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第4章 魔術学園奮闘編
第388話 さて、疲れてるところ悪いが魔術付与ってもンを見せてもらえるケ?
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「弟子が師匠に敵わねェのは当たり前だッペ。どうしたら近づけるか考え、工夫するのが修行ってもンだ」
「……そうですね。魔視脳が開放されて浮かれていたようです。もっともっと工夫します!」
「ふふん。ほどほどにな。おめェが張り切るととんでもないことになりそうで心配なんダ」
ヨシズミはどこか楽しげに肩を揺すった。
「さて、疲れてるところ悪いが魔術付与ってもンを見せてもらえるケ?」
「はい。わかりやすい術式にしましょう。微風の術でやってみましょうか」
ステファノの頭にはアカデミーで見た送風の魔道具があった。
「俺が見た送風魔道具は丸い枠に取っ手がついたものでした。そういう形のものは用意していないので間に合せになりますが」
ステファノは着火魔具に使ったあまりの丸棒を取り出した。
「ただの棒から風を吹かせてもすぐ散ってしまいます。ですが、原理を見せるだけなら問題ないでしょう」
丸い枠から吹き出させれば、円の中央に風を収束させることができる。今回は効果を気にしない実験用である。
「まず対象がまとっている本来のイドを観察してください。人間に比べると、とても薄いものですが」
言われてヨシズミは丸棒に目を凝らした。
今までもヨシズミはイドを観てきた。開放された魔視脳を持つ彼は、あらゆる物が有するイドを感知することができる。
「今までイドを観ていたようで、しっかりとは観ていなかったみてェだナ」
じっと注視を続けると、丸棒のイドはかすかに動いていた。夜明け時の山肌を覆う薄靄のように全体がゆっくり流れている。
それだけではなく、部分部分が小さく揺れ動いていた。
「命のない物体でも時々刻々変化しています。イドの動きはその変化を表しているのだと思います」
「色は匂えど散りぬるを、か」
ステファノの説明は「いろはうた」が歌う諸行無常の理に似ていた。
「物体のイドは薄く、活性度が低いのでそのままでは魔力が馴染みにくいんです」
「活性度ケ? 確かに人のイドはもっともやもやが激しく動いているナ」
「はい。ですから、まずは自分のイドの一部に魔術を付与します」
ステファノとヨシズミは自らのイドを自在に操れる。鎧として体を覆うことも、盾として変形させることも意思の力でコントロールできるのだ。
「それが魔術付与の手順ケ? 俺がやってきたのは物に直接魔術をまとわせることまでだナ」
ステファノの修行として、術をまとわせた松毬を使ったことがある。
「その方法だと、長い時間は維持できません。魔術発動具の応用に当たる使い方ですから」
「そうだな。自分のイドに魔術を付与するとは考えたもンだ」
「最初はどんぐりに魔術を載せていたんですが、『空気の塊』にも魔術を載せられることに気づいたんです。それなら自分のイドにも載せられるんじゃないかって」
人のイドは活性度が高く、魔力を受け止める「容量」が大きかった。
最後に、物体のイドに自分のイドを混ぜ込むという発想を得たことにより、「飯屋流魔道具術」ができあがった。
「1人でよく工夫したもンだ」
「まず自分のイドを切り出して、微風の術を載せます」
ステファノはヨシズミの目の前で観察しやすいようにゆっくりと少量のイドを集めた。
そこに発動直前の状態に調整した微風の術の術式を載せる。
すなわち魔核の錬成である。
「魔核は陰気の周りを陽気で覆ったものです。魔視脳を開放した人間と同じ状態ですね」
ヨシズミの目には微風の術、その術式がはっきりと映っていた。
術式には所有者の宣言が省かれており、誰でも使えるものになっている。
発動のトリガーは魔力による刺激であった。
「これはアカデミーの送風具と同じ術式ケ?」
「そのつもりです。発動条件を他のものに変えれば、魔力がなくても使える魔術具になります」
