私は既にフラれましたので。

椎茸

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第4章 ユリウスの自覚(その1)

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ホテルは一角がギルバートの貸切になっており、ギルバートはマーサに短く事情を説明して、すぐに食事の準備を整えさせた。

ホテルの一室に用意されたテーブルの上に買ってきたケーキが綺麗に並べられ、ルフェルニアが渡してもらっていたディッシュも温め直されて、皿に盛られていた。

「マーサ、時間も遅いのに面倒をかけてごめんなさい。」
「とんでもございません。お気になさらないでください。」

ルフェルニアがワインを注ぎに来たマーサに声をかけると、マーサは全く気を悪くしたそぶりを見せずに笑顔で答えた。

マーサと他の給仕が後ろに下がると、ギルバートはルフェルニアに食事を促し、自分はワイングラスに注がれたワインに口を付けた。

「そういえば、本日は薬草学研究所までご足労いただいてありがとう。」
「こちらこそ、優先的に解析に回してもらえると聞いて、大変ありがたいよ。」
「今日は多くの方に挨拶を回られたようだし、お疲れではないかしら?」

ルフェルニアは、まだ夜更け、とは言わないまでも、遅い時間に押しかけてしまったことを気にしていた。

「まぁ、俺は社交が好きではないから精神的には少し疲れたが、体力的には戦場にいるわけでもないし、全く問題ない。だから、気にするな。」
「そう、ありがとう…。」

そう言って少し黙ってしまったルフェルニアを見て、ギルバートはここに至るまでの経緯を尋ねて良いものか、迷ってしまう。

元来、ギルバートは人に気を遣うことが苦手だ。ギルバートがどうすべきかと口をもごもごとさせ、変な表情をしていると、その様子を見たルフェルニアは思わず笑ってしまう。

「気を遣ってくれて、ありがとう。ギルの想像どおり、うまくお話できなかったの。」
「そうか。」
「うまくお話ができなかった、というより、することすらできなかった、というのが正しいのだけれど…。」
「なぜだ?彼は君との予定なら優先しそうに思うが。」

ギルバートはユリウスの昨日の様子を再び思い出し、不思議そうに尋ねた。

「入口で帰されてしまったの。もしかしたら、入ってきたのが私だと気づいていなかったのかもしれないけれども…。」

ルフェルニアは笑みを浮かべながら話していたが、そこで一旦呼吸を置くと俯いてしまう。

「私はユリウス様に絶対に優先してもらえるとどこかで思い込んでいたことを自覚して…、フラれたことの意味を、今更ながらに理解したの…。」

ルフェルニアは徐々に笑みを消し、最後は目に涙を浮かべながら震える声で話した。

ギルバートはルフェルニアの震える肩を見て、「この女もまた、普通の女だったのだな」と意外に思ったが、他の女性に感じる嫌悪感は全くなく、むしろ庇護欲を掻き立てられている自分に対して非常に驚いた。

「ずっと好きだったんだろう?」
「…ちゃんと、気持ちを整理できたつもりでいたけれど、気のせいだったみたい。」
「ルフェは自ら転機を作って、前を向こうとしているんだから、時間が解決してくれるさ。」
「そうね…、どちらにせよこのままではいけなかったのだから…。ギル、知り合って間もない私に、こんなに親身に接してくれてありがとう。」

ルフェルニアは不器用ながらも話しを聞いて励ましてくれるギルバートに感謝した。

「気にするな。君が俺の国の問題を解決してくれようとしたことに比べれば、全然大したことないさ。それよりも、ルフェはここにある食べ物をすべて食べるというタスクがある。それに、今日は挨拶先からもらった酒もあるからな。」

ギルバートはルフェルニアの涙が止まったのを見て、安心したように息をこぼすと、目の前のテーブルに広がるディッシュとスイーツを指さして悪戯気に笑った。

「そうだったわ!時間も遅くなってきたのに、とても背徳的な気分。」
「夜間に外出していた時点で、君にとっては十分背徳的な夜だろう?」
「確かに、間違いないわ。」

ルフェルニアとギルバートは顔を見合わせて笑うと、先ほどよりもテンポよく会話を続ける。
ルフェルニアの口には、会話の合間にするすると食べ物が吸い込まれていった。

「ルフェのどこに、そんなに食べ物が入るんだ…。」

ルフェルニアが全てを食べきったとき、ギルバートは呆気にとられたように驚いた。
ギルバートの知る女性と言えば、スイーツをテーブルいっぱいに飾ったとしても、ちっとも手を付けない人ばかりだったからだ。
ギルバートはルフェルニアを初対面のころから美味しそうに食べる女性だと思っていたが、想像以上だ。

それを聞いたルフェルニアが居心地が悪そうにするので、ギルバートは豪快に笑った。

「俺にとっては、そのくらい食べてくれた方が快い!戦場じゃ、少量の食べ物にも困るのに、貴族の女は食事を残す方が美徳と考えているのかと思うほどだからな。」

ルフェルニアはギルバートが揶揄うつもりではなく心からそう思ってくれていることが分かると、居心地の悪そうな顔を笑顔に戻す。

「私、昔から甘いものはいくらでも食べられちゃうのよね。でも、ちゃんと次の王宮の夜会では我慢するわ。」
「別に、我慢をする必要なんてないだろう。挨拶回りさえ、一緒にしてくれればな。」
「ちゃんと勤めは果たすわよ。それに、」

ルフェルニアは周りに控えている給仕と騎士を見て、声を潜めてギルバートに話しかける。

「ガイア王国の王宮のスイーツはとっても美味しいのよ。当日は私が取ってくるから、どこかバルコニーの影かどこかで、こっそり一緒に食べましょうね。」

ギルバートは、バルコニーの影に2人で隠れていれば、あらぬ噂を呼ぶのでは、と思ったが、ルフェルニアとなら、そんな噂も悪くない、と思った。

「ああ、そうだな。」

ギルバートは少しはにかむように肯定すると、部屋の時計に目を向ける。

「すっかり遅くなってしまったな。今日はホテルの一室で泊っていくと良い。」

ギルバートのひと言に、ルフェルニアは時計を見て驚いた。気づかないうちに随分と時が進んでしまっていたようだ。

(マーサには悪いけれど…今から帰ってお風呂のためにお湯を貯めるのもなぁ…。)

「甘えてばかりで恐縮だけれど…ありがとう、そうさせてもらうわ。」

ルフェルニアがそう言うと、ギルバートはマーサを呼びつけて指示を出した。

「それでは、おやすみ。良い夜を。」
「おやすみなさい。お陰様で、嫌な夢を見ないで済みそうだわ。本当にありがとう。」
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