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第3章 魔術覚醒編
第144話 衛兵詰め所にてステファノ素性を疑われる。
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「ああ! わしの手提げじゃ!」
老人は崩れそうな足取りで、ステファノが持つ手提げ袋にしがみついた。余程大切なものが入っているのであろう。
震える手で袋を広げ、中身をのぞいて確かめる。
「ああ……。助かった!」
最早踏ん張る気力もなく、老人は道の真ん中にへたり込み、手提げ袋を胸に抱きしめた。
その様子を片眼に見ながら、ステファノは先程投げ飛ばした男を振り返る。
左肩を抑えて唸っているところを見ると、肩の骨が外れたか、鎖骨が折れたか?
ステファノに同情する心は起こらなかった。
(こんなお爺さんから荷物を奪うなんて、とんでもない奴だ)
老人に手を貸して立たせると、ステファノは手ぬぐいを取り出して老人のズボンについた泥を払ってやる。
「大丈夫ですか? 少し休んだ方が良いですよ」
「ああ、ありがとうございます。ありがとうございます」
老人は荷物を抱きしめたまま、何度もステファノに頭を下げた。
「いいえ。あいつが避け損ねて勝手に転んだだけですから」
ステファノが老人を安心させようと笑って見せたところに、どやどやとやって来る男たちがいた。
「待て、待て! 貴様、そこを動くな!」
「おとなしくお縄を受けろ!」
出張って来たのは街の衛兵たちであった。騒ぎを聞きつけてどこからか飛んで来たのであろう。
「お勤めご苦労様です。あそこに転がっているのが……」
「黙れ! 勝手に口を利くな!」
ステファノがひったくりの男を示そうとすると、衛兵たちはステファノを犯人の片割れと思ったようだった。
「あ、ああ! 違います、違います。この人は泥棒じゃない! ど、泥棒はあっちの奴だ!」
「何だと? ちっ、紛らわしい奴だ! そこの男、動くな! 動くなと言うに!」
衛兵の姿を見て慌てて立ち上がろうとしたひったくり犯は、肩の痛みに耐えきれず、よろけて膝をついた。
肩が折れていては走れるものではない。
ぎゃあぎゃあ騒ぐのにお構いなく、衛兵は2人がかりで男に縄を掛けた。
「泥棒はこいつだな? よし! 引っ立てろ。爺さんと若い方のお前は話を聞くから一緒に来てもらう」
指揮者らしい年配の衛兵が、老人とステファノに声を掛けて来た。
(まいったな。長くならなければ良いんだが……)
ステファノは内心閉口したが、逆らってどうなるものでもないのでおとなしく衛兵に同行した。
「すぐそこに詰め所があるから、そこまで来い」
衛兵に前後を挟まれて罪人のような気分になりながら、ステファノは示された詰め所の入り口を潜った。
そこは正式な兵舎でも警備所でもなく、どうやら口入屋の一角に衛兵の待機場所を備えた場所らしかった。
逃亡犯の手配をしたり、失せ物、失踪者の捜索をしたりするのに連絡が便利だということでこのような格好になっているらしい。依頼を出せるし、情報も集まるということのようだ。
「お前たち2人はそこに座っていてくれ。俺たちはまずこいつを牢につないでくる」
人権などという気の利いたものはない世界なので、怪我人だろうとお構いなしに引っ立てて鉄格子のはまった牢にぶち込んで鎖につなぐ。医者だ、何だの騒ぎはその後のことだ。別に医療ミスが起ころうが、手遅れになろうが、申し訳なく思うような人間はどこにもいない。
「待たせたな。ちょっと話を聞かせてもらおうか」
リーダー格の衛兵が戻って来たのは5分後のことであった。
要領を得ない爺さんの話を何とか引き出して、衛兵は調書を作り上げた。
今日中に返さないと店を奪われると言う借金の返済金をひったくられたということだったらしい。
(そんなお金をお爺さん1人に持たせるなよ……)
