354 / 1,110
旋斧の秘密
第344話 貴賓席では……
しおりを挟む
――時刻は少し前に遡り、午前の部が終わって休憩時間を迎えると、闘技場には大勢の人々が集まっていた。彼等は午前の部の最後の試合で活躍したという「クロノ」という選手に興味を抱き、その中には黄金級冒険者も含まれていた。
「おう、お前さんも来ておったのか」
「あん?爺さんも来てたのか」
黄金級冒険者であるハマーンとガオウは闘技場の受付口で顔を合わせ、二人が集まった途端に他の人間は騒ぎ出す。なにしろどちらも黄金級冒険者であり、一般人の間でも知名度は高い。
「お、おい……あれ、武闘派鍛冶師のハマーンじゃないか!?」
「もう片方の男は……獣剣士のガオウじゃないか!?どうしてこんな所に……」
「ま、まさか試合に出るのか!?」
他の人間が騒ぎ出した事にハマーンとガオウは気づき、二人は面倒くさそうな表情を浮かべながらも話し合う。
「ここでは目立ってしまうのう、仕方あるまい……どうじゃ、貴賓席で少し話さんか?」
「別にいいよ、爺さんにまた仕事の話を頼みたいと思ってたから。という事で……貴賓席まで案内してくれる?」
「は、はい!!只今係の者をお呼びします!!」
黄金級冒険者の証である黄金製の冒険者バッジを二人が受付に提出すると、すぐに受付の男性は二人を丁重に貴賓席まで案内する様に兵士に指示を出す。
基本的には貴賓席は一般客の使用は禁じられているが、黄金級冒険者となると貴族と同等かそれ以上の扱いを受ける。黄金級冒険者は国にとっても重要で存在であるため、冒険者の中でも優遇されていた。
「お主はここへ来たのは理由はなんじゃ?」
「別にただの暇つぶしだよ。試合で面白い奴が現れたと噂を耳にしてね……そういう爺さんはどうなんだ?」
「儂か?儂はここで店をやっとるからのう、冒険者の仕事がない時はよくここへ来るんじゃ」
「ああそういえば、爺さんは鍛冶師でもあったな……」
「何を惚けた事を言っておる。儂にとって冒険者稼業などただの副業じゃ、そもそもお主の武器も誰が作ってやったと思っておる」
「分かってるって……ただの冗談だよ」
ハマーンは優秀な鍛冶師であり、彼の本業は冒険者ではなく鍛冶師であることをはっきりと告げる。仮にも黄金級冒険者は国から優遇される立場であるにも関わらず、鍛冶師の方を本業と告げる彼にガオウは苦笑いを浮かべた。
「けど爺さん、冒険者が副業なんてあんまり大きな声で言ったらまずいんじゃないのか?」
「ふん、生憎と儂はお主等と違って冒険者になったのは素材集めのためじゃ。黄金級冒険者になれれば禁止区域にも立ち入る事が許可されると聞いたから冒険者になったに過ぎん。それに今は儂自身が危険を冒さんでも契約した客が素材を集めてくるからのう……何時でも辞めて構わんわ」
「はあっ……まあ、爺さんが辞めようと辞めまいと俺には関係ないけどな」
ガオウはハマーンの話を聞いて呆れた表情を浮かべ、普通の冒険者ならば誰もが黄金級冒険者になる事を夢見る。しかし、ハマーンの場合は自分の都合のために黄金級冒険者を目指しただけに過ぎず、その目的を果たせた今となっては彼は黄金級冒険者に留まる事に決して固執しない。
ハマーンが黄金級冒険者になった理由、それは彼が鍛冶師として最高の仕事をするには最高の素材を集める必要があり、そのためには黄金級冒険者が都合が良かった。黄金級冒険者ならば国から優遇されるため、立ち入りが禁止されている区域にも立ち寄る事が許される場合もある。
この国には立ち入りが禁止されている地域が存在し、その地域には一般では出回らない希少な素材が手に入る。それを知ったハマーンは長い時を費やして自分自身が黄金級冒険者となり、彼は素材を集めてきた。
最近ではハマーンと専属契約を交わした冒険者達が、彼の欲する素材を自分達で回収してくれているようになったので、実質的にハマーンは冒険者稼業を休止している。先日のギルドマスターの呼び出しの時は仕方なくギルドマスターの顔を立てて参加しただけに過ぎない。
「お主の方も例の仕事はどうなったのだ?ギルドマスターはお主にアルト王子の護衛を任せるつもりじゃろう」
「よく言うよ、爺さんが裏で俺に仕事を押し付けたんだろ。ギルドマスターとは古い付き合いだからって面倒事を押し付けて……」
「面倒事とはなんじゃ、王子の護衛など滅多に経験できぬぞ。それに儂とてアルト王子とは……」
「あ、あの……御二人とも、到着いたしました。どうぞ、ごゆっくりお楽しみください」
二人の会話の際中に兵士が口を挟み、いつの間にか二人とも貴賓席の前の扉に立っていた。二人は会話を切り上げて貴賓席の扉を抜けると、既に試合は開始されそうになっていた。
「ほう、どうやら試合は始まりそうじゃな」
「さて、噂が本当かどうか……確かめさせて貰おうか」
