貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
372 / 1,110
旋斧の秘密

第362話 瞬間加速 ※大幅に修正しました

しおりを挟む
「さあ、来なよ!!」
「…………」


リーナの言葉に対してナイは旋斧を構えた状態から動かず、20メートルも離れたリーナに一瞬で近付く術はない。だが、ナイはリーナにはない技能を覚えていた。

ナイとリーナの移動法は「俊足」と「跳躍」の技能を組み合わせた高速移動であり、これにさらに「剛力」の技能を組み合わせる事で移動速度を上昇させることができるはずだった。但し、同時に三つの技能を発動すれば肉体の負担は更に高まる。それでもナイがリーナに勝つにはこれ以外に方法はない。


(やるしかないんだ)


相手が離れてくれた事が幸いし、ナイは余分な装備をその場で取り外す。旋斧も闘拳も刺剣も一旦外して地面に放置すると、いきなり装備を外し始めたナイに観客は戸惑う。


「な、何だあいつ……急に脱ぎ始めやがった」
「おいおい、いったい何のつもりだ?」
「男が脱いでも嬉しくねえぞ!!脱ぐならリーナの方だろ!!」
「やかましい!!茶化すんじゃないよ!!」
「我が娘に何を期待している!?」
「「「ひいいっ!?」」」


観客の野次に今度はテンとアッシュが同時に怒鳴り散らし、二人の迫力に観客は黙り込む。その一方でモモは心配そうに隣に座るヒナを揺さぶる。


「ねえねえ、ナイ君何をするつもりなのかな!?怪我しないといいけど……」
「お、お、落ち着きなさい!!私に聞かれても困るわよ!!」
「ふむ……どうやらまた何か仕出かそうとしてるみたいだね」
「アルトよ、彼が何をするつもりなのか分かるのか?」
「……見てのお楽しみですよ」


アルトの態度に隣に座るバッシュは気にかかるが、彼は不敵な笑みを浮かべた。ナイとアルトの付き合いは決して長くはないが、アルトはナイを信じていた。何故ならば彼は「英雄の器」だと信じているからである。

最初に会った時からアルトはナイが普通の人間ではないと勘付き、適当な理由を付けて彼を王城に招いて友人関係を築いた。今までにアルトは様々な人間と出会ったが、ナイ以上に不思議な人間はいなかった。


「肌がピリピリする……君、本当に強いんだね。僕も嬉しいよ」
「……ふうっ」


リーナは久々の強敵との戦闘に高揚感を抱くが、そんな彼女の言葉はナイの耳には届いていなかった。ナイは岩砕剣だけを構えると、まずは準備を行う。


(身体が持つと良いけど……やるしかない!!)


最初にナイは両手に「硬化」を発動させ、岩砕剣を握りしめる両手を固定する。硬化の技能は防御力を高めるだけではなく、使い方によっては動きを固定させることも可能だと気付いた。

これからナイはリーナの速さをで動くため、間違っても岩砕剣を手放さないようにまずは両手を固める。この状態から更に「剛力」を発動させ、両足の筋肉を強化した上で「跳躍」を発動する。



「――うおおおおおおっ!!」



雄叫びを上げながらナイはリーナに目掛けて突っ込んだ瞬間、大量の土煙が舞い上がる。ナイが飛び込んだ瞬間に凄まじい衝撃が大地に伝わり、20メートルも離れているリーナに目掛けて砲弾の如く突っ込んだ。


「えっ!?」
「やああっ!!」


自分を越える移動速度と飛距離で跳び込んできたナイにリーナは呆気に取られ、それでも反射的に槍を構えた。だが、そんな彼女に対してナイは岩砕剣を振りかざす。事前に硬化で両手を固定していたお陰で岩砕剣を手放さずに済み、全力の一撃をリーナに叩き込む。


「うおらぁっ!!」
「きゃああっ!?」


リーナは魔槍に岩砕剣が叩き込まれた瞬間、想像以上の衝撃を受けて吹き飛ぶ。地面を何度も横転しながら闘技場の壁際まで吹き飛ばされ、それを見たアッシュは焦りの声をあげる。


「リ、リーナ!?無事か!!」
「ううっ……」
『い、いけません!!リーナ選手、戦闘不能と見做して勝者は……えっ!?』


闘技場の壁まで吹っ飛ばされたリーナは意識を失ったのか動かず、それを見て彼女は戦闘不能だと判断したアリアは試合終了を宣言しようとした。だが、攻撃をしかけたナイも同時に倒れ込む。


「はあっ、はあっ……!?」
『ナイ選手も倒れた!?これはいったいどういうことでしょうか!!』
「あ、あの馬鹿……技能を使いすぎたんだ!!それで肉体が限界を迎えたんだ!!」
「ええっ!?」
「ナイ君!?大丈夫!?」


元々「剛力」だけでも肉体の負担は大きいが、そこから「硬化」「跳躍」「俊足」の三つの技能まで同時に発動したせいでナイは限界を向け、その場に倒れてしまう。それを見た実況のアリアは両者共に戦闘不能と判断した。


『ひ、引き分けです!!リーナ選手とナイ選手、どちらも戦闘不能と判断して引き分けとします!!』
「何だって!?」
「……アルトよ、残念だが岩砕剣はあの子には渡せんぞ」


引き分けをアリアが宣言すると、国王はため息を吐きながらアルトに告げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

処理中です...