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第二部
18.聖女の本性
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すみません、体調不良で昨日は更新出来ませんでした・・・
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「さあこっちよ。中に入って」
今回のPVでお世話になるプロデューサーの笹原 静香さん(推定35歳。でも外見20代後半)は、知的な眼鏡を光らせながら神妙な面持ちの私を中へ促した。そしてK君とQさんが私の後に続く。
両開きの広い部屋はおそらくこの洋館のマスターベッドルームなのだろう。一番広い部屋と説明を受けた20畳近くある部屋は、天井からクラシックなシャンデリアが飾られ、窓の一つにはステンドグラスがはめられている。高い天井に広い寝室なんて人が住んでいないからどこか殺風景な空気が漂っていてもおかしくないのに、さすが優秀なスタッフだ。今回の撮影用に運び込まれた小道具がわんさかと並べられて、この部屋の雰囲気を妖しくダークファンタジーが似合う見事なゴシック調に変貌させた。キャンドルホルダー一つをとっても黒い曲線が美しい物を使われているし、レンガの暖炉の上に飾られている小物も本物のクリスタルやシルバーに見えるこだわり様だ。一人がけのソファも深紅のビロード張りで、どこかのお城に置かれてても違和感がなさそうだし、まったく空間作りが素晴らしいの一言だった。
そして中でもひときわ目を引くのは、中央にでっかく場所を取っている王様ベッド。天蓋つきのベッドにはシースルーのような薄い生地のカーテンが垂れ下がり、それが今は両サイドでくくられている。その存在感がありまくりなベッドの上には青いイミテーションのバラの花がいくつか散らばっていた。もしかしなくても、本当は本物の青いバラをここで使うつもりだったのかも・・・それはいささか贅沢だけど、PVで薔薇を使いたいと交渉をしていたのは知っているし、きっと本物が用意できなくて残念には思っているんだろうな。聖君が薔薇のデータも、栽培していた全ての薔薇も全部処分してしまってもう実現は叶わないのだけど。自分の研究データを潔く全て処分するなんて普通は中々出来ないのに、聖君はすごいと素直に感嘆してしまう。不可能の代名詞である青い薔薇はまだ不可能のままでいいのかもしれないという事か。
「じゃ、揃ったところでぱぱっと説明するわね」
笹原さんは他の人同様、私を上から下へエレベーターのように目を動かした後。にっこりと笑って「イメージピッタリね」と微笑んだ。そ、それは何よりでよかったです・・・と、覚悟を決めたとはいえ、小心者の私は内心でほっとした。ここで『やっぱりレイラちゃんカムバック』と言われたら、ある意味安心するような残念な気分になるような、複雑な心境になるだろうし。
忙しなく動くスタッフの人達の邪魔にならないように、部屋の隅に寄って笹原さんの説明を受けた。
「今回麗さんが出るのは、たったの2シーン。一つは簡単よ。隣室でただ突っ立って振り返るシーンを撮るだけだから。そんなに難しくはないわ。まあ、そっちは後でやるとして、今から撮るのは今回のクライマックスのメインシーン。そこにいるKと二人だけで共演してもらうけど、台詞はもちろんないから安心してちょうだい」
え、台詞はないから安心ってどういう意味ですか。
既にクライマックスのメインなんて聞かされた後でどう安心していいのかわからない。ってか、よりによってクライマックスか!じろり、と説明不足のK君を睨んでも罰は当たらないはず。エキストラから大出世しすぎだ・・・と、乾いた笑みがこぼれそうになった。
渡された簡単な絵コンテを眺める間、笹原さんが説明を続けた。
今から撮るのは夜のシーン。後でCGなどを使って修正するらしいから、室内はそこそこ明るい。歌のイメージに合わせたシナリオになっており、堕天使が恋する少女を傍においておく為に自分と同じ存在に変えてしまう場面だ。思わず歌詞の"黒く染めて"を思い出した。うーん、両想いならまだしも、片想いでそれって仄かに犯罪臭がするんだけど何も言うまい。美形なら許すとか、女の子達は夢見心地な顔で思うんだろうしなぁ。
「中央のベッドに横たわる純白な少女に堕ちた彼が気配を殺して近付くの。静かな眠りを妨げないようにひっそりとベッドに忍び寄った彼は、その白く輝く気高い魂に牙をむく。首筋に噛み付こうとするその瞬間、一瞬の隙をついて少女は逆に彼を押し倒して、首筋に牙を穿つ」
「はい?」
その説明を聞いた瞬間、思わず疑問が飛び出た。
え、何で聖なる少女が牙なんて持ってるの。ってか堕天使も牙なんて持ってないよね?それじゃまるで・・・
私の疑問を察した笹原さんは「言い忘れてたわ」とそもそものコンセプトを話し始めた。
「幻想世界がテーマだけど、今回堕ちた天使はヴァンパイアに見立ててるのよ。悪魔よりも分かりやすいでしょ、牙があった方が。自分と同じ存在に黒く染める。その意味を分かりやすく具現化する為に、無垢な少女を同じ種族・・・つまりヴァンパイアにしてしまえって意味に表現したの」
な、成るほど・・・確かにその方がこの短い時間でイメージが伝わりやすいかも。
「でもその純白な聖女が、何で牙なんて持ってるんです?」
聖女は清らかな存在なはずなのに、意味がわからない。
その補足説明をしてくれたのは、黙って聞いていたK君だった。
「麗、2番目の歌詞読んだ?」
「え?あ~ううん、まだだ」
2番目に謎が隠されているのかな。とりあえずまだ手に持っていた歌詞の続きを読み始めた。
◆ ◆ ◆
『――朽ちた螺旋階段 あの場所へは辿り着けない
光さえ届かない暗闇に支配されし迷宮に
共に、堕ちて
心も体も全てを奪い去って僕色に染めてしまえと
獰猛な獣が暴れだした
少女の仮面を脱いだ君は色香を放ち僕を惑わす
穢れなき聖女は黒い羽を広げて、悪魔の微笑みを浮かべるよ
隠された本性、妖艶な眼差し
捕らわれたのは僕の方だった
欲しいのなら求めればいい
欲しいのなら奪えばいい
血の枷で自由を封じてしまえ
茨の檻に閉じ込め、耳元で愛を囁け
闇に満ちるこの場所が僕らの楽園――』
「『・・・魂さえも僕のもの』・・・うーん、ダーク・・・」
えーと、つまり。
聖なる少女を落とすはずだったけど、逆に聖女の仮面を被っていただけで彼女は初めから同じ存在だった?少女の仮面を脱いだ彼女は妖艶な眼差しで微笑む・・・って、とんだ悪女だったんじゃ!?
「結局手に入れようとして逆に手に入れられちゃったのは彼の方って話。純白な少女だと思っていた彼女は初めから無垢でも聖女でもなかったんだよ。それは彼が見ていた幻想で理想だっただけで、本当はもっと身近な存在で、手を伸ばせば手に入る場所にいたのになかなかそれをしなかった男が、ようやく動いたって話?」
「え、最後に疑問系で訊かれても・・・」
困るんだけど。
まあ、一応両想いで結ばれるって事なのかなぁ~。
「だから彼女も牙を持ってるんですか?」
目線を紙から離し笹原さんに向けると、理知的な眼鏡の奥で笑った気配がした。「正解」とウィンクされる。うーん、さり気ないウィンクが決まる人って珍しいよね。
「そう。彼女も同じく堕ちた存在。奪おうとした彼を逆に襲うのよ。だから、麗さんにはKを襲ってもらうから」
「・・・・・・は?」
がばっと後ろを振り返ってK君を眺める。私がされたように、上から下まで黒ずくめのK君の舐めるように凝視して、微妙に眉を顰められたけど気にしない。K君の衣装は堕天使というより確かにどこかヴァンパイアチックだ。ヴァンパイアが参加する夜会、って感じにも見える。マントを脱いだ下は丈の長いベストで複雑なベルトとか鎖がじゃらじゃらつけられていて、そして白いシャツは襟のボタンが第3まで外されており、今は軽く細いリボンのタイで結ばれているけど、それを解いたら簡単に首元が晒される。
成るほど、これはこれでエロいわ。
何だかさっきの歌声も思い出してしまって、つい顔をそむけてしまう。って、そんなK君を私が襲う役って言ったよね!?ぼふ、と顔が赤く染まり、笹原さんに挙動不審気味に詰め寄った。
「おおお、襲う、襲うって私がですかあああ!?」
笹原さんが若干引き気味なのは気付かないフリだ。
「別に大したことじゃないでしょ。夜這いをかけた男を逆に押し倒すくらい」
けろり、とK君が問題発言をマイペースな口調で言った。
夜這いをかけられたこともなければ男性を押し倒したこともない私に、大したことじゃないってどうして言えるんですかね?
「K、それは大したことあると思うけど・・・」
苦笑いをしながらQさんが窘める。そうだよ、もっと言ってやって!
「そうだよ、そんな押し倒すなんて真似いきなりしろとかって言われても・・・!」
覚悟を決めたばかりなのに、予想外の展開に思わず弱音が零れた。ああ、何て展開なんだ!
「何言ってるの。麗だって自分から誘うことあるでしょ?」
「・・・え?」
何を言い出すのかとぎょっとすると、K君はごく普通に、まるで世間話をするように、訊ねてきた。
「彼氏を誘惑しようとか、自分から誘ったりするでしょ。そんな感じでいいんじゃない?」
「ちょっ・・・!?さ、誘うとか、しない、しないよ私!」
真っ赤になって否定すると、心底不思議そうな顔で「そうなの?」と逆に問われた。何これ。いきなりまた羞恥プレイに入ってない!?
「東条さんとは付き合ったばかりだから?じゃ前の彼氏ならどうなの」
「えっ・・・」
じっとK君、Qさん、そして成り行きで見守っている笹原さんの視線に逃げるように思わず視線を逸らせてしまった。その行動一つで、余計なところで勘が鋭いK君と恐らくQさんは顔を見合わせて「マジで?」と確認するように訊ねてきた。
「それって前の彼氏にも自分から強請らなかったのか、それとも彼氏がいなかったのか。どっち?」
K君の追及から逃げるように耳を塞ぐ。
「黙秘ー!黙秘する!!」
黙秘と言っているのに、やはりK君はエスパーなのかもしれない。既に自分の中で答えを見つけたらしく。Qさんに「今彼が初彼みたいだね」と語りかけていた。もう、何でそう勘がいいの!私が駄々漏れなの!?
「ってことは麗まだ処・・・」
「ストップ!それ以上ここで言ったらぶん殴るわよ」
K君の口を両手で押さえてジロリと睨みつけるように見据えた。こんな公衆の面前で何を言い出すのかこのマイペース人間は。
「麗ちゃん、鼻。鼻も押さえてるから。K呼吸できないから」
やんわりとQさんに手を離すように言われて、渋々解放する。む、あまり苦しそうに見えませんよ?
「笹原さん、ちょっといいですか」、と照明の人から呼ばれたのを見て、私も2人に「お手洗いに行って来る」と一言告げてこの場を離れた。一人になれるのがトイレだなんて、まるで東条さんの所で働き始めた時みたいだ。とりあえず、撮影は逃げないけど、その前までに何とかこの乱れまくった心を落ち着かせたい。一先ず近くにいるスタッフにトイレを案内してもらうことにした。
◆ ◆ ◆
ふう、と小さく息を吐いたQは中性的な美貌に翳りを見せた。
「参ったね・・・まさか生娘とは・・・厄介なことになりそうじゃないか」
自分より若干目線の低いKを見つめる。どこまでもマイペースなKはまるで動じていないようだった。むしろ"厄介事"に興味すらなさそうな表情で、小さく「ふーん?」と呟いただけだ。思わずQは怪訝な顔つきでKを見据える。
「ふーんって言うが、一番面倒事に巻き込まれる確率が高いのはお前だぞ?あの人が動いた訳がようやくわかったが。まさか彼女がね・・・」
ちらり、と目線だけで周りを窺った。忙しなく動く人と、撮影の準備の最終段階を確認する人で賑わいを見せている室内は、自分達の会話を盗み聞きする暇な人間はいないようだった。
「まだリストも正式じゃないし確定していないけどね」
「命令されたら?どうするつもりだ、K」
声を潜めて訊ねた問いに、Kはたった一言「さあね?」とだけ告げて傍に置いてあったギターを奏で始めた。その様子を眺めたQは小さく嘆息をすると、役者が揃うのを腕を組んだままじっと待ち続けたのだった。
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AddiCtにモデルはいますか?と数名の方に訊かれましたが、今の所はいません。むしろ、どなたかヴィジュアル系にお詳しい方、オススメなバンドを教えてください・・・今更ですがちょっと勉強しておこうかと!(遅いよ
そして明日から週末だけ実家に帰るので、更新が出来るかわかりません。でも一応パソコンは持って行きます!出来ない可能性があることを先にお伝えしておきます。すみません!><
