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鐘の音が鳴る頃に
第30話
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いくら美来を待っていても、美来は教室に戻ってこなかった。荷物やランドセルはさっき立ち上がった時に一緒に持っていってしまっていた。もう既に帰っているのかもしれない。
もしかしたら僕は帰って来ないことをわかっていて待っているのかもしれない。これは僕が引き起こしたことだ。
見回りの先生が教室に入ってきた時に僕は学校を出た。時間は既に六時半を回っていた。
美来がやったとは思えない。あんなに優しくて、早熟な彼女がそんなことは、決してしないだろう。それだけは確信している。
外は暗く、冬を迎えたといってもおかしくないほど冷え込んでいた。
そうして無気力な状態でゆっくりと家に帰ると、リビングの机には、僕の気持ちとは正反対の彩り豊かな夕飯が並べられていた。
「お兄ちゃん、おかえりなさい」
優香はいつものように元気だったが、反応してあげることができなかった。
「ご飯いらないの?」
階段を登ると、下から母の声が聞こえてくる。それに応える気力もなく部屋に入った。
ベットの上で考え事をしていた。こんなに悩んだのはこっちの世界に来た時以来だろう。
僕は枕を手に取り、思い切り殴った。何度も、何度も、何度も。
わかっていた。他人のせいにしていた。そんな力はないことも理解していたはずだった。本当はわかっていたんだ。「誰が」とかではなく、いじめや争いは無くならないことを。わかっていた。
少なくとも、体育の授業で美来と話したときから理解していた。それでも、自分なら石神よりももっと上手くやれると思っていた。何よりも、こんな歪な統治は嫌だった。見たくなかった。
それでも結果的には、クラスを崩壊させ、美来を巻き込み、仲の良かったクラスが徐々に崩壊していってしまっている。
無知な僕の責任だ。綺麗事だった。恐怖以外に統治する方法はなかった。だって恐怖とは…。先生は…。
「お兄ちゃん…」
優香の声がして、その場で固まってしまった。
「さっきね、美来ちゃんが泣いてた所見ちゃったの…」
黙って聞いていたが、心臓の鼓動が、耳から聞こえてくるのがわかる。
「心配で美来ちゃんに話しかけて、そしたら美来ちゃん『喧嘩じゃなくて、嫌われることしちゃった』って言ってて、悲しいお顔したの。だから、お兄ちゃん、美来ちゃんのこと許してあげて…」
美来が葵に嫌がらせをすることは絶対にない。今の話を聞いても僕はそう思っている。涙を拭き取り顔を叩き、部屋のドアを開ける。
「お兄ちゃん…」
泣いている優香がドアの前に立っていた。優香の頭を撫でそのまま抱きしめた。
「美来は何も悪くないんだよ。お兄ちゃんが悪いんだ。今から美来の家に謝りに行ってくるから、大丈夫」
「仲直りできる?」
「うん、美来とお兄ちゃんは友達だから」
「うん、優香も美来ちゃんとお友達だよ」
優香は笑顔を見せたが、最後に目元に溜まっていた涙がこぼれ落ちていく。もう一度優香を 抱き寄せて、僕は美来の家に向かった。
美来の家につき、震えた指でインターホンを押した。
「はい」
美来がインターホン越しに出てくれた。
「どうして疑われるようなことをしたんだよ」
僕は近所のことなど考えずに叫んでいた。
だが美来は無言だった。
「美来がやったなんて微塵も思ってない。僕のせいで…」
「愛斗くんは来てくれたでしょ」
美来の声はとても冷静で、安らかだった。
「友達だって言ってくれたでしょ。だから大丈夫」
大丈夫なはずがない。みんなの矢印が美来に向かっている。優香がうけた苦しみと同じだ。そして美来がやってしまったことは取り返しのつかないことだ。
