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第4章 ユリウスの自覚(その1)
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翌朝、ルフェルニアはノア公国の馬車に乗って出勤した。
しかし、植物局前につけてもらっては、あらぬ誤解を生むと考え、王宮の外の停留所に馬車を止めてもらう。
「ギル、送ってくれてありがとう。」
「構わない。」
「今日も、挨拶回りの続きでしょう?頑張ってね。」
「そちらも、頑張れよ。それから…、」
ギルバートは、ルフェルニアがユリウスと会うことを心配に思い言いよどんだが、それをわかったようにルフェルニアは笑った。
「大丈夫よ。昨日のおかげで随分と気分転換も出来たし!それじゃあ、また近いうちに!」
ルフェルニアは元気に挨拶をすると、薄黄緑色のデイドレスを翻して王宮の中に入っていった。
ルフェルニアは今朝、マーサに支度をしてもらったが、なぜかルフェルニアのサイズに合うデイドレスを持っていたのだ。
昨日と同じ服を着ていても、あらぬ誤解を生む可能性があったので、ルフェルニアは大人しくそのデイドレスをいただくことにした。
(きっと、夜遅いのにギルバートが手配してくれたのね。ギルは本当に面倒見のいいお兄さんみたい。)
ルフェルニアは、昨日からのギルバートとのやり取りをひととおり思い出して、ひとり笑みを浮かべたが、いざ植物局の入口が視界に入ったところで、足取りが重くなってしまう。
(ユリウス様に、これからどうやって話しかけよう…。)
ルフェルニアはまだ、今後どのようにユリウスとの関係性を築いていくか、考えがまとまっていなかった。それどころか、もう一度も話しかけられないこともあるのではないか、とルフェルニアは心配していた。
しかし、後者の懸念はすぐに解消された。
ユリウスが入口で待っており、ルフェルニアを見かけた瞬間、駆け寄ってきたのだ。
「ルフェ、昨日はごめんね。ルフェが来たことに、気づいていなかったんだ。」
ユリウスはほっとしたような、そして泣きそうな顔でルフェルニアの両手をとった。
ルフェルニアも、ユリウスがルフェルニアと知ってあの態度を取ったわけではないとわかり、心から安どの息を吐いた。
「あんな遅くに急に訪ねたのです、お気になさらないでください。」
ルフェルニアは安心したためか、落ち着いてユリウスを見ることができると、ユリウスの服が昨日と同じままであることに気が付いた。
「ううん、ルフェだったら、どんなに遅くても歓迎するよ。それよりも昨日は、寮に帰っていなかったみたいだから、心配したんだよ?」
「もしかして…、一晩探してくださっていたのですか?」
「君のことが心配だったんだ。」
「ご心配をおかけして申し訳ございません…。」
「僕が好きでしたことだから、気にしないで。」
ユリウスはルフェルニアが気にしないように微笑んでみせながら、さっとルフェルニアの服装に視線を移し、すぐにそのデイドレスがルフェルニアの手持ちのものではないことに気が付いた。
(寮に帰っていなかったのに、どうして?昨日はどこにいたの?…とても聞きたいけれど、昨日の二の舞は避けないと。)
ユリウスがもやもやと迷い、むずがゆそうに口をもごもごとさせている。
暫くそのまま無言でいると、ルフェルニアは周りの目線が気になってきたので、軽く手を振りほどいて、会釈をしてからその場を離れようとした。
「ルフェ!今日の夜は僕に時間をもらえないか。」
ユリウスは長い脚ですぐにルフェルニアに追いつくと、横からルフェルニアの機嫌を窺うような声で尋ねた。
「わかりました。それでは、終業後に伺います。」
(私も、ちゃんと謝らないと。それに今度の夜会のことも含めて、ユリウス様とお話しなければならないことがあるわ。)
ルフェルニアとユリウスはそこで別れると、ルフェルニアは悶々と考えながら廊下を進んだ。
(ユリウス様のことは諦めて、距離を置かなきゃいけないことは理解しているけれど…、私たちの適切な距離って、何なのかしら?やっぱり、“普通”の距離になるためには、多少寂しくても、傷ついても、我慢するべきよね…。)