ステファノは丸棒に手をかざし、魔術付与の最終工程に入った。
「最後に魔核を丸棒のイドに混ぜ込みます」
ステファノは魔核で丸棒を覆い、境界面に意識を集中した。
「魔核の境界面を細かく振動させ、丸棒のイドと同調させます。振動の速度を変えて行き、丸棒のイドと一致させるのがコツです」
言いながら、ステファノは魔核の振動をゆっくりと変化させていった。
「魔核の振動周波数、いや振動速度はどうやって変えている?」
「魔核に籠めるイドを濃くすると振動は早くなります。薄くすれば遅く」
言われて意識してみれば、たしかにイドの密度が変化し、それにつれて魔核の振動周波数が変動している。
「どうしてイドの密度を変えるという方法を発見したんだッペ?」
「うーん。ギューッと押したらイドが入り込むかなあって思ったもので」
イドの密度を上げて行ったらあるところですっと対象物に馴染んだ。
「それで、これはいけるって思いました」
「簡単そうに語ってるが、多分600年で初めてのことだッペ」
ヨシズミは思う。ステファノは決して天才ではない。
持ち合わせたギフトと、旺盛な好奇心。限界を決めない柔軟性。そしてあきらめない執着心。
それらが揃うことで、他人に真似のできないユニークな成果を上げることができるのだ。
「ここまで物体のイドと魔核が混ざり合えば状態が安定します」
「この塩梅も試行錯誤で発見したのケ?」
「そうですね。やっている内にうまくいくようになりました」
(そうか! こいつにとっては魔道具製作も料理のレシピ作りと同じことなんだ)
試行錯誤が当たり前。だめなら違う方法を試す。
飯屋流の真髄がそこにあった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第389話 自分が使える術であればどの術でも同じです。」
「これで送風魔具の完成です」
ステファノは魔術付与の終了を宣言した。
「大したもンだノ。世間に出れば秘術と呼ばれるレベルだッペ」
「そうでしょうか。簡単な魔術を付与しただけですが」
ステファノとしては「定食メニュー」を1つ創り出した程度の思いしかない。魔道具術における革命的な方式を生み出したと言われても戸惑うばかりである。
……
◆お楽しみに。
「……そうですね。魔視脳が開放されて浮かれていたようです。もっともっと工夫します!」
「ふふん。ほどほどにな。おめェが張り切るととんでもないことになりそうで心配なんダ」
ヨシズミはどこか楽しげに肩を揺すった。
「さて、疲れてるところ悪いが魔術付与ってもンを見せてもらえるケ?」
「はい。わかりやすい術式にしましょう。微風の術でやってみましょうか」
ステファノの頭にはアカデミーで見た送風の魔道具があった。
「俺が見た送風魔道具は丸い枠に取っ手がついたものでした。そういう形のものは用意していないので間に合せになりますが」
ステファノは着火魔具に使ったあまりの丸棒を取り出した。
「ただの棒から風を吹かせてもすぐ散ってしまいます。ですが、原理を見せるだけなら問題ないでしょう」
丸い枠から吹き出させれば、円の中央に風を収束させることができる。今回は効果を気にしない実験用である。
「まず対象がまとっている本来のイドを観察してください。人間に比べると、とても薄いものですが」
言われてヨシズミは丸棒に目を凝らした。
今までもヨシズミはイドを観てきた。開放された魔視脳を持つ彼は、あらゆる物が有するイドを感知することができる。
「今までイドを観ていたようで、しっかりとは観ていなかったみてェだナ」
じっと注視を続けると、丸棒のイドはかすかに動いていた。夜明け時の山肌を覆う薄靄のように全体がゆっくり流れている。
それだけではなく、部分部分が小さく揺れ動いていた。
「命のない物体でも時々刻々変化しています。イドの動きはその変化を表しているのだと思います」
「色は匂えど散りぬるを、か」
ステファノの説明は「いろはうた」が歌う諸行無常の理に似ていた。
「物体のイドは薄く、活性度が低いのでそのままでは魔力が馴染みにくいんです」
「活性度ケ? 確かに人のイドはもっともやもやが激しく動いているナ」
「はい。ですから、まずは自分のイドの一部に魔術を付与します」
ステファノとヨシズミは自らのイドを自在に操れる。鎧として体を覆うことも、盾として変形させることも意思の力でコントロールできるのだ。
「それが魔術付与の手順ケ? 俺がやってきたのは物に直接魔術をまとわせることまでだナ」
ステファノの修行として、術をまとわせた松毬を使ったことがある。
「その方法だと、長い時間は維持できません。魔術発動具の応用に当たる使い方ですから」
「そうだな。自分のイドに魔術を付与するとは考えたもンだ」
「最初はどんぐりに魔術を載せていたんですが、『空気の塊』にも魔術を載せられることに気づいたんです。それなら自分のイドにも載せられるんじゃないかって」
人のイドは活性度が高く、魔力を受け止める「容量」が大きかった。
最後に、物体のイドに自分のイドを混ぜ込むという発想を得たことにより、「飯屋流魔道具術」ができあがった。
「1人でよく工夫したもンだ」
「まず自分のイドを切り出して、微風の術を載せます」
ステファノはヨシズミの目の前で観察しやすいようにゆっくりと少量のイドを集めた。
そこに発動直前の状態に調整した微風の術の術式を載せる。
すなわち魔核の錬成である。
「魔核は陰気の周りを陽気で覆ったものです。魔視脳を開放した人間と同じ状態ですね」
ヨシズミの目には微風の術、その術式がはっきりと映っていた。
術式には所有者の宣言が省かれており、誰でも使えるものになっている。
発動のトリガーは魔力による刺激であった。
「これはアカデミーの送風具と同じ術式ケ?」
「そのつもりです。発動条件を他のものに変えれば、魔力がなくても使える魔術具になります」
ステファノは丸棒に手をかざし、魔術付与の最終工程に入った。
「最後に魔核を丸棒のイドに混ぜ込みます」
ステファノは魔核で丸棒を覆い、境界面に意識を集中した。
「魔核の境界面を細かく振動させ、丸棒のイドと同調させます。振動の速度を変えて行き、丸棒のイドと一致させるのがコツです」
言いながら、ステファノは魔核の振動をゆっくりと変化させていった。
「魔核の振動周波数、いや振動速度はどうやって変えている?」
「魔核に籠めるイドを濃くすると振動は早くなります。薄くすれば遅く」
言われて意識してみれば、たしかにイドの密度が変化し、それにつれて魔核の振動周波数が変動している。
「どうしてイドの密度を変えるという方法を発見したんだッペ?」
「うーん。ギューッと押したらイドが入り込むかなあって思ったもので」
イドの密度を上げて行ったらあるところですっと対象物に馴染んだ。
「それで、これはいけるって思いました」
「簡単そうに語ってるが、多分600年で初めてのことだッペ」
ヨシズミは思う。ステファノは決して天才ではない。
持ち合わせたギフトと、旺盛な好奇心。限界を決めない柔軟性。そしてあきらめない執着心。
それらが揃うことで、他人に真似のできないユニークな成果を上げることができるのだ。
「ここまで物体のイドと魔核が混ざり合えば状態が安定します」
「この塩梅も試行錯誤で発見したのケ?」
「そうですね。やっている内にうまくいくようになりました」
(そうか! こいつにとっては魔道具製作も料理のレシピ作りと同じことなんだ)
試行錯誤が当たり前。だめなら違う方法を試す。
飯屋流の真髄がそこにあった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第389話 自分が使える術であればどの術でも同じです。」
「これで送風魔具の完成です」
ステファノは魔術付与の終了を宣言した。
「大したもンだノ。世間に出れば秘術と呼ばれるレベルだッペ」
「そうでしょうか。簡単な魔術を付与しただけですが」
ステファノとしては「定食メニュー」を1つ創り出した程度の思いしかない。魔道具術における革命的な方式を生み出したと言われても戸惑うばかりである。
……
◆お楽しみに。
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