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第四章 富百合
6 バレてしまった
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予備校で行った自己採点では、俺はほとんど思った通りの点数を稼ぐことができていた。少なくとも、足切りの心配はしなくてよさそうである。
「俺も、多分大丈夫だ」
一緒に採点したフタケが言った。コトリもほっとした様子をしている所から見ると、まずまずの成績を残すことができたのであろう。
あとは、2次試験に向けて、ひたすら勉強するばかりである。国公立の2次試験は、2月の末から3月の初めにかけて行われるので、しばらくの間がある。
1次試験で伸び悩んだ者は、2次試験で遅れを挽回すべく最後の力を振り絞る。
俺は、1次試験でまずまずの成績だったが、2次試験で油断しては元も子もない。やはり勉強に励むことにした。
やっと心身共に、予備校生らしい生活になった。もう終盤だが。
アパートへ戻ると、ドアの前に母が立っていた。
ぎょっとした俺の気配を悟って、エイミが後ろから駆け寄ってきた。
その音を聞きつけたのだろう、気付いた時には、目の前に母がいた。
俺はひと目で用件を理解した。大学受験の件がばれたのだ。
「ひ、久しぶり。元気だった?」
「ええ、ええ。おかげさまでね。エイミ、お前も一緒に来なさい。話は中で」
母は皮肉たっぷりの口調で応じた。怖い。外は寒いのに、変な汗が出てきた。
こわばる手で部屋の鍵を開けながら、俺はエイミの表情を盗み見た。さすがに考え込む様子であった。
怖いものなしに見えるエイミでも、平静ではいられないのだろう。連帯感を覚えるが、不安にもなる。つまり、エイミの援護を期待できないということだ。
部屋へ入ると母は、ぐるりと中を見渡すなり奥へ陣取り、テーブルを挟んで俺を正面に座らせ、更にその後ろへエイミを座らせた。
エイミが定番の挨拶をしかけるのを、手で遮る。
「虚礼は結構。どうやら今度の電話は本当のことのようね。どういうことなの、ユーキ?」
「電話があったのですか」
「エイミは黙っていなさい。私はユーキに聞いているの」
エイミの問いは、ぴしゃりと撥ねられた。エイミは口を噤んだ。表情まではわからない。
俺はどう答えたものか、上手い言い回しが思い浮かばず、黙っていた。大体、受験のことがバレたとは限らない。母に知られるとまずいことは、他にも山ほどあった。
勉強会と称してナンパしまくっていたとか、昏睡強盗に金を取られたとか、予備校の講師と付き合っていたとか。余計な事を口走るより、黙っていたほうがいい。
と言う訳で、ひたすら頭を垂れる。先に焦れたのは、母である。
「あなたの亡くなったお父さんは、病気のせいで、折角入学した大学を卒業することができなかったのよ。お父さんと結婚した私も同じ。あなたのお祖父さんだって、戦争で学徒動員されて、最後まで勉強できなかった。私たちの代わりにあなたがあの大学を卒業することは、フジノ家の悲願なの」
やっぱり受験の件だった。
「箸にも棒にもかからない成績ならば、私も無理にとは言わないけれど、ここの大学を受けないのは当然として、あなたの受ける大学だったら、私が勧めた大学と別に何も変わらないでしょう。わざわざ家を出てまで予備校に通った挙げ句、こんな裏切りをするなんて。どういう事なのか、説明してちょうだい」
高圧的だった態度が、段々哀願調になった。胸が痛む。だが、折れる訳にいかない。俺は深呼吸をした。
「さして変わりないのは、入試の偏差値だけだよ。試験問題の傾向からして違う。同じような学部が揃っていても、環境も校風も、そこで教える人にも違いがある。俺はね、自分で決めた大学に行きたいの。何度無理矢理受けさせても、入学する気はない。親父だって生きていたら、ただ同じ大学に入らせるより、好きな大学を卒業する方を喜ぶと思うよ」
母の眉がぴくりと上がった。俺は腹に力を込めた。ここで引いては一生後悔する。
