36 / 69
35 オティリオとカスパー
しおりを挟む
すぐに術室に入り、迅速に手術が行われた。
「幸い臓器の損傷はなく、致命傷ではありませんでした」
手術が終わってエモリーがそう告げると、待合室で待つ近衛騎士や俺とカスパーは、安堵して深い息を吐き出す。
そのあとはアルファのオティリオをオメガ病院で入院させるわけにもいかず、領主館で一番豪華な客間で大きな寝台に寝かされた。
あの犯人はゲリンによって地下牢に連行され、そこで処罰されるのを待つことになる。
王弟を刺した罪は重いだろう。
寝続けるオティリオを、俺とカスパーが見守っていると、一時間後に、ようやくオティリオの指先が動いた。
「おとうさん。うごいたよ」
俺がオティリオの顔を覗き込むと、うっすらと目を開いた。
オティリオは一瞬、痛みに顔を歪めたあと、カスパーと目を合わせる。
「水飲みますか?」
オティリオは頷く。
寝たままでも飲める容器の吸い口を口元に近づけると、喉が渇いていたようでこくこくと飲んだ。
「たすけて、くれて、ありがと」
カスパーがオティリオの指を握ると、オティリオは瞬きをして、その小さな手を眺める。
「……ふたりに怪我がなくて良かった」
オティリオが掠れた声で言って、ルシャードに似たカスパーの姿をまじまじと見入った。
「何歳だ?」
「四歳」
カスパーはそう言いながら、四本の指を表す。
「カスパー。目を覚ましたってエモリーに伝えてきてくれないか」
俺が頼むと、カスパーは「わかった」とぴょんっと椅子から下りて出ていく。
「……カスパーっていうのか?」
オティリオに問われて、俺は「はい」と返事をするしかなかった。
押し黙る。次に問われることはわかっていた。
「兄上の子だよね?」
俺は逡巡しながらも、首を縦に動かす。
言い逃れができないほど、カスパーとルシャードは似ている。
オティリオにカスパーのことを知られてしまった。
もうルシャードにも隠してはおけないだろう。
「兄上は知ってるの?」
「……まだ」
俺が口ごもると、オティリオは眉尻を下げた。
「ごめんな。僕のせいで言えなかったよね。獣人ってことは、聖獣か……」
身動きをしたオティリオは、全身に痛みが走った様子で眉間に皺を寄せてぎゅっと瞼を閉じる。
「刺された背中に傷が残るかもしれないそうです」
「……僕の背中には翼がないだろ。だから、この背中が大嫌いだったのだけど、カスパーを守った傷が残るなら好きになれるかもしれない」
そう言うと、オティリオがかすかに口角を上げる。
聖獣でないことにオティリオが劣等感を持っているとは知らなかった。
王家の血を継ぐオティリオはアルファでありながら、人間に産まれたため聖獣にはなれない。
すぐにカスパーがエモリーを連れて戻ってきた。
「気分はいかがですか? 頭が痛いとか吐き気があるとかありませんか?」
「今のところはない」
「もしかしたら、今夜あたり熱が出るかもしれません」
診察の途中で、俺はそっと部屋を抜け出した。
俯きながら深いため息をつく。
そして、顔を上げたとき、近衛騎士として扉の前にいるのが懐かしい人だと気づいた。
「ヨシカさん!」
獅子獣人のヨシカだ。
「おぉ。マイネ、話をするのは久しぶりだな」
ヨシカは意味ありげに、にやりと笑った。
「……やっぱり俺のこと見張ってたのって、ヨシカさんだよね?」
俺を見張る獅子獣人がいることは、わかっていた。
「見張りって人聞きが悪いな。ルシャード殿下からマイネの護衛を頼まれてたんだぞ」
「本当?」
「あぁ。今日はオティリオ殿下の近衛も来てたし、少し離れて様子をうかがっていたら、俺らしくもなく出遅れた」
カスパーのことはもう報告してしまっただろうか、と俺は不安げにする。
それを察したヨシカが、声を顰めた。
「あの子のことなら報告してない。俺が伝えていい話じゃないだろ。でも、ずっと黙っておくことはできないからな」
「……わかってる」
カスパーの存在は俺からルシャードに告げたい。
どんな反応が返ってくるかはわからない。
それは恐ろしくもあるが、人の口から報告されるぐらいなら、自分自身で伝えたかった。
