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第4章 魔術学園奮闘編
第387話 手を汚すのは大人たちでたくさんだ。
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「さあナ。本当のところはその時になんねェとわからねェナ」
ヨシズミは断言を避けた。
果たして相手はどのようなものなのか、その時にならなければわからない。「人ではないもの」であれば遠慮することはない。持てる力で討ち滅ぼせば良い。
しかし、人であったり、人に近いものだったらどうするか?
「不殺」の制限を掛けた状態では相手を倒せないかもしれない。その時はーー。
(手を汚すのは大人たちでたくさんだ)
自分やマルチェルの手は血に汚れている。ステファノに人殺しの重荷を背負わせるくらいなら、自分が手を下そう。ヨシズミは内心そう決意していた。
「何が相手でもひるまねェように、オレはイドの制御を究めようと思う」
自身のイドを変化させること、そしてまた物体にイドをまとわせることならヨシズミはステファノ以上に熟練している。
しかし、「魔核混入」や「逆・魔核混入」という特殊な技ではステファノの独創性にかなわない。
「もらった名だが『百花繚乱千変万華』。オレはこれをイドの制御に当てはめるつもりだッペ」
「千変万化」は致死性の魔法行使につけられた名だった。今度の名は「不殺」を支えるイド制御のものとする。ヨシズミはそう考えていた。
「オレはおめェから『魔術付与』の方法を学びたい。そんなことができるとは思ってもいなかったンでナ」
「師匠ならできるはずです!」
ステファノにはギフト「諸行無常」による認識力がある。イデア界に直接アクセスしようとするその能力は、ヨシズミが立ち入れない感覚だ。
一方で、ヨシズミには元の世界で得た科学知識があった。
物質やエネルギーに対する認識力がこの世界の人間とは根本的に異なる。その点ではドイルでさえヨシズミの足元にも及ばないのだ。
ステファノには不可能な分子レベル、元素レベルの対象認識を、ヨシズミであれば身につけられるかもしれない。
魔術とは、魔法とは、イメージがすべてであった。
「マルチェルさんとの組手稽古の後で構わねェ。オレにおめェの魔術付与を見せてくれ」
「わかりました」
ヨシズミが為そうとしているのは「見取り稽古」であった。
ステファノが魔術付与を行う様を見て、その方法を盗むのだ。この場合はもちろん合意の上で、である。
魔法行使であれ、イド制御であれ、これをああしろと口で説明ができない。個人の感覚とイメージに頼るしかない世界であった。
ヨシズミは「ステファノにやり方を聞く」のではなく、「ステファノのやり方を見る」方法で、自分なりの方式をイメージとして獲得しようと考えていた。
その行為、「観ること」は「観想」の修練にもなるはずであった。潜在的ギフト「百花繚乱千変万華」をイド感知の場面で発現させようという意図を含んでいた。
「森羅万象をイデアのレベルで捉えること。それが『飯屋流』の神髄だッぺ。そのためにはまずイドの認識精度を上げねばなんねェ」
「俺にできることがあればお手伝いします」
師弟の立場が逆転しているが、ヨシズミは気にしない。初めから自分が人を指導する立場だなどと思っていなかった。
戦争の犬として使いつぶされ、疲れ果てて以来、物を学ぼうなどと考えたこともなかったが、教えを乞う立場も悪くない。
「人はいつでも変われる。必要なのは意志だけだッぺ」
この世界で自分にもやるべきことがあった。ステファノたちとの出会いが、ヨシズミにその思いを抱かせていた。
◆◆◆
次の日午前中、ステファノはマルチェルとの組手に汗を流した。正しくは「脂汗」かもしれない。
予想通り先読み能力を身に着けたマルチェルには全く技が通用しなかった。逆・魔核混入でイドを隠しても先読みで動きを読まれてしまう。
待ち構えたところに繰り出すパンチや蹴りはことごとくかわされるか、受け流されてカウンターの餌食となった。
はたから見れば、ステファノはマルチェルに飛びかかりながら勝手に転んでいるように見えるであろう。
