雌伏浪人  勉学に励むつもりが、女の子相手に励みました

在江

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第二章 棗

2 見ながらしてみた

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 「ユーキってこっちの人じゃにゃあんだってね。慣れた?」

 色黒の娘が話しかけた。フタケが自分たちのことをどんな風に紹介したのか気になって、俺はうまい返しが思いつかなかった。

 「うーん、地下街がすごく発展していて、道路も広いし、びっくりすることばっかりだよ」

 平凡な感想にも、娘は満足そうに頷いた。

 「君のこと、何て呼んだらいいの? そっちの子は美月ちゃんっていうんだよね」

 コトリが質問してくれた。フタケのおかげで場数を踏んで、少しずつこういう状況に慣れてきた様子である。

 「たははっ、美月の名前だけちゃっかり覚えてまって。あたしはね、江里っていうんだわ。エリーって呼んでね」

 江里は明るく答えた。フタケが追いかけていった娘は、依子よりこといった。

 3人は中学の同級生で、高校に入ってからも時々集まって遊ぶ仲であった。今年はそれぞれ受験を控えているので、今のうちに遊びためておくつもりで海へ来たそうである。

 「皆進学先がばらばらなの。あなたたちは、大学生? 年上に見えるんだけど」

 と、地元の三大お嬢様大学の名前を挙げて、美月が尋ねた。そんな自己紹介の後で、浪人生です、とは言いづらい。2人が顔を見合わせたところへ、都合良くフタケが戻ってきた。

 「俺たちはねえ、浜辺の遊び人だよー」
 「遊び人だって。きゃはは」

 江里が大笑いし、話はうやむやになった。間もなく依子も戻ってきたので、男3人はうつ伏せになった女性陣に、それぞれ奉仕することになった。

 サンオイルを塗るのは江里だけで、美月と依子は自分専用の日焼け止めクリームを持っていた。俺は美月、フタケは依子、コトリは江里を担当した。江里がコトリを可愛いと言ったから。コトリは、昼間から女の子の素肌に触りまくることに、興奮を隠し切れない様子であった。

 美月の肌は日に焼けて、見るからに痛そうな箇所があり、俺は彼女から渡された別のクリームを塗った上に日焼け止めを塗ったので、他の2人より時間がかかった。

 汗がだらだらと流れ、砂浜に落ちる。ぽとりと音がしたほど、重い汗だった。俺が塗り終えた頃には、4人の男女はとっくに海へ泳ぎに行ってしまっていた。

 「じゃあ、行こうか」
 「なんだか面倒くさくなってまったな」

 美月は起き上がろうとせず、ごろりと仰向けになった。胸の辺りに砂がついているのに、払う様子もない。胸も塗らなくていいのか、塗るなら俺が‥‥と内心思いつつ、実際は、目のやり場に困ってただ海を眺めた。

 フタケたちは沖の方まで行ったらしく、他の海水浴客にまぎれて見分けがつかない。浜辺に目を移すと、一向に泳ぐつもりのなさそうな格好で、ひたすら寝そべっている人間が存外ぞんがい目についた。

 「こうやってぼーっとしとるだけでも、楽しいと思わん?」

 美月が浜辺の人々を代弁した。俺が曖昧あいまいうなずくのには気付かぬ体で、沖合おきあいの方をぼんやり眺める。砂が日光を照り返すのか、日陰にいても、暑い。汗が出る端から、蒸発しそうな勢いである。

 「男の人にはこの感覚、わからんかもね。女の子って、一人でぼーっとできんものなのよ」
 「どうして?」

 美月の浅い胸の谷間に、うっすらと汗がにじみでてきた。俺はなまめかしい女の肌に目が釘付けになった。合いの手は上の空である。

 「だって、すぐ誰かが声をかけてくるもの。誰かと待ち合わせしとるのかとか、何か悩みごとがあるのか、とか、早まっちゃいけん、なんて言われたこともあるわ」

 ふふ、と美月は笑った。笑った勢いで急に起き上がり、たたたっ、と海へ向かって駈け出す。俺は慌てて後を追った。


 俺たちは美月、江里、依子の3人組と午後中いっぱい海で遊んだ。
 海で少し遊んでは浜辺で休憩する、という繰り返しである。浜辺でビーチバレーもした。夕方になると風向きが変わり、まだ日が暮れていないとはいえ、少しずつ気温が下がってくるのが素肌に感じられた。

 「帰りがてら、どこかで夕食でも食おうぜ」
 「車で来たの?」

 依子が聞く。フタケは頭をいた。

 「俺、まだ免許持ってねえんだわ」
 「なんだー。もしかして、あたしたちと年変わらんのじゃにゃあ」

 露骨ろこつにがっかりしたのは、江里である。依子がまあまあ、となだめる。美月が気を取り直すように言った。

 「そうしたら、電車の時間までまだ間があるで、もう少し浜辺で遊んで行こみゃあ。とっておきのスポットを教えるで」
 「ええねえ、行く行く」

 江里が急にはしゃぎだす。水着から普段着に着替え、多少なりとも荷物を抱える俺とコトリは顔を見合わせた。
 だがフタケは、免許を持っていない引け目からか、妙に乗り気だった。