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「さあこっちよ。中に入って」
今回のPVでお世話になるプロデューサーの笹原 静香さん(推定35歳。でも外見20代後半)は、知的な眼鏡を光らせながら神妙な面持ちの私を中へ促した。そしてK君とQさんが私の後に続く。
両開きの広い部屋はおそらくこの洋館のマスターベッドルームなのだろう。一番広い部屋と説明を受けた20畳近くある部屋は、天井からクラシックなシャンデリアが飾られ、窓の一つにはステンドグラスがはめられている。高い天井に広い寝室なんて人が住んでいないからどこか殺風景な空気が漂っていてもおかしくないのに、さすが優秀なスタッフだ。今回の撮影用に運び込まれた小道具がわんさかと並べられて、この部屋の雰囲気を妖しくダークファンタジーが似合う見事なゴシック調に変貌させた。キャンドルホルダー一つをとっても黒い曲線が美しい物を使われているし、レンガの暖炉の上に飾られている小物も本物のクリスタルやシルバーに見えるこだわり様だ。一人がけのソファも深紅のビロード張りで、どこかのお城に置かれてても違和感がなさそうだし、まったく空間作りが素晴らしいの一言だった。
そして中でもひときわ目を引くのは、中央にでっかく場所を取っている王様ベッド。天蓋つきのベッドにはシースルーのような薄い生地のカーテンが垂れ下がり、それが今は両サイドでくくられている。その存在感がありまくりなベッドの上には青いイミテーションのバラの花がいくつか散らばっていた。もしかしなくても、本当は本物の青いバラをここで使うつもりだったのかも・・・それはいささか贅沢だけど、PVで薔薇を使いたいと交渉をしていたのは知っているし、きっと本物が用意できなくて残念には思っているんだろうな。聖君が薔薇のデータも、栽培していた全ての薔薇も全部処分してしまってもう実現は叶わないのだけど。自分の研究データを潔く全て処分するなんて普通は中々出来ないのに、聖君はすごいと素直に感嘆してしまう。不可能の代名詞である青い薔薇はまだ不可能のままでいいのかもしれないという事か。
「じゃ、揃ったところでぱぱっと説明するわね」
笹原さんは他の人同様、私を上から下へエレベーターのように目を動かした後。にっこりと笑って「イメージピッタリね」と微笑んだ。そ、それは何よりでよかったです・・・と、覚悟を決めたとはいえ、小心者の私は内心でほっとした。ここで『やっぱりレイラちゃんカムバック』と言われたら、ある意味安心するような残念な気分になるような、複雑な心境になるだろうし。
忙しなく動くスタッフの人達の邪魔にならないように、部屋の隅に寄って笹原さんの説明を受けた。
「今回麗さんが出るのは、たったの2シーン。一つは簡単よ。隣室でただ突っ立って振り返るシーンを撮るだけだから。そんなに難しくはないわ。まあ、そっちは後でやるとして、今から撮るのは今回のクライマックスのメインシーン。そこにいるKと二人だけで共演してもらうけど、台詞はもちろんないから安心してちょうだい」
え、台詞はないから安心ってどういう意味ですか。
既にクライマックスのメインなんて聞かされた後でどう安心していいのかわからない。ってか、よりによってクライマックスか!じろり、と説明不足のK君を睨んでも罰は当たらないはず。エキストラから大出世しすぎだ・・・と、乾いた笑みがこぼれそうになった。
渡された簡単な絵コンテを眺める間、笹原さんが説明を続けた。
今から撮るのは夜のシーン。後でCGなどを使って修正するらしいから、室内はそこそこ明るい。歌のイメージに合わせたシナリオになっており、堕天使が恋する少女を傍においておく為に自分と同じ存在に変えてしまう場面だ。思わず歌詞の"黒く染めて"を思い出した。うーん、両想いならまだしも、片想いでそれって仄かに犯罪臭がするんだけど何も言うまい。美形なら許すとか、女の子達は夢見心地な顔で思うんだろうしなぁ。
「中央のベッドに横たわる純白な少女に堕ちた彼が気配を殺して近付くの。静かな眠りを妨げないようにひっそりとベッドに忍び寄った彼は、その白く輝く気高い魂に牙をむく。首筋に噛み付こうとするその瞬間、一瞬の隙をついて少女は逆に彼を押し倒して、首筋に牙を穿つ」
「はい?」
その説明を聞いた瞬間、思わず疑問が飛び出た。
え、何で聖なる少女が牙なんて持ってるの。ってか堕天使も牙なんて持ってないよね?それじゃまるで・・・
私の疑問を察した笹原さんは「言い忘れてたわ」とそもそものコンセプトを話し始めた。
「幻想世界がテーマだけど、今回堕ちた天使はヴァンパイアに見立ててるのよ。悪魔よりも分かりやすいでしょ、牙があった方が。自分と同じ存在に黒く染める。その意味を分かりやすく具現化する為に、無垢な少女を同じ種族・・・つまりヴァンパイアにしてしまえって意味に表現したの」
な、成るほど・・・確かにその方がこの短い時間でイメージが伝わりやすいかも。
「でもその純白な聖女が、何で牙なんて持ってるんです?」
聖女は清らかな存在なはずなのに、意味がわからない。
その補足説明をしてくれたのは、黙って聞いていたK君だった。
「麗、2番目の歌詞読んだ?」
「え?あ~ううん、まだだ」
2番目に謎が隠されているのかな。とりあえずまだ手に持っていた歌詞の続きを読み始めた。
◆ ◆ ◆
『――朽ちた螺旋階段 あの場所へは辿り着けない
光さえ届かない暗闇に支配されし迷宮に
共に、堕ちて
心も体も全てを奪い去って僕色に染めてしまえと
獰猛な獣が暴れだした
少女の仮面を脱いだ君は色香を放ち僕を惑わす
穢れなき聖女は黒い羽を広げて、悪魔の微笑みを浮かべるよ
隠された本性、妖艶な眼差し
捕らわれたのは僕の方だった
欲しいのなら求めればいい
欲しいのなら奪えばいい
血の枷で自由を封じてしまえ
茨の檻に閉じ込め、耳元で愛を囁け
闇に満ちるこの場所が僕らの楽園――』
「『・・・魂さえも僕のもの』・・・うーん、ダーク・・・」
えーと、つまり。
聖なる少女を落とすはずだったけど、逆に聖女の仮面を被っていただけで彼女は初めから同じ存在だった?少女の仮面を脱いだ彼女は妖艶な眼差しで微笑む・・・って、とんだ悪女だったんじゃ!?
「結局手に入れようとして逆に手に入れられちゃったのは彼の方って話。純白な少女だと思っていた彼女は初めから無垢でも聖女でもなかったんだよ。それは彼が見ていた幻想で理想だっただけで、本当はもっと身近な存在で、手を伸ばせば手に入る場所にいたのになかなかそれをしなかった男が、ようやく動いたって話?」
「え、最後に疑問系で訊かれても・・・」
困るんだけど。
まあ、一応両想いで結ばれるって事なのかなぁ~。
「だから彼女も牙を持ってるんですか?」
目線を紙から離し笹原さんに向けると、理知的な眼鏡の奥で笑った気配がした。「正解」とウィンクされる。うーん、さり気ないウィンクが決まる人って珍しいよね。
「そう。彼女も同じく堕ちた存在。奪おうとした彼を逆に襲うのよ。だから、麗さんにはKを襲ってもらうから」
「・・・・・・は?」
がばっと後ろを振り返ってK君を眺める。私がされたように、上から下まで黒ずくめのK君の舐めるように凝視して、微妙に眉を顰められたけど気にしない。K君の衣装は堕天使というより確かにどこかヴァンパイアチックだ。ヴァンパイアが参加する夜会、って感じにも見える。マントを脱いだ下は丈の長いベストで複雑なベルトとか鎖がじゃらじゃらつけられていて、そして白いシャツは襟のボタンが第3まで外されており、今は軽く細いリボンのタイで結ばれているけど、それを解いたら簡単に首元が晒される。
成るほど、これはこれでエロいわ。
何だかさっきの歌声も思い出してしまって、つい顔をそむけてしまう。って、そんなK君を私が襲う役って言ったよね!?ぼふ、と顔が赤く染まり、笹原さんに挙動不審気味に詰め寄った。
「おおお、襲う、襲うって私がですかあああ!?」
笹原さんが若干引き気味なのは気付かないフリだ。
「別に大したことじゃないでしょ。夜這いをかけた男を逆に押し倒すくらい」
けろり、とK君が問題発言をマイペースな口調で言った。
夜這いをかけられたこともなければ男性を押し倒したこともない私に、大したことじゃないってどうして言えるんですかね?
「K、それは大したことあると思うけど・・・」
苦笑いをしながらQさんが窘める。そうだよ、もっと言ってやって!
「そうだよ、そんな押し倒すなんて真似いきなりしろとかって言われても・・・!」
覚悟を決めたばかりなのに、予想外の展開に思わず弱音が零れた。ああ、何て展開なんだ!
「何言ってるの。麗だって自分から誘うことあるでしょ?」
「・・・え?」
何を言い出すのかとぎょっとすると、K君はごく普通に、まるで世間話をするように、訊ねてきた。
「彼氏を誘惑しようとか、自分から誘ったりするでしょ。そんな感じでいいんじゃない?」
「ちょっ・・・!?さ、誘うとか、しない、しないよ私!」
真っ赤になって否定すると、心底不思議そうな顔で「そうなの?」と逆に問われた。何これ。いきなりまた羞恥プレイに入ってない!?
「東条さんとは付き合ったばかりだから?じゃ前の彼氏ならどうなの」
「えっ・・・」
じっとK君、Qさん、そして成り行きで見守っている笹原さんの視線に逃げるように思わず視線を逸らせてしまった。その行動一つで、余計なところで勘が鋭いK君と恐らくQさんは顔を見合わせて「マジで?」と確認するように訊ねてきた。
「それって前の彼氏にも自分から強請らなかったのか、それとも彼氏がいなかったのか。どっち?」
K君の追及から逃げるように耳を塞ぐ。
「黙秘ー!黙秘する!!」
黙秘と言っているのに、やはりK君はエスパーなのかもしれない。既に自分の中で答えを見つけたらしく。Qさんに「今彼が初彼みたいだね」と語りかけていた。もう、何でそう勘がいいの!私が駄々漏れなの!?
「ってことは麗まだ処・・・」
「ストップ!それ以上ここで言ったらぶん殴るわよ」
K君の口を両手で押さえてジロリと睨みつけるように見据えた。こんな公衆の面前で何を言い出すのかこのマイペース人間は。
「麗ちゃん、鼻。鼻も押さえてるから。K呼吸できないから」
やんわりとQさんに手を離すように言われて、渋々解放する。む、あまり苦しそうに見えませんよ?
「笹原さん、ちょっといいですか」、と照明の人から呼ばれたのを見て、私も2人に「お手洗いに行って来る」と一言告げてこの場を離れた。一人になれるのがトイレだなんて、まるで東条さんの所で働き始めた時みたいだ。とりあえず、撮影は逃げないけど、その前までに何とかこの乱れまくった心を落ち着かせたい。一先ず近くにいるスタッフにトイレを案内してもらうことにした。
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ふう、と小さく息を吐いたQは中性的な美貌に翳りを見せた。
「参ったね・・・まさか生娘とは・・・厄介なことになりそうじゃないか」
自分より若干目線の低いKを見つめる。どこまでもマイペースなKはまるで動じていないようだった。むしろ"厄介事"に興味すらなさそうな表情で、小さく「ふーん?」と呟いただけだ。思わずQは怪訝な顔つきでKを見据える。
「ふーんって言うが、一番面倒事に巻き込まれる確率が高いのはお前だぞ?あの人が動いた訳がようやくわかったが。まさか彼女がね・・・」
ちらり、と目線だけで周りを窺った。忙しなく動く人と、撮影の準備の最終段階を確認する人で賑わいを見せている室内は、自分達の会話を盗み聞きする暇な人間はいないようだった。
「まだリストも正式じゃないし確定していないけどね」
「命令されたら?どうするつもりだ、K」
声を潜めて訊ねた問いに、Kはたった一言「さあね?」とだけ告げて傍に置いてあったギターを奏で始めた。その様子を眺めたQは小さく嘆息をすると、役者が揃うのを腕を組んだままじっと待ち続けたのだった。
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AddiCtにモデルはいますか?と数名の方に訊かれましたが、今の所はいません。むしろ、どなたかヴィジュアル系にお詳しい方、オススメなバンドを教えてください・・・今更ですがちょっと勉強しておこうかと!(遅いよ
そして明日から週末だけ実家に帰るので、更新が出来るかわかりません。でも一応パソコンは持って行きます!出来ない可能性があることを先にお伝えしておきます。すみません!><
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