「幸い臓器の損傷はなく、致命傷ではありませんでした」
手術が終わってエモリーがそう告げると、待合室で待つ近衛騎士や俺とカスパーは、安堵して深い息を吐き出す。
そのあとはアルファのオティリオをオメガ病院で入院させるわけにもいかず、領主館で一番豪華な客間で大きな寝台に寝かされた。
あの犯人はゲリンによって地下牢に連行され、そこで処罰されるのを待つことになる。
王弟を刺した罪は重いだろう。
寝続けるオティリオを、俺とカスパーが見守っていると、一時間後に、ようやくオティリオの指先が動いた。
「おとうさん。うごいたよ」
俺がオティリオの顔を覗き込むと、うっすらと目を開いた。
オティリオは一瞬、痛みに顔を歪めたあと、カスパーと目を合わせる。
「水飲みますか?」
オティリオは頷く。
寝たままでも飲める容器の吸い口を口元に近づけると、喉が渇いていたようでこくこくと飲んだ。
「たすけて、くれて、ありがと」
カスパーがオティリオの指を握ると、オティリオは瞬きをして、その小さな手を眺める。
「……ふたりに怪我がなくて良かった」
オティリオが掠れた声で言って、ルシャードに似たカスパーの姿をまじまじと見入った。
「何歳だ?」
「四歳」
カスパーはそう言いながら、四本の指を表す。
「カスパー。目を覚ましたってエモリーに伝えてきてくれないか」
俺が頼むと、カスパーは「わかった」とぴょんっと椅子から下りて出ていく。
「……カスパーっていうのか?」
オティリオに問われて、俺は「はい」と返事をするしかなかった。
押し黙る。次に問われることはわかっていた。
「兄上の子だよね?」
俺は逡巡しながらも、首を縦に動かす。
言い逃れができないほど、カスパーとルシャードは似ている。
オティリオにカスパーのことを知られてしまった。
もうルシャードにも隠してはおけないだろう。
「兄上は知ってるの?」
「……まだ」
俺が口ごもると、オティリオは眉尻を下げた。
「ごめんな。僕のせいで言えなかったよね。獣人ってことは、聖獣か……」
身動きをしたオティリオは、全身に痛みが走った様子で眉間に皺を寄せてぎゅっと瞼を閉じる。
「刺された背中に傷が残るかもしれないそうです」
「……僕の背中には翼がないだろ。だから、この背中が大嫌いだったのだけど、カスパーを守った傷が残るなら好きになれるかもしれない」
そう言うと、オティリオがかすかに口角を上げる。
聖獣でないことにオティリオが劣等感を持っているとは知らなかった。
王家の血を継ぐオティリオはアルファでありながら、人間に産まれたため聖獣にはなれない。
すぐにカスパーがエモリーを連れて戻ってきた。
「気分はいかがですか? 頭が痛いとか吐き気があるとかありませんか?」
「今のところはない」
「もしかしたら、今夜あたり熱が出るかもしれません」
診察の途中で、俺はそっと部屋を抜け出した。
俯きながら深いため息をつく。
そして、顔を上げたとき、近衛騎士として扉の前にいるのが懐かしい人だと気づいた。
「ヨシカさん!」
獅子獣人のヨシカだ。
「おぉ。マイネ、話をするのは久しぶりだな」
ヨシカは意味ありげに、にやりと笑った。
「……やっぱり俺のこと見張ってたのって、ヨシカさんだよね?」
俺を見張る獅子獣人がいることは、わかっていた。
「見張りって人聞きが悪いな。ルシャード殿下からマイネの護衛を頼まれてたんだぞ」
「本当?」
「あぁ。今日はオティリオ殿下の近衛も来てたし、少し離れて様子をうかがっていたら、俺らしくもなく出遅れた」
カスパーのことはもう報告してしまっただろうか、と俺は不安げにする。
それを察したヨシカが、声を顰めた。
「あの子のことなら報告してない。俺が伝えていい話じゃないだろ。でも、ずっと黙っておくことはできないからな」
「……わかってる」
カスパーの存在は俺からルシャードに告げたい。
どんな反応が返ってくるかはわからない。
それは恐ろしくもあるが、人の口から報告されるぐらいなら、自分自身で伝えたかった。
1,970
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる