伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ

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エルフの師弟

第30話 奥の手

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「グゥウッ!!」
「うえっ!?ま、まだ生きてるんすか!?」
「くそっ!?」
「グルルルッ!!」


ミノタウロスが起き上がるとナイ達は再び戦闘態勢に入ったが、矢を噛み砕きながらミノタウロスはエリナに視線を向け、口元をすぼめると「鏃」を口元から噴き出す。


「ブフゥウウッ!!」
「きゃあっ!?」
「エリナ!?」
「ウォンッ!?」


魔人族のミノタウロスの肺活量は人間とは比べ物にならず、口元から吐き出された鏃はナイの石弾のように吹き飛び、エリナが手にしていた弓を破壊した。彼女は武器を壊された際に体勢を崩し、木の上から落ちてしまう。


「わああっ!?」
「危ない!?ビャク!!」
「ウォンッ!!」


エリナが地面に衝突する前にナイはビャクに声をかけると、即座にビャクが駆けつけてエリナを受け止める。柔らかな毛皮で包まれたお陰で落下の衝撃が吸収され、エリナは怪我をせずに済んだ。。


「た、助かった……ありがとうございます」
「ウォンッ!!」
「良かった……あれ?急に暗くなった?」


ビャクがエリナを無事に受け止めたのを見てナイは安堵したが、急に大きな影に飲み込まれる。恐る恐る振り返ると、そこには背後まで迫ったミノタウロスの姿があった。


「ブモォオオッ!!」
「うわぁっ!?」
「あ、危ない!?」
「ウォンッ!?」


エリナとビャクに気を取られ過ぎたせいでナイはミノタウロスの接近に気付かず、既にミノタウロスは右腕を振りかざしていた。それを見たナイは反射的に右手を構えると、掌に黒渦を出現させた状態でミノタウロスが振り翳した拳に合わせる。

ミノタウロスが拳を繰り出した瞬間、ナイは掌の黒渦から大きめの石を出現させて撃ちこむ。至近距離からお互いの右手が交錯し、石が砕け散る音が鳴り響く。


「ブモォッ!?」
「くぅっ!?」


反射的に黒渦から出現させた石を盾代わりに利用した事でミノタウロスの攻撃を防ぐ事はできたが、ナイは尻餅を着いてしまう。それを見たエリナは助けようとしたが、彼女の弓は壊れたので援護はできない。

ビャクは主人を助けるために駆け出すと、ミノタウロスは今度は左手でナイに殴りかかろうとした。それに対してナイは右手に黒渦を形成したままの掌を構える。


(間に合わないかっ!?)


ミノタウロスの方が一瞬早く左拳を繰り出し、ナイが異空間から石を弾き飛ばす前に掌にミノタウロスの拳が届いた。だが、どういうわけか掌に触れる寸前に


「ブモォッ!?」
「えっ!?」
「ウォンッ!?」
「はわっ!?」


拳が見当違いの方向に逸れてしまったせいでミノタウロスは体勢を崩し、大きな隙が生まれた。理由は分からないが反撃の好機であり、ナイは奥の手を繰り出す。


(ここだ!!あれを試すなら今しかない!!)


ミノタウロスが体勢を崩した隙を逃さず、右手に作り出した黒渦の回転力を高める。石弾を生み出すのと同じ要領でを加えた黒渦から石を発射させた。


「石砲!!」
「ブフゥウウッ!?」


ミノタウロスの脇腹に石弾よりも大きい石が叩き込まれ、あまりの衝撃にミノタウロスは白目を剥く。ナイが繰り出した攻撃は「石弾」と原理は同じであり、黒渦を高速回転させる事で「石礫」を射出させる際に攻撃速度の上昇と回転を上乗せさせる技だった。

石弾と石砲は原理は同じだが、黒渦の規模が大きいほどに操作は難しく、回転力を高めるのに時間が掛かり過ぎてしまう。だから今までは実戦で扱う機会はなかったが、威力に関しては申し分ない。


(頼む!!もう倒れろ!!)


