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高校生編side蓮 

27.光明

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「れーんっ♪やっと見つけたぁ♡」

人工的なのがバレバレの高い声と共に絡みついて来た腕に天を仰ぐ。

ウッゼェ…

「もぉ、蓮がまたどっか行かないように捕まえてたのにぃ!次の見回りうちらだから早く行こ!」

腕を取り返した俺に不満そうな顔をしながらも相川が促して来る。

クソ、邪魔しやがって。

じゃねぇかーー。





体育祭から2ヶ月が経った今日は、うちの学校の名物である文化祭だ。

これを1つの理由に入学希望者が絶えないほど人気があるイベント。

そんな中、俺たち特進の1年は「リゾートスペース」として屋内プールを休憩場として提供する事にした。

高校生にとっては高い値段設定も、疲れた富裕層(卒業生やら親)にはその価値がある筈。


特進俺達は人数が少ない為(現在27名にまで減っている)省エネかつ売上が見込めるこの案を出すと直ぐに採用された。



他のクラスはそれぞれ気合いが入っていて、晴のクラスはスタンプラリーと鬼ごっこの融合みたいなゲーム。

どうやらかなり高評で、予想より参加者が多いらしい。

ま、当たり前だけどな。

穴だらけで失敗確実だった企画をブラッシュアップしてやったのは何を隠そうこの俺なんだから。

中野に手を貸すのは癪に触るが、全ては晴がチャイナドレスで野郎共と写真撮影する危機を回避するため。

てか、晴の奴ここぞと言う時にジャンケン負けるの何でなんだよ。

今日の朝送られて来た中野からの動画を見て、その弱さを喜びべきか悲しむべきかマジで分からなくなった。

似合い過ぎだろーー。

青い光沢のある布地が白い肌を引き立て、タイトな
シルエットによりほっそりした肩と腰が際立つ。

何より、太腿まで深く入ったスリットが…。


いやいや、コレはどう考えてもNGだ。

その動画中でさえ、ふざけた晴が一回転すると野太い声でどよめきが起きていた。

これがもっと多くの野郎の視線に晒されるのかと思うと、全員殴りつけたくなる。

『契約守れよ。』

動画をスマホと俺の脳内に保存しつつ、中野に釘を刺した。

協力の条件は『晴を絶対に目立たせない事』だ。

まぁアイツの弱味は握ってるから大丈夫だろう。

『蓮君、弟が生意気だったら私に言ってね!
アンタが複数の親父達に凌辱される薄い本出すわよって言えば何でも言う事聞くから!』

どうやら、なかなかぶっ飛んだ姉を持ってるらしいからなーー。



そうして始まった文化祭、クラスの仕事がほぼ無いに等しい俺は何をしていたかと言うと…。

『今撮ったよな?消せ。』

他校らしき2人組の野郎に言うと、ソイツらは震えながら従った。

写真フォルダを確認してから、次の奴の元へ向かう。

クソ、撮られたすぎだろ警戒心持てよ。

舌打ちしながらも距離を取って姿

『隠れる役』として人気の無い所を移動する晴は、それでも結構な人数に写真を撮られたていた。

俺はその一人一人の写真を消させて回っている訳だ。

ストーカーだとでもキモイだとでも好きなだけ言えばいい。

遥との電話の後、俺はある意味吹っ切れていた。

例え報われなくても、俺は俺の方法で晴を守る。


そして、もしまた話しができるならその時はーー。

思った事は素直に言葉にして伝えたい。

今までの自分の言動を省みて、俺は言葉が足りなかったんじゃないかと反省した。

『晴だから分かってくれるだろう』と言う甘えもあったかもしれない。

だから、今度は間違えないようにーー。



そう思っていた矢先に遭遇したのが相川だった。

クラスの仕事で唯一ダルいのは、学校側からの条件として提示された見回りと掃除だ。

俺とクロが午前中欠席したあの日、どうやらそれの役割を決めていたらしく、知らないうちにペアが相川になっていた。

仕方ない、晴も後2、3分で交代の時間だし流石に大丈夫だろう。

それでも見失ったその姿を目で探しつつ、妙に機嫌のいい相川と共に仕方なくプールの方へと向かった。



「ねぇ蓮、滑りそうだから捕まっていい?」

それをスルーして、相川を置いてプールサイドに足を踏み入れた時だった。

目に入ったのは、向かい合う男女。


女に腕を引き寄せられた男がーーがフワリと宙を待った。


「晴っ!!!!!」

叫んで飛び出した。

心臓が嫌な音を立てる。

落ち着け、足は着く深さの筈だーー!

その予想通り、直ぐに波立つ水面に晴が現れた。

「チャイナ、マジ重い…!!」

またプールに落ちそうなその腕に手を伸ばして引っ張り上げる。

そのまま抱き込むようにして立たせると、晴が息を呑む気配がした。

「お前、何考えてんの?」

明らかに故意によるその行動に、俺の声は怒りを通り越して冷え切っていた。

敵意が込もっているかもしれない相手の目を晴に見せたくなくて、後ろ向きに抱き締める。

しかし、対峙する女は涙目でひたすら謝ってきた。

…コイツの意思じゃないのか?

