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第二部
27.ホテルのプール
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*誤字訂正しました*
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だ、大丈夫大丈夫、気付かれていない・・・はず。
そう自分に言い聞かせて背後から聞こえる水しぶきの音を無視する。反対側で邪魔にならないように隅っこまで移動した私と朝姫ちゃんは、思わず顔を見合わせた。
「誤算だったわ。まさか今日白夜まで来るなんて思わなかった・・・暁に仕事が入ってるか予定聞いておけばよかったわね」
ごめんね麗ちゃん、と謝る朝姫ちゃんに慌てて首を左右に振って大丈夫だと伝える。いや、何が大丈夫なんだって話なんだけど、やはり水着姿を見られるのは気恥ずかしいし、目的がダイエットっていうのも知られたくはない乙女心なんだよ。しばらくたってから、『あれ?痩せた?』と訊かれるのが理想であって、努力をしている姿を見られるのってなんとなく遠慮したい。やっぱ恥ずかしいから!
「とりあえず水泳キャップはしているし、ゴーグルもつけておく?」
本格的に泳ぐわけじゃないから必要ないかと思っていたけど、さすが朝姫ちゃん。準備がいい。少しでも顔が隠せたら、ばれる確率も減るよね!
「ありがとー!是非使わせてもらうよ」
サイズを調節して目にフィットさせる。うわ、この感触ってほんと何年ぶり?はじめ感じた違和感はすぐに慣れてきた。そして朝姫ちゃんは背後を気にしながら私に話しかける。
「本当はプールでできる運動を少しやろうかと思って、その後軽く泳ごうかと予定していたんだけど。麗ちゃん泳げないのよね?」
・・・面目ない。
「息継ぎなしでならできるけど!あとビート板使ってバタ足なら大丈夫!!」
海や水に落ちたら真っ先に死ぬな、私。クルージングにも釣りにも行かないからそんな心配はないはずだけど!豪華客船にだって、よぼよぼのおばあちゃんになっても乗りたくないよ。タイタニックの例だってあるんだし!!
「じゃ、まずはウォーキングからはじめたいところだけど・・・ちっ、後ろ気になるわね」
舌打ちして背後を見やった朝姫ちゃんにつられる事はない。泳いでいる東条さんはもちろん見たいけど、絶対に見たらだめだ。メデューサに睨まれたかのごとく、硬直して見惚れる自信があるよ!んな事したら私だってばれちゃうじゃないか。華麗な東条さんの泳ぎっぷりは是非写真におさめて堪能したいところだけど・・・我慢、我慢。上半身裸の姿なんて直視したら、鼻血出るかも・・・
そして今の場所は東条さんが泳いでいる場所から離れているし、私達がのんびりウォーキングをしてても邪魔にはならないだろう。足が何とかつく場所で、朝姫ちゃんに教わりながら水中ウォーキングをはじめること10分ほどで、朝姫ちゃんの携帯が鳴り響いた。
「あ~、ごめんちょっと出ないと」
軽く嘆息してからプールから出た彼女は、プールサイドに置いてある荷物置き場まで取りに向う。黒いビキニ姿の朝姫ちゃんは、後ろ姿も美しい・・・あれだね。下着モデルとかにも余裕でなれそうだね。
戻ってくるまで少し時間がかかりそうだと判断した私は、久しぶりに息継ぎなしで泳いでみることにした。確か以前は10mいけた気がする!息継ぎも1、2回なら何とかできたと思うし。勢いよくプールの壁を蹴ってクロールすること4回。息継ぎに成功したのはたったの1回でギブアップ。鼻に水が入った!息継ぎ2回目で水も飲みそうになった・・・しかもゴーグルが少しゆるかったらしく、目にまで水が入ってなんだか痛い。こんな情けない姿やっぱり東条さんに見られるのはごめんだ・・・。
まだ電話が終わらない様子から、仕事で何かあったのかと心配になる。横目で朝姫ちゃんが入り口の外で電話をしているのを確認してから、私はそそくさと目を洗いに行った。久しぶりの塩素入りの水は刺激が強かったみたいで、充血しているのが鏡を見なくてもわかる。ぱしゃぱしゃと顔全体と目を十分に濯いでいたら、背後から「どうぞ」と声をかけられた。
目をつぶった私の顔に触れたのはふわふわのタオル。そういえば顔を拭くタオルを先に持ってきておくべきだったと後で気付いた。お礼を告げて遠慮なく使わせてもらうことにしたけど、ふと顔をタオルの中にうずめながら考える。ねえ、今の声って朝姫ちゃんじゃなかったよね・・・!?
