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キャットウォークから降りてきた兄妹は、客商売をするという風でもなく隠し場所へと向かう。工業用アルコールを作る機械を退かし、蒸留酒入のドラム缶を持ってきた。
「あー、おめぇ、タンクが錆びてんじゃねぇか……」
ガウチョは、転がされるブリキがきれいでないことを見て、文句を言った。
瞬間、数発の鉛がドラム缶に穴を開ける。
「あ?」「おい」
「ヒッ!」
銃声と同時にサムや他の兄に凄まれ、ガウチョはギャングらしくもない悲鳴を上げて後ずさった。本職ほど度胸がないせいか、どうしても下働き止まりである。
そんな都合はさておき、足元にはゴロンと缶が転がった。これ以上余計な言葉を発せば、こうなる運命だぞとばかりに酒を放出している。透明な液体が赤々と染まっているように見えた。
「一緒に転がりたくなけりゃ、黙って買取りな」
「は、はいぃぃッ……」
以前にもお酒に虫が浮かんでいるなどしたが、そんなことを指摘できる状態ではない。これまで担当した同僚達がどうしてそんな粗悪な酒を買い付けてくるのかと、ガウチョは疑問だった。
しかし、その恐ろしさをこの仕事を割り当てられた即日で理解した。
「クヒュヒュ、穴空けた分はまけて上げるよ。さっさと払うもん払って消えてよ」
アンジェラに急かされるまま、ガウチョはドラム缶を転がして外のトラックへ向かった。
そんな折、車の近づいてくる音がする。1台や2台ではなく、サイレンの音も伴いながら5台ほどが向かってくるのがわかった。
「チッ! 保安官どもの手入れだ!」
「積み込め! 急げ! 急げ!」
「出せ!」
「ど畜生が!」
「クヒュヒュヒュヒュッ! ぶち込めぇ!」
大急ぎでドラム缶を乗せ終え、トラックを発車できるようにする。ジェンナ兄妹も、お金を受け取っているところへ手入れがきたものだから、冷静さを欠いてしまっていた。
お陰で、警察と撃ち合いをするのがジェンナ兄妹だけで済んだ。アンジェラなど、ツインテールを狂喜乱舞させながら反撃していた。
銃声を背にトラックは走り去り、なんとか無事今に至るというわけである。
――。
――――。
たいして長くもない話が終わり、エポナ達はジィーっとガウチョを見つめた。いや、当然、何が言いたいのかわからないわけではなかった。
「いえ、だから、取引のことを流した奴が」「まぁ、待てよ」
ガウチョが説明しようとしたところで、カポネがおどけた様子で制止した。
先程の話の中で、もしリークの件に該当するとすれば仲間の裏切りか、あるいは。という状況なので、オバニオンの部下達に配慮した形である。
「滅多なことを言うもんじゃねぇ。偶然さ。偶然、シェリーどもが取引を嗅ぎつけたのさ」
よほど間抜けでなければそのようなことはないが、ここで険悪な関係になっても仕方ないとカポネはガウチョをなだめた。
少しピリピリとした視線を向け始めていたオバニオンの部下達も、なんとか引き下がってくれた。
「えー、酒を持ちにきたんじゃねぇか? 早く行きな」
「そうだったな」
「……」
カポネに言われ、そろそろ時間もまずいとエポナは話題を流すつもりで答えた。ガウチョも、これ以上の会話はダイナマイトを投げ込みかねないと引き下がった。
エポナとガウチョが台車にビール樽を積み込み、カポネ達の取引を横目に店へと戻る。
このときは何事もなく過ぎたが、やはり綻びは生まれていた。それは徐々に解れ、穴は大きくなる。
数日後。さほどせずに、サウスサイド、ノースサイド、ジェンナ兄妹の三者による会合の場が設けられた。
「何も、この店にしなくとも……」
エポナは、厨房から酒場の方を覗き見ながらぼやいた。
どうして"フォア・デューセス"なのかと言うと、諍いのほとんどがオバニオンとジェンナ兄妹との間で発生していたからだ。トーリオ一家が仲裁に入らなければ、危うくシカゴが爆薬庫になるところだった。
だからといって、なぜ"フォア・デューセス"である理由にはなっていないが、安全性の問題などあったのだろう。コロシモから受け継いだトーリオのお店兼アジトがバレるわけにもいかない。
「ったく、一歩間違えれば北アイルランド紛争の再来だぞ」
トーリオが、上座に陣取って憤慨したように言った。
オバニオンがアイルランド人だからと例えたのだろうが、ほとんど伝わっていなかった。
「お前達だけで潰し合うのは構わないけどよ、シェリーどもに目をつけられたらこっちまで動きづらくなる」
さておいて、相談役として側に座ったカポネも文句を言った。
組織のボスに助言したり苦言を呈する相談役が、ここで煽るようなことを言うべきではないと思う。それでなくとも組織のナンバー2ともいえる立場なのだから、ほぼトーリオ一家の意向と取られても仕方ない。