石砲を撃ちこんだ事でナイの黒渦は消えてしまい、次の攻撃に取り掛かるまで時間が掛かる。ミノタウロスは脇腹に強烈な衝撃を受けて倒れそうになるが、目を見開いて体勢を立て直す。


「ブモォオオオッ!!」
「うわっ!?」
「ナ、ナイさん!?」


倒れる寸前で勝機を取り戻したミノタウロスはナイの左手を掴むと、力ずくで持ち上げた。ミノタウロスの怪力で持ち上げられたナイは抵抗する術がなく、左腕が圧迫されて悲鳴を上げる。


「がああっ!?」
「ブモォッ!!」


ナイの左腕を掴んで持ち上げたミノタウロスは彼を地面に叩きつけようとしたが、エリナの元を離れたビャクがミノタウロスの腕に喰らいつく。


「アガァッ!!」
「ブモォオオッ!?」
「ビャ、ビャク!?」


ビャクがミノタウロスの腕に噛みついたお陰で力が緩まり、痛みが弱まって冷静さを取り戻したナイは右手をミノタウロスの顔面に向ける。皮肉にもミノタウロスが持ち上げたお陰で至近距離からミノタウロスの頭を狙う事ができた。

ミノタウロスは顔面にナイの右手を向けられ、指先に黒渦が生じた。それを見たミノタウロスは目を見開き、が加えられた黒渦から小石の弾丸が発射された。


「くたばれっ!!」
「ッ――――!?」


声にもならない悲鳴が山中に響き渡り、額に石弾を撃ち込まれたミノタウロスはナイの左腕を離すと、地面に倒れ込んで身体を痙攣させる。


「うわっ!?」
「キャインッ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」


ミノタウロスが倒れた際にナイとビャクも地面に転がり、そんな二人の元にエリナが駆けつけた。彼女に対してナイとビャクは地面に寝転がったまま笑顔を浮かべた。


「しょ、勝負は……引き分けでいいよね」
「えっ!?」
「三人で倒したんだから、三人の手柄でしょ?」
「ウォンッ!!」


今回の狩猟勝負は相手よりも大物を仕留めた方の勝利という条件だが、ミノタウロス以上の存在がこの山に生息するはずがなく、三人の力を合わせて倒した以上は勝負の引き分けをナイは提案する。

最終的に止めを刺したのはナイだが、その前にエリナが助けてくれなければナイは死んでいた。ビャクもミノタウロスの腕を噛みつかなければ最後の反撃もできなかった。この三人でなければミノタウロスに勝つことはできなかったとナイは思う。


「い、いいんですか?あたしは大して役に立ってないのに……」
「そんな事ないよ。もしもエリナがミノタウロスの注意を引いてくれなかったら俺達は死んでたし……ねえ、ビャク?」
「クゥ~ンッ」


ビャクも文句はないのかエリナに尻尾を振る。彼女はナイの気遣いに感動し、彼女はある決意をした。


「分かりました!!それじゃあ、ナイさんの事をこれからは兄貴と呼ばせてもらいます!!」
「あ、兄貴!?俺が?」
「はい!!ナイの兄貴の方が年下かもしれませんけど、こんなあたしに情けをかけてくれた御人を尊敬せずにいられません!!これからは兄貴と呼ばせてもらいます!!あたしの事はエリナと呼び捨てにしてください!!」
「そ、そう……何かよく分からないけど、そうさせてもらうよ」
「クゥ~ンッ?」


エリナの手を借りてナイは立ち上がると、改めて自分が倒したミノタウロスに視線を向ける。額には石弾がめり込んだままであり、完全に死んだわけではないらしく、白目を剥いた状態で気絶していた。

今ならば止めを刺す好機だが、ナイはビャクに振り返る。彼が望むのであればミノタウロスを始末する事を伝える。


「ビャク、どうする?お前が止めを刺すか?」」
「ウォンッ……」


ナイの問いかけにビャクはミノタウロスを見下ろし、今の内ならばビャクでも止めを刺す事もできる。しかし、ビャクは止めを刺さずにミノタウロスが羽織っていた毛皮だけを剥ぎ取る。


「ウォンッ!!」
「そうか……家族の形見を取り返せればいいのか」
「あれ?止めを刺さないんすか?」
「……とりあえずは合図を送ろうか」


ミノタウロスを始末するかどうかは後で判断する事を決め、ナイとエリナはマリアから受け取った道具で合図を送る――
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