気配だけでその人物は私に近寄ると、キャップからこぼれた私の髪の毛を人差し指と親指ではさんで雫を取ったのを感じた。かすかに頬に触れた指の感触にぴくりと肩が反応しそうになる。そして頭上が少しかげると、耳元に顔を寄せたその人は顔を隠した私に話しかけた。
「今日はお友達と買い物ではなかったんでしたっけ?」
うっ!
いや、間違ってはいないよね!?朝姫ちゃんだって友達だし!
すっかり正体がばれている私はそれでも顔をタオルから上げられないで硬直している。だって今ほとんどスッピンだし、前髪もキャップの中に入ってて見られたくないし、一応ウオータープルーフのマスカラ使ってるけど、パンダになってる可能性もゼロじゃない。無反応を貫いていると、東条さんが私のキャップをするりと外した。
「さて。私の可愛い婚約者は何故顔を上げてくれないのでしょうか?」
すっと手が首から耳の後ろを撫でて、濡れた髪を梳く。冷たい雫が肩に落ちて、ぴちゃりと跳ねた。今までプールに入っていた東条さんの手も冷たい。その感触に肌寒く感じてもいいのに、触られている箇所から段々熱が出てきそうだ。
「ねえ、麗。顔をあげてくれないと、いろいろ悪戯しちゃいますよ・・・?」
掠れた低い声が耳朶に吹き込まれる。そして小さく息を吹きかけられて、ぞくりと背筋が粟立った。うひゃああ!耳になんて事を・・・!
「おや?耳が弱かったのですか。麗は確か首も弱かったですよね?今度こそ見えやすい場所にちゃんと印をつけておきましょうか」
印って何の!?
そう問わなくてももうわかる。見えやすい場所にキスマークをつけるつもりって!それは激しく困るし、そんな場面に朝姫ちゃんが帰ってきたらもっと困るよ!!
「そそ、それは困りますー!!!」
タオルから顔を離してがばりと見上げた瞬間に目に飛び込んできたのは。濡れた黒髪は軽く後ろに撫で付けられて、毛先からは雫がぽたりと落ちている東条さんの姿。いつもは前髪で隠れているはずの東条さんの額も今は露になっていて、髪から落ちた雫は鎖骨に落ち、そして適度に引き締まった胸や二の腕に流れていく。その姿は濡れた髪と相まってなんとも言えない色香が・・・
放心した後真っ赤になった私は東条さんの姿を見るなり、一番的確だと思える感想を告げた。
「犯罪者―――!!」
「・・・はい?」
にこやかな顔に困惑の色が浮かんだ。
「その色気は既に犯罪の域ですよ!何ですかその立ってるだけで女性を虜にしちゃいそうな色香は!!私は散々鷹臣君達から色気のない女って言われているのに、ずるいじゃないですか自分だけ!朝姫ちゃんもあんなにスタイル良くってキレイで羨ましいのに、何だその遺伝子。お2人の遺伝子、羨ましすぎます!!」
水も滴るいい男って言うけどさ、それ本当に美形でいい男がやったらしゃれにならないよ。むしろ鼻血出るよ!
八つ当たり気味な感想を述べていると、唖然とした東条さんは一言「朝姫ちゃん?」と呟いた。
え、今のほとんどスルーですか?何で唯一ピックアップした言葉が朝姫ちゃんなの。
「ずるいと言えば、朝姫の名前はちゃんと呼ぶのに、何故私の呼び名は未だに"東条さん"なのでしょうね?私もちゃんと名前で読んで欲しいのですが?」
じり、と近寄った東条さんはほんの少しだけ不機嫌さを醸し出した。ええーと、ホントどうしてこの兄妹は名前の呼び方に拘るの!?
「だ、だってその・・・今まで東条さんだったから、白夜って呼ぶのは勇気がいるので・・・」
ごにょごにょと顔を背けながら呟くと、ふいに東条さんが微笑んだ気配がした。
「なるほど。2人きりの時は名前で呼ぶって約束でしたが、麗にはまだ慣れないと」
こくり、と頷く。
「それなら慣れてもらう為に、これからは2人きり以外の場所でも呼んでもらいましょうか。そして今なら2人きりなので、思う存分練習してくださってもいいのですよ?そうですね、名前を呼ぶのが恥ずかしいなら、もっと恥ずかしい気持ちになれば呼べますかね?」
もはやどこからツッコミをいれたらいいのかわかりませんー!!
