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中学生編 side晴人
9.御守り
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ついに明日、大会の日を迎える。
3年間の集大成だ。
地区大会には112校が参加する。
俺が出場する団体戦はトーナメント形式で、負けたらそこで終了だ。
うちの学校は先鋒と次鋒が二年生。中堅が俺。
副将は次期部長で、大将は勿論啓太。
5人がワンチームとなり、勝ち数の多い方が次戦に駒を進める。
因みにこの5人は歴代最強って言われてる。
まぁ、うちの学校あんまり剣道強くないんだけどね。
初戦敗退か、良くて2回戦までしか行ったことがない。
つまり3回戦まで進めば新な歴史を刻めるってことだ。
俺はいつも試合前日はそうするように、桜の木を見に来た。
葉っぱが生い茂った樹は、春以外の季節だとパッと見では桜かどうか分かんないよなぁ。
人の気配がない神社は静かで、試合前の緊張感を鎮めるのにもってこいだ。
持ち帰ってきた竹刀を袋から出す。
蹲踞の姿勢を取って目を閉じる。
深く息を吐いて、ゆっくりと吸う。
立ち上がって目を開けて、踏み込む!!
ザリッ
背後で砂利を踏みしめる音がした。
驚いて振り返ると、そこにいたのはーー。
「蓮…。」
蓮がTシャツにデニム姿で俺を見ていた。
私服ってことは部活帰りとかじゃないよな?
「どしたん?」
「明日試合だろ。ここだと思って。」
俺の問いに答えながらこっちに近付いて来る。
「調子どうよ。」
「んー、まずまず。」
蓮は俺の前まで来ると、ちょっと驚いたように言った。
「珍しいな、緊張してんじゃん。」
「…え?」
俺は試合で緊張することがあまり無い。
緊張感は感じるんだけど、あがってしまって力が出せないってことがあんまり無いんだよね。
心臓に毛が生えてるって良く言われる。
だけどよくよく考えてみると…いつもとは違うかも。
胃の辺りが重くて、モヤモヤする。
「…そうかも。俺、緊張感してるっぽい。
蓮、何で分かったの?」
「お前の表情。」
蓮は俺の頭をグシャグシャと掻き回して笑った。
「大丈夫だ。」
たった一言なのに、蓮の言葉で俺の気持ちはスッと軽くなる。
子供の頃も、蓮は手を繋いで寝ながらいつも言ってくれたんだ。「大丈夫だよ」って。
蓮の「大丈夫」は俺にとって魔法の言葉なんだよ。
「ありがと、蓮。」
俺はあったかい気持ちになって笑った。
「ん。」
そんな俺を見つめながら蓮が右手を差し出した。
その掌には、青い小さな御守り。
「え?何これ?」
「やる。」
驚きながらも手を伸ばして受け取る。
蓮の顔を見ると、ちょっと怒ってるみたいな顔付きでこっちを見ていた。
これは、あれか?照れ隠しか?
「何処の神社のやつ?」
「名前は忘れたけど、すげぇ効果あるらしい。
ただし…。」
「ただし…?」
「肌身離さず持ってないと禍が降りかかる。」
そう言って蓮はニヤッと笑った。
「な⁉︎怖いわ!無理無理!やっぱいらない!」
「受け取ったからもうお前の物だわ。
手放した瞬間から禍始まるからな。」
しれっと言う蓮。
照れてる訳なんて無かった!
俺の慌てる様見て楽しんでやがる!
「マジかよ‼︎禍って具体的に何なわけ⁉︎」
「さぁ。別にいいじゃん、いつも持ち歩けばいいだけの話しだろ。」
「何でそんなハイリスクな御守りくれんだよ!
普通のでいいのに!普通ので!」
抗議する俺を尻目に、蓮は御守りに綺麗な飾り紐を通す。
そして、それを俺の首にかけた。
御守りを服の中にしまうと、傍目からは何も見えなくなる。
「これで大丈夫だろ。はずすなよ。」
蓮はめちゃめちゃ満足そうな顔してるけど俺の気持ち考えろよォォォ‼︎
お風呂の時とかどうすんだよ!!
「これあれば明日も悔いなくできるから。」
服の上から御守りを押さえられて心臓がドクッと音を立てる。
蓮との距離が近くなって、これじゃまるで…。
蓮の顔がスッと降りて来る。
キスされる!!
俺は思わずギュッと目を瞑ったーーー
が、あの日感じた柔らかい唇の感触はいつまでもしない。
代わりに、前髪を何かが掠めた。
「葉っぱ着いてた。」
「あ、ドモ…。」
葉っぱかよぉぉ!!
ややこしい真似しやがって!
って言うか俺が意識してるみたいで恥ずかしいんだけど!!