ハマーンとガオウは目つきを鋭くさせ、試合場に視線を向ける。既に試合場にはトロールが兵士達に連れ出されており、それに向かい合うナイの姿を確認して二人は違和感を感じ取った。
「おう、お前さんも来ておったのか」
「あん?爺さんも来てたのか」
黄金級冒険者であるハマーンとガオウは闘技場の受付口で顔を合わせ、二人が集まった途端に他の人間は騒ぎ出す。なにしろどちらも黄金級冒険者であり、一般人の間でも知名度は高い。
「お、おい……あれ、武闘派鍛冶師のハマーンじゃないか!?」
「もう片方の男は……獣剣士のガオウじゃないか!?どうしてこんな所に……」
「ま、まさか試合に出るのか!?」
他の人間が騒ぎ出した事にハマーンとガオウは気づき、二人は面倒くさそうな表情を浮かべながらも話し合う。
「ここでは目立ってしまうのう、仕方あるまい……どうじゃ、貴賓席で少し話さんか?」
「別にいいよ、爺さんにまた仕事の話を頼みたいと思ってたから。という事で……貴賓席まで案内してくれる?」
「は、はい!!只今係の者をお呼びします!!」
黄金級冒険者の証である黄金製の冒険者バッジを二人が受付に提出すると、すぐに受付の男性は二人を丁重に貴賓席まで案内する様に兵士に指示を出す。
基本的には貴賓席は一般客の使用は禁じられているが、黄金級冒険者となると貴族と同等かそれ以上の扱いを受ける。黄金級冒険者は国にとっても重要で存在であるため、冒険者の中でも優遇されていた。
「お主はここへ来たのは理由はなんじゃ?」
「別にただの暇つぶしだよ。試合で面白い奴が現れたと噂を耳にしてね……そういう爺さんはどうなんだ?」
「儂か?儂はここで店をやっとるからのう、冒険者の仕事がない時はよくここへ来るんじゃ」
「ああそういえば、爺さんは鍛冶師でもあったな……」
「何を惚けた事を言っておる。儂にとって冒険者稼業などただの副業じゃ、そもそもお主の武器も誰が作ってやったと思っておる」
「分かってるって……ただの冗談だよ」
ハマーンは優秀な鍛冶師であり、彼の本業は冒険者ではなく鍛冶師であることをはっきりと告げる。仮にも黄金級冒険者は国から優遇される立場であるにも関わらず、鍛冶師の方を本業と告げる彼にガオウは苦笑いを浮かべた。
「けど爺さん、冒険者が副業なんてあんまり大きな声で言ったらまずいんじゃないのか?」
「ふん、生憎と儂はお主等と違って冒険者になったのは素材集めのためじゃ。黄金級冒険者になれれば禁止区域にも立ち入る事が許可されると聞いたから冒険者になったに過ぎん。それに今は儂自身が危険を冒さんでも契約した客が素材を集めてくるからのう……何時でも辞めて構わんわ」
「はあっ……まあ、爺さんが辞めようと辞めまいと俺には関係ないけどな」
ガオウはハマーンの話を聞いて呆れた表情を浮かべ、普通の冒険者ならば誰もが黄金級冒険者になる事を夢見る。しかし、ハマーンの場合は自分の都合のために黄金級冒険者を目指しただけに過ぎず、その目的を果たせた今となっては彼は黄金級冒険者に留まる事に決して固執しない。
ハマーンが黄金級冒険者になった理由、それは彼が鍛冶師として最高の仕事をするには最高の素材を集める必要があり、そのためには黄金級冒険者が都合が良かった。黄金級冒険者ならば国から優遇されるため、立ち入りが禁止されている区域にも立ち寄る事が許される場合もある。
この国には立ち入りが禁止されている地域が存在し、その地域には一般では出回らない希少な素材が手に入る。それを知ったハマーンは長い時を費やして自分自身が黄金級冒険者となり、彼は素材を集めてきた。
最近ではハマーンと専属契約を交わした冒険者達が、彼の欲する素材を自分達で回収してくれているようになったので、実質的にハマーンは冒険者稼業を休止している。先日のギルドマスターの呼び出しの時は仕方なくギルドマスターの顔を立てて参加しただけに過ぎない。
「お主の方も例の仕事はどうなったのだ?ギルドマスターはお主にアルト王子の護衛を任せるつもりじゃろう」
「よく言うよ、爺さんが裏で俺に仕事を押し付けたんだろ。ギルドマスターとは古い付き合いだからって面倒事を押し付けて……」
「面倒事とはなんじゃ、王子の護衛など滅多に経験できぬぞ。それに儂とてアルト王子とは……」
「あ、あの……御二人とも、到着いたしました。どうぞ、ごゆっくりお楽しみください」
二人の会話の際中に兵士が口を挟み、いつの間にか二人とも貴賓席の前の扉に立っていた。二人は会話を切り上げて貴賓席の扉を抜けると、既に試合は開始されそうになっていた。
「ほう、どうやら試合は始まりそうじゃな」
「さて、噂が本当かどうか……確かめさせて貰おうか」
ハマーンとガオウは目つきを鋭くさせ、試合場に視線を向ける。既に試合場にはトロールが兵士達に連れ出されており、それに向かい合うナイの姿を確認して二人は違和感を感じ取った。
10
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる