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第4章 魔術学園奮闘編
第332話 で、今日は何を調べたいんだ?
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研究会の会合を終えて、ステファノは図書館に向かった。黒板の魔道具について過去の解析事例を調査するためである。
授業と全く関係ないテーマについて調べに行くのは初めてのことであった。
(何だか、ちょっと新鮮だな)
自分の目的のために図書館を利用するということが、贅沢なことに思えた。
「あら、いらっしゃい。ちょっと待って、ハンニバルを呼んで来るわ」
顔なじみの司書がステファノの顔を見るなり、ハンニバルを呼びに行ってくれた。
(何だかいつも指名しているみたいで、申し訳ないな)
結果だけ見ると、ステファノがハンニバルに執着しているように見えるだろうが、本人にはそんなつもりはなかった。
ハンニバルがステファノの意図をよく汲んでくれるので、頼む機会が重なったという感じであった。
「おや、今日もその恰好? 久しぶりだね」
「ご無沙汰しています。最近は研究報告会で忙しかったもので」
ご無沙汰という挨拶はふさわしくないかも。そう思いながらステファノは頭を下げた。
「用がなければ無理に来るような場所でもない。報告会ではだいぶ活躍したらしいな」
「初めてだったので忙しい思いをしました」
「1人で9件のテーマに絡めば、忙しいだろうさ」
ハンニバルはくすくす笑いながら言った。
「グループ報告については、メンバーに助けられて何とか無事に終わりました」
「うむ。わたしも見せてもらったが、どれも面白い内容だったよ」
「ありがとうございます」
挨拶はこの辺で良いだろうと、ハンニバルは今日の目的をステファノに尋ねた。
「で、今日は何を調べたいんだ?」
「教室に設置された『黒板』の魔道具です」
「あれか。特にどういう点について知りたいのかね?」
何度もステファノの調査につき合い、ハンニバルはステファノのスタイルを理解していた。
ここに来るまでに、何をどう調査するかという腹案を検討してきたはずだ、と。
「魔道具としての術理を解析したいと思いまして。過去にそういうことをした記録があれば、参考にさせてもらいたいのですが」
「ほう、今日もまたマニアックなことを。魔道具学とか魔道具史というジャンルになろうが、魔道具自体がマイナーな分野だからねえ」
「取り組んでいる人が少ないということですか?」
ステファノの声に若干の失望が含まれる。研究者が少なければ文献の数も少ないであろう。
「まあな。魔術師になりたがる人間に比べれば、圧倒的に人数は少ない」
「人気がないんですか? 面白そうなんですが」
「君にとってはそうだろう。『感情を反射する絵』は秀逸だったよ」
ステファノが描いた観覧者の似顔絵はマリアンヌ学科長の指示によって回収された。侯爵家に献上するようなものを、落書きのごとくばらまくわけにはいかない。
もらい損ねた講師からは、不満の声が上がっていた。
「まさか目の前であんなものを描き上げるとはな。普通、魔道具の製作には何日もかかるものらしいよ」
ハンニバルの言う通りだった。ステファノの魔核混入方式は通常の魔道具製作術とは全く異なる。感情を反射する絵が例のないものだったので、製作方法の違いを深く追求する者がいないのは幸いであった。
「あれは魔道具の可能性を示す『お遊び』のようなものですから」
ステファノはそう言って悪目立ちを避けようとしたが、今更というものであった。
「まあ良い。調べたいことのイメージはわかった。アーティファクトの解析に取り組む学者はおらんでもない。学問分野で言えば『魔道具考古学』だな」
「難しそうですね」
「学生が手を出すようなものではない。ついて来なさい」
つかつかとハンニバルが先に立って歩き出す。ステファノは安心しきってその後ろをついて行くだけだ。
「この列が魔道具学の関連図書だ。見ての通りあまり数がない。アーティファクトの考察資料となると、更に少ない」
「人気がないんですね」
「それもそうかもしれないが、とにかく時間がかかる分野らしい。その割に、関心を持つ人が少ないので、書物にして残そうという意欲がわきにくいのだろうな」
ステファノの想像を超えて、浮世離れした世界であるらしい。
「そもそもアーティファクトの数が少ないでしょうからね」
「それも理由の1つだ。黒板システムもアーティファクトなのだが、用途が地味だからな。国宝などにはならずにアカデミーの教室に置いてあるわけだ」
「確かに、あんなものを家に持って帰っても意味がありませんからね」
しかし、ステファノが考えているように「通信機」として使えるとなったらどうだ? これもまた軍事上の利用価値がとてつもないことになるだろう。
そうなれば正に国宝級の魔道具である。
「このディミトリーという著者がアーティファクト研究の第一人者らしい。あいにく研究内容については知らないが……」
「ありがとうございます。先ず、その人の著作から当たってみます」
「そうか。何か困ったことがあったら、相談に来なさい」
そう言ってハンニバルは持ち場に戻って行った。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第333話 この本は……すごいな。」
てっきり男だと思っていたが、ディミトリー氏は女であった。道具屋の娘の魔道具好きが高じてその道の大家にまでなり遂げたらしい。
「私の好きなアーティファクト」というほのぼのとしたタイトルの書籍に、実に様々なアーティファクトに関する観察と考察の記録が残されていた。
(この本は……すごいな。これからも研究を続けたい)
様々な魔道具の名称、外見、機能、使用方法、所蔵先、そして術理に関する考察などが、事細かく書き記されていた。
