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高校生編side蓮
26.黎明
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「マジで…一生分走った…!!」
息も絶え絶えに公園のベンチに突っ伏す黒崎の横に、俺もグッタリと身を預ける。
ここが何処なのかすらもう分からないが、とにかくクラブからは相当距離が離れただろう。
「いや…お前何やってんだよ…。」
学校にバレたら退学だって有り得るし、仮に免れたとしても確実に奨学生ではいられない。
家庭の事情から、学年上位を守る事を条件に学費が免除されている黒崎にとって、それは最終学歴が高校中退となるのに等しい。
「なにやってんだは俺の台詞だからな!バカじゃないのかお前!」
いつも飄々としているコイツがこんなに感情的になるのは珍しい。
「お前は人より目立つって自覚しろよ!警察沙汰になったらいくら身内でも退学だろ!」
「いや、何でお前が必死なんだよ…。」
高校に行く意味を見出せなくなった今、退学ならそれで構わない。
それよりも、黒崎が危険を犯してまでここに来た事が不思議だった。
「当たり前だろ!俺は友達が警察沙汰になるのも退学になるのも絶対にごめんだからな!」
睨んで来るその目は真剣だ。
「だから、蓮がこういう事するなら俺は何度だって止めに行く!お前、俺を退学にさせんなよ!
俺はいい大学行って金稼げる仕事に就いて、施設にいる弟引き取るんだからな!」
思わぬ言葉と理由にまじまじとその顔を見ると、今度は力無く眉が下がった。
「…俺の親がクソなのは知ってるだろ?弟とは半分しか血は繋がってないけど…俺みたいな生活はさせたくない。」
「…弟、何歳?」
「小1。育児放棄されて施設に入ってんだけど、引き取るには成人してるのと、安定した収入がないとダメらしい。」
家庭の事情が複雑なのは聞いてたが、これは初耳だった。
「なおさら俺に関わってる場合じゃねぇだろ。」
深夜に未成年の2人でいる今だって補導の対象だ。
「分かってるよ!でも放っておけない!蓮はどうか知らないけど、俺は蓮の事友達だと思ってるから!『人より能力が優れてる』ってだけで人生勝ち組とか言われて…。
俺はこんな能力いらないから、普通の家に生まれたかった。
そう言うやり切れない気持ち分かり合えるの、蓮が初めてだった…。」
最後は呟くような声になって、そのまま俯く。
俺は黒崎を『理解者』だと思うようになっていたが、どうやら同じ…いや、黒崎にとってはそれ以上に大きなものらしい。
誰一人として理解されず成長してきたその生き辛さは十分に想像できる。
俺だって、晴がいなければきっとそうだったからーー。
黒崎が人との繋がりを拒絶せずにここまで来たのは奇跡だと思う。
元々の性質によるのか、弟と言う心の支えがあったからかは分からないが、俺なんかよりずっと強くて健全だ。
本当は分かってる。
晴がいなければ生きる目的も進む方向も分からなくて、その恐怖から逃れる為に自棄になってる事も。
そんな俺を黒崎が本気で心配している事も。
「蓮、頼むから自分を壊そうとするのはやめてくれ。お前はもっと、周りから大切に思われてる事を自覚しろ!」
怒ったような言い方は、それでもこの公園に着いてすぐの頃とは違った。
「…悪かった。」
自分の事しか考えていなかったガキっぽさに呆れる。
翔が『周りの人間に関心を持て』と言っていた意味が、やっと分かったきがする。
「クロ、ありがとな。お前の事は俺もまぁ、友達だと思ってる。」
自然と出た言葉に、黒崎が目を丸くしてから笑った。
「素直じゃないなぁ。まぁ、蓮らしいけど!
そろそろ始発出るから帰ろーぜ!」
連れ立って歩く駅までの道、向かう方角の空にはいつの間にか朝陽が姿を現していた。
ヴーッ ヴーッ ヴーッ ヴーッ
ヴーッ ヴーッ ヴーッ ヴーッ
ヴーッ ヴーッ
~~っるせぇな!
エンドレスで鳴り続けるスマホに辟易してベッドから手を伸ばす。
始発電車に揺られて着いた俺の家。
『暖炉ある家なんか初めて見たんだけど…え、待ってこの絵って有名なやつじゃ…はぁ!?原画!?
