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支配の崩壊
第12話
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夏休みが始まる前、テストが返却された。全教科八〇点代を取り、少し安心した。間違って満点なんか取った日には、いよいよ疑われるだろう。この頃の僕の成績はひどいものだった。
テストが終わり、夏休みに向けてクラス中が浮き足立っていた。僕が経験した一回目の六年生は、一年を通して殺伐としていた気がするが、最近では少しだけ明るくなったのを感じる。
しかし、石神の性格は変わらない。この三ヶ月で、呼び出しを受けていない生徒はいなくなっていた。
校外学習の日から、僕は美来のようにいないもののように扱われ、一度だけ呼び出されたことはあったが、その時もすぐに解放された。
今学期最後の授業で、「将来の夢」について話し合うことになった。小学校の卒業が近づき、将来のことを生徒達が考える機会だ。近くの席で班を作り、各々の夢を語り合う。
石神は気怠そうに、教卓の横に椅子を置き、座りながら目を瞑っていた。石神の監視がないとみると、クラス中が少し騒がしくなる。
「愛斗、将来何になりたいの?」
「教師かな」
理樹は少し驚いた表情をしている。周りの班員も「マジで」という顔をした。
「あの先生見て教師になるのかよ…」
「あの先生見たからだよ」
僕らは小声で、聞こえないように話をする。
「小学校の先生?」
「うん。子供達を導きたいんだよ」
二十代の時の気持ちを話してしまった。
「でもさ、給料は低いんじゃない?」
理樹は無邪気にそう言った。
「そうかもね。でも校長先生とかになれば、結構もらえると思うよ」
僕は親指を立て、笑顔で言った。
「理樹は何になるの?」
「もちろん、野球選手!松本みたいなすごいピッチャーになるんだ。まなとは、野球で好きな選手いない?」
正直、野球にはあまり興味がなかった。話を合わせるために、すごく有名な選手を言った。
「大川翔太とか?」
「誰それ、どこの球団?」
誤って、二〇二〇年のメジャーリーガーを言ってしまった。当然今はまだ、中学生か高校生だろう。
「二軍の選手なんだよ。お父さんの知り合いで」
「へー、お父さんは野球やってるの?」
話題が切り替わりほっとする。
「いや、同級生だったかな?」
「それじゃ、俺らみたいな感じか」
理樹はこっちを見て笑っている。
「理樹ならなれるよ」
「愛斗も教師になって、あいつより偉くなれよ」
二人で、眠っている石神を見て小さく笑った。
「夏休み、みんなで遊ぼうよ」
「いいね、秘密基地作ろう!」
僕らは向かい合い、今度は何も気にせずに笑いあった。
それから下校の時刻になり、僕は拓哉と二人で教室を出た。理樹と孝彦は、家の方向が違うため、その場で別れた。
「拓哉、夏休み理樹たちと遊ぼうよ」
「いいよ。土日以外ね」
クラブの活動があるのだろう。
「理樹たちも野球じゃない」
「そっか。あ、愛斗イーグルまだ入らないのかよ。キーパーやってる子、三年生なんだよなー」
イーグルとは、拓哉が所属するサッカーチームだ。
僕がこの後の人生で、サッカーをやる事はなく、中学に上がって部活でバスケットボールを始める。
バスケットボールは、二〇二〇年の頃には、かなりメジャーなスポーツになっているのだが、今はまだ、サッカーや野球に比べてプレー人口は多くない。小学校のバスケットボールのクラブは、地元には一つもなかった。
「実はさ、バスケに興味あって…」
「え、まじ?」
拓也は驚いた表情を向ける。
「ここら辺にバスケできるところはあんまりないんだけど、中学からやろうかなって」
少し申し訳なく思った。
「よかった。愛斗絶対スポーツやった方がいいと思ってたんだよ」
意外だった。少しがっかりすると思ったが、本気で応援してくれている。
「じゃ、夏休みは中学に向けて特訓だな」
「キーパーやってほしいだけだろ」
拓哉の背負っているランドセルを軽く叩いた。
「バレた。じゃ、両方特訓だ」
理樹が将来どうなるかは知らない。拓哉は大手の企業に入社し、独立リーグでプレーしていると耳にしたことがある。こんなにも多くの時間を共に過ごしているにも関わらず、将来はほとんど関わることはない。それを思うと、少しだけ寂しい気持ちになった。
せっかく過去に戻れたんだ。正直、今は精神年齢が合わない子がほとんどだけど、思い出話を持ち帰ろう。元の世界に戻った時に、本当の同窓会を開く。そうしたら持ち帰った記憶で、僕らはまたこの頃に戻れる。綺麗な思い出に替えるために、この一年間戦わなくてはならない。
夏休みが始まる。クラスのみんなはまだ石神を恐れていた。だけど少しずつだが、状況が変わってきたのがわかる。僕の姿をみて、戯れやふざけ合いは多くなってきている。だが、石神を目の前にすると萎縮してしまう子がほとんどだ。どうにかして、クラスで立ち向かいたいのだが。
美来や僕のように振る舞えれば、石神は手を出してこない。従順な生徒に強く当たるのは、教師としてストレスや不安を抱えている証拠でもある。
辞職させるためには、クラスのみんなにも反発してもらわなくてはならない。
夏休みの間は、なるべくクラスメイトと会い、仲良くなる必要があった。そうすれば僕のこの計画に賛同してくれるだろう。今のクラスももちろん救いたい。だが、辞職させる主な理由は、七年後の生徒の自殺を止めることだ。
