上 下
132 / 657
帝都防衛編

岩人形の弱点

しおりを挟む
「しかし、よりにもよって岩人形の大群とは……乾期でなければそれほど脅威な存在ではないのだが」
「え?そうなんですか?」
「岩人形の弱点は水です。雨でも降れば勝手に自滅しますよ」
「そうなの?」


岩人形という存在を知らないルノとしてはリーリスの答えに驚き、この際に岩人形の詳しい生態を尋ねる(事前にある程度の情報は聞いているが)。


「岩人形に水を浴びせればそんなに簡単に倒せるの?」
「そうですね。大量の水を浴びせれば岩人形の肉体は崩壊します。内部に存在する核は無事ですが、肉体の再生には時間が掛かります」
「どんな岩人形も?」
「ええ、何故か煉瓦や岩石で構成された個体でも水を浴びると身体が崩れてしまうんです。しかも魔法の水以外にも効果はあります」
「うむ。そのお陰で奴等は水場を避けて通る」
「へえっ……」


水が弱点と聞いたルノは先日の日の国で編み出した魔法を思い出し、戦闘の際には天空に巨大な氷塊を作り上げ、岩人形の大群に浴びせようかと考えたが、1万を超える岩人形の大群を飲み干す程の水量を生み出すとなると肉体の負担も大きいだろう。


「そういえばリーリスよ、お主の開発した道具の中に水を扱う物はなかったか?ほら、お主が四天王に就任した際にデキンの奴に水を浴びせた事があっただろう?」
「ああ、はいはい。水大砲の事ですね?洒落で作った奴をデキン大臣が新兵器と勘違いして暴発させた奴ですね。あの時は本当に大変でしたね~」
「うむ。あの筒のような物から水の塊が飛び出して訓練場を水浸しにした兵器か」
「そんなの作ってたんだ」
「作ったというか、悪戯心で計画書を書いていたら勝手に技術班の作り上げちゃったんですよ。威力の調整に失敗して只の水をまき散らす大砲になっちゃいましたけど」


ルノが召喚される前、リーリスが四天王に就任したばかりの頃、彼女が冗談で書いていた計画書を新兵器と勘違いされて作り出した魔道具が存在した。その名前は「水大砲」という水属性の魔石を利用して放水を行えるという魔道具らしく、威力に難点があったために現在は使用禁止されて武器庫の奥底に保管されているらしい。


「あの魔道具を量産し、防壁に配備すれば岩人形に対抗できるのではないか?」
「そうですね。二週間もあればそれなりの数も作り出せるとは思いますけど、あれはコストかかりますよ?特に水属性の魔石を大量に必要としますから」
「ふむ……水属性の魔石はそれなりに高価だからのう。今から用意しても間に合うかどうか」
「冒険者の中からも水属性の魔法を扱える魔術師だけは無条件で呼び寄せるのはどうでしょうか?そうすれば防壁の上から水属性の砲撃魔法を打ち込めますし、有利に動くかと……」
「よし、やれる事は全てやるしかない……水属性を扱える魔術師の職業の冒険者だけはランクに関係なく呼び寄せてくれ。それと城の倉庫から回復薬と魔力回復薬などの薬品も点検も頼むぞ」
「はい!!」
「はいはい」


バルトスの言葉にアイラとリーリスが会議室を退出し、一先ずは最低限の準備を整えた。このまま籠城を行い、岩人形が帝都まで到着するまで動かず、防壁で彼等を迎え撃つ。しかし、それだけで本当に危機を乗り越えられるのか疑問を抱き、ルノは質問を行う。


「岩人形に他に弱点はないんですか?」
「特にないのう……生物と違い、岩人形は基本的に餌を求めない。だから奴等は自分の縄張りを犯す存在にしか本来は襲わないはずなのだが、今回のように大群を率いて人間が住む地域に攻め込むなど歴史上でも初めての出来事だろう」
「それに儂等も岩人形の存在を知っていても、実際に戦うのは初めての者が多い。知識として知っていても実際の相手はどれほどの脅威なのかは戦闘が始まるまでは分からん」
「ああっ……今が乾期でなければ雨さえ降れば自滅してくれるというのに」
「雨か……」


どれほどの大群だろうと雨が降り注げば岩人形は肉体を崩壊して自滅する事は間違いはない。しかし、帝国領地は現在は乾季を迎えているため、岩人形が到達する前に雨が降り注ぐことは期待できない。


「あの……さっきの話に戻るんですけど、そんなに水属性の魔石は高いんですか?」
「む?まあ、高いと言えば高いな。火属性は比較的に安く入手できるが、水属性の場合は手に入る場所が海底や湖の底だからな……人魚族の力を借りねば入手は困難じゃ」
「人魚族?」
「この帝都には滅多に訪れないが、水中で暮らす魔人族の事だ。最も魔人族と言っても彼等は人間に友好的で海や湖に住んでいる事から陸地に興味は持たない。だから人魚族は他の種族と争う事はない」
「なるほど」


人魚という言葉にルノは興味を抱き、一目見てみたいと思うが、今は岩人形の対応策を考える事が先決であり、気を取り直して別の方法を考える。
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。