ならばと受けに回って見たが、マルチェルの「早さ」に追いつけない。イドが見えた時には既にマルチェルの技が届いていた。
マルチェルの技に予備動作というものがないためである。
体術での対抗を諦めたステファノは、第一次の防御を化身に任せることにした。
イドの盾を虹の王に委ねて、防御を自動モードにする。
これはある程度有効だった。少なくとも初撃を止めることができた。
しかし、コンビネーションを使われると自動防御でさえ追いつけない。2撃目が届くまでの僅かな時間に避けるか反撃を当てるか、的確な反応を瞬時に行う必要がある。
真剣白刃取りを連続で成功させるようなひりつく緊張感の中、ステファノは回避とカウンターを狙い続けた。
◆◆◆
「だいぶ絞られたようだノ」
「参りました。先読みをされたら全く勝負にならないということが身にしみました」
げっそりとした顔でステファノが言った。
「前回とは立場が逆だノ」
「蛇尾まで試してみましたが、それも読まれました」
極力動作をなくしてイドを飛ばそうと試みたが、イドそのものに推進力を与えることはできない。魔術を重ねがけすれば「遠当ての術」を繰り出せるが、「魔術なし」をルールとして自分に課していた。
「実力に差があるのは当たり前のことだッペ。マルチェルさんの技と動きを自分のものにすることだナ」
焦る必要はないと、ヨシズミは笑った。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第388話 さて、疲れてるところ悪いが魔術付与ってもンを見せてもらえるケ?」
「弟子が師匠に敵わねェのは当たり前だッペ。どうしたら近づけるか考え、工夫するのが修行ってもンだ」
「……そうですね。魔視脳が開放されて浮かれていたようです。もっともっと工夫します!」
「ふふん。ほどほどにな。おめェが張り切るととんでもないことになりそうで心配なんダ」
ヨシズミはどこか楽しげに肩を揺すった。
「さて、疲れてるところ悪いが魔術付与ってもンを見せてもらえるケ?」
「はい。わかりやすい術式にしましょう。微風の術でやってみましょうか」
ステファノの頭にはアカデミーで見た送風の魔道具があった。
……
◆お楽しみに。
ヨシズミは断言を避けた。
果たして相手はどのようなものなのか、その時にならなければわからない。「人ではないもの」であれば遠慮することはない。持てる力で討ち滅ぼせば良い。
しかし、人であったり、人に近いものだったらどうするか?
「不殺」の制限を掛けた状態では相手を倒せないかもしれない。その時はーー。
(手を汚すのは大人たちでたくさんだ)
自分やマルチェルの手は血に汚れている。ステファノに人殺しの重荷を背負わせるくらいなら、自分が手を下そう。ヨシズミは内心そう決意していた。
「何が相手でもひるまねェように、オレはイドの制御を究めようと思う」
自身のイドを変化させること、そしてまた物体にイドをまとわせることならヨシズミはステファノ以上に熟練している。
しかし、「魔核混入」や「逆・魔核混入」という特殊な技ではステファノの独創性にかなわない。
「もらった名だが『百花繚乱千変万華』。オレはこれをイドの制御に当てはめるつもりだッペ」
「千変万化」は致死性の魔法行使につけられた名だった。今度の名は「不殺」を支えるイド制御のものとする。ヨシズミはそう考えていた。
「オレはおめェから『魔術付与』の方法を学びたい。そんなことができるとは思ってもいなかったンでナ」
「師匠ならできるはずです!」
ステファノにはギフト「諸行無常」による認識力がある。イデア界に直接アクセスしようとするその能力は、ヨシズミが立ち入れない感覚だ。
一方で、ヨシズミには元の世界で得た科学知識があった。
物質やエネルギーに対する認識力がこの世界の人間とは根本的に異なる。その点ではドイルでさえヨシズミの足元にも及ばないのだ。
ステファノには不可能な分子レベル、元素レベルの対象認識を、ヨシズミであれば身につけられるかもしれない。
魔術とは、魔法とは、イメージがすべてであった。
「マルチェルさんとの組手稽古の後で構わねェ。オレにおめェの魔術付与を見せてくれ」
「わかりました」