「ユーキに、あの人の気持ちなんてわからないわ。生まれる前に亡くなったのよ」
「親父の気持ちを持ち出したのは、お袋だろう。病気でもうすぐ死ぬ時に、息子の顔を見られないことよりも、大学を卒業できないことの方を残念がったというのか。一体どんな親なんだ」
母は言葉に詰まってしまった。
俺は、言い過ぎた、と反省した。勢い余ってしまった。言葉の綾である。
母が父をほとんど崇拝していることは、幼い頃からひしひしと感じていた。母性よりも義務によって、俺を育てようとしているように、思うこともあった。
これまで母の意向をできる限り受け入れてきたが、一生このままではいられない。
俺がこの先も自分の人生を歩むためには、絶対に、譲れない線だった。
「大学は高校と違って、何回でも入学できるんだよ。どうしてもというなら、卒業した後に入り直してもいいし、大学院へ進学する時にそっちを受けてもいい。とにかく今は、もう願書を出したことだし、また1年棒に振るのも嫌だから、このまま受験させてもらえないかな」
なるべく穏やかな調子で言った。母は下を向いたまま、沈黙を守っていた。また、部屋の中が静かになった。
俺は、ひたすら待った。答えは一つしかない、筈であった。
徐々に足元から冷えが伝わってきた。ストーブを点けていなかった。俺は耐え切れず、鼻をすすった。
「わかりました。認めましょう」
母が立ち上がりしなに言った。唐突な転換だった。
動きに気を取られ、俺はほとんど言葉を聞き取れなかったにもかかわらず、意味を正確に把握した。
俺も慌てて立ち上がろうとして、足がしびれてよろけた。すんなり立ち上がっていたエイミに支えられる。沈黙して以来、すっかり存在を忘れていた。
「ありがとう。お袋、どこへ行くの?」
「帰るのよ」
母はエイミに鋭い視線を投げかけたが、エイミはまるで気がつかない様子で、大人しく目を伏せていた。既に、支えの腕は外されている。
「え、来たばかりじゃないか。外は暗いし」
痺れた足をさすりながら慌てる俺の前を、すっと通り過ぎて玄関に出た。くるりと向き直る。
「もう、用は済んだわ。お義母さん一人で留守番させて、心配だもの」
「駅までお送りします」
エイミが言った。
嵐のような母の来訪は、あっという間に幕切れを迎えた。エイミと一緒に駅まで母を送り、戻ると俺はエイミの部屋へ行って夕飯を食べた。
こんな時でも、母は郷里から食べ物をたくさん持ってきていた。
まるごとエイミに渡した。早速、漬け物が食卓に上った。懐かしい味だった。
不覚にも、鼻の奥がつんとした。必死で他のことを考えた。
「何でばれたんだろうな。いずればれるとしても、早すぎる」
「それが問題です」
エイミはずっと考え続けていたように、すらすらと言葉を継いだ。
「お母様から詳しい事情を聞き出すことができなかったのは、残念なことです。確実に推測できることは、誰かが電話をしたのが原因であること。さらに、一歩踏み込むならば、お母様は以前にも同じ人物から電話を受けたか、少なくともそのようにお考えになられた、と思います」
「どうしてそう言える」
俺はすっかり郷愁の呪縛から逃れて、尋ねた。
「『今度の電話は』と仰いました。見知らぬ人物からの突然の電話を真に受けるほど、お母様は愚かではありません」
「それで?」
「以前、ユーキ様が予備校講師と交際している、という噂を知らせた電話があったことを、思い出してください。その時私は、電話をした者が、梶尾先生とユーキ様を別れさせたいのだと仮定しましたが、この仮定は間違っていました。電話をした者は、ユーキ様と梶尾先生を別れさせたかった」
「何だって?」
「去年、お館様に電話をした者は、予備校関係者ではなく、ユーキ様の関係者であったということです。ユーキ様の自宅住所を知り、予備校生活も知った上で、お母様に告げる可能性のある者は、一人しかいません」
俺自身とエイミ、フタミを除外するという意味だろう。エイミやフタミが俺の女遊びを母に言いつけるつもりならば、もっと前に材料は揃っていた。