ステファノは内心うんざりしていたが、関わり合ってしまった以上、役人には協力するしかなかった。
「しかし、お前もやり過ぎではあるぞ。肩の骨を折るほど投げ飛ばすなど……」
取り調べが落ちついた所で衛兵はステファノに矛先を向けた。誰彼構わずお上風を吹かせたがるタイプの人間だったらしい。
「いえ、自分は見ての通り何の力も持ち合わせない人間でして。あいつが勝手に避け損ねて転んだみたいです」
「うん? そうか? うーん、すばしっこそうだが人を投げ飛ばすような力はないか? その細腕ではな。はっはっは」
ステファノがとぼけて受け流すと、衛兵は勝手に納得してくれた様子だった。
受け答えをしている内に被害者の老人も落ちついたようで、ちゃんと質問に答えられるようになった。
事情をすべて記録したと納得してもらったところで、ステファノはようやく衛兵から解放された。
やれやれと立ち上がったはずみに腰の物入れが揺れて、中に納めた遠眼鏡の一部が蓋を押し上げて飛び出して来た。
どうやら蓋の止め方が緩かったようだ。遠眼鏡を押し込んで蓋を締め直そうとすると、それを見とがめた衛兵の眼が光った。
「待て! それは何だ? ちょっと見せてみろ」
「はい。うちの旦那様に頂いた遠眼鏡です。どうぞ」
ステファノにやましいことはないので堂々と差し出す。衛兵は遠眼鏡を手に取って、しげしげと眺めた。
「これは……高価な品物だろう。なぜこのようなものをお前に?」
「元々は賊を警戒するためにお預かりしたものですが、見張りが上手く行ったご褒美に頂戴いたしました」
ステファノはこういう時のために考えておいた口上をすらすらと述べた。真実その通りである。
「褒美だと? いや、それにしてもこれは上等すぎるだろう? 嘘ではないだろうな?」
厄介な話になりそうだった。商会に問い合わせてもらえばわかることではあったが、その時間が惜しい。
どう言い訳しようかと考えていると、背中から聞き馴れた声が掛かった。
「おお、ステファノではないか? 珍しいな。元気か?」
衛兵など目に入らないかのようにすたすたと近づいて来たのは、ロングソードを肩に担いだクリードであった。
「クリードさん! お久しぶりです」
「はは。元気そうだな。見たところ、体も鍛えているらしい」
クリードはステファノの体をあちこち眺めて、感心していた。
「これはクリードさん。……お知合いですかな?」
二つ名持ちのクリードは、衛兵に顔を知られているようであった。
「ああ、以前護衛の仕事で一緒になってな。何かあったかね?」
「いえ、盗賊逮捕にご協力いただいたのですが……」
「ほう? またお手柄か。 あの時も野盗退治、確か30人だったか? 一緒に居合わせたのだったな」
クリードはあたかもステファノが盗賊退治の専門家であるかのように話を盛ってくれていた。
「そうでしたか! ちょっと変わった品物を持っておったので話を聞いたまでです」
「うん? その遠眼鏡か? ネルソン商会に雇われたのだったな? 紋章を見ればわかるが……」
遠眼鏡の立派さに目を奪われていたが、よく観ればギルモアの獅子が刻まれている。
衛兵の顔色がさっと変わった。
ネルソンとギルモア家の関係は衛兵であれば、知らないはずがない。その正当な使用人にいちゃもんをつけたとあっては下手をするとギルモア家からにらまれかねない。
「こ、これはお返しする。珍しいものを見せてもらって感謝する」
「どういたしまして」
助かったと内心クリードに頭を下げながら、ステファノは遠眼鏡を受け取った。
「クリードさんはお仕事ですか?」
衛兵と別れながら、クリードが現れた事情を聞いてみる。
「ああ。護衛の仕事が終わったのでな。報酬の受け取りだ」
「先日はうちの旦那様の護衛をしていただいたそうで」
「王都までのな。あの時とは違い、襲われることもなく平穏な仕事であった」
