雌伏浪人  勉学に励むつもりが、女の子相手に励みました

在江

文字の大きさ
13 / 40
第二章 棗

5 お目当てが来なかった

しおりを挟む
 終点で降りる頃には、電車はお盆らしく混み合っていた。霞は立ち上がるのに俺を支えにすると、そのまま腕を組んだ。

 「おいおい」
 「いいじゃない。久しぶりに会ったんだから。誰も変に思わないわよ」

 そのまま人波に押し流されるようにしてホームに出ると、他のドアから出て来たらしい同級生の一群とばったり顔を合わせた。

 「おう、見せつけてくれるじゃないか」
 「いや、これは」
 「いいでしょう」

 何せ反対側のホームにも電車が止まっていて、両側から降り立つ客で混雑していた。俺は言い訳をする間もなく、後ろから人に押されて、霞と腕を組んだまま階段に押しやられた。

 「あの、これは」

 なおも振り向いて言い訳しようとしたが、同級生たちとの間には、早くも見知らぬ他人の垣根かきねができていた。ちらりと室越棗の顔を見た気がして、俺は足を止めた。

 「ばかやろう、さっさと歩け」

 途端に罵声ばせいを浴びせられた。階段を踏み外しそうになりながら、慌てて上り始める。隣で霞がくすくす笑った。

 「すぐ話せるのに、こんなところで立ち止まるからよ」

 霞の言うとおりであった。棗が来ているのなら、会場でゆっくり話せばいい。
 俺は霞の腕から逃れるのをあきらめて、人の流れに身を任せた。こんな混み合った場所で腕を振り払う方が危ない。


 会場へ着くまでの間に何度か試みたが、ことごとく失敗し、結局霞と腕を組んだままである。おかげで、同級生に随分ずいぶん冷やかされた。

 霞はいいでしょう、と自慢するばかりで放そうとしなかった。俺はここで揉めると霞に恥をかかせる気がしてきて、しまいにあきらめた。

 同級生は次々とやってくる。同じ電車に乗った筈のエイミは、随分後になって他の組にまぎれて到着した。
 現役で大学へ進学した者ばかりである。知る限り就職組や浪人組は、俺とエイミを除いて顔を見せなかった。

 「やっぱり、浪人がこんなところで堂々と遊んでいちゃいけないよな」

 自虐じぎゃくで俺がつぶやくと、側を通りかかった幹事かんじが、軽く肩を叩いた。

 「ユーキは地元を出ちゃったから、皆どうしているか心配していたんだぜ。元気な顔を見られて嬉しいよ」
 「ありがとう」

 さりげなく、出入り口の方を気にして見ていたが、棗は一向に現れなかった。
 見間違いだったか。だが、エイミも会場へ到着するまでに時間がかかったのだから、棗も遅れてくるかもしれなかった。

 入り口の扉が閉められ、同級会が始まった。クラスの過半数が出席していたが、仲間内の集まりということで教師も呼ばず、幹事の簡単な挨拶と乾杯だけで、堅苦しいことはしなかった。

 会場も立食式である。さすがに会が始まると、霞も腕を放してくれたので、俺は時折出入り口を気にしながらも、あちこち移動して同級生と話をすることができた。
 たくさん話せば、棗の消息も聞けるだろうという腹づもりであった。あちこちで輪ができる。高校生活の思い出話で弾む俺の耳に、エイミの名前が飛び込んで来た。

 「あれ、誰だっけ」
 「ええと、アオ‥‥ヤギさんじゃないかな」
 「ああ、あれアオヤギさんかあ。眼鏡かけていたっけ?」

 棗は目立たないよう努力する性質だったが、エイミは空気のように目立たなかった。
 同じように思っていたのは自分だけでないと知って、俺はほっとした。

 同級生との話題は、どうしても新しい環境、大学生活に関することが多かった。
 俺は覚悟して浪人したのだし、気にするつもりはないのだが、同級生の方が変に気を遣って、時々会話がとどこおることもあった。

 聞いてみると、大学は無理に勉強しなくてもよい授業があって、そういう授業ばかり取って卒業に備える人もいるということである。
 単位というものをそろえないと、卒業できないそうだ。高校と変わらないようにも思うが、自分で学ぶ事を選べる範囲が、高校に比べて広いのだそうである。

 授業のことよりも、サークル活動という部活動のようなものの方を、熱心に語る同級生が多かった。

 「可愛い子ばっかり集めているから、野郎は定員制なんだよ。希望者で勝ち抜き戦をして、上位入賞者だけが入れるの。俺、頑張っちゃったもんね」

 「やっぱ東京はいいよ。何せ種類が半端じゃないもの。どれもこれも選び放題。すぐ金が足りなくなる。バイトも求人多いからいいけどね。結局、楽に単位をもらえる授業を、どれだけ取れるかが勝負だよ」

 「もう、感激。本の作者が目の前にいるんだよ。入ってよかった。でも、かえってサイン頼めないんだよね」

 俺は同級生の話を熱心に聞いていた。俺の近況を尋ねる者はいなかった。尋ねられても、珍しい話は人に言えるような内容のものではないし、予備校の授業の話が面白いとは思えないから、それでよかった。

 何度か棗の情報を聞き出そうとしたが、さりげなく持ち出すタイミングが掴めなかった。
 不思議なくらい、誰も棗の近況に触れなかった。

 考えてみれば、棗は最終的に、磯川霞以外の親しい人間を持たなかったように見える。
 彼女以外に、棗が現在どうしているか、知る者はいないのかもしれない。

 目立たないことが彼女の望みなのであった。もしかしたら、棗を目立たなくさせるために、霞が手を打ったのかもしれない、とついには俺は意地悪く考えた。

 室越棗はとうとう会の終わりまでに姿を現さなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...