だからこそ当時、エイミは予備校の関係者を疑った。
「磯川か」
「今回、ユーキ様のお部屋に来た時、磯川はユーキ様の志望校を知ったのでしょう。赤本を見られたかもしれない、と仰っておられましたね。お母様は電話があってすぐ来られたようですから、時間的にも整合性があります」
「今回の事は確かに、磯川が電話したせいだ、というのは納得できる。でも、去年の電話も、って。俺と明巴が付き合っていることなんか、磯川に何の関係もない」
「お分かりになりませんか」
「さっぱり」
エイミは湯呑みに口をつけた。つられて俺も茶を啜る。
「お館様はこうも仰っておられました。『ここの大学を受けないのは当然として』。お二方の間で、ここの大学は始めから、問題になっておりません。何故お館様の口から、その単語が出てくるのでしょうか。考えてみれば、地元でもない予備校に通っている人間を見たら、普通は予備校の近くにある大学に行くもの、と考えますよね」
俺は頷いた。現に始めのころは、俺も予備校選びを間違えた、と後悔していた。
「しかし、先ほど申し上げたように、ユーキ様とお母様との間においては、そこの受験は問題外です。それなのにわざわざお母様が仰ったのは、誰かがその単語を口にした影響です。それは、電話の主以外に考えられません。恐らく、ここの地元大学を受験する筈のユーキ様が、という話し方をしたのでしょう。その事も念頭にあって、お母様は直接確かめにいらしたのだと思います」
「大事な試験の前だというのに、いい迷惑です。すると、今回の電話の主が企図したことは、ユーキ様を現在地から逃がさないことではないかと思うのです。目当ての大学を受験せずとも2浪することになれば、ユーキ様を留めることができる。去年の電話と、同じ思考の癖を感じます」
「つまり、どういうこと」
「去年の電話と今年の電話の主は同じ人物で、ユーキ様を欲しがっている、ということです」
「磯川が。なんで?」
「ユーキ様を、お好きなのでしょう」
俺は固まった。
高校時代の思い出が、一気に脳内再生される。ほぼ室越棗一色で、端っこに時々磯川霞が入る。
彼女は棗の親友だった。
「俺も、多分大丈夫だ」
一緒に採点したフタケが言った。コトリもほっとした様子をしている所から見ると、まずまずの成績を残すことができたのであろう。
あとは、2次試験に向けて、ひたすら勉強するばかりである。国公立の2次試験は、2月の末から3月の初めにかけて行われるので、しばらくの間がある。
1次試験で伸び悩んだ者は、2次試験で遅れを挽回すべく最後の力を振り絞る。
俺は、1次試験でまずまずの成績だったが、2次試験で油断しては元も子もない。やはり勉強に励むことにした。
やっと心身共に、予備校生らしい生活になった。もう終盤だが。
アパートへ戻ると、ドアの前に母が立っていた。
ぎょっとした俺の気配を悟って、エイミが後ろから駆け寄ってきた。
その音を聞きつけたのだろう、気付いた時には、目の前に母がいた。
俺はひと目で用件を理解した。大学受験の件がばれたのだ。
「ひ、久しぶり。元気だった?」
「ええ、ええ。おかげさまでね。エイミ、お前も一緒に来なさい。話は中で」
母は皮肉たっぷりの口調で応じた。怖い。外は寒いのに、変な汗が出てきた。
こわばる手で部屋の鍵を開けながら、俺はエイミの表情を盗み見た。さすがに考え込む様子であった。
怖いものなしに見えるエイミでも、平静ではいられないのだろう。連帯感を覚えるが、不安にもなる。つまり、エイミの援護を期待できないということだ。
部屋へ入ると母は、ぐるりと中を見渡すなり奥へ陣取り、テーブルを挟んで俺を正面に座らせ、更にその後ろへエイミを座らせた。
エイミが定番の挨拶をしかけるのを、手で遮る。
「虚礼は結構。どうやら今度の電話は本当のことのようね。どういうことなの、ユーキ?」
「電話があったのですか」
「エイミは黙っていなさい。私はユーキに聞いているの」
エイミの問いは、ぴしゃりと撥ねられた。エイミは口を噤んだ。表情まではわからない。
俺はどう答えたものか、上手い言い回しが思い浮かばず、黙っていた。大体、受験のことがバレたとは限らない。母に知られるとまずいことは、他にも山ほどあった。
勉強会と称してナンパしまくっていたとか、昏睡強盗に金を取られたとか、予備校の講師と付き合っていたとか。余計な事を口走るより、黙っていたほうがいい。
と言う訳で、ひたすら頭を垂れる。先に焦れたのは、母である。
「あなたの亡くなったお父さんは、病気のせいで、折角入学した大学を卒業することができなかったのよ。お父さんと結婚した私も同じ。あなたのお祖父さんだって、戦争で学徒動員されて、最後まで勉強できなかった。私たちの代わりにあなたがあの大学を卒業することは、フジノ家の悲願なの」
やっぱり受験の件だった。
「箸にも棒にもかからない成績ならば、私も無理にとは言わないけれど、ここの大学を受けないのは当然として、あなたの受ける大学だったら、私が勧めた大学と別に何も変わらないでしょう。わざわざ家を出てまで予備校に通った挙げ句、こんな裏切りをするなんて。どういう事なのか、説明してちょうだい」
高圧的だった態度が、段々哀願調になった。胸が痛む。だが、折れる訳にいかない。俺は深呼吸をした。
「さして変わりないのは、入試の偏差値だけだよ。試験問題の傾向からして違う。同じような学部が揃っていても、環境も校風も、そこで教える人にも違いがある。俺はね、自分で決めた大学に行きたいの。何度無理矢理受けさせても、入学する気はない。親父だって生きていたら、ただ同じ大学に入らせるより、好きな大学を卒業する方を喜ぶと思うよ」
母の眉がぴくりと上がった。俺は腹に力を込めた。ここで引いては一生後悔する。
「ユーキに、あの人の気持ちなんてわからないわ。生まれる前に亡くなったのよ」
「親父の気持ちを持ち出したのは、お袋だろう。病気でもうすぐ死ぬ時に、息子の顔を見られないことよりも、大学を卒業できないことの方を残念がったというのか。一体どんな親なんだ」
母は言葉に詰まってしまった。
俺は、言い過ぎた、と反省した。勢い余ってしまった。言葉の綾である。
母が父をほとんど崇拝していることは、幼い頃からひしひしと感じていた。母性よりも義務によって、俺を育てようとしているように、思うこともあった。
これまで母の意向をできる限り受け入れてきたが、一生このままではいられない。
俺がこの先も自分の人生を歩むためには、絶対に、譲れない線だった。
「大学は高校と違って、何回でも入学できるんだよ。どうしてもというなら、卒業した後に入り直してもいいし、大学院へ進学する時にそっちを受けてもいい。とにかく今は、もう願書を出したことだし、また1年棒に振るのも嫌だから、このまま受験させてもらえないかな」
なるべく穏やかな調子で言った。母は下を向いたまま、沈黙を守っていた。また、部屋の中が静かになった。
俺は、ひたすら待った。答えは一つしかない、筈であった。
徐々に足元から冷えが伝わってきた。ストーブを点けていなかった。俺は耐え切れず、鼻をすすった。
「わかりました。認めましょう」
母が立ち上がりしなに言った。唐突な転換だった。
動きに気を取られ、俺はほとんど言葉を聞き取れなかったにもかかわらず、意味を正確に把握した。
俺も慌てて立ち上がろうとして、足がしびれてよろけた。すんなり立ち上がっていたエイミに支えられる。沈黙して以来、すっかり存在を忘れていた。
「ありがとう。お袋、どこへ行くの?」
「帰るのよ」
母はエイミに鋭い視線を投げかけたが、エイミはまるで気がつかない様子で、大人しく目を伏せていた。既に、支えの腕は外されている。
「え、来たばかりじゃないか。外は暗いし」
痺れた足をさすりながら慌てる俺の前を、すっと通り過ぎて玄関に出た。くるりと向き直る。
「もう、用は済んだわ。お義母さん一人で留守番させて、心配だもの」
「駅までお送りします」
エイミが言った。
