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第2章

第59話:筆頭宮廷魔法師

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 ――翌日。

 フィアを送り届けた俺とゼノアは、一緒に学院に向かっていた。
 学院の正門が見えると、そこには一台の馬車があった。

 あの紋章は……

 そう思っていると馬車の扉が開き下りてきた。
 下りてきたのは勿論――

「やっぱりクレアか」
「うむ。ゼノアじゃの」

 ゼノアも同じことを思っていたようだ。
 俺とゼノアの声に気が付いたクレアがこちらに振り返った。

「あっ、アキトさんにゼノアさん! おはようございます!」
「おはようクレア」
「クレアおはようなのじゃ」
「一緒に行きましょう」
「ああ」
「うむ」

 そのまま俺とゼノアはそのままクレアと共に教室へと向かった。
 向かう途中、聞こえてくるのは……

「アイツだぞ。なんかすごい魔法を使ったっていうやつ」
「聞いた聞いた。でもインチキって噂もあるみたいだ」
「マジかよ」

 ……うん。そこまで気にする必要はなかったみたいだ。

 別に俺の事をインチキ呼ばわりするなら構わないが、身内や友達を馬鹿にされていたら少しイラついていた。
 教室に着くと、みんなが挨拶をしてくる。

 なにかと魔法実技の授業の後、クラスメイト達から話しかけられることが多くなり、昨日の今日で打ち解けていた。

「今日は王国の筆頭宮廷魔法師様が直々に俺達に魔法を教えてくれるらしい!」
「本当か!?」

 そんな会話が聞こえてきた。
 気になった俺は隣にいるクレアに聞いてみた。

「なあクレア」
「なんですか?」
「さっきからみんなが言っている筆頭宮廷魔法師っていうのは?」
「そういえばアキトさんはファナティオに会ってなかったですね」
「ファナティオ?」

 俺はクレアが言った人名を聞き返した。

「はい。先ほど噂になっている筆頭宮廷魔法師の人ですよ。魔法の扱いではこの国一ですよ」

 えっへん、と誇らしげに胸を張るクレア。
 そうなのか。

「でも何故王城で会わなかったんだ?」

 王城に行っていたから会っていても可笑しくはないはず。
 だが答えはすぐにわかった。

「ファナティオは遠方の方にお仕事で行っており、つい最近帰ってきたばかりなんですよ」
「なるほどな」

 しばらくすると担任のザインがやってきた。

「みんな席に着け~」

 ザインが来たことで全員が自分の席に座る。
 全員が座ったことを確認したザインは口を開いた。

「知っている人もいると思うが、今日は外部から魔法の講師を呼んでいる。筆頭宮廷魔法師のファナティオさんだ」

 すると教室から歓喜の声が上がる。

「ファナティオ様がくるのか!」
「世界でも数人しかいない指折りの魔法士だ」
「そんな人から授業を受けられるとはな~」

 話を聞く限りファナティオさんというのは相当な魔法の使い手らしい。
 俺も何か学びたいところだ。

 授業が始まった。

「では講師のファナティオさんだ。どうぞ」
「失礼します」

 教室の扉が開き入ってきたのは、長い金髪の美人であった。
 俺達の前に立つと自己紹介を始めた。

「始めまして。今回外部講師をやらせていただきます、筆頭宮廷魔法師、ファナティオ・アグレシラといいます。本日はよろしくお願いします」

 お辞儀をするファナティオ。顔を上げたファナティオと一瞬目が合った気がした。
 気のせい、だよな?
 気のせいだろう。
 ファナティオの挨拶に俺達も「お願いします」と返事を返した。

 ザイン先生が口を開いた。

「ではファナティオさん、お願いします」
「はい。それではまず、魔力制御に関してです」

 みんなが「魔力制御?」と疑問の声を上げる。

「あの、何故魔量制御なのでしょうか?」

 一人の男子がファナティオへと質問した。

「魔力制御。それは魔法を扱う上でとても重要な事です。何故重要なのか? わかる人はいますか?」

 教室の中を見渡すファナティオ。
 手を上げたのは俺の隣にいるクレアのみ。ファナティオがクレアを指した。

「ではクレア様」
「はい」

 席を立ちを口を開く。

「魔力制御は魔法のコントロール、魔力量を上げるのにとても重要な行いです。魔力の制御が出来なければより上位の魔法行使が難しくなるからです」
「その通りです。だから魔力制御はとても大事なのです。では魔法とはなんですか? わかる人」
「はい」

 手を上げたのはクラスメイトの男子、アウストだった。

「アウストと言います。魔法は不可能を可能にするものです」
「違います。いや、不可能を可能にする、と移転に関していえばその通りですね。他に誰かいますか?」

 俺は挙手する。

「では君。名前も一緒に」
「はい。アキトです。魔法は己のイメージを具現化することのできるものであり、不可能を可能にするもの」
「イメージ、ですか……」
「はい。どんな魔法でもイメージさえできていれば詠唱など不要です」
「どんな魔法でも詠唱が不要?」

 俺はファナティオの返しに「はい」と肯定し続ける。

「イメージさえできていれば魔法は詠唱無しで行使が可能です。ですが、イメージ不足ですと詠唱時よりも魔法の威力は激減してしまい、使用魔力量も多くとられてしまいます」
「……ではあなたは全ての魔法を無詠唱で扱えるのですか?」
「一通りは出来ますね。要は明確なイメージさえできれば魔法は無詠唱で扱えるという事です」

 そう言って俺は席に着いた。
 隣に座るゼノアも「その通りじゃな」と頷いていた。
 クレアや他のクラスメイト達も唖然と言った感じであった。

「そうですか。では何か見せていただけますか?」
「いいですよ。ザイン先生、ここでいいのですか?」
「いや、訓練場でやるとしよう。その方がファナティオさんもやりやすいでしょうし」
「そうですね」

 ファナティオも了承したことで、俺達は訓練場へと移動をした。
 訓練場に到着してさっそく、ファナティオが俺に向かって口を開いた。

「ではアレに向かって魔法を放ってください」

 そういってファナティオは訓練場に設置されている的を指差した。

「魔法は?」
「なんでもいいです。全力でやりなさい」
「……いいの?」

 俺はクレアの方を振り返る。

「ファナティオ、流石に全力は……」

 俺の魔法がどれだけヤバいかを知っているクレアは止めようとする。

「構いません。あれだけ言うのです。どれだけ凄いのか見てあげますよ」

 なんか上から目線なんだが……まあいいか。

「あの、アキトさん」
「なんだ?」
「せめて威力だけは調整してくださいね?」
「わかってる。学院を消し飛ばしたくないからな」
「は、ははっ……た、頼みましたよ?」
「ああ」

 俺は的から20メートル離れた場所に立たつのだった。


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