間が掛かった。

テンは勝手に魔剣を持ち出した事に関してはジャンヌは攻めはせず、それどころか彼女の看病を行ったのもジャンヌだった。テンはジャンヌがどうして自分を怒らないのか、何故ここまで面倒を見てくれるのかと戸惑う。


『あんた……なんであたしにそんなに優しくしてくれるんだい?』
『当然じゃない、私達は家族よ?なら、助け合うのは当たり前よ』
『か、家族?』
『ええ、そうよ。私にとって聖女騎士団の皆は家族同然……私にとって貴女は娘も同然よ』
『……家族か』


この日からテンはジャンヌの器の大きさと優しさに惚れ込み、彼女を慕う。それと同時に氷華と炎華の恐ろしさを思い知らされ、もう二度とジャンヌの魔剣に触れる事はなかった――
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