不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
201 / 2,090
剣鬼 闘技祭準備編

鬼か人か その1

しおりを挟む
「馬鹿なっ……どうなってやがる!!」
「分かりません!!ですが、今ならば!!」


傷口を矢で撃たれたにも関わらず、ジンは起き上がり、首に刺さった矢を引き抜く。その直後、傷口が回復魔法を施されたように光り輝き、時間を巻き戻すように修復される。その光景にシュンとジャンヌは激しく動揺するが、鬼人化の効果が完全に切れたのかジンの皮膚は元の色へと戻っていた。


「ふうっ……ふうっ……」
「何だ?……疲れたのか?」


ジンは自分の首元を抑え込み、両手を見つめながら息を荒げる。鬼人化が解除されたと言ってもこれまでの戦闘の疲労が消えるわけではなく、その場に跪く。


「ううっ……」
「弱ってる……のでしょうか?」
「だとしたら捕まえるのは楽だがな」


様子がおかしいジンにジャンヌは警戒心を抱くが、シュンの場合はジンよりも彼に矢を仕掛けた謎の人物の事が気にかかり、先ほどまで少年が立っていた場所に視線を向ける。どのような手段を利用したのかは不明だが、一瞬にして姿を消した相手にシュンは疑問を抱き、試しに剣先を構える。


「まさかな……だが」
「シュンさん?」
「ちょっと待ってろ。こういうのは苦手なんだがな……聖霊よ!!」


少年が存在した場所に向けてシュンは風の精霊を呼び出し、少年が立っていた場所に向かわせる。普通の人間であるジャンヌの目には何も見えないが、森人族であるシュンの目には自分が繰り出した精霊の姿は捉えており、精霊が少年の立っていた場所に到達しようとした瞬間、その場に停止した。


「そういう事か……おらっ!!」
「っ……!?」


精霊が立ち止まったことを確認するとシュンは剣を振り翳し、風の斬撃を繰り出す。その直後、まるでカメレオンのように背景と一体化していた少年が出現し、シュンの攻撃を回避する。それを確認したシュンは笑みを浮かべ、精霊を利用して少年がその場に残っていた事を見抜く。


「はっ!!面白い能力を使えるんだな!!女風呂でも覗くために覚えたのか?」
「……火属性エンチャント
「何っ!?」


姿を現した少年に対してシュンは鼻で笑うが、相手はマントの隙間から弓矢を構え、鏃の部分に掌を向けると発火させる。その光景を確認したシュンは目を見開き、少年の使用した魔法の正体を見抜く。


「付与魔法……付与魔術師か!!」
「ふっ!!」
「危ない!?」


火属性の魔力によって発火した矢が放たれ、それを目撃したシュンは剣を構えて矢を弾こうとしたが、少年の狙いは自分では無い事に気付き、撃ち抜かれた矢はジンの背中に衝突した。


「ぐああっ!?」
「なっ……!?」
「任務完了……」
「あっ……ま、待ちなさい!!」


ジンの背中に矢を射抜いた事を確認した少年は走り出し、そのまま路地裏に移動する。慌ててジャンヌが後を追いかけようとしたが、直後に矢を受けたジンの咆哮が街道に響き渡る。


「うぎぃいいいいっ!!」
「なっ!?こいつまだ……」
「があああああっ!!」


背中の痛みによって精神が再び追い込まれたのか、ジンの肉体が赤色に変色し、大量の血液を失ったにも関わらずに「鬼人化」を発動させる。その様子を確認したシュンは苛立ちながらも少年の追跡を諦め、ジンと向かい合う。


「仕方ねえ……ジャンヌ!!お前も手を貸せ!!回復薬で傷は治っただろ?」
「は、はい!!ですが、ロウガ様とガロ君は……」
「ほっとけ!!死にはしないだろ!!」


シュンはジャンヌと共にジンを仕留めるために武器を構えると、ジンも背中に突き刺さった「火矢」を抜き取り、地面に放り捨てて何度も踏みつける。


「があっ!!ああっ!!」


足の裏が焼ける事も構わずにジンは何度も火矢を踏みつけ、その度に地面に亀裂が走り、振動が伝わる。先ほどよりは身体能力は低下したようだが、それでも十分な脅威を誇り、ジンは二人に振り返る。


「ぐううっ……!!」
「ち、切れてやがる……攻撃したのはあのガキなのによ」
「どうしますか?」
「どうするも何も、やれる事は全部やるしかねえだろ」


先程のような相手の攻撃を利用して急所を切り裂く攻撃は何度も通じず、ジンも警戒するように首元を覆い隠すように両腕を合わせて身構える。その姿はプロボクサーの「ピーカブースタイル」と酷似しており、正面からの攻撃に備えていた。


「ジャンヌ、お前の旋風剣であいつを仕留められるのか?」
「その呼び方は辞めてください……最大速度まで回転すればあるいは」
「回転する度に威力が上がる剣技だったな。しょうがねえ、俺が時間を稼いでやる。その間にお前は……」
「……うがぁっ!!」
「うおっ!?」


悠長に話す暇も与えず、ジンは上半身を防御しながら突っ込む。どういう事なのか先ほどよりも速度が上昇しており、シュンに向けて拳を突き出す。
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。