にじり寄ってくる東条さんを避ける。待った、ここはホテルのプールで、貴方の妹さんもいつ来るかわからないような場所なんですよー!?何をするつもりですか、何を!!
「そんな荒療治かつ体育会系な方法は結構ですー!!!」
真っ赤になって告げた直後。がらり、と入り口の扉が開く音が聞こえた。
「おー!流石VIP専用のプール・・・!誰もいないってもしかして貸切状態!?」
男性の、若干興奮気味な声につられて顔を向ける。東条さんも私を庇うように後ろを振り向いた。
入り口から入ってきた男性は、スポーツでもやっているのか良く鍛えられた上半身をしていた。肩の胸の筋肉も発達しているし、逆三角形とまではいかないけどそれに近い肉体。お腹はきれいに割れている。短髪で快活そうな顔をした青年は私より若干上位だろうか。って、あれ?どっかで見たことがあるような・・・
こちらに気付いたその人物は、驚いた顔で私をというか、東条さんを見やる。
「あれ、社長!?」
近寄ってきたその人物は、以前社員食堂で相席になった人物で。確か営業の・・・
「営業の霧島君、でしたか。奇遇ですね」
東条さんの声で名前を思い出す。
そうだ、霧島さんだ!あの社内のいい男ランキングのトップ5にいつも名前が入っている(らしい)霧島 新さん。わーほんと奇遇~・・・
って、のんびり思っている場合じゃない!!
「社長も泳ぎに来たのですか?」
にこにこと人懐っこい大型犬のような笑みで話しかける霧島さんを見て、冷や汗が出る。
まずい・・・まさか社内の人物に私がいるとバレルのはまずくないか!?今は麗で長月 都じゃないけれど。ほとんどスッピンだし、ばれないとは限らない。
『社長と秘書が休日にホテルのプールで逢引き!?』・・・そんな噂が脳裏を駆け巡った。
嬉しくないよ、その噂!むしろまずいよ、まずいよね!?
青ざめる私に気付くことなく、霧島さんは東条さんの後ろにいる存在に気付く。
「あれ?そちらの方は社長のお連れの方ですか?」
ひぃぃぃぃいい!
私の事は放っておいて・・・!!
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誤字脱字、見つけましたら報告お願いします!
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だ、大丈夫大丈夫、気付かれていない・・・はず。
そう自分に言い聞かせて背後から聞こえる水しぶきの音を無視する。反対側で邪魔にならないように隅っこまで移動した私と朝姫ちゃんは、思わず顔を見合わせた。
「誤算だったわ。まさか今日白夜まで来るなんて思わなかった・・・暁に仕事が入ってるか予定聞いておけばよかったわね」
ごめんね麗ちゃん、と謝る朝姫ちゃんに慌てて首を左右に振って大丈夫だと伝える。いや、何が大丈夫なんだって話なんだけど、やはり水着姿を見られるのは気恥ずかしいし、目的がダイエットっていうのも知られたくはない乙女心なんだよ。しばらくたってから、『あれ?痩せた?』と訊かれるのが理想であって、努力をしている姿を見られるのってなんとなく遠慮したい。やっぱ恥ずかしいから!
「とりあえず水泳キャップはしているし、ゴーグルもつけておく?」
本格的に泳ぐわけじゃないから必要ないかと思っていたけど、さすが朝姫ちゃん。準備がいい。少しでも顔が隠せたら、ばれる確率も減るよね!
「ありがとー!是非使わせてもらうよ」
サイズを調節して目にフィットさせる。うわ、この感触ってほんと何年ぶり?はじめ感じた違和感はすぐに慣れてきた。そして朝姫ちゃんは背後を気にしながら私に話しかける。
「本当はプールでできる運動を少しやろうかと思って、その後軽く泳ごうかと予定していたんだけど。麗ちゃん泳げないのよね?」
・・・面目ない。
「息継ぎなしでならできるけど!あとビート板使ってバタ足なら大丈夫!!」
海や水に落ちたら真っ先に死ぬな、私。クルージングにも釣りにも行かないからそんな心配はないはずだけど!豪華客船にだって、よぼよぼのおばあちゃんになっても乗りたくないよ。タイタニックの例だってあるんだし!!