「あ、ありがとな蓮!明日頑張るわ!」
動揺を悟られないように元気な声を出す。
うだるような夏の暑さと蝉時雨の中を一緒に歩く帰り道、心臓の音が早いのはきっと試合前だから。
そう。絶対に、そうだーーー。
3年間の集大成だ。
地区大会には112校が参加する。
俺が出場する団体戦はトーナメント形式で、負けたらそこで終了だ。
うちの学校は先鋒と次鋒が二年生。中堅が俺。
副将は次期部長で、大将は勿論啓太。
5人がワンチームとなり、勝ち数の多い方が次戦に駒を進める。
因みにこの5人は歴代最強って言われてる。
まぁ、うちの学校あんまり剣道強くないんだけどね。
初戦敗退か、良くて2回戦までしか行ったことがない。
つまり3回戦まで進めば新な歴史を刻めるってことだ。
俺はいつも試合前日はそうするように、桜の木を見に来た。
葉っぱが生い茂った樹は、春以外の季節だとパッと見では桜かどうか分かんないよなぁ。
人の気配がない神社は静かで、試合前の緊張感を鎮めるのにもってこいだ。
持ち帰ってきた竹刀を袋から出す。
蹲踞の姿勢を取って目を閉じる。
深く息を吐いて、ゆっくりと吸う。
立ち上がって目を開けて、踏み込む!!
ザリッ
背後で砂利を踏みしめる音がした。
驚いて振り返ると、そこにいたのはーー。
「蓮…。」
蓮がTシャツにデニム姿で俺を見ていた。
私服ってことは部活帰りとかじゃないよな?
「どしたん?」
「明日試合だろ。ここだと思って。」
俺の問いに答えながらこっちに近付いて来る。
「調子どうよ。」
「んー、まずまず。」
蓮は俺の前まで来ると、ちょっと驚いたように言った。
「珍しいな、緊張してんじゃん。」
「…え?」
俺は試合で緊張することがあまり無い。
緊張感は感じるんだけど、あがってしまって力が出せないってことがあんまり無いんだよね。
心臓に毛が生えてるって良く言われる。
だけどよくよく考えてみると…いつもとは違うかも。
胃の辺りが重くて、モヤモヤする。
「…そうかも。俺、緊張感してるっぽい。
蓮、何で分かったの?」
「お前の表情。」
蓮は俺の頭をグシャグシャと掻き回して笑った。
「大丈夫だ。」
たった一言なのに、蓮の言葉で俺の気持ちはスッと軽くなる。
子供の頃も、蓮は手を繋いで寝ながらいつも言ってくれたんだ。「大丈夫だよ」って。
蓮の「大丈夫」は俺にとって魔法の言葉なんだよ。
「ありがと、蓮。」
俺はあったかい気持ちになって笑った。
「ん。」
そんな俺を見つめながら蓮が右手を差し出した。
その掌には、青い小さな御守り。
「え?何これ?」
「やる。」
驚きながらも手を伸ばして受け取る。
蓮の顔を見ると、ちょっと怒ってるみたいな顔付きでこっちを見ていた。
これは、あれか?照れ隠しか?
「何処の神社のやつ?」
「名前は忘れたけど、すげぇ効果あるらしい。
ただし…。」
「ただし…?」
「肌身離さず持ってないと禍が降りかかる。」
そう言って蓮はニヤッと笑った。
「な⁉︎怖いわ!無理無理!やっぱいらない!」
「受け取ったからもうお前の物だわ。
手放した瞬間から禍始まるからな。」
しれっと言う蓮。
照れてる訳なんて無かった!
俺の慌てる様見て楽しんでやがる!
「マジかよ‼︎禍って具体的に何なわけ⁉︎」
「さぁ。別にいいじゃん、いつも持ち歩けばいいだけの話しだろ。」
「何でそんなハイリスクな御守りくれんだよ!
普通のでいいのに!普通ので!」
抗議する俺を尻目に、蓮は御守りに綺麗な飾り紐を通す。
そして、それを俺の首にかけた。
御守りを服の中にしまうと、傍目からは何も見えなくなる。
「これで大丈夫だろ。はずすなよ。」
蓮はめちゃめちゃ満足そうな顔してるけど俺の気持ち考えろよォォォ‼︎
お風呂の時とかどうすんだよ!!
「これあれば明日も悔いなくできるから。」
服の上から御守りを押さえられて心臓がドクッと音を立てる。
蓮との距離が近くなって、これじゃまるで…。
蓮の顔がスッと降りて来る。
キスされる!!
俺は思わずギュッと目を瞑ったーーー
が、あの日感じた柔らかい唇の感触はいつまでもしない。
代わりに、前髪を何かが掠めた。
「葉っぱ着いてた。」
「あ、ドモ…。」
葉っぱかよぉぉ!!
ややこしい真似しやがって!
って言うか俺が意識してるみたいで恥ずかしいんだけど!!
「あ、ありがとな蓮!明日頑張るわ!」
動揺を悟られないように元気な声を出す。
うだるような夏の暑さと蝉時雨の中を一緒に歩く帰り道、心臓の音が早いのはきっと試合前だから。
そう。絶対に、そうだーーー。
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