え、このサイン入りユニフォームってあの二刀流選手のやつ!?父親の知り合い…だと…?てかそもそも家広すぎない!?』
騒ぐクロをゲストルームに押し込んで、俺は自室でそれぞれ仮眠を取る事にした。
枕元のデジタル時計は12時過ぎ、鬼電の主はおそらく赤嶺か白田だろう。
午後からでも学校行くか…?
まぁ取り敢えずクロを起こしてからだな。
「うーぃ。」
『……よ……この………』
画面も見ずに寝起き丸出しの声で応じた通話は、電波が悪いのかほとんど聞き取れない。
「あー?何も聞こえねぇよ。今起きたから後でかけ直…」「は?そっち昼休みでしょ?」
………。
その声とそっちと言うワードに、寝惚けた脳細胞が一気に覚醒した。
そして思い至るのは、全く守っていない約束。
「待て、話せば分か…」
「こんの!!!バカ!!!!!!」
鼓膜が破れるかの如く響いた声は、久しぶりに聞くもう一人の幼馴染のものだった。
「週一で連絡するって約束したわよね?頻度が減ってるのは大目に見てたけど、夏以来一切連絡なかったんですけど?それで?こっちから連絡してもスルーなのは一体どうしてなのかしら?」
マシンガンで詰めてくる遥の猛攻には割り込む隙が無い。
ってか疑問系にしてはいるけど、答えさせる気ねぇだろこれ。
「時差考えて学校の昼休み狙って連絡してあげたのに『今起きた』って何?アンタ学校は?拓哉さん達は知ってる訳?」
特進が授業に自由参加なのは知ってる筈だが、それにかまけて自堕落な生活をしているのが気に食わないらしい。
「おい、落ち着けよ遥。」
「アンタのせいでこうなってんのよ!!!
はぁ、でも本題から逸れてるのは確かだわ。」
そして一息つくと、今度は落ち着いた声音で言う。
「で?晴と何があったの?」
確信を持った言い方にギクリとする。
「は?別に何もねぇけど。」
「そう言うのいいから。夏以降晴からもメール返って来ないし…晴ぅ、お姉ちゃん寂しくて泣きそう…翔君が心配してわたしに連絡して来たんだからね!」
そうか、晴も俺たちの事話してないんだな…まぁ、遥を心配させたくないだろうしな。
途中に余計な感想が入ってたのはガン無視する。
それより聞き捨てならないのは…
「翔から連絡っつった?」
「そうよ!ついこの間ね。『蓮が荒れてそうで心配だけど仕事で実家帰れないから連絡取ってやって欲しい』て。」
あの野郎、確実に人選間違ってんだろ。
「ねぇ蓮、その時の私の気持ち分かる?
気持ちも新たにこっちで恋愛しようとしてるのに、アンタのせいで掻き乱される気持ち…分・か・る?」
「いやそれはマジで悪ぃと思うけど、圧が凄ぇんだよ。」
「悪いと思ってるなら全部話して。じゃないと、緊急帰国するわよ!」
やりかねない…俺とは違うベクトルだが、コイツも晴が関わると見境がない。
「あー、分かったよ。時間かかるから夜にでもまた…」「い!!!!!ま!!!!!!!」
「成る程ね…蓮…」「分かってるよ。」
全てではないが事のあらましを話し終えると、遥は溜息を吐いた。
その声音は怒りなのか哀れみなのか複雑だ。
「う~、言いたい事は色々あるけど、過ぎた事は仕方ないわよね。
でも、晴に他人行儀にされたらもっと荒れて闇モードに入ると思ってた。
ほら子供の頃みたいに『誰もいらない』みたいな。」
「オイ、ダセェ名前付けんな俺が厨二病みてぇだろが。」
「声聞く限りだけど、そこまでじゃなさそうで安心したわ。」
「…まぁ、色々あって今は少しマシ。」
クロの事も掻い摘んで説明する。
「……そう。」
「何だよ。」
「ううん、何でも!クロ君かぁ、蓮の友達なら私もいつか挨拶しないとね!」
