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愛した人に愛されない事が、ずっとずっと苦しかった。
だから、ヴィルトス様の言葉に傷付く度に、同じような言葉を投げたのは私だった。
でもヴィルトス様だって、苦しかったのだ。
あんな声で『私でなければ』と、願ってしまうぐらいには。
それでも私達の婚約は、私達の感情だけで、どうこう出来るものではない。どんなに私を嫌いでも。私と共に居る事が、辛くて苦しい事だとしても。ヴィルトス様は、私のそばを離れられない。
だから、仕方ないのだ。
この薬があれば。
この薬を私が飲んでしまえば。
私のヴィルトス様への愛は、ヴィルトス様と同じだけの憎しみへと変わるだろう。
もともと憎しみ合う2人なのだ。
ヴィルトス様にすれば、これまでと何も変わらない。変わるのは、私の心の中だけだった。
それでも、愛する者からの言葉だからこそ、過剰に反応していた言葉を流せるようにはなるだろう。
私だって、嫌いな人と、あえて交流を持ちたいとは思わない。
きっと2人の仲は、もっと冷え切ったものになる。
今のようないがみ合いさえなくなる程に。互いが互いを認識さえしないよう、距離を取って過ごしながら。そして、ヴィルトス様も本当に愛する人を、その内に傍へ置くはずだ。
もしかすれば、第2妃として迎え入れる日も来るかもしれない。
今はそれを思えば心が痛い。でも、この薬さえ飲んでしまえば、私は何も思わないはずなのだ。
もしかしたら、嫌いな人の幸せを、祝う気持ちには成れないかもしれないけど。でも、そこまで根性は腐っていないと、私は私自身を信じている。いくら彼を嫌いでも、人として清く生きる人に、嫌がらせなんかはしたりしない。
ヴィルトス様は、きっと幸せに暮らしていけるはずなのだ。私以外の人と、穏やかな時間を過ごしながら。
だから、こんな気持ちなんて、殺してしまった方が良い。
「要らないもの……」
それは、私やヴィルトス様。日々の諍いに、巻き込まれていた人達。誰にとっても、同じだから。
だから、これは間違っていない。
薬を知った時から、この方法がずっと最善だと思っていたのだ。
小瓶を掲げて薬を揺らせば、薬が光を纏って煌めいた。
私の抱いた恋心。
痛いばかりで、そんな良いものでは無かったけど。ずっと大切に抱えていた、私の大切なものだった。
「さようなら……」
好きだった。
1度も言えない言葉だったけど。
本当は、ずっと心で、あなたの背中に言っていた。
だけどそれも、今日で終わり。
目を閉じて、唇に瓶を押し当てる。
そのまま、瓶を傾けようとした時だった。
「リリナ!」
ノックも無しに部屋の扉を開いたのは、たった今まで想いを馳せていたヴィルトス様。本人だった。
だから、ヴィルトス様の言葉に傷付く度に、同じような言葉を投げたのは私だった。
でもヴィルトス様だって、苦しかったのだ。
あんな声で『私でなければ』と、願ってしまうぐらいには。
それでも私達の婚約は、私達の感情だけで、どうこう出来るものではない。どんなに私を嫌いでも。私と共に居る事が、辛くて苦しい事だとしても。ヴィルトス様は、私のそばを離れられない。
だから、仕方ないのだ。
この薬があれば。
この薬を私が飲んでしまえば。
私のヴィルトス様への愛は、ヴィルトス様と同じだけの憎しみへと変わるだろう。
もともと憎しみ合う2人なのだ。
ヴィルトス様にすれば、これまでと何も変わらない。変わるのは、私の心の中だけだった。
それでも、愛する者からの言葉だからこそ、過剰に反応していた言葉を流せるようにはなるだろう。
私だって、嫌いな人と、あえて交流を持ちたいとは思わない。
きっと2人の仲は、もっと冷え切ったものになる。
今のようないがみ合いさえなくなる程に。互いが互いを認識さえしないよう、距離を取って過ごしながら。そして、ヴィルトス様も本当に愛する人を、その内に傍へ置くはずだ。
もしかすれば、第2妃として迎え入れる日も来るかもしれない。
今はそれを思えば心が痛い。でも、この薬さえ飲んでしまえば、私は何も思わないはずなのだ。
もしかしたら、嫌いな人の幸せを、祝う気持ちには成れないかもしれないけど。でも、そこまで根性は腐っていないと、私は私自身を信じている。いくら彼を嫌いでも、人として清く生きる人に、嫌がらせなんかはしたりしない。
ヴィルトス様は、きっと幸せに暮らしていけるはずなのだ。私以外の人と、穏やかな時間を過ごしながら。
だから、こんな気持ちなんて、殺してしまった方が良い。
「要らないもの……」
それは、私やヴィルトス様。日々の諍いに、巻き込まれていた人達。誰にとっても、同じだから。
だから、これは間違っていない。
薬を知った時から、この方法がずっと最善だと思っていたのだ。
小瓶を掲げて薬を揺らせば、薬が光を纏って煌めいた。
私の抱いた恋心。
痛いばかりで、そんな良いものでは無かったけど。ずっと大切に抱えていた、私の大切なものだった。
「さようなら……」
好きだった。
1度も言えない言葉だったけど。
本当は、ずっと心で、あなたの背中に言っていた。
だけどそれも、今日で終わり。
目を閉じて、唇に瓶を押し当てる。
そのまま、瓶を傾けようとした時だった。
「リリナ!」
ノックも無しに部屋の扉を開いたのは、たった今まで想いを馳せていたヴィルトス様。本人だった。
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