「あー、おめぇ、タンクが錆びてんじゃねぇか……」
ガウチョは、転がされるブリキがきれいでないことを見て、文句を言った。
瞬間、数発の鉛がドラム缶に穴を開ける。
「あ?」「おい」
「ヒッ!」
銃声と同時にサムや他の兄に凄まれ、ガウチョはギャングらしくもない悲鳴を上げて後ずさった。本職ほど度胸がないせいか、どうしても下働き止まりである。
そんな都合はさておき、足元にはゴロンと缶が転がった。これ以上余計な言葉を発せば、こうなる運命だぞとばかりに酒を放出している。透明な液体が赤々と染まっているように見えた。
「一緒に転がりたくなけりゃ、黙って買取りな」
「は、はいぃぃッ……」
以前にもお酒に虫が浮かんでいるなどしたが、そんなことを指摘できる状態ではない。これまで担当した同僚達がどうしてそんな粗悪な酒を買い付けてくるのかと、ガウチョは疑問だった。
しかし、その恐ろしさをこの仕事を割り当てられた即日で理解した。
「クヒュヒュ、穴空けた分はまけて上げるよ。さっさと払うもん払って消えてよ」
アンジェラに急かされるまま、ガウチョはドラム缶を転がして外のトラックへ向かった。
そんな折、車の近づいてくる音がする。1台や2台ではなく、サイレンの音も伴いながら5台ほどが向かってくるのがわかった。
「チッ! 保安官どもの手入れだ!」
「積み込め! 急げ! 急げ!」
「出せ!」
「ど畜生が!」
「クヒュヒュヒュヒュッ! ぶち込めぇ!」
大急ぎでドラム缶を乗せ終え、トラックを発車できるようにする。ジェンナ兄妹も、お金を受け取っているところへ手入れがきたものだから、冷静さを欠いてしまっていた。
お陰で、警察と撃ち合いをするのがジェンナ兄妹だけで済んだ。アンジェラなど、ツインテールを狂喜乱舞させながら反撃していた。
銃声を背にトラックは走り去り、なんとか無事今に至るというわけである。
――。
――――。
たいして長くもない話が終わり、エポナ達はジィーっとガウチョを見つめた。いや、当然、何が言いたいのかわからないわけではなかった。
「いえ、だから、取引のことを流した奴が」「まぁ、待てよ」
ガウチョが説明しようとしたところで、カポネがおどけた様子で制止した。
先程の話の中で、もしリークの件に該当するとすれば仲間の裏切りか、あるいは。という状況なので、オバニオンの部下達に配慮した形である。
「滅多なことを言うもんじゃねぇ。偶然さ。偶然、シェリーどもが取引を嗅ぎつけたのさ」
よほど間抜けでなければそのようなことはないが、ここで険悪な関係になっても仕方ないとカポネはガウチョをなだめた。
少しピリピリとした視線を向け始めていたオバニオンの部下達も、なんとか引き下がってくれた。
「えー、酒を持ちにきたんじゃねぇか? 早く行きな」
「そうだったな」
「……」
カポネに言われ、そろそろ時間もまずいとエポナは話題を流すつもりで答えた。ガウチョも、これ以上の会話はダイナマイトを投げ込みかねないと引き下がった。
エポナとガウチョが台車にビール樽を積み込み、カポネ達の取引を横目に店へと戻る。
このときは何事もなく過ぎたが、やはり綻びは生まれていた。それは徐々に解れ、穴は大きくなる。
数日後。さほどせずに、サウスサイド、ノースサイド、ジェンナ兄妹の三者による会合の場が設けられた。
「何も、この店にしなくとも……」
エポナは、厨房から酒場の方を覗き見ながらぼやいた。
どうして"フォア・デューセス"なのかと言うと、諍いのほとんどがオバニオンとジェンナ兄妹との間で発生していたからだ。トーリオ一家が仲裁に入らなければ、危うくシカゴが爆薬庫になるところだった。
だからといって、なぜ"フォア・デューセス"である理由にはなっていないが、安全性の問題などあったのだろう。コロシモから受け継いだトーリオのお店兼アジトがバレるわけにもいかない。
「ったく、一歩間違えれば北アイルランド紛争の再来だぞ」
トーリオが、上座に陣取って憤慨したように言った。
オバニオンがアイルランド人だからと例えたのだろうが、ほとんど伝わっていなかった。
「お前達だけで潰し合うのは構わないけどよ、シェリーどもに目をつけられたらこっちまで動きづらくなる」
さておいて、相談役として側に座ったカポネも文句を言った。
組織のボスに助言したり苦言を呈する相談役が、ここで煽るようなことを言うべきではないと思う。それでなくとも組織のナンバー2ともいえる立場なのだから、ほぼトーリオ一家の意向と取られても仕方ない。
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