 「この格好で行けるのなら、一緒に行こう」

 男女取り混ぜた6人は、美月を先頭に、砂浜に沿って歩き出した。

 長屋のように押し並ぶ海の家は既に店じまいしていて、海水浴客もほとんど姿を消した。

 ごくたまに残っているのは、いざ勝負をかけようとする男の気合い見え見えの、若い男女2人連れぐらいである。

 海の家が途切れても、美月は歩き続けた。段々岩が多くなり、波が荒く立ってくる。

 「どこまで行くの」

 コトリが不安そうに聞く。

 「すっごいロマンチックなところ。男の人を連れて行くのは、初めてなんだ。あたしたちの秘密の場所だわ」

 江里の答えを聞いて、コトリは俄然がぜん元気を取り戻した。後ろからとぼとぼついてきていたのが、小走りに江里に追いつき並んで歩く。

 足場が徐々に悪くなった。しまいには、岩をつかみながら歩くはめになった。ロマンチックどころか、スリリングというか、もうデンジャラスである。

 「もう少しよ」

 依子たちに励まされ、男3人は意地から音を上げられなかった。

 岩だらけで先に進めなくなったと思ったところで、美月の足が止まった。

 人気はまるでない。海岸沿いに走る道路は遥か上である。ひょい、と美月が岩をくぐって姿を消した。

 「こっちよ」

 声を頼りに岩を越えると、ちょっとした洞窟になっていた。岩に囲まれた中、砂がまって小座敷のようである。6人入るとやや窮屈きゅうくつに思える。

 「秘密基地みてゃあでしょ。服が汚れるとあかんで、みんな水着になろう」

 依子がワンピースを脱ぐ。下に水着を着込んでいた。服が濡れていなかったから、水着が速乾素材なのだ。
 江里も美月も水着姿になり、膝を抱えて座る。すっかり着替えてしまっていた男性陣は慌てた。

 「俺たちはこのままでいいよ」
 「だめ。砂だらけでレストランへ入れないでしょ。あっちを向いているから、着替えなさいよ」

 江里が言って大げさに岩の壁を向いた。依子も美月も彼女に倣う。

 岩にさえぎられた砂地は、かなり暗い。
 フタケが苦笑いしながらズボンに手をかけたので、俺とコトリも服を脱ぎ始めた。

 全裸になると、すでに焼けているフタケの肌は、水着の跡も目立たない。俺とコトリは海水パンツの跡がくっきりと白く浮き出て、何となく恥ずかしかった。

 全裸のフタケは濡れた水着を取り出しもせず、真っ直ぐに依子へ向かい、後ろから抱きしめた。
 依子はくるりと振り返るなり、驚いて固まる俺とコトリを前に、フタケとがっつり抱き合ったのであった。

 「あたしも」

 気配を感じたのか、江里がコトリにガバッと取りついた。勢い余ったコトリは背中を岩にぶつけたが、根性を見せて、くぐもった声を出しただけであった。

 口を江里にふさがれていたせいもある。一人取り残された俺は、やはり一人岩に顔を伏せる美月を見やった。
 残りの2組はそれぞれ2人の世界にのめり込んでいる。ちゅっ、ちゅっ、とか、ぴちゃぴちゃ、とか、いやらしい音が岩のうちに反響する。
 美月に背後の状況がわからない筈はなかった。

 思い切って、彼女に近づいた。後ろから、そっと首筋に唇を押し当てると、美月の体が震えた。

 「初めてなの」

 吐息まじりにささやかれ、俺は血が湧くように感じた。

 「大丈夫」

 何が大丈夫なのだろう、と自分でも思いつつ、美月の体をこちらへ向けた。美月は目を伏せ、おずおずと両腕を俺の体に回して来た。

 俺は顔中にキスの雨を降らしながら美月の水着を脱がし始めた。
 体にぴっちり吸い付いた水着は、なかなか肌からがれない。面倒になって、横からずらして指を突っ込む。

 「あっ」

 美月が悩ましげな声を出した。

 もう、夢中で女の体にのめりこんだ。
 海辺で、しかも水着を着せたままするなど、初めてのことである。しかも相手は初体験だという。

 興奮する俺は、美月が遠慮がちに痛がるのをやや煩わしく感じながらも、その度に美月にとって初めての男なのだと思い直し、できるだけ気を付けて彼女を抱いた。その間に、水着をちょっとずつ脱がせることにも成功した。

 「ああ、もっと」

 依子の興奮した声が耳を刺激する。もう少しで達しそうになった時に、今まで唇をしっかり閉じたり首を振ったりして、何となくディープキスを避けていた美月が、やおら舌を入れて来た。興奮しているのか、美月の大量の唾が流れ込む。少し、いや結構苦かった。
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