嵐のような母の来訪は、あっという間に幕切れを迎えた。エイミと一緒に駅まで母を送り、戻ると俺はエイミの部屋へ行って夕飯を食べた。
こんな時でも、母は郷里から食べ物をたくさん持ってきていた。
まるごとエイミに渡した。早速、漬け物が食卓に上った。懐かしい味だった。
不覚にも、鼻の奥がつんとした。必死で他のことを考えた。
「何でばれたんだろうな。いずればれるとしても、早すぎる」
「それが問題です」
エイミはずっと考え続けていたように、すらすらと言葉を継いだ。
「お母様から詳しい事情を聞き出すことができなかったのは、残念なことです。確実に推測できることは、誰かが電話をしたのが原因であること。さらに、一歩踏み込むならば、お母様は以前にも同じ人物から電話を受けたか、少なくともそのようにお考えになられた、と思います」
「どうしてそう言える」
俺はすっかり郷愁の呪縛から逃れて、尋ねた。
「『今度の電話は』と仰いました。見知らぬ人物からの突然の電話を真に受けるほど、お母様は愚かではありません」
「それで?」
「以前、ユーキ様が予備校講師と交際している、という噂を知らせた電話があったことを、思い出してください。その時私は、電話をした者が、梶尾先生とユーキ様を別れさせたいのだと仮定しましたが、この仮定は間違っていました。電話をした者は、ユーキ様と梶尾先生を別れさせたかった」
「何だって?」
「去年、お館様に電話をした者は、予備校関係者ではなく、ユーキ様の関係者であったということです。ユーキ様の自宅住所を知り、予備校生活も知った上で、お母様に告げる可能性のある者は、一人しかいません」
俺自身とエイミ、フタミを除外するという意味だろう。エイミやフタミが俺の女遊びを母に言いつけるつもりならば、もっと前に材料は揃っていた。
だからこそ当時、エイミは予備校の関係者を疑った。
「磯川か」
「今回、ユーキ様のお部屋に来た時、磯川はユーキ様の志望校を知ったのでしょう。赤本を見られたかもしれない、と仰っておられましたね。お母様は電話があってすぐ来られたようですから、時間的にも整合性があります」
「今回の事は確かに、磯川が電話したせいだ、というのは納得できる。でも、去年の電話も、って。俺と明巴が付き合っていることなんか、磯川に何の関係もない」
「お分かりになりませんか」
「さっぱり」
エイミは湯呑みに口をつけた。つられて俺も茶を啜る。
「お館様はこうも仰っておられました。『ここの大学を受けないのは当然として』。お二方の間で、ここの大学は始めから、問題になっておりません。何故お館様の口から、その単語が出てくるのでしょうか。考えてみれば、地元でもない予備校に通っている人間を見たら、普通は予備校の近くにある大学に行くもの、と考えますよね」
俺は頷いた。現に始めのころは、俺も予備校選びを間違えた、と後悔していた。
「しかし、先ほど申し上げたように、ユーキ様とお母様との間においては、そこの受験は問題外です。それなのにわざわざお母様が仰ったのは、誰かがその単語を口にした影響です。それは、電話の主以外に考えられません。恐らく、ここの地元大学を受験する筈のユーキ様が、という話し方をしたのでしょう。その事も念頭にあって、お母様は直接確かめにいらしたのだと思います」
「大事な試験の前だというのに、いい迷惑です。すると、今回の電話の主が企図したことは、ユーキ様を現在地から逃がさないことではないかと思うのです。目当ての大学を受験せずとも2浪することになれば、ユーキ様を留めることができる。去年の電話と、同じ思考の癖を感じます」
「つまり、どういうこと」
「去年の電話と今年の電話の主は同じ人物で、ユーキ様を欲しがっている、ということです」
「磯川が。なんで?」
「ユーキ様を、お好きなのでしょう」
俺は固まった。
高校時代の思い出が、一気に脳内再生される。ほぼ室越棗一色で、端っこに時々磯川霞が入る。
彼女は棗の親友だった。
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