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第4章 魔術学園奮闘編
第242話 サン・ミカエルが描いた画を見たことありますか?
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「魔術具だと……」
「魔術そのものを封じた道具だ」
「だから、そんなものはアーティファクト以外には存在しないだろう!」
トーマの「常識」が魔術具の存在を否定する。できるわけがないと腹の真ん中で言い張る。
だが……。
「現にここにあるんだからしょうがないだろう。これはまだひな形だし」
ステファノは拡声器の仕組みを3人に説明した。
「封じ込めたのは風魔術です。受けた振動を箱が反射し、糸が増幅する仕掛けです」
「う、わからん」
「箱の反射はわかる。風魔術の役割と増幅の仕掛けが謎」
頭を抱えるスールーに、途中でついていけなくなるサントス。
一方、トーマは爪を噛んでステファノの言葉を咀嚼していた。
「振動……。振動なんだな? 増幅させるのか振動を。そこに魔術を使うのか!」
「わかるのか、トーマ?」
「振動、振動、振動! 声とは、音とは振動だ! 山彦だな? だが、風属性でどうやる?」
再びトーマは激しく爪を噛む。
「風を吹かせるんじゃないな? 風、風……。空気が動くのか? うー、ステファノ、風魔術でなぜ糸が振動する?」
「風魔術は風を起こす魔術ではないよ、トーマ」
ステファノはドリーにした説明をトーマにも繰り返す。風とは空気の動きであり、空気の動きは圧力差のある所に生じる。
そして圧力差は温度差によって生じ、温度差は運動によって生まれるのだと。
「運動、運動、運動。この場合は振動なのか? いや! いつでも振動なのか!」
「その通りだ。風魔術とは振動により温度を操る魔術のことだ」
正確に言えばその因果を利用する。
「俺は風魔術の大本まで戻って『振動を受けたらそれを5倍にして返す』魔術具を作ったんだ」
「お前っ! ばっ! わはははは! とんでもないな」
トーマは笑い出した。ステファノのやったことを理解した上で、その桁外れな発想と現実化させた実行力に手放しで驚嘆したのだ。
「トーマ、お前は理解できたんだな。この拡声器の仕組みを」
「何だと? 理解できたかだと? ああ、失礼。サン・ミカエルが描いた画を見たことありますか?」
スールーの問いに一瞬気色ばんだトーマは、気を取り直して口調を変えた。反対にスールーに問い返す。
「大聖堂のフレスコ画は見たことがある」
「あれは筆で絵の具を塗りつけるだけで描けますよ」
「ふざけるな! かの天才だからこそあの画が描けるのだ! ……そういうことか」
仕組みを知っただけでは本当の「理解」とは言えない。
ステファノ以外誰も拡声器を再現できないのだ。トーマはそれを画家の画に例えた。
「アカデミーの研究報告会ごとき、この拡声器1つでおつりが来ます。これはそういうものだ」
ドリーと同じことをトーマも言い放った。
「メガホンが使われているすべての現場で、こいつはそれを置き換えられる。劇場、辻売り、警報、音楽家、詩人、政治家……。使い道はいくらでもある」
「おっと、そうなると商品化の取り決めをしなければならんな」
トーマとスールーは既に拡声器を量産化して販売することを考え始めている。
「2人とも慌てないで。俺はこれを売り出すつもりはないよ。少なくとも今のところはね」
製作できるのがステファノだけとあっては、拡声器の製作に専従しなければ「量産化」などできないだろう。
それでは学業がおろそかになる。
「それよりもこれを改良する方法を議論したいんだ。これはひな形だと言ったでしょ」
魔術化の部分を除けば、それはエンジニアリングのテーマだ。
サントスとトーマが互いの顔を見合わせた。
「ポイントは? 振動と反響?」
「共鳴体は硬い素材が良いんじゃないか?」
「振動させるなら糸より……皮か紙の方が良い?」
「用途は中継器だろう? 背中で音を受けて、前に音を出す構造になるな」
「背中合わせに受音器と送音器をくっつけたら?」
2人の技術者は頭を寄せ合うようにして、拡声器のひな形を前に議論を始めた。
「やれやれ、手がつけられんな」
スールーは2人の様子を見て肩をすくめた。
「ステファノ、感謝する」
「えっ、何のことですか?」
「君が来てからサントスが生き生きしている。中でもトーマを連れて来てくれたことがありがたかった」
スールーではサントスの議論相手は務まらなかった。理論とは、ぶつける相手があってこそ磨かれていくものなのだ。
「情革研は今日からがスタートだ。君のお陰で本物になれた」
スールーはステファノを見る目に力を込めた。
「それは違いますよ」
ステファノはさらりと受け流す。
「俺たち4人で情革研です。そういうことでしょ?」
誰が欠けてもこのチームワークは生まれない。多様性こそが最大の武器なのだ。
「そうだな。君の言う通りだ」
スールーは面はゆそうに微笑んだ。
傍らではトーマとサントスがヒートアップしていた。
「だから、そこまで言うなら自分で図面を引いてみろ!」
「できねえっての! 言った通り図面起したらいいだろう!」
いまにも手を出しそうな勢いだが、不思議と喧嘩に見えないのはどうしたことか。
「お2人さん、ちょっと良いですか? 魔術具はそれだけではないんで話を聞いてもらえます?」
「何だと?」
「他にもある? 嘘だろ?」
言い争いをぴたりとやめて、食いつくようにステファノを振り向いた2人。
変な所で息が合っている。
「まずはこれを見て下さい」
ステファノは背嚢から3枚の円板を取り出した。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第243話 下絵さえあれば、そこらの餓鬼にでもまともな細工品が作れるぜ。」
「えー、ということは。木彫りの細工品が短時間で作れるということか?」
「誰にでも、だ。下絵さえあれば、そこらの餓鬼にでもまともな細工品が作れるぜ」
手元から目を上げぬままトーマが答えた。納得したのか、再び押し型をサントスに渡す。
「押し型とやらの細工については後から話をしよう。まず、どういう理屈で動いてるのか、それを教えてくれ」
トーマの声がやけに大人びて聞こえた。
「まず初めに、下絵の薄紙には光属性の魔力が籠めてあります。紙の裏側がスールーの合言葉に反応して光るんです」
「あの『光……』」
「しっ! 魔術具に聞こえると反応してしまうんで、合言葉は言わないで」
トーマは慌てて自分の口を押えた。
……
◆お楽しみに。
「魔術そのものを封じた道具だ」
「だから、そんなものはアーティファクト以外には存在しないだろう!」
トーマの「常識」が魔術具の存在を否定する。できるわけがないと腹の真ん中で言い張る。
だが……。
「現にここにあるんだからしょうがないだろう。これはまだひな形だし」
ステファノは拡声器の仕組みを3人に説明した。
「封じ込めたのは風魔術です。受けた振動を箱が反射し、糸が増幅する仕掛けです」
「う、わからん」
「箱の反射はわかる。風魔術の役割と増幅の仕掛けが謎」
頭を抱えるスールーに、途中でついていけなくなるサントス。
一方、トーマは爪を噛んでステファノの言葉を咀嚼していた。
「振動……。振動なんだな? 増幅させるのか振動を。そこに魔術を使うのか!」
「わかるのか、トーマ?」
「振動、振動、振動! 声とは、音とは振動だ! 山彦だな? だが、風属性でどうやる?」
再びトーマは激しく爪を噛む。
「風を吹かせるんじゃないな? 風、風……。空気が動くのか? うー、ステファノ、風魔術でなぜ糸が振動する?」
「風魔術は風を起こす魔術ではないよ、トーマ」
ステファノはドリーにした説明をトーマにも繰り返す。風とは空気の動きであり、空気の動きは圧力差のある所に生じる。
そして圧力差は温度差によって生じ、温度差は運動によって生まれるのだと。
「運動、運動、運動。この場合は振動なのか? いや! いつでも振動なのか!」
「その通りだ。風魔術とは振動により温度を操る魔術のことだ」
正確に言えばその因果を利用する。
「俺は風魔術の大本まで戻って『振動を受けたらそれを5倍にして返す』魔術具を作ったんだ」
「お前っ! ばっ! わはははは! とんでもないな」
トーマは笑い出した。ステファノのやったことを理解した上で、その桁外れな発想と現実化させた実行力に手放しで驚嘆したのだ。
「トーマ、お前は理解できたんだな。この拡声器の仕組みを」
「何だと? 理解できたかだと? ああ、失礼。サン・ミカエルが描いた画を見たことありますか?」