「じゃ、まずはウォーキングからはじめたいところだけど・・・ちっ、後ろ気になるわね」
舌打ちして背後を見やった朝姫ちゃんにつられる事はない。泳いでいる東条さんはもちろん見たいけど、絶対に見たらだめだ。メデューサに睨まれたかのごとく、硬直して見惚れる自信があるよ!んな事したら私だってばれちゃうじゃないか。華麗な東条さんの泳ぎっぷりは是非写真におさめて堪能したいところだけど・・・我慢、我慢。上半身裸の姿なんて直視したら、鼻血出るかも・・・
そして今の場所は東条さんが泳いでいる場所から離れているし、私達がのんびりウォーキングをしてても邪魔にはならないだろう。足が何とかつく場所で、朝姫ちゃんに教わりながら水中ウォーキングをはじめること10分ほどで、朝姫ちゃんの携帯が鳴り響いた。
「あ~、ごめんちょっと出ないと」
軽く嘆息してからプールから出た彼女は、プールサイドに置いてある荷物置き場まで取りに向う。黒いビキニ姿の朝姫ちゃんは、後ろ姿も美しい・・・あれだね。下着モデルとかにも余裕でなれそうだね。
戻ってくるまで少し時間がかかりそうだと判断した私は、久しぶりに息継ぎなしで泳いでみることにした。確か以前は10mいけた気がする!息継ぎも1、2回なら何とかできたと思うし。勢いよくプールの壁を蹴ってクロールすること4回。息継ぎに成功したのはたったの1回でギブアップ。鼻に水が入った!息継ぎ2回目で水も飲みそうになった・・・しかもゴーグルが少しゆるかったらしく、目にまで水が入ってなんだか痛い。こんな情けない姿やっぱり東条さんに見られるのはごめんだ・・・。
まだ電話が終わらない様子から、仕事で何かあったのかと心配になる。横目で朝姫ちゃんが入り口の外で電話をしているのを確認してから、私はそそくさと目を洗いに行った。久しぶりの塩素入りの水は刺激が強かったみたいで、充血しているのが鏡を見なくてもわかる。ぱしゃぱしゃと顔全体と目を十分に濯いでいたら、背後から「どうぞ」と声をかけられた。
目をつぶった私の顔に触れたのはふわふわのタオル。そういえば顔を拭くタオルを先に持ってきておくべきだったと後で気付いた。お礼を告げて遠慮なく使わせてもらうことにしたけど、ふと顔をタオルの中にうずめながら考える。ねえ、今の声って朝姫ちゃんじゃなかったよね・・・!?
気配だけでその人物は私に近寄ると、キャップからこぼれた私の髪の毛を人差し指と親指ではさんで雫を取ったのを感じた。かすかに頬に触れた指の感触にぴくりと肩が反応しそうになる。そして頭上が少しかげると、耳元に顔を寄せたその人は顔を隠した私に話しかけた。
「今日はお友達と買い物ではなかったんでしたっけ?」
うっ!
いや、間違ってはいないよね!?朝姫ちゃんだって友達だし!
すっかり正体がばれている私はそれでも顔をタオルから上げられないで硬直している。だって今ほとんどスッピンだし、前髪もキャップの中に入ってて見られたくないし、一応ウオータープルーフのマスカラ使ってるけど、パンダになってる可能性もゼロじゃない。無反応を貫いていると、東条さんが私のキャップをするりと外した。
「さて。私の可愛い婚約者は何故顔を上げてくれないのでしょうか?」
すっと手が首から耳の後ろを撫でて、濡れた髪を梳く。冷たい雫が肩に落ちて、ぴちゃりと跳ねた。今までプールに入っていた東条さんの手も冷たい。その感触に肌寒く感じてもいいのに、触られている箇所から段々熱が出てきそうだ。
「ねえ、麗。顔をあげてくれないと、いろいろ悪戯しちゃいますよ・・・?」
掠れた低い声が耳朶に吹き込まれる。そして小さく息を吹きかけられて、ぞくりと背筋が粟立った。うひゃああ!耳になんて事を・・・!
「おや?耳が弱かったのですか。麗は確か首も弱かったですよね?今度こそ見えやすい場所にちゃんと印をつけておきましょうか」
印って何の!?
そう問わなくてももうわかる。見えやすい場所にキスマークをつけるつもりって!それは激しく困るし、そんな場面に朝姫ちゃんが帰ってきたらもっと困るよ!!