「アイツ絶対大騒ぎするからダルいわ。」
「へぇ、そう。」
その声は何故か嬉しそうだ。
しかし、グッと真剣な声に変わる。
「それで、晴の方はこれからどうするつもり?」
どうするも何も、晴が俺といる事を望んでいない以上どうしようもない。
ただ、一つ言える事がある。
「俺は晴以外を好きになる事はない。」
それは、離れてみて改めて気付かされた事。
心も身体も晴しか欲しくない。
晴じゃないのなら、いらないーー。
「うん…好きでいるのは自由だと思う。」
少し寂し気に、それでも遥は俺の背中を押す。
晴が俺を必要としなくても、想いを捨てる事はできない。
苦しい事は覚悟の上だ。
近付けなくても、その笑顔を守る。
それが、昨日までの自分を振り返って俺がした決意。
『晴が幸せなら、その相手が自分じゃなくてもいいと思えるか?』
夏祭りの日、翔が言った言葉が頭を過ぎる。
あの時は答えられなかった。
だけど、今は答えられる。
そんなの、許せないに決まってんだろ。
俺にはそんな聖人君子みたいな真似できる訳ねぇ。
多分、今以上に荒れるしソイツを怨みまくる。
万が一晴を泣かせたりしたら、裏から手を回して捻り潰してやる。
「蓮、お願いだから周りを頼ってね?」
遥の切実な声。
クロも遥も翔も、俺を大事に思ってくれている。
それすらも、晴がいなければ知り得なかった。
ただ独り何も感じる事なく生きる筈だった俺を変えてくれた、唯一。
「また連絡する。今度はもっと早めに。」
週一は約束できないけど、と心の中で付け足す。
それを聞いた幼馴染が、お見通しかのように笑った。
●●●
そのシーンは無いけど、、な話。
前話で晴が剣舞を練習してるのは、文化祭の部活発表の為です。(小火騒ぎで披露できずに終わりました。)
黒崎がこの日クラブに来たのは『今日も蓮がいる』とカンナから連絡されたから。
そして蓮がボコした男、倒れた時に違法なお薬を持っていたためお縄になりました。
めちゃくちゃ嫌われ者なので、逃げる前の蓮をチラッと目撃してた人も何も証言せず。
後日↑をカンナから聞いて(主に黒崎が)心底ホッとしました。
クラブお酒タバコ未成年はダメ、絶対。
『黒崎』から『クロ』に変わったモノローグは、蓮が本当の意味で黒崎に心を開いた表れ。
因みにカンナちゃん『好きピにクラブとか危ないからダメって言われた♡』そうなので蓮と共にクラブ通い卒業です。笑
次回から文化祭に入っていきます!
息も絶え絶えに公園のベンチに突っ伏す黒崎の横に、俺もグッタリと身を預ける。
ここが何処なのかすらもう分からないが、とにかくクラブからは相当距離が離れただろう。
「いや…お前何やってんだよ…。」
学校にバレたら退学だって有り得るし、仮に免れたとしても確実に奨学生ではいられない。
家庭の事情から、学年上位を守る事を条件に学費が免除されている黒崎にとって、それは最終学歴が高校中退となるのに等しい。
「なにやってんだは俺の台詞だからな!バカじゃないのかお前!」
いつも飄々としているコイツがこんなに感情的になるのは珍しい。
「お前は人より目立つって自覚しろよ!警察沙汰になったらいくら身内でも退学だろ!」
「いや、何でお前が必死なんだよ…。」
高校に行く意味を見出せなくなった今、退学ならそれで構わない。
それよりも、黒崎が危険を犯してまでここに来た事が不思議だった。
「当たり前だろ!俺は友達が警察沙汰になるのも退学になるのも絶対にごめんだからな!」
睨んで来るその目は真剣だ。
「だから、蓮がこういう事するなら俺は何度だって止めに行く!お前、俺を退学にさせんなよ!
