愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)

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「毒薬かと思ったが、これは何だ?」

 距離を取ったヴィルトス様が、真っ直ぐに私を見つめていた。
 そこには、私が思っていたような、慈愛に溢れた眼差しは無く。いつも私へ向けられていた、冷たささえも感じなかった。

「……飲んだ者が持つ、最も強い感情を、反転させる薬です」

 その目が何を意味しているのか。
 分からないまま答える私の背中を、イヤな汗が流れていく。

「そういう事か……」

 ヴィルトス様が、納得したように頷く姿に、私はコクッと唾を飲んだ。

「でも、失敗だったようですね」

 だって、ヴィルトス様の態度は、いつもと大して変わらなかった。

「いや、成功しているさ」

 それなのに、告げられたのは、信じられない答えなのだ。

「そんなはずは、ありません……」

「なぜ、お前にそれが言い切れる?」

「だって、ヴィルトス様は、いつもとお変わりないように見えますが……?」」

 もしも薬が上手くいったのなら。
 私を見るヴィルトス様の眼が、こんなに鋭いままなのは、どう考えてもおかしかった。それに、薬によって植え付けられた、愛を向けられている様子もない。

「そんな事はない。今の私なら、下手をすればお前を殺しかねないだろうな……」

「それは、どういう ─── ?」

 そんな風に聞きながらも、イヤな予感が湧き上がる。

 まるで、警告音が鳴るように、ドクドクと跳ねる心臓の音が煩わしい。

 気が付いてはダメなのだと。これ以上は考えるなと。
 頭の中を、そんな言葉が過っていく。

 それなのに、止まってくれない思考が、1つの答えを導き出した。

 私は、ヴィルトス様に愛されていた。
 そして、それをたったいま。
 完全に失ってしまったのだ。

 身体から力が抜けて、崩れ込む。

「こんな薬を作れるぐらいだ。聡明なお前の頭は、答えなど聞かなくても、もう分かっているんだろ?」

 私の態度から、真実に至った事に気付いたのだろう。その言葉を最後に、ヴィルトス様は部屋を出て行った。

「うそ、よ……」

 優しい顔や目や、言葉なんて、1度もなかった。薬を飲んだ後だって、これまでとほとんど変わらなかった。

 そんなヴィルトス様が、私の事を好きだったなんて……。

 否定したくて、信じたくなくて。

 私はゆるゆると首を振りながらも、もう分かっていた。

 だって、同じなのだ。全部。私と。
 
 心を染めていく絶望感。
 冷えていく指先と頭に反して、目の奥だけが熱くなる。

 過去も今も未来も、見つめる勇気が持てなくて。
 ぼんやりと見つめた空間さえ、張った涙で歪んでいた。

 遠くから慌ただしい音が聞こえてくる。
 その音がどんどん近付いて、ガチャッと部屋の扉が開いた後に、部屋に人が入ってきた。

「リリィ!」

 その声は、聞き覚えのある声だった。

「……おか、あ、さま……」

 そこで私の意識はフツリと消えた。
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