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24 王女対決
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それからもリチャードと二人の王女の距離感は変わらなかったが、ヒサエルディスは余裕を持って見守ることができるようになった。
王女たちが如何に彼を好きだとて、彼女としたような淫らな関係は結ばないだろう。更には密かに、愛の記念品も贈られた。
彼女は、誰に言えなくとも、彼との繋がりの深さを誇っていた。
アリストファムを去る日が近くなるにつれ、王女たちの魔術師訪問は一層頻度を増した。
ヒサエルディスも、リチャードと離れることは寂しくもあったが、一度帰国することで、関係を公にできると考えると、その日が楽しみでもあった。
送別に当たり、ビアトリスが、ささやかなお茶の会を催してくれた。ごく内輪の集まりで、ヒサエルディスもお客としてテーブルに着くことを許された。
「長寿で知られるエルフの方々が、我が国の魔法に興味を示されたのは、意外でしたわ」
四方山の話も尽き、そろそろお開きかと思ったところで、ビアトリスが魔法の話題を持ち出した。
ヒサエルディスは、ついリチャード=オールコックを連想し、彼との様々な思い出が蘇るのを抑え込もうと、表情を引き締めた。
「種族が異なれば、扱う魔法にも違いが出ます。文化の違いに通じるものがありますわね。貴国に学ぶことで、我が国の技術をより高めるきっかけを得られました。この度のご招待に感謝します。大変に、有意義な時間となりました」
ティヌリエルは、ビアトリスの若干挑発めいた感想にも平然として、感謝で返した。
「それは、大変宜しゅうございましたわ。今後、我が国の魔術師が皆様に学ぶ機会を得られれば、両国がこれまで以上に、互いの理解を深められるでしょうね」
ビアトリスも負けてはいなかった。エルフ国が所在地を秘匿し、他国の者の出入りを滅多に許さない、と承知の上での発言である。
これに対し、ティヌリエルが表情を一層明るくした。
「素敵なご提案ですわ。リチャード=オールコック様のように、古代語にも明るく、柔軟性のある発想の方が、当方の魔法から得られる事は、多いと思います。あの方の光の魔法には、感心いたしました。国王とも諮って、是非ともご招待したいですわ」
ビアトリスの表情が、ごく僅かに硬くなったように、思われた。
「お褒めの言葉、本人もさぞかし喜ぶ事でしょう。リッチ、オールコックの増殖魔法は、魔法を使えない私にも興味深いものがあります。後ほど、直接に伝えておきますわね。ですが彼は、まだ若輩者です。貴重な機会を無駄にしないよう、ご招待を頂いた暁には、こちらで派遣する魔術師を厳選いたしますわ」
「いずれにしても、両国の結びつきが深まった事は、確かですわね」
「ええ。本当に」
ほほほ、と笑い声を上げる両王女に挟まれ、ヒサエルディスは一人無表情を保つのに精一杯だった。
ここは共に笑顔を見せる場面であるのに、どうしても笑えない。
誤魔化すため、紅茶を飲むふりをして、カップで顔を隠した。
人間もエルフも、王族は只者には務まらない。
ティヌリエルもビアトリスも、リチャードに特別な思いを抱いているとは、察していた。
今日の対話で、二人が互いに彼への想いを知っている事が明らかになったのだ。
もう一つ、ヒサエルディスにとって、重要な気付きがあった。
リチャードと知り合うきっかけになった、光の魔法。
ティヌリエルが示唆した術と、同じなのだろうか?