普通はそうなのだ。「護衛つき」と知られた馬車は襲われない。盗賊とて命は惜しいのだった。
護衛とは盗賊除けに雇うべきものなのである。
「あの旅のお陰でネルソン商会に雇われ、近々王立アカデミーで魔術を勉強することになりました」
「そうか。望みの方向に進んでいるのだな。それは良かった」
「はい。またいつか、お話を聞かせて下さい。今日は人を訪ねねばなりませんので、ここで失礼します」
「楽しみにしている。達者で過ごせよ」
クリードは口入屋の建物を出て行った。先程は衛兵に引き立てられるようにして入って来たので余裕がなかったが、今は自由の身になって改めて店内を眺めてみる。
例の口入屋を除けば営業中の店内に入ったのは、これが初めてであった。ここは大きな店らしく、多くの人が出入りして賑やかだった。一方の壁一面に仕事の依頼が貼り出されている。
護衛の仕事などもここにあるのだなと眺めていると、貼り紙の前に立つ小柄な人影に気がついた。
「師匠!」
ステファノの声に振り向いたのは、まぎれもなくヨシズミであった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第145話 ヨシズミ、魔法の何たるかをネルソンに語る。」
「ふむ。『魔法』とはどのようなものかな?」
ネルソンの問いに、ヨシズミが答えた。
「『魔法』とはイデアを貫く法である。森羅万象には因果に関わる揺らぎがあり、世界をまたがる奥行きがある。無数の因果、その揺らぎの中から世界を乱さぬ因果の糸を選び出し、現実界に呼び出す技を『魔法』と呼ぶ」
「奥行きだと? 世界は同時並行して存在するというのだな? それを認識したうえで制御するのか? うーん。人間の能力で扱い切れるものなのか?」
堰を切ったように問いを重ねたのはドイルであった。イデア界の法則はドイル自身考え続けて来たテーマであった。
……
◆お楽しみに。
老人は崩れそうな足取りで、ステファノが持つ手提げ袋にしがみついた。余程大切なものが入っているのであろう。
震える手で袋を広げ、中身をのぞいて確かめる。
「ああ……。助かった!」
最早踏ん張る気力もなく、老人は道の真ん中にへたり込み、手提げ袋を胸に抱きしめた。
その様子を片眼に見ながら、ステファノは先程投げ飛ばした男を振り返る。
左肩を抑えて唸っているところを見ると、肩の骨が外れたか、鎖骨が折れたか?
ステファノに同情する心は起こらなかった。
(こんなお爺さんから荷物を奪うなんて、とんでもない奴だ)
老人に手を貸して立たせると、ステファノは手ぬぐいを取り出して老人のズボンについた泥を払ってやる。
「大丈夫ですか? 少し休んだ方が良いですよ」
「ああ、ありがとうございます。ありがとうございます」
老人は荷物を抱きしめたまま、何度もステファノに頭を下げた。
「いいえ。あいつが避け損ねて勝手に転んだだけですから」
ステファノが老人を安心させようと笑って見せたところに、どやどやとやって来る男たちがいた。
「待て、待て! 貴様、そこを動くな!」
「おとなしくお縄を受けろ!」
出張って来たのは街の衛兵たちであった。騒ぎを聞きつけてどこからか飛んで来たのであろう。
「お勤めご苦労様です。あそこに転がっているのが……」
「黙れ! 勝手に口を利くな!」
ステファノがひったくりの男を示そうとすると、衛兵たちはステファノを犯人の片割れと思ったようだった。
「あ、ああ! 違います、違います。この人は泥棒じゃない! ど、泥棒はあっちの奴だ!」
「何だと? ちっ、紛らわしい奴だ! そこの男、動くな! 動くなと言うに!」
衛兵の姿を見て慌てて立ち上がろうとしたひったくり犯は、肩の痛みに耐えきれず、よろけて膝をついた。
肩が折れていては走れるものではない。
ぎゃあぎゃあ騒ぐのにお構いなく、衛兵は2人がかりで男に縄を掛けた。
「泥棒はこいつだな? よし! 引っ立てろ。爺さんと若い方のお前は話を聞くから一緒に来てもらう」
指揮者らしい年配の衛兵が、老人とステファノに声を掛けて来た。
(まいったな。長くならなければ良いんだが……)
ステファノは内心閉口したが、逆らってどうなるものでもないのでおとなしく衛兵に同行した。
「すぐそこに詰め所があるから、そこまで来い」
衛兵に前後を挟まれて罪人のような気分になりながら、ステファノは示された詰め所の入り口を潜った。
そこは正式な兵舎でも警備所でもなく、どうやら口入屋の一角に衛兵の待機場所を備えた場所らしかった。
逃亡犯の手配をしたり、失せ物、失踪者の捜索をしたりするのに連絡が便利だということでこのような格好になっているらしい。依頼を出せるし、情報も集まるということのようだ。
「お前たち2人はそこに座っていてくれ。俺たちはまずこいつを牢につないでくる」
人権などという気の利いたものはない世界なので、怪我人だろうとお構いなしに引っ立てて鉄格子のはまった牢にぶち込んで鎖につなぐ。医者だ、何だの騒ぎはその後のことだ。別に医療ミスが起ころうが、手遅れになろうが、申し訳なく思うような人間はどこにもいない。
「待たせたな。ちょっと話を聞かせてもらおうか」
リーダー格の衛兵が戻って来たのは5分後のことであった。
要領を得ない爺さんの話を何とか引き出して、衛兵は調書を作り上げた。
今日中に返さないと店を奪われると言う借金の返済金をひったくられたということだったらしい。
(そんなお金をお爺さん1人に持たせるなよ……)
ステファノは内心うんざりしていたが、関わり合ってしまった以上、役人には協力するしかなかった。
「しかし、お前もやり過ぎではあるぞ。肩の骨を折るほど投げ飛ばすなど……」
取り調べが落ちついた所で衛兵はステファノに矛先を向けた。誰彼構わずお上風を吹かせたがるタイプの人間だったらしい。
「いえ、自分は見ての通り何の力も持ち合わせない人間でして。あいつが勝手に避け損ねて転んだみたいです」
「うん? そうか? うーん、すばしっこそうだが人を投げ飛ばすような力はないか? その細腕ではな。はっはっは」
ステファノがとぼけて受け流すと、衛兵は勝手に納得してくれた様子だった。
受け答えをしている内に被害者の老人も落ちついたようで、ちゃんと質問に答えられるようになった。
事情をすべて記録したと納得してもらったところで、ステファノはようやく衛兵から解放された。
やれやれと立ち上がったはずみに腰の物入れが揺れて、中に納めた遠眼鏡の一部が蓋を押し上げて飛び出して来た。
どうやら蓋の止め方が緩かったようだ。遠眼鏡を押し込んで蓋を締め直そうとすると、それを見とがめた衛兵の眼が光った。
「待て! それは何だ? ちょっと見せてみろ」
「はい。うちの旦那様に頂いた遠眼鏡です。どうぞ」
ステファノにやましいことはないので堂々と差し出す。衛兵は遠眼鏡を手に取って、しげしげと眺めた。
「これは……高価な品物だろう。なぜこのようなものをお前に?」
「元々は賊を警戒するためにお預かりしたものですが、見張りが上手く行ったご褒美に頂戴いたしました」
ステファノはこういう時のために考えておいた口上をすらすらと述べた。真実その通りである。
「褒美だと? いや、それにしてもこれは上等すぎるだろう? 嘘ではないだろうな?」
厄介な話になりそうだった。商会に問い合わせてもらえばわかることではあったが、その時間が惜しい。
どう言い訳しようかと考えていると、背中から聞き馴れた声が掛かった。
「おお、ステファノではないか? 珍しいな。元気か?」
衛兵など目に入らないかのようにすたすたと近づいて来たのは、ロングソードを肩に担いだクリードであった。
「クリードさん! お久しぶりです」
「はは。元気そうだな。見たところ、体も鍛えているらしい」
クリードはステファノの体をあちこち眺めて、感心していた。
「これはクリードさん。……お知合いですかな?」
二つ