俺はいい大学行って金稼げる仕事に就いて、施設にいる弟引き取るんだからな!」
思わぬ言葉と理由にまじまじとその顔を見ると、今度は力無く眉が下がった。
「…俺の親がクソなのは知ってるだろ?弟とは半分しか血は繋がってないけど…俺みたいな生活はさせたくない。」
「…弟、何歳?」
「小1。育児放棄されて施設に入ってんだけど、引き取るには成人してるのと、安定した収入がないとダメらしい。」
家庭の事情が複雑なのは聞いてたが、これは初耳だった。
「なおさら俺に関わってる場合じゃねぇだろ。」
深夜に未成年の2人でいる今だって補導の対象だ。
「分かってるよ!でも放っておけない!蓮はどうか知らないけど、俺は蓮の事友達だと思ってるから!『人より能力が優れてる』ってだけで人生勝ち組とか言われて…。
俺はこんな能力いらないから、普通の家に生まれたかった。
そう言うやり切れない気持ち分かり合えるの、蓮が初めてだった…。」
最後は呟くような声になって、そのまま俯く。
俺は黒崎を『理解者』だと思うようになっていたが、どうやら同じ…いや、黒崎にとってはそれ以上に大きなものらしい。
誰一人として理解されず成長してきたその生き辛さは十分に想像できる。
俺だって、晴がいなければきっとそうだったからーー。
黒崎が人との繋がりを拒絶せずにここまで来たのは奇跡だと思う。
元々の性質によるのか、弟と言う心の支えがあったからかは分からないが、俺なんかよりずっと強くて健全だ。
本当は分かってる。
晴がいなければ生きる目的も進む方向も分からなくて、その恐怖から逃れる為に自棄になってる事も。
そんな俺を黒崎が本気で心配している事も。
「蓮、頼むから自分を壊そうとするのはやめてくれ。お前はもっと、周りから大切に思われてる事を自覚しろ!」
怒ったような言い方は、それでもこの公園に着いてすぐの頃とは違った。
「…悪かった。」
自分の事しか考えていなかったガキっぽさに呆れる。
翔が『周りの人間に関心を持て』と言っていた意味が、やっと分かったきがする。
「クロ、ありがとな。お前の事は俺もまぁ、友達だと思ってる。」
自然と出た言葉に、黒崎が目を丸くしてから笑った。
「素直じゃないなぁ。まぁ、蓮らしいけど!
そろそろ始発出るから帰ろーぜ!」
連れ立って歩く駅までの道、向かう方角の空にはいつの間にか朝陽が姿を現していた。
ヴーッ ヴーッ ヴーッ ヴーッ
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ヴーッ ヴーッ
~~っるせぇな!
エンドレスで鳴り続けるスマホに辟易してベッドから手を伸ばす。
始発電車に揺られて着いた俺の家。
『暖炉ある家なんか初めて見たんだけど…え、待ってこの絵って有名なやつじゃ…はぁ!?原画!?
え、このサイン入りユニフォームってあの二刀流選手のやつ!?父親の知り合い…だと…?てかそもそも家広すぎない!?』
騒ぐクロをゲストルームに押し込んで、俺は自室でそれぞれ仮眠を取る事にした。
枕元のデジタル時計は12時過ぎ、鬼電の主はおそらく赤嶺か白田だろう。
午後からでも学校行くか…?
まぁ取り敢えずクロを起こしてからだな。
「うーぃ。」
『……よ……この………』
画面も見ずに寝起き丸出しの声で応じた通話は、電波が悪いのかほとんど聞き取れない。
「あー?何も聞こえねぇよ。今起きたから後でかけ直…」「は?そっち昼休みでしょ?」
………。
その声とそっちと言うワードに、寝惚けた脳細胞が一気に覚醒した。
そして思い至るのは、全く守っていない約束。
「待て、話せば分か…」
「こんの!!!バカ!!!!!!」
鼓膜が破れるかの如く響いた声は、久しぶりに聞くもう一人の幼馴染のものだった。
「週一で連絡するって約束したわよね?頻度が減ってるのは大目に見てたけど、夏以来一切連絡なかったんですけど?それで?こっちから連絡してもスルーなのは一体どうしてなのかしら?」
マシンガンで詰めてくる遥の猛攻には割り込む隙が無い。
ってか疑問系にしてはいるけど、答えさせる気ねぇだろこれ。
「時差考えて学校の昼休み狙って連絡してあげたのに『今起きた』って何?アンタ学校は?拓哉さん達は知ってる訳?」
特進が授業に自由参加なのは知ってる筈だが、それにかまけて自堕落な生活をしているのが気に食わないらしい。
「おい、落ち着けよ遥。」
「アンタのせいでこうなってんのよ!!!
はぁ、でも本題から逸れてるのは確かだわ。」
そして一息つくと、今度は落ち着いた声音で言う。
「で?晴と何があったの?」
確信を持った言い方にギクリとする。
「は?別に何もねぇけど。」
「そう言うのいいから。夏以降晴からもメール返って来ないし…晴ぅ、お姉ちゃん寂しくて泣きそう…翔君が心配してわたしに連絡して来たんだからね!」
そうか、晴も俺たちの事話してないんだな…まぁ、遥を心配させたくないだろうしな。
途中に余計な感想が入ってたのはガン無視する。
それより聞き捨てならないのは…
「翔から連絡っつった?」
「そうよ!ついこの間ね。『蓮が荒れてそうで心配だけど仕事で実家帰れないから連絡取ってやって欲しい』て。」
あの野郎、確実に人選間違ってんだろ。
「ねぇ蓮、その時の私の気持ち分かる?