しかし、植物局前につけてもらっては、あらぬ誤解を生むと考え、王宮の外の停留所に馬車を止めてもらう。
「ギル、送ってくれてありがとう。」
「構わない。」
「今日も、挨拶回りの続きでしょう?頑張ってね。」
「そちらも、頑張れよ。それから…、」
ギルバートは、ルフェルニアがユリウスと会うことを心配に思い言いよどんだが、それをわかったようにルフェルニアは笑った。
「大丈夫よ。昨日のおかげで随分と気分転換も出来たし!それじゃあ、また近いうちに!」
ルフェルニアは元気に挨拶をすると、薄黄緑色のデイドレスを翻して王宮の中に入っていった。
ルフェルニアは今朝、マーサに支度をしてもらったが、なぜかルフェルニアのサイズに合うデイドレスを持っていたのだ。
昨日と同じ服を着ていても、あらぬ誤解を生む可能性があったので、ルフェルニアは大人しくそのデイドレスをいただくことにした。
(きっと、夜遅いのにギルバートが手配してくれたのね。ギルは本当に面倒見のいいお兄さんみたい。)
ルフェルニアは、昨日からのギルバートとのやり取りをひととおり思い出して、ひとり笑みを浮かべたが、いざ植物局の入口が視界に入ったところで、足取りが重くなってしまう。
(ユリウス様に、これからどうやって話しかけよう…。)
ルフェルニアはまだ、今後どのようにユリウスとの関係性を築いていくか、考えがまとまっていなかった。それどころか、もう一度も話しかけられないこともあるのではないか、とルフェルニアは心配していた。
しかし、後者の懸念はすぐに解消された。
ユリウスが入口で待っており、ルフェルニアを見かけた瞬間、駆け寄ってきたのだ。
「ルフェ、昨日はごめんね。ルフェが来たことに、気づいていなかったんだ。」
ユリウスはほっとしたような、そして泣きそうな顔でルフェルニアの両手をとった。
ルフェルニアも、ユリウスがルフェルニアと知ってあの態度を取ったわけではないとわかり、心から安どの息を吐いた。
「あんな遅くに急に訪ねたのです、お気になさらないでください。」
ルフェルニアは安心したためか、落ち着いてユリウスを見ることができると、ユリウスの服が昨日と同じままであることに気が付いた。
「ううん、ルフェだったら、どんなに遅くても歓迎するよ。それよりも昨日は、寮に帰っていなかったみたいだから、心配したんだよ?」
「もしかして…、一晩探してくださっていたのですか?」
「君のことが心配だったんだ。」
「ご心配をおかけして申し訳ございません…。」
「僕が好きでしたことだから、気にしないで。」
ユリウスはルフェルニアが気にしないように微笑んでみせながら、さっとルフェルニアの服装に視線を移し、すぐにそのデイドレスがルフェルニアの手持ちのものではないことに気が付いた。
(寮に帰っていなかったのに、どうして?昨日はどこにいたの?…とても聞きたいけれど、昨日の二の舞は避けないと。)
ユリウスがもやもやと迷い、むずがゆそうに口をもごもごとさせている。
暫くそのまま無言でいると、ルフェルニアは周りの目線が気になってきたので、軽く手を振りほどいて、会釈をしてからその場を離れようとした。
「ルフェ!今日の夜は僕に時間をもらえないか。」
ユリウスは長い脚ですぐにルフェルニアに追いつくと、横からルフェルニアの機嫌を窺うような声で尋ねた。
「わかりました。それでは、終業後に伺います。」
(私も、ちゃんと謝らないと。それに今度の夜会のことも含めて、ユリウス様とお話しなければならないことがあるわ。)
ルフェルニアとユリウスはそこで別れると、ルフェルニアは悶々と考えながら廊下を進んだ。
(ユリウス様のことは諦めて、距離を置かなきゃいけないことは理解しているけれど…、私たちの適切な距離って、何なのかしら?やっぱり、“普通”の距離になるためには、多少寂しくても、傷ついても、我慢するべきよね…。)
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