スールーの問いに一瞬気色ばんだトーマは、気を取り直して口調を変えた。反対にスールーに問い返す。
「大聖堂のフレスコ画は見たことがある」
「あれは筆で絵の具を塗りつけるだけで描けますよ」
「ふざけるな! かの天才だからこそあの画が描けるのだ! ……そういうことか」
仕組みを知っただけでは本当の「理解」とは言えない。
ステファノ以外誰も拡声器を再現できないのだ。トーマはそれを画家の画に例えた。
「アカデミーの研究報告会ごとき、この拡声器1つでおつりが来ます。これはそういうものだ」
ドリーと同じことをトーマも言い放った。
「メガホンが使われているすべての現場で、こいつはそれを置き換えられる。劇場、辻売り、警報、音楽家、詩人、政治家……。使い道はいくらでもある」
「おっと、そうなると商品化の取り決めをしなければならんな」
トーマとスールーは既に拡声器を量産化して販売することを考え始めている。
「2人とも慌てないで。俺はこれを売り出すつもりはないよ。少なくとも今のところはね」
製作できるのがステファノだけとあっては、拡声器の製作に専従しなければ「量産化」などできないだろう。
それでは学業がおろそかになる。
「それよりもこれを改良する方法を議論したいんだ。これはひな形だと言ったでしょ」
魔術化の部分を除けば、それはエンジニアリングのテーマだ。
サントスとトーマが互いの顔を見合わせた。
「ポイントは? 振動と反響?」
「共鳴体は硬い素材が良いんじゃないか?」
「振動させるなら糸より……皮か紙の方が良い?」
「用途は中継器だろう? 背中で音を受けて、前に音を出す構造になるな」
「背中合わせに受音器と送音器をくっつけたら?」
2人の技術者は頭を寄せ合うようにして、拡声器のひな形を前に議論を始めた。
「やれやれ、手がつけられんな」
スールーは2人の様子を見て肩をすくめた。
「ステファノ、感謝する」
「えっ、何のことですか?」
「君が来てからサントスが生き生きしている。中でもトーマを連れて来てくれたことがありがたかった」
スールーではサントスの議論相手は務まらなかった。理論とは、ぶつける相手があってこそ磨かれていくものなのだ。
「情革研は今日からがスタートだ。君のお陰で本物になれた」
スールーはステファノを見る目に力を込めた。
「それは違いますよ」
ステファノはさらりと受け流す。
「俺たち4人で情革研です。そういうことでしょ?」
誰が欠けてもこのチームワークは生まれない。多様性こそが最大の武器なのだ。
「そうだな。君の言う通りだ」
スールーは面はゆそうに微笑んだ。
傍らではトーマとサントスがヒートアップしていた。
「だから、そこまで言うなら自分で図面を引いてみろ!」
「できねえっての! 言った通り図面起したらいいだろう!」
いまにも手を出しそうな勢いだが、不思議と喧嘩に見えないのはどうしたことか。
「お2人さん、ちょっと良いですか? 魔術具はそれだけではないんで話を聞いてもらえます?」
「何だと?」
「他にもある? 嘘だろ?」
言い争いをぴたりとやめて、食いつくようにステファノを振り向いた2人。
変な所で息が合っている。
「まずはこれを見て下さい」
ステファノは背嚢から3枚の円板を取り出した。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第243話 下絵さえあれば、そこらの餓鬼にでもまともな細工品が作れるぜ。」
「えー、ということは。木彫りの細工品が短時間で作れるということか?」
「誰にでも、だ。下絵さえあれば、そこらの餓鬼にでもまともな細工品が作れるぜ」
手元から目を上げぬままトーマが答えた。納得したのか、再び押し型をサントスに渡す。
「押し型とやらの細工については後から話をしよう。まず、どういう理屈で動いてるのか、それを教えてくれ」
トーマの声がやけに大人びて聞こえた。
「まず初めに、下絵の薄紙には光属性の魔力が籠めてあります。紙の裏側がスールーの合言葉に反応して光るんです」
「あの『光……』」
「しっ! 魔術具に聞こえると反応してしまうんで、合言葉は言わないで」
トーマは慌てて自分の口を押えた。
……
◆お楽しみに。
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