「そそ、それは困りますー!!!」
タオルから顔を離してがばりと見上げた瞬間に目に飛び込んできたのは。濡れた黒髪は軽く後ろに撫で付けられて、毛先からは雫がぽたりと落ちている東条さんの姿。いつもは前髪で隠れているはずの東条さんの額も今は露になっていて、髪から落ちた雫は鎖骨に落ち、そして適度に引き締まった胸や二の腕に流れていく。その姿は濡れた髪と相まってなんとも言えない色香が・・・
放心した後真っ赤になった私は東条さんの姿を見るなり、一番的確だと思える感想を告げた。
「犯罪者―――!!」
「・・・はい?」
にこやかな顔に困惑の色が浮かんだ。
「その色気は既に犯罪の域ですよ!何ですかその立ってるだけで女性を虜にしちゃいそうな色香は!!私は散々鷹臣君達から色気のない女って言われているのに、ずるいじゃないですか自分だけ!朝姫ちゃんもあんなにスタイル良くってキレイで羨ましいのに、何だその遺伝子。お2人の遺伝子、羨ましすぎます!!」
水も滴るいい男って言うけどさ、それ本当に美形でいい男がやったらしゃれにならないよ。むしろ鼻血出るよ!
八つ当たり気味な感想を述べていると、唖然とした東条さんは一言「朝姫ちゃん?」と呟いた。
え、今のほとんどスルーですか?何で唯一ピックアップした言葉が朝姫ちゃんなの。
「ずるいと言えば、朝姫の名前はちゃんと呼ぶのに、何故私の呼び名は未だに"東条さん"なのでしょうね?私もちゃんと名前で読んで欲しいのですが?」
じり、と近寄った東条さんはほんの少しだけ不機嫌さを醸し出した。ええーと、ホントどうしてこの兄妹は名前の呼び方に拘るの!?
「だ、だってその・・・今まで東条さんだったから、白夜って呼ぶのは勇気がいるので・・・」
ごにょごにょと顔を背けながら呟くと、ふいに東条さんが微笑んだ気配がした。
「なるほど。2人きりの時は名前で呼ぶって約束でしたが、麗にはまだ慣れないと」
こくり、と頷く。
「それなら慣れてもらう為に、これからは2人きり以外の場所でも呼んでもらいましょうか。そして今なら2人きりなので、思う存分練習してくださってもいいのですよ?そうですね、名前を呼ぶのが恥ずかしいなら、もっと恥ずかしい気持ちになれば呼べますかね?」
もはやどこからツッコミをいれたらいいのかわかりませんー!!
にじり寄ってくる東条さんを避ける。待った、ここはホテルのプールで、貴方の妹さんもいつ来るかわからないような場所なんですよー!?何をするつもりですか、何を!!
「そんな荒療治かつ体育会系な方法は結構ですー!!!」
真っ赤になって告げた直後。がらり、と入り口の扉が開く音が聞こえた。
「おー!流石VIP専用のプール・・・!誰もいないってもしかして貸切状態!?」
男性の、若干興奮気味な声につられて顔を向ける。東条さんも私を庇うように後ろを振り向いた。
入り口から入ってきた男性は、スポーツでもやっているのか良く鍛えられた上半身をしていた。肩の胸の筋肉も発達しているし、逆三角形とまではいかないけどそれに近い肉体。お腹はきれいに割れている。短髪で快活そうな顔をした青年は私より若干上位だろうか。って、あれ?どっかで見たことがあるような・・・
こちらに気付いたその人物は、驚いた顔で私をというか、東条さんを見やる。
「あれ、社長!?」
近寄ってきたその人物は、以前社員食堂で相席になった人物で。確か営業の・・・
「営業の霧島君、でしたか。奇遇ですね」
東条さんの声で名前を思い出す。
そうだ、霧島さんだ!あの社内のいい男ランキングのトップ5にいつも名前が入っている(らしい)霧島 新さん。わーほんと奇遇~・・・
って、のんびり思っている場合じゃない!!
「社長も泳ぎに来たのですか?」
にこにこと人懐っこい大型犬のような笑みで話しかける霧島さんを見て、冷や汗が出る。
まずい・・・まさか社内の人物に私がいるとバレルのはまずくないか!?今は麗で長月 都じゃないけれど。ほとんどスッピンだし、ばれないとは限らない。
『社長と秘書が休日にホテルのプールで逢引き!?』・・・そんな噂が脳裏を駆け巡った。
嬉しくないよ、その噂!むしろまずいよ、まずいよね!?
青ざめる私に気付くことなく、霧島さんは東条さんの後ろにいる存在に気付く。
「あれ?そちらの方は社長のお連れの方ですか?」
ひぃぃぃぃいい!
私の事は放っておいて・・・!!
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