そういえば、『過去に石神のクラスから自殺者が出ている』とニュースが流れていたけれど、この時代よりも後に起こることなのだろうか。もしそうなら、二人の生徒を救うことにもなるだろう。
テストが終わり、夏休みに向けてクラス中が浮き足立っていた。僕が経験した一回目の六年生は、一年を通して殺伐としていた気がするが、最近では少しだけ明るくなったのを感じる。
しかし、石神の性格は変わらない。この三ヶ月で、呼び出しを受けていない生徒はいなくなっていた。
校外学習の日から、僕は美来のようにいないもののように扱われ、一度だけ呼び出されたことはあったが、その時もすぐに解放された。
今学期最後の授業で、「将来の夢」について話し合うことになった。小学校の卒業が近づき、将来のことを生徒達が考える機会だ。近くの席で班を作り、各々の夢を語り合う。
石神は気怠そうに、教卓の横に椅子を置き、座りながら目を瞑っていた。石神の監視がないとみると、クラス中が少し騒がしくなる。
「愛斗、将来何になりたいの?」
「教師かな」
理樹は少し驚いた表情をしている。周りの班員も「マジで」という顔をした。
「あの先生見て教師になるのかよ…」
「あの先生見たからだよ」
僕らは小声で、聞こえないように話をする。
「小学校の先生?」
「うん。子供達を導きたいんだよ」
二十代の時の気持ちを話してしまった。
「でもさ、給料は低いんじゃない?」
理樹は無邪気にそう言った。
「そうかもね。でも校長先生とかになれば、結構もらえると思うよ」
僕は親指を立て、笑顔で言った。
「理樹は何になるの?」
「もちろん、野球選手!松本みたいなすごいピッチャーになるんだ。まなとは、野球で好きな選手いない?」
正直、野球にはあまり興味がなかった。話を合わせるために、すごく有名な選手を言った。
「大川翔太とか?」
「誰それ、どこの球団?」
誤って、二〇二〇年のメジャーリーガーを言ってしまった。当然今はまだ、中学生か高校生だろう。
「二軍の選手なんだよ。お父さんの知り合いで」
「へー、お父さんは野球やってるの?」
話題が切り替わりほっとする。
「いや、同級生だったかな?」
「それじゃ、俺らみたいな感じか」
理樹はこっちを見て笑っている。
「理樹ならなれるよ」
「愛斗も教師になって、あいつより偉くなれよ」
二人で、眠っている石神を見て小さく笑った。
「夏休み、みんなで遊ぼうよ」
「いいね、秘密基地作ろう!」
僕らは向かい合い、今度は何も気にせずに笑いあった。
それから下校の時刻になり、僕は拓哉と二人で教室を出た。理樹と孝彦は、家の方向が違うため、その場で別れた。
「拓哉、夏休み理樹たちと遊ぼうよ」
「いいよ。土日以外ね」
クラブの活動があるのだろう。
「理樹たちも野球じゃない」
「そっか。あ、愛斗イーグルまだ入らないのかよ。キーパーやってる子、三年生なんだよなー」
イーグルとは、拓哉が所属するサッカーチームだ。
僕がこの後の人生で、サッカーをやる事はなく、中学に上がって部活でバスケットボールを始める。
バスケットボールは、二〇二〇年の頃には、かなりメジャーなスポーツになっているのだが、今はまだ、サッカーや野球に比べてプレー人口は多くない。小学校のバスケットボールのクラブは、地元には一つもなかった。
「実はさ、バスケに興味あって…」
「え、まじ?」
拓也は驚いた表情を向ける。
「ここら辺にバスケできるところはあんまりないんだけど、中学からやろうかなって」
少し申し訳なく思った。
「よかった。愛斗絶対スポーツやった方がいいと思ってたんだよ」
意外だった。少しがっかりすると思ったが、本気で応援してくれている。
「じゃ、夏休みは中学に向けて特訓だな」
「キーパーやってほしいだけだろ」
拓哉の背負っているランドセルを軽く叩いた。
「バレた。じゃ、両方特訓だ」
理樹が将来どうなるかは知らない。拓哉は大手の企業に入社し、独立リーグでプレーしていると耳にしたことがある。こんなにも多くの時間を共に過ごしているにも関わらず、将来はほとんど関わることはない。それを思うと、少しだけ寂しい気持ちになった。
せっかく過去に戻れたんだ。正直、今は精神年齢が合わない子がほとんどだけど、思い出話を持ち帰ろう。元の世界に戻った時に、本当の同窓会を開く。そうしたら持ち帰った記憶で、僕らはまたこの頃に戻れる。綺麗な思い出に替えるために、この一年間戦わなくてはならない。
夏休みが始まる。クラスのみんなはまだ石神を恐れていた。だけど少しずつだが、状況が変わってきたのがわかる。僕の姿をみて、戯れやふざけ合いは多くなってきている。だが、石神を目の前にすると萎縮してしまう子がほとんどだ。どうにかして、クラスで立ち向かいたいのだが。
美来や僕のように振る舞えれば、石神は手を出してこない。従順な生徒に強く当たるのは、教師としてストレスや不安を抱えている証拠でもある。
辞職させるためには、クラスのみんなにも反発してもらわなくてはならない。
夏休みの間は、なるべくクラスメイトと会い、仲良くなる必要があった。そうすれば僕のこの計画に賛同してくれるだろう。今のクラスももちろん救いたい。だが、辞職させる主な理由は、七年後の生徒の自殺を止めることだ。
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