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第4章 魔術学園奮闘編
第331話 そういうことか。驚いたね。
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「先生たちは言葉を口にせず、頭の中で考えたものを表示させているんですよね。でも、絵じゃなくて文字ですからね。頭の中にあるのは言葉なので、それを一度『雲』に送って文字に直してから黒板に映しているそうです」
「なるほど。一度雲に送らなければいけないんだね」
スールーはステファノの言葉を繰り返しているだけだ。だが、耳から入る言葉がステファノの思考を刺激する。励まされて次の言葉を紡ぎ出す。
「そうなんですよ! ですから、頭の中の言葉→雲→文字になった言葉→黒板という順序で表示されるわけです」
「そういうことか。驚いたね」
「まったくです。雲って何ですか? どこにあるのって、空の上か? アーティファクトなのかなあ?」
「凄いものだね」
最早スールーの言葉にはまったく意味がない。ステファノは既に思考の道筋を築き上げている。励まし続けてやれば、勝手にゴールまで突っ走るであろう。
「そうなると、黒板がここにある必要ありますかってことです」
「本当にそうだね」
「でしょう? どうせ雲から送られてくるんですよ? どうやって送られるのか知りませんけど。イデア界の出来事であれば距離や場所は関係ないはずです」
「その通りだ」
スールーにはちんぷんかんぷんだったが、ステファノの中で結論が近づいていることはその表情から読み取れた。
「それなら黒板を1000キロ先に置いたら、1000キロ先に言葉が届くってことじゃないですか!」
「何だって?」
「だけど、そうしたらどの黒板に送ったら良いかわからないなって思ったんですよ」
「それは困るね」
これはどういうことだ? スールーは話の行方がまるで読めず、脂汗をかき始めていた。
「それならきっと、送り先の指定が術式の中に含まれているはずだなと」
「そうかもしれないね」
「でしょう? 黒板の術式を解析したら、①の記録密度向上と③の伝達速度向上の両方が解決できるんじゃないかと思って」
事ここに至って、スールーはステファノが何か革命的なアイデアを掴みかけていることに気がついた。
「よし! 君は次の研究テーマを黒板システムの解析に定めたまえ! 魔術師の君にふさわしいテーマじゃないか」
そして、すべてをステファノに丸投げする。
スールーの邪悪なスマイルを目撃したサントスは、その犠牲となるステファノのために心の中でため息をついた。
「ステファノはちょろ過ぎ」
「え? 黒板の術式を甘く見てはいませんよ? 過去に解析しようとした事例があるかどうかも調べますし……」
「サントス、まあ良いじゃないか? ステファノのやる気を尊重しよう!」
スールーの口車に乗せられたステファノのことをサントスは心配していた。後ろめたさを感じているスールーは、ステファノが気づかぬよう話をうやむやにする。
「そうと決まれば、今日から調査を開始しますよ。体は自由になりますからね」
ステファノの期末試験は既に終わっていた。受ける必要があるのは、「スノーデン王国史初級」と「万能科学総論」の2つのみだったので、あっという間に試験期間終了である。
王国史については映像記憶を持つステファノが得意とするタイプの学問である。試験にてこずることもなかった。
万能科学総論についてはかなりトリッキーな出題であったが、日頃の講義をしっかり聞いていれば解けるように組み立てられていた。何より「ノート持ちこみ可」という設定だったので、ステファノには有利だった。
「うらやましい奴だな。こっちは毎晩試験勉強でひいひい言ってるってのに」
「トーマは自業自得。日頃の行いのせい」
サントスは手厳しいが、言うだけのことはある。自身は取りこぼしなく、期末試験に着々と合格していた。
スールーも同様である。チャレンジにもいくつか成功しているので、サントス以上に余裕のある試験期間を過ごしていた。
「新入生の1学期なんてそんなものさ。ステファノが例外すぎるだけだよ」
「そうですよねえ。秀才ってタイプじゃないのに本番に強いというか、勝負に強いというか」
先輩らしくスールーがトーマを慰める。
トーマも出来が悪いわけではない。試験結果も順調ではあった。
ただ、他の3人に比べてトーマは得意、不得意の差が激しかった。数学、物理のように答えがはっきりと定まる学問を得意としたが、いわゆる文系の社会学的内容は苦手としていた。
魔術学科の科目についても、実技系は何とか食らいついているが、座学となると心もとない。
「まあ心配するな。アカデミーでは落とした科目の再受講が認められているからな。失敗しても挽回が効く」
アカデミーは学びの意思がある者を拒絶しない。挑戦者には道が開かれるのだ。
「それに、研究報告会のポイントが配分されるからね。休み明けの連絡を楽しみにしていたまえ」
情革研として3件の報告をし、トーマに関してはステファノとの連名で「標的鏡」の発明でもエントリーしている。
最低でも4ポイント、4単位相当の評価は期待できた。
「それについては先輩方に感謝してますよ。ステファノにもな。情革研に俺を入れてくれてありがとう」
「ふん。今更」
「そうだな。メンバーが働いて評価を得るのは当然のことだよ。巡り合わせで得をしたのはお互い様だしね」
とはいえ、情革研の活躍は他のグループに対して群を抜いていた。テーマと才能がうまくかみ合った結果であろう。
「2学期は印刷機をバリバリ物にしますよ。先輩、休みの間にお互い原理図を書き溜めて、新年に見せっこしましょうよ」
「良い。動力系はトーマに任せた。そっちは得意だろ?」
「なら、紙送り機構は先輩ですね。俺はそういう細かいからくりはあんまり……」
「インクについても任せろ。ウチは染物屋だから」
試験のことを嘆いていたトーマが生き生きと輝いていた。
それを見てスールーが満足げに頷いている。
良いチームだなと、ステファノは微笑んだ。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第332話 で、今日は何を調べたいんだ?」
研究会の会合を終えて、ステファノは図書館に向かった。黒板の魔道具について過去の解析事例を調査するためである。
授業と全く関係ないテーマについて調べに行くのは初めてのことであった。
(何だか、ちょっと新鮮だな)
自分の目的のために図書館を利用するということが、贅沢なことに思えた。
「あら、いらっしゃい。ちょっと待って、ハンニバルを呼んで来るわ」
顔なじみの司書がステファノの顔を見るなり、ハンニバルを呼びに行ってくれた。
(何だかいつも指名しているみたいで、申し訳ないな)
……
◆お楽しみに。
「なるほど。一度雲に送らなければいけないんだね」
スールーはステファノの言葉を繰り返しているだけだ。だが、耳から入る言葉がステファノの思考を刺激する。励まされて次の言葉を紡ぎ出す。
「そうなんですよ! ですから、頭の中の言葉→雲→文字になった言葉→黒板という順序で表示されるわけです」
「そういうことか。驚いたね」
「まったくです。雲って何ですか? どこにあるのって、空の上か? アーティファクトなのかなあ?」
「凄いものだね」
最早スールーの言葉にはまったく意味がない。ステファノは既に思考の道筋を築き上げている。励まし続けてやれば、勝手にゴールまで突っ走るであろう。
「そうなると、黒板がここにある必要ありますかってことです」
「本当にそうだね」
「でしょう? どうせ雲から送られてくるんですよ? どうやって送られるのか知りませんけど。イデア界の出来事であれば距離や場所は関係ないはずです」
「その通りだ」
スールーにはちんぷんかんぷんだったが、ステファノの中で結論が近づいていることはその表情から読み取れた。
「それなら黒板を1000キロ先に置いたら、1000キロ先に言葉が届くってことじゃないですか!」
「何だって?」
「だけど、そうしたらどの黒板に送ったら良いかわからないなって思ったんですよ」
「それは困るね」
これはどういうことだ? スールーは話の行方がまるで読めず、脂汗をかき始めていた。
「それならきっと、送り先の指定が術式の中に含まれているはずだなと」
「そうかもしれないね」
「でしょう? 黒板の術式を解析したら、①の記録密度向上と③の伝達速度向上の両方が解決できるんじゃないかと思って」
事ここに至って、スールーはステファノが何か革命的なアイデアを掴みかけていることに気がついた。
「よし! 君は次の研究テーマを黒板システムの解析に定めたまえ! 魔術師の君にふさわしいテーマじゃないか」
そして、すべてをステファノに丸投げする。