気持ちも新たにこっちで恋愛しようとしてるのに、アンタのせいで掻き乱される気持ち…分・か・る?」
「いやそれはマジで悪ぃと思うけど、圧が凄ぇんだよ。」
「悪いと思ってるなら全部話して。じゃないと、緊急帰国するわよ!」
やりかねない…俺とは違うベクトルだが、コイツも晴が関わると見境がない。
「あー、分かったよ。時間かかるから夜にでもまた…」「い!!!!!ま!!!!!!!」
「成る程ね…蓮…」「分かってるよ。」
全てではないが事のあらましを話し終えると、遥は溜息を吐いた。
その声音は怒りなのか哀れみなのか複雑だ。
「う~、言いたい事は色々あるけど、過ぎた事は仕方ないわよね。
でも、晴に他人行儀にされたらもっと荒れて闇モードに入ると思ってた。
ほら子供の頃みたいに『誰もいらない』みたいな。」
「オイ、ダセェ名前付けんな俺が厨二病みてぇだろが。」
「声聞く限りだけど、そこまでじゃなさそうで安心したわ。」
「…まぁ、色々あって今は少しマシ。」
クロの事も掻い摘んで説明する。
「……そう。」
「何だよ。」
「ううん、何でも!クロ君かぁ、蓮の友達なら私もいつか挨拶しないとね!」
「アイツ絶対大騒ぎするからダルいわ。」
「へぇ、そう。」
その声は何故か嬉しそうだ。
しかし、グッと真剣な声に変わる。
「それで、晴の方はこれからどうするつもり?」
どうするも何も、晴が俺といる事を望んでいない以上どうしようもない。
ただ、一つ言える事がある。
「俺は晴以外を好きになる事はない。」
それは、離れてみて改めて気付かされた事。
心も身体も晴しか欲しくない。
晴じゃないのなら、いらないーー。
「うん…好きでいるのは自由だと思う。」
少し寂し気に、それでも遥は俺の背中を押す。
晴が俺を必要としなくても、想いを捨てる事はできない。
苦しい事は覚悟の上だ。
近付けなくても、その笑顔を守る。
それが、昨日までの自分を振り返って俺がした決意。
『晴が幸せなら、その相手が自分じゃなくてもいいと思えるか?』
夏祭りの日、翔が言った言葉が頭を過ぎる。
あの時は答えられなかった。
だけど、今は答えられる。
そんなの、許せないに決まってんだろ。
俺にはそんな聖人君子みたいな真似できる訳ねぇ。
多分、今以上に荒れるしソイツを怨みまくる。
万が一晴を泣かせたりしたら、裏から手を回して捻り潰してやる。
「蓮、お願いだから周りを頼ってね?」
遥の切実な声。
クロも遥も翔も、俺を大事に思ってくれている。
それすらも、晴がいなければ知り得なかった。
ただ独り何も感じる事なく生きる筈だった俺を変えてくれた、唯一。
「また連絡する。今度はもっと早めに。」
週一は約束できないけど、と心の中で付け足す。
それを聞いた幼馴染が、お見通しかのように笑った。
●●●
そのシーンは無いけど、、な話。
前話で晴が剣舞を練習してるのは、文化祭の部活発表の為です。(小火騒ぎで披露できずに終わりました。)
黒崎がこの日クラブに来たのは『今日も蓮がいる』とカンナから連絡されたから。
そして蓮がボコした男、倒れた時に違法なお薬を持っていたためお縄になりました。
めちゃくちゃ嫌われ者なので、逃げる前の蓮をチラッと目撃してた人も何も証言せず。
後日↑をカンナから聞いて(主に黒崎が)心底ホッとしました。
クラブお酒タバコ未成年はダメ、絶対。
『黒崎』から『クロ』に変わったモノローグは、蓮が本当の意味で黒崎に心を開いた表れ。
因みにカンナちゃん『好きピにクラブとか危ないからダメって言われた♡』そうなので蓮と共にクラブ通い卒業です。笑
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