KAKERU 世界を震撼させろ

福澤賢二郎

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駆の章

ナイジェリア戦 ハーフタイム

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《中澤裕太》
カメラを構えていた。
日本選手が控室へ行くシーンをおさめていた。
フレームに空山隆之介を捉える。

「よし、まだ、死んじゃいない」

その時、隣の外国人記者が話し掛けてきた。
「ユウタ、今日の日本は勝てないな」
「何故?」
「中盤がオニエに征服されてしまったからさ」
「日本は抉じ開ける」
「いや、無理だな。日本語には個人の力で打開する選手がいない」
「空山隆之介がいる」
「彼は凄いが、耐えきる力であって打開する力は無い」
「この前のシュートを見なかったのか?」
「見たよ。でも、あんなのがそう簡単に決められるわけがない。もし、出来れば、世界最高の選手に名乗りをあげる事になるさ。でも、現実的には無理だ」
「そうかもしれないけどさ」

それでも、中澤は信じたかった。

《宇垣悠里》
スタジオの大居正広からふられる。
(悠里ちゃん、日本選手の様子はどう?)
「宇垣悠里です。今、日本選手は控室に戻って行きましたが、中盤の選手に疲れた様子が見られました。オニエ選手を相手にするのは相当に疲れると思います。後半早々に新たな選手が投入されると思います」
(名波さんはどうなの?)
スタジオにはかつての日本代表だった名波が来ていた。
(そうですね、日本は早く追いつきたいという思いはあるはず。僕も選手交代を起点として仕掛けてくると思いますよ)
(その選手は?)
(やっぱり、空山隆之介ですかね)
宇垣悠里は黙っていられずに介入してしまった。
「そうですよね。空山選手の世界の壁を壊そうと立ち向かう姿は感動しますよね」
(悠里ちゃん、今は名波さんが話す番だから)
「あ、すみません」
(宇垣さん、空山選手はまだ、一試合だけだから本物かどうかはこれからだと思いますよ)
「そうですよね。でも、期待せずにはいられないんです」
大居正広は大笑い。
(もう、悠里ちゃんは恋しちゃってるよ)
「そんな事、無いです。頑張れ、日本!それではスタジオにお返しします」
宇垣悠里の鼓動が速くなっていた。
空山隆之介の戦う顔、笑う顔、色々と浮かんでしまう。

《西島秀人》
後半戦が始まり、選手達がそれぞれに散っていく。
必ずナイジェリアの運動量が落ちるはずだ。
西島はそこで選手交代を行うつもりだった。
一人は大海信吾。
二人目は乾貴一。
三人目は決めていない。
空山隆之介が視界の端に入る。
出したいという欲求が湧く。
トレーナーの緒方を呼んだ。
「なあ、緒方さん、空山を出したいんだが」
「駄目じゃ。疲れが抜けておらん。アルゼンチン戦はいいのか?」
「ここで落とせない」
緒方は目を瞑り、腕を組んだ。
「十五分じゃ」
「ありがとう。緒方さん」
決めた。残り十五分で一点差なら空山隆之介で行く。

後半戦が始まった。
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