スールーの邪悪なスマイルを目撃したサントスは、その犠牲となるステファノのために心の中でため息をついた。
「ステファノはちょろ過ぎ」
「え? 黒板の術式を甘く見てはいませんよ? 過去に解析しようとした事例があるかどうかも調べますし……」
「サントス、まあ良いじゃないか? ステファノのやる気を尊重しよう!」
スールーの口車に乗せられたステファノのことをサントスは心配していた。後ろめたさを感じているスールーは、ステファノが気づかぬよう話をうやむやにする。
「そうと決まれば、今日から調査を開始しますよ。体は自由になりますからね」
ステファノの期末試験は既に終わっていた。受ける必要があるのは、「スノーデン王国史初級」と「万能科学総論」の2つのみだったので、あっという間に試験期間終了である。
王国史については映像記憶を持つステファノが得意とするタイプの学問である。試験にてこずることもなかった。
万能科学総論についてはかなりトリッキーな出題であったが、日頃の講義をしっかり聞いていれば解けるように組み立てられていた。何より「ノート持ちこみ可」という設定だったので、ステファノには有利だった。
「うらやましい奴だな。こっちは毎晩試験勉強でひいひい言ってるってのに」
「トーマは自業自得。日頃の行いのせい」
サントスは手厳しいが、言うだけのことはある。自身は取りこぼしなく、期末試験に着々と合格していた。
スールーも同様である。チャレンジにもいくつか成功しているので、サントス以上に余裕のある試験期間を過ごしていた。
「新入生の1学期なんてそんなものさ。ステファノが例外すぎるだけだよ」
「そうですよねえ。秀才ってタイプじゃないのに本番に強いというか、勝負に強いというか」
先輩らしくスールーがトーマを慰める。
トーマも出来が悪いわけではない。試験結果も順調ではあった。
ただ、他の3人に比べてトーマは得意、不得意の差が激しかった。数学、物理のように答えがはっきりと定まる学問を得意としたが、いわゆる文系の社会学的内容は苦手としていた。
魔術学科の科目についても、実技系は何とか食らいついているが、座学となると心もとない。
「まあ心配するな。アカデミーでは落とした科目の再受講が認められているからな。失敗しても挽回が効く」
アカデミーは学びの意思がある者を拒絶しない。挑戦者には道が開かれるのだ。
「それに、研究報告会のポイントが配分されるからね。休み明けの連絡を楽しみにしていたまえ」
情革研として3件の報告をし、トーマに関してはステファノとの連名で「標的鏡」の発明でもエントリーしている。
最低でも4ポイント、4単位相当の評価は期待できた。
「それについては先輩方に感謝してますよ。ステファノにもな。情革研に俺を入れてくれてありがとう」
「ふん。今更」
「そうだな。メンバーが働いて評価を得るのは当然のことだよ。巡り合わせで得をしたのはお互い様だしね」
とはいえ、情革研の活躍は他のグループに対して群を抜いていた。テーマと才能がうまくかみ合った結果であろう。
「2学期は印刷機をバリバリ物にしますよ。先輩、休みの間にお互い原理図を書き溜めて、新年に見せっこしましょうよ」
「良い。動力系はトーマに任せた。そっちは得意だろ?」
「なら、紙送り機構は先輩ですね。俺はそういう細かいからくりはあんまり……」
「インクについても任せろ。ウチは染物屋だから」
試験のことを嘆いていたトーマが生き生きと輝いていた。
それを見てスールーが満足げに頷いている。
良いチームだなと、ステファノは微笑んだ。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第332話 で、今日は何を調べたいんだ?」
研究会の会合を終えて、ステファノは図書館に向かった。黒板の魔道具について過去の解析事例を調査するためである。
授業と全く関係ないテーマについて調べに行くのは初めてのことであった。
(何だか、ちょっと新鮮だな)
自分の目的のために図書館を利用するということが、贅沢なことに思えた。
「あら、いらっしゃい。ちょっと待って、ハンニバルを呼んで来るわ」
顔なじみの司書がステファノの顔を見るなり、ハンニバルを呼びに行ってくれた。
(何だかいつも指名しているみたいで、申し訳ないな)
……
◆お楽しみに。
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