取り敢えず顔と背格好をしっかり記憶に焼き付けた。

こうしておけば万が一逃げられても探し出せる。

コネを使ってデータベースから探せば、個人情報を手に入れるなんて簡単だ。

ただ、心配する言葉と全て話すと言う約束に嘘は無さそうで少し警戒を解いた。

それよりも今は、これ以上晴を冷やさない事だ。

「晴、大丈夫か?」

俺が濡れるからと離れて行こうとするのを、ギュッと引き寄せる。

あくまでも距離を取ろうとすその身体を横抱きにすると、晴が固まった。

頼むから、今くらい心配させて欲しい。

驚きに見開いた目が俺を映して、こんな時だと言うのに喜びが沸く。


「蓮から離れなさいよ!!」

それを切り裂くように乱入して来たのは相川だった。

あろう事か晴に触れようとするその手を払い除ける。

ヒステリックに喚く相川を宥めようとするもう一人の女を見て確信した。

グルか…命令されたかのどっちかだな。

揉めてるうちに相川がプールに落ちたのを見て、これ以上余計な事はして来ないだろうと判断する。

そのまま背を向けようとした俺を、晴が引っ張った。

「オ、オイ!俺はいいからあっち助けに行けよ!
その…相川さんと付き合うんだろ?」

は…????

怒りを押し殺して確認すると、晴の視線で相川が何か吹き込んだと察する。

ふざけんな、俺が好きなのは今この腕の中にいる存在だけなんだよ。

「お前になんか1ミリも興味ねーよ。
二度と晴に近寄んじゃねぇ。」

縋って来る相川にそう言い捨てて、晴を抱いて更衣室に向かった。

後はお前らで勝手にやってろ。



「晴、寒いか?」

イスに晴を降ろして聞くと、晴は首を横に振った。

「な、なぁ。本当に相川さんほっといていいの?」

どうやらそこがかなり引っかかっているらしい。

それがどう言う感情によるものなのかーーそれは分からない。

だけど、俺の中で確かな事は一つだ。

「どーでもいい。
俺が心配すんのはお前だけ。」

心からの言葉に、自然と口許に笑みが浮かんだ。

すると、晴が弾かれたように俯く。

「晴?」

名前を呼んで、に気付いて息を飲んだ。

表情よりも雄弁に語る、真っ赤になった耳。

どう言う事だーーもしかして、嬉しいと思ってくれてるのか?

確かめるようにその耳を撫でると、「ひゃっ!」と声を上げてその顔が露わになる。

首元まで色付いた白い肌が綺麗で、その上気した頬を指の背でスリッと撫でた。

ッつ。」

照れなのか羞恥なのか、真っ赤なそれが可愛くて笑みが溢れる。

頬に手を添えて、晴が嫌がれば顔を背けられる力で固定した。

逃げられるようにゆっくりと顔を近付けても、動く気配は無い。

ーーバカ、このままキスしていいのかよ。

俺が何をしようとしてるか流石に察知してる筈だ。

それでも逃げない晴に、俺の我慢は限界だった。

少なくとも、嫌がってはいない。

ゆっくりと軽く触れ合わせただけのそれに、心臓がギュッとなって鼓動が暴れる。

唇を離して晴の表情を確認すると、上気した頬のまま俺を見つめている。


これ、夢かーー?


余りにも信じられなくて、夢じゃないと確かめたくてもう一度唇を落とそうとした時ーー。

晴が

それは明らかに気持ちの表れでーー。

むしゃぶりつきたい欲望を懸命に抑えながら、優しく触れ合わせる。

冷えた唇に熱を与えるように。

この思いが少しでも伝わるように。

止められなくて何度も繰り返して、これ以上は理性がヤバイと無理矢理自分の身体を引き剥がした。

少しトロンとした晴の瞳が真っ直ぐ俺だけに向いている事が、堪らなく嬉しい。

華奢なその身体をギュッと抱きしめると、安心しきったかのように身体を預けて来る。

その重みが愛しくてもっと触れたくて仕方がない。

だけど、怖がらせたくない。

今は晴に風邪を引かせない事が最優先だと、邪念を懸命に抑えつけた。

どうにか呼び覚ました理性で中野に電話をかける。

サラサラした晴の髪が心地良くて指で梳くのをやめられないが…まぁ、これくらいは許容範囲だろう。


直ぐ電話に出た中野が晴に代われと煩くて、渋々スピーカーにする。

「晴。」

呼びかけると、眠いのか腕の中からぼんやりと俺を見上げて来る。

「…ん…なぁに?」

「いや…それはマジ勘弁…。」

上目遣いからのポヤポヤした言い方の破壊力たるや…。

何とか耐えながら、晴を持ち上げて横抱きにすると俺の膝の上に座らせた。

これなら両手で支えないといけないから、変に手を出さずに済む。

…筈だ、多分。

「濡れちゃうよ?」

やめろ、必死にで目を合わせないようにしてるのに聴覚から攻めて来るのは。

ギュッとその体を抱き締めて、深呼吸する。


中野、早く来い

いや、一生来んな


秒速で左右し続ける感情の波に翻弄されて、思わず天を仰いだ。


●●●
side晴人高校生返事21~31話当たりの話です。
36話(side啓太)にも関連してます。


























やっとイチャイチャさせられる…!!
蓮お待たせ!ここから暫くはハッピーターン(あれ?既視感。)だ!

それにしても相川、思った以上に相手にされてなくて笑う。




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