彼女は侍女として、公には王女とほぼ行動を共にした。知る限り、リチャードが王女の前で、似た魔法でも披露した事はなかった。
ただ、王女が読み漁った資料の中に、記されていた可能性は、ある。
ビアトリスが言及した増殖魔法については、さほど怪しむには足りない。王女と、王宮お抱えの魔術師の関係である。彼女がリチャードの魔法を目にする機会は、いくらでもあったと考えられる。
それでも、ヒサエルディスには、彼女たちの様子から、彼が直接二人に披露したような印象を拭えなかった。
互いへの対抗意識から、相手にそう誤解させるよう振る舞ったのかもしれない。
都合良く思い込もうとするほどに、不安は募るのだった。
こうした不安を取り除くためにも、ヒサエルディスは帰国の直前まで、二人きりで愛を確認したいと、リチャードの呼び出しを待ち望んだ。
結局、二人きりで言葉を交わす機会さえないまま、エルフの一行はアリストファムを後にした。
王女たちが如何に彼を好きだとて、彼女としたような淫らな関係は結ばないだろう。更には密かに、愛の記念品も贈られた。
彼女は、誰に言えなくとも、彼との繋がりの深さを誇っていた。
アリストファムを去る日が近くなるにつれ、王女たちの魔術師訪問は一層頻度を増した。
ヒサエルディスも、リチャードと離れることは寂しくもあったが、一度帰国することで、関係を公にできると考えると、その日が楽しみでもあった。
送別に当たり、ビアトリスが、ささやかなお茶の会を催してくれた。ごく内輪の集まりで、ヒサエルディスもお客としてテーブルに着くことを許された。
「長寿で知られるエルフの方々が、我が国の魔法に興味を示されたのは、意外でしたわ」
四方山の話も尽き、そろそろお開きかと思ったところで、ビアトリスが魔法の話題を持ち出した。
ヒサエルディスは、ついリチャード=オールコックを連想し、彼との様々な思い出が蘇るのを抑え込もうと、表情を引き締めた。
「種族が異なれば、扱う魔法にも違いが出ます。文化の違いに通じるものがありますわね。貴国に学ぶことで、我が国の技術をより高めるきっかけを得られました。この度のご招待に感謝します。大変に、有意義な時間となりました」
ティヌリエルは、ビアトリスの若干挑発めいた感想にも平然として、感謝で返した。
「それは、大変宜しゅうございましたわ。今後、我が国の魔術師が皆様に学ぶ機会を得られれば、両国がこれまで以上に、互いの理解を深められるでしょうね」
ビアトリスも負けてはいなかった。エルフ国が所在地を秘匿し、他国の者の出入りを滅多に許さない、と承知の上での発言である。
これに対し、ティヌリエルが表情を一層明るくした。
「素敵なご提案ですわ。リチャード=オールコック様のように、古代語にも明るく、柔軟性のある発想の方が、当方の魔法から得られる事は、多いと思います。あの方の光の魔法には、感心いたしました。国王とも諮って、是非ともご招待したいですわ」
ビアトリスの表情が、ごく僅かに硬くなったように、思われた。
「お褒めの言葉、本人もさぞかし喜ぶ事でしょう。リッチ、オールコックの増殖魔法は、魔法を使えない私にも興味深いものがあります。後ほど、直接に伝えておきますわね。ですが彼は、まだ若輩者です。貴重な機会を無駄にしないよう、ご招待を頂いた暁には、こちらで派遣する魔術師を厳選いたしますわ」
「いずれにしても、両国の結びつきが深まった事は、確かですわね」
「ええ。本当に」
ほほほ、と笑い声を上げる両王女に挟まれ、ヒサエルディスは一人無表情を保つのに精一杯だった。
ここは共に笑顔を見せる場面であるのに、どうしても笑えない。
誤魔化すため、紅茶を飲むふりをして、カップで顔を隠した。
人間もエルフも、王族は只者には務まらない。
ティヌリエルもビアトリスも、リチャードに特別な思いを抱いているとは、察していた。
今日の対話で、二人が互いに彼への想いを知っている事が明らかになったのだ。
もう一つ、ヒサエルディスにとって、重要な気付きがあった。
リチャードと知り合うきっかけになった、光の魔法。
ティヌリエルが示唆した術と、同じなのだろうか?
彼女は侍女として、公には王女とほぼ行動を共にした。知る限り、リチャードが王女の前で、似た魔法でも披露した事はなかった。
ただ、王女が読み漁った資料の中に、記されていた可能性は、ある。
ビアトリスが言及した増殖魔法については、さほど怪しむには足りない。王女と、王宮お抱えの魔術師の関係である。彼女がリチャードの魔法を目にする機会は、いくらでもあったと考えられる。
それでも、ヒサエルディスには、彼女たちの様子から、彼が直接二人に披露したような印象を拭えなかった。
互いへの対抗意識から、相手にそう誤解させるよう振る舞ったのかもしれない。
都合良く思い込もうとするほどに、不安は募るのだった。
こうした不安を取り除くためにも、ヒサエルディスは帰国の直前まで、二人きりで愛を確認したいと、リチャードの呼び出しを待ち望んだ。
結局、二人きりで言葉を交わす機会さえないまま、エルフの一行はアリストファムを後にした。
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