ステファノにとってはたまらない情報源であった。
(こういう時に複製が簡単に取れたら便利だよね)
……
◆お楽しみに。
授業と全く関係ないテーマについて調べに行くのは初めてのことであった。
(何だか、ちょっと新鮮だな)
自分の目的のために図書館を利用するということが、贅沢なことに思えた。
「あら、いらっしゃい。ちょっと待って、ハンニバルを呼んで来るわ」
顔なじみの司書がステファノの顔を見るなり、ハンニバルを呼びに行ってくれた。
(何だかいつも指名しているみたいで、申し訳ないな)
結果だけ見ると、ステファノがハンニバルに執着しているように見えるだろうが、本人にはそんなつもりはなかった。
ハンニバルがステファノの意図をよく汲んでくれるので、頼む機会が重なったという感じであった。
「おや、今日もその恰好? 久しぶりだね」
「ご無沙汰しています。最近は研究報告会で忙しかったもので」
ご無沙汰という挨拶はふさわしくないかも。そう思いながらステファノは頭を下げた。
「用がなければ無理に来るような場所でもない。報告会ではだいぶ活躍したらしいな」
「初めてだったので忙しい思いをしました」
「1人で9件のテーマに絡めば、忙しいだろうさ」
ハンニバルはくすくす笑いながら言った。
「グループ報告については、メンバーに助けられて何とか無事に終わりました」
「うむ。わたしも見せてもらったが、どれも面白い内容だったよ」
「ありがとうございます」
挨拶はこの辺で良いだろうと、ハンニバルは今日の目的をステファノに尋ねた。
「で、今日は何を調べたいんだ?」
「教室に設置された『黒板』の魔道具です」
「あれか。特にどういう点について知りたいのかね?」
何度もステファノの調査につき合い、ハンニバルはステファノのスタイルを理解していた。
ここに来るまでに、何をどう調査するかという腹案を検討してきたはずだ、と。
「魔道具としての術理を解析したいと思いまして。過去にそういうことをした記録があれば、参考にさせてもらいたいのですが」
「ほう、今日もまたマニアックなことを。魔道具学とか魔道具史というジャンルになろうが、魔道具自体がマイナーな分野だからねえ」
「取り組んでいる人が少ないということですか?」
ステファノの声に若干の失望が含まれる。研究者が少なければ文献の数も少ないであろう。
「まあな。魔術師になりたがる人間に比べれば、圧倒的に人数は少ない」
「人気がないんですか? 面白そうなんですが」
「君にとってはそうだろう。『感情を反射する絵』は秀逸だったよ」
ステファノが描いた観覧者の似顔絵はマリアンヌ学科長の指示によって回収された。侯爵家に献上するようなものを、落書きのごとくばらまくわけにはいかない。
もらい損ねた講師からは、不満の声が上がっていた。
「まさか目の前であんなものを描き上げるとはな。普通、魔道具の製作には何日もかかるものらしいよ」
ハンニバルの言う通りだった。ステファノの魔核混入方式は通常の魔道具製作術とは全く異なる。感情を反射する絵が例のないものだったので、製作方法の違いを深く追求する者がいないのは幸いであった。
「あれは魔道具の可能性を示す『お遊び』のようなものですから」
ステファノはそう言って悪目立ちを避けようとしたが、今更というものであった。
「まあ良い。調べたいことのイメージはわかった。アーティファクトの解析に取り組む学者はおらんでもない。学問分野で言えば『魔道具考古学』だな」
「難しそうですね」
「学生が手を出すようなものではない。ついて来なさい」
つかつかとハンニバルが先に立って歩き出す。ステファノは安心しきってその後ろをついて行くだけだ。
「この列が魔道具学の関連図書だ。見ての通りあまり数がない。アーティファクトの考察資料となると、更に少ない」
「人気がないんですね」
「それもそうかもしれないが、とにかく時間がかかる分野らしい。その割に、関心を持つ人が少ないので、書物にして残そうという意欲がわきにくいのだろうな」
ステファノの想像を超えて、浮世離れした世界であるらしい。
「そもそもアーティファクトの数が少ないでしょうからね」
「それも理由の1つだ。黒板システムもアーティファクトなのだが、用途が地味だからな。国宝などにはならずにアカデミーの教室に置いてあるわけだ」
「確かに、あんなものを家に持って帰っても意味がありませんからね」
しかし、ステファノが考えているように「通信機」として使えるとなったらどうだ? これもまた軍事上の利用価値がとてつもないことになるだろう。
そうなれば正に国宝級の魔道具である。
「このディミトリーという著者がアーティファクト研究の第一人者らしい。あいにく研究内容については知らないが……」
「ありがとうございます。先ず、その人の著作から当たってみます」
「そうか。何か困ったことがあったら、相談に来なさい」
そう言ってハンニバルは持ち場に戻って行った。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第333話 この本は……すごいな。」
てっきり男だと思っていたが、ディミトリー氏は女であった。道具屋の娘の魔道具好きが高じてその道の大家にまでなり遂げたらしい。
「私の好きなアーティファクト」というほのぼのとしたタイトルの書籍に、実に様々なアーティファクトに関する観察と考察の記録が残されていた。
(この本は……すごいな。これからも研究を続けたい)
様々な魔道具の名称、外見、機能、使用方法、所蔵先、そして術理に関する考察などが、事細かく書き記されていた。
ステファノにとってはたまらない情報源であった。
(こういう時に複製が簡単に取れたら便利だよね)
……
◆お楽しみに。
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