ヨシズミが為そうとしているのは「見取り稽古」であった。
ステファノが魔術付与を行う様を見て、その方法を盗むのだ。この場合はもちろん合意の上で、である。
魔法行使であれ、イド制御であれ、これをああしろと口で説明ができない。個人の感覚とイメージに頼るしかない世界であった。
ヨシズミは「ステファノにやり方を聞く」のではなく、「ステファノのやり方を見る」方法で、自分なりの方式をイメージとして獲得しようと考えていた。
その行為、「観ること」は「観想」の修練にもなるはずであった。潜在的ギフト「百花繚乱千変万華」をイド感知の場面で発現させようという意図を含んでいた。
「森羅万象をイデアのレベルで捉えること。それが『飯屋流』の神髄だッぺ。そのためにはまずイドの認識精度を上げねばなんねェ」
「俺にできることがあればお手伝いします」
師弟の立場が逆転しているが、ヨシズミは気にしない。初めから自分が人を指導する立場だなどと思っていなかった。
戦争の犬として使いつぶされ、疲れ果てて以来、物を学ぼうなどと考えたこともなかったが、教えを乞う立場も悪くない。
「人はいつでも変われる。必要なのは意志だけだッぺ」
この世界で自分にもやるべきことがあった。ステファノたちとの出会いが、ヨシズミにその思いを抱かせていた。
◆◆◆
次の日午前中、ステファノはマルチェルとの組手に汗を流した。正しくは「脂汗」かもしれない。
予想通り先読み能力を身に着けたマルチェルには全く技が通用しなかった。逆・魔核混入でイドを隠しても先読みで動きを読まれてしまう。
待ち構えたところに繰り出すパンチや蹴りはことごとくかわされるか、受け流されてカウンターの餌食となった。
はたから見れば、ステファノはマルチェルに飛びかかりながら勝手に転んでいるように見えるであろう。
ならばと受けに回って見たが、マルチェルの「早さ」に追いつけない。イドが見えた時には既にマルチェルの技が届いていた。
マルチェルの技に予備動作というものがないためである。
体術での対抗を諦めたステファノは、第一次の防御を化身に任せることにした。
イドの盾を虹の王に委ねて、防御を自動モードにする。
これはある程度有効だった。少なくとも初撃を止めることができた。
しかし、コンビネーションを使われると自動防御でさえ追いつけない。2撃目が届くまでの僅かな時間に避けるか反撃を当てるか、的確な反応を瞬時に行う必要がある。
真剣白刃取りを連続で成功させるようなひりつく緊張感の中、ステファノは回避とカウンターを狙い続けた。
◆◆◆
「だいぶ絞られたようだノ」
「参りました。先読みをされたら全く勝負にならないということが身にしみました」
げっそりとした顔でステファノが言った。
「前回とは立場が逆だノ」
「蛇尾まで試してみましたが、それも読まれました」
極力動作をなくしてイドを飛ばそうと試みたが、イドそのものに推進力を与えることはできない。魔術を重ねがけすれば「遠当ての術」を繰り出せるが、「魔術なし」をルールとして自分に課していた。
「実力に差があるのは当たり前のことだッペ。マルチェルさんの技と動きを自分のものにすることだナ」
焦る必要はないと、ヨシズミは笑った。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第388話 さて、疲れてるところ悪いが魔術付与ってもンを見せてもらえるケ?」
「弟子が師匠に敵わねェのは当たり前だッペ。どうしたら近づけるか考え、工夫するのが修行ってもンだ」
「……そうですね。魔視脳が開放されて浮かれていたようです。もっともっと工夫します!」
「ふふん。ほどほどにな。おめェが張り切るととんでもないことになりそうで心配なんダ」
ヨシズミはどこか楽しげに肩を揺すった。
「さて、疲れてるところ悪いが魔術付与ってもンを見せてもらえるケ?」
「はい。わかりやすい術式にしましょう。微風の術でやってみましょうか」
ステファノの頭にはアカデミーで見た送風の魔道具があった。
……
◆お楽しみに。
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