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旋斧の秘密
第363話 逆転
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試合を見届けた国王の言葉にアルトだけではなく、隣に座っていたバッシュも信じられない表情を浮かべて国王を問い質す。
「父上、今何と言われましたか?」
「何度も同じことを言わせるでない……岩砕剣を回収させてもらう、約束通りにあの魔剣は王国が管理させてもらう」
「父上!!」
「くどいぞ、バッシュ……儂がアルトと交わした約束は試合に勝った場合はあの者に岩砕剣を託すという内容じゃ」
「しかし、ナイは負けておりませぬ!!」
「だが、勝ってもおらぬ。ならばあの者に岩砕剣を任せる事はできん」
バッシュは国王の言い分を聞いて流石に黙ってはいられず、先ほどの試合で見せたナイの力は見事だった。ナイは見事に戦い抜き、誰もが思いもよらぬ戦法であのリーナを追い詰めた。確かに試合は引き分けに終わったが、重要なのはナイが黄金級冒険者であるリーナに匹敵する力を見せつけた事である。
兄として弟のアルトを庇うわけではなく、バッシュはナイの名誉のために国王を説得しようとした。あれほど見事に戦い抜いたというのに彼から岩砕剣を没収するなど、ナイがあまりにも不憫に感じた。
「国王様、私もバッシュ王子の言う通りにあのナイという少年は十分な力を見せた思いましたわ」
「確かに試合は引き分けに終わりましたが、あのリーナを相手に彼は見事に戦い抜きました。彼ならばきっとあの魔剣も使いこなせるはずです」
「陛下、私も3人と同じ意見でございます。我が娘と互角に戦い、あと一歩まで追い詰めた……もう彼の事を認めてもいいのではないですか?」
「陛下……儂は陛下の指示に従いましょう」
「…………」
バッシュだけではなく、ドリス、リン、アッシュはナイの力を認め、彼が岩砕剣を所有するに相応しい人物である事を説く。その一方で宰相だけは中立の態度を貫き、敢えて何も言わない。
国王は試合場に倒れているナイに視線を向け、亡き王妃の事を思い出す。アルトがナイが亡くなった王妃にも匹敵する、あるいはそれ以上の存在になり得ると人材と言い出した時は感情に任せて怒ったが、先ほどの試合を見せられて彼の評価が一変する。
「確かにあの者は力を見せた。若い頃の儂の妻よりも大きな力を持っているかもしれぬ。しかし、約束は約束じゃ……試合に勝った場合のみ、魔剣の所有を許可すると儂はアルトと約束した。そして約束は残念ながら果たされなかった」
「陛下!!」
「いい加減にせんか!!お前達が何と言おうと儂の意志は変わらんぞ!!」
「いえ、そうではありません!!試合場を見てください!!」
「……何?」
バッシュの言葉を聞いて国王は試合場に振り返ると、そこには予想だにしない光景が広がっていた。それは試合場に倒れた二人を救助するために兵士が駆けつけようとしたところ、気絶したと思われていたナイが起き上がり、普通に立ち上がる姿が国王の視界に映し出された――
「――いてててっ、流石に死ぬかと思った」
『んなっ……ク、クロノ選手が起き上がったぁっ!?』
『えええええっ!?』
壁際に倒れていたナイが起き上がった瞬間、観衆は驚愕の声を上げた。それはアルト達も同じであり、まさかナイが立ち上がるなど思いもしなかった。モモに至っては席を移動して最前列まで辿り着くと、試合場のナイに声を掛ける。
「ナ、ナイ……あ、じゃなくて今はクロノ君!!無事なの!?」
「あ、うん……どうにか意識を失う前に再生術で怪我を治せたよ」
「よ、良かった~……」
ナイの返事を聞いてモモは安堵の表情を浮かべ、その一方でナイは魔法腕輪に視線を向けた。魔法腕輪に取り付けた聖属性の魔石は既に色を失い、魔力を完全に失っていた。
(危なかった……アルトから新しい魔石を貰っておいて本当に良かった)
気絶する寸前、どうにかナイは魔法腕輪に嵌めていた聖属性の魔石から魔力を吸い上げる事で再生機能を活性化させ、体力の回復と怪我の治療を行う。
思っていた以上に肉体の負担が大きく、怪我を治すのに時間は掛かったがナイは起き上がれるまで回復した。そして旋斧を背負い直し、倒れているリーナの様子を伺う。
(この娘、本当に強かったな……テンさんよりもやばいかも)
魔石を所持していた事でナイはどうにか回復したが、仮に聖属性の魔石がなければナイは気絶して動けなかっただろう。そもそも魔法腕輪を装着していなければナイは魔法剣も扱えず、リーナには勝てなかった。
起き上がったナイを見て観衆は騒ぎ出し、試合は既に引き分けが宣言されているが、倒れているリーナと立ち上がったナイを見て観客は騒ぎ出す。
「お、おい……あいつ、ぴんぴんしてるぞ」
「そんな馬鹿な……」
「ちょっと待てよ、これどうなるんだ!?試合は引き分けのままなのか!?」
「そんな馬鹿な話があるか!!起き上がったんだから、クロノの勝ちだろうが!!」
「な、何言ってんだよ!!もう引き分けと宣言されたんだよ!!今更起き上がっても駄目に決まってるだろ!!」
『え、えっと……この場合の規定では……えっと、どうなるんでしょうか?』
ナイが起き上がった事で引き分けと宣言された試合に異議を申し付ける観客も多く、その様子を見ていた貴賓席の者達も同様の反応を示す――
「父上、今何と言われましたか?」
「何度も同じことを言わせるでない……岩砕剣を回収させてもらう、約束通りにあの魔剣は王国が管理させてもらう」
「父上!!」
「くどいぞ、バッシュ……儂がアルトと交わした約束は試合に勝った場合はあの者に岩砕剣を託すという内容じゃ」
「しかし、ナイは負けておりませぬ!!」
「だが、勝ってもおらぬ。ならばあの者に岩砕剣を任せる事はできん」
バッシュは国王の言い分を聞いて流石に黙ってはいられず、先ほどの試合で見せたナイの力は見事だった。ナイは見事に戦い抜き、誰もが思いもよらぬ戦法であのリーナを追い詰めた。確かに試合は引き分けに終わったが、重要なのはナイが黄金級冒険者であるリーナに匹敵する力を見せつけた事である。
兄として弟のアルトを庇うわけではなく、バッシュはナイの名誉のために国王を説得しようとした。あれほど見事に戦い抜いたというのに彼から岩砕剣を没収するなど、ナイがあまりにも不憫に感じた。
「国王様、私もバッシュ王子の言う通りにあのナイという少年は十分な力を見せた思いましたわ」
「確かに試合は引き分けに終わりましたが、あのリーナを相手に彼は見事に戦い抜きました。彼ならばきっとあの魔剣も使いこなせるはずです」
「陛下、私も3人と同じ意見でございます。我が娘と互角に戦い、あと一歩まで追い詰めた……もう彼の事を認めてもいいのではないですか?」
「陛下……儂は陛下の指示に従いましょう」
「…………」
バッシュだけではなく、ドリス、リン、アッシュはナイの力を認め、彼が岩砕剣を所有するに相応しい人物である事を説く。その一方で宰相だけは中立の態度を貫き、敢えて何も言わない。
国王は試合場に倒れているナイに視線を向け、亡き王妃の事を思い出す。アルトがナイが亡くなった王妃にも匹敵する、あるいはそれ以上の存在になり得ると人材と言い出した時は感情に任せて怒ったが、先ほどの試合を見せられて彼の評価が一変する。
「確かにあの者は力を見せた。若い頃の儂の妻よりも大きな力を持っているかもしれぬ。しかし、約束は約束じゃ……試合に勝った場合のみ、魔剣の所有を許可すると儂はアルトと約束した。そして約束は残念ながら果たされなかった」
「陛下!!」
「いい加減にせんか!!お前達が何と言おうと儂の意志は変わらんぞ!!」
「いえ、そうではありません!!試合場を見てください!!」
「……何?」
バッシュの言葉を聞いて国王は試合場に振り返ると、そこには予想だにしない光景が広がっていた。それは試合場に倒れた二人を救助するために兵士が駆けつけようとしたところ、気絶したと思われていたナイが起き上がり、普通に立ち上がる姿が国王の視界に映し出された――
「――いてててっ、流石に死ぬかと思った」
『んなっ……ク、クロノ選手が起き上がったぁっ!?』
『えええええっ!?』
壁際に倒れていたナイが起き上がった瞬間、観衆は驚愕の声を上げた。それはアルト達も同じであり、まさかナイが立ち上がるなど思いもしなかった。モモに至っては席を移動して最前列まで辿り着くと、試合場のナイに声を掛ける。
「ナ、ナイ……あ、じゃなくて今はクロノ君!!無事なの!?」
「あ、うん……どうにか意識を失う前に再生術で怪我を治せたよ」
「よ、良かった~……」
ナイの返事を聞いてモモは安堵の表情を浮かべ、その一方でナイは魔法腕輪に視線を向けた。魔法腕輪に取り付けた聖属性の魔石は既に色を失い、魔力を完全に失っていた。
(危なかった……アルトから新しい魔石を貰っておいて本当に良かった)
気絶する寸前、どうにかナイは魔法腕輪に嵌めていた聖属性の魔石から魔力を吸い上げる事で再生機能を活性化させ、体力の回復と怪我の治療を行う。
思っていた以上に肉体の負担が大きく、怪我を治すのに時間は掛かったがナイは起き上がれるまで回復した。そして旋斧を背負い直し、倒れているリーナの様子を伺う。
(この娘、本当に強かったな……テンさんよりもやばいかも)
魔石を所持していた事でナイはどうにか回復したが、仮に聖属性の魔石がなければナイは気絶して動けなかっただろう。そもそも魔法腕輪を装着していなければナイは魔法剣も扱えず、リーナには勝てなかった。
起き上がったナイを見て観衆は騒ぎ出し、試合は既に引き分けが宣言されているが、倒れているリーナと立ち上がったナイを見て観客は騒ぎ出す。
「お、おい……あいつ、ぴんぴんしてるぞ」
「そんな馬鹿な……」
「ちょっと待てよ、これどうなるんだ!?試合は引き分けのままなのか!?」
「そんな馬鹿な話があるか!!起き上がったんだから、クロノの勝ちだろうが!!」
「な、何言ってんだよ!!もう引き分けと宣言されたんだよ!!今更起き上がっても駄目に決まってるだろ!!」
『え、えっと……この場合の規定では……えっと、どうなるんでしょうか?』
ナイが起き上がった事で引き分けと宣言された試合に異議を申し付ける観客も多く、その様子を見ていた貴賓席の者達も同様の反応を示す――
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