涙が止まらなかった。上手く話せなかった。
「愛斗くん」
そんな僕とは裏腹に美来が落ちついて話す。
「ありがとう…」
そこからは、何度叫んでも返事は返ってこなかった。
もしかしたら僕は帰って来ないことをわかっていて待っているのかもしれない。これは僕が引き起こしたことだ。
見回りの先生が教室に入ってきた時に僕は学校を出た。時間は既に六時半を回っていた。
美来がやったとは思えない。あんなに優しくて、早熟な彼女がそんなことは、決してしないだろう。それだけは確信している。
外は暗く、冬を迎えたといってもおかしくないほど冷え込んでいた。
そうして無気力な状態でゆっくりと家に帰ると、リビングの机には、僕の気持ちとは正反対の彩り豊かな夕飯が並べられていた。
「お兄ちゃん、おかえりなさい」
優香はいつものように元気だったが、反応してあげることができなかった。
「ご飯いらないの?」
階段を登ると、下から母の声が聞こえてくる。それに応える気力もなく部屋に入った。
ベットの上で考え事をしていた。こんなに悩んだのはこっちの世界に来た時以来だろう。
僕は枕を手に取り、思い切り殴った。何度も、何度も、何度も。
わかっていた。他人のせいにしていた。そんな力はないことも理解していたはずだった。本当はわかっていたんだ。「誰が」とかではなく、いじめや争いは無くならないことを。わかっていた。
少なくとも、体育の授業で美来と話したときから理解していた。それでも、自分なら石神よりももっと上手くやれると思っていた。何よりも、こんな歪な統治は嫌だった。見たくなかった。
それでも結果的には、クラスを崩壊させ、美来を巻き込み、仲の良かったクラスが徐々に崩壊していってしまっている。
無知な僕の責任だ。綺麗事だった。恐怖以外に統治する方法はなかった。だって恐怖とは…。先生は…。
「お兄ちゃん…」
優香の声がして、その場で固まってしまった。
「さっきね、美来ちゃんが泣いてた所見ちゃったの…」
黙って聞いていたが、心臓の鼓動が、耳から聞こえてくるのがわかる。
「心配で美来ちゃんに話しかけて、そしたら美来ちゃん『喧嘩じゃなくて、嫌われることしちゃった』って言ってて、悲しいお顔したの。だから、お兄ちゃん、美来ちゃんのこと許してあげて…」
美来が葵に嫌がらせをすることは絶対にない。今の話を聞いても僕はそう思っている。涙を拭き取り顔を叩き、部屋のドアを開ける。
「お兄ちゃん…」
泣いている優香がドアの前に立っていた。優香の頭を撫でそのまま抱きしめた。
「美来は何も悪くないんだよ。お兄ちゃんが悪いんだ。今から美来の家に謝りに行ってくるから、大丈夫」
「仲直りできる?」
「うん、美来とお兄ちゃんは友達だから」
「うん、優香も美来ちゃんとお友達だよ」
優香は笑顔を見せたが、最後に目元に溜まっていた涙がこぼれ落ちていく。もう一度優香を 抱き寄せて、僕は美来の家に向かった。
美来の家につき、震えた指でインターホンを押した。
「はい」
美来がインターホン越しに出てくれた。
「どうして疑われるようなことをしたんだよ」
僕は近所のことなど考えずに叫んでいた。
だが美来は無言だった。
「美来がやったなんて微塵も思ってない。僕のせいで…」
「愛斗くんは来てくれたでしょ」
美来の声はとても冷静で、安らかだった。
「友達だって言ってくれたでしょ。だから大丈夫」
大丈夫なはずがない。みんなの矢印が美来に向かっている。優香がうけた苦しみと同じだ。そして美来がやってしまったことは取り返しのつかないことだ。
涙が止まらなかった。上手く話せなかった。
「愛斗くん」
そんな僕とは裏腹に美来が落ちついて話す。
「ありがとう…」
そこからは、何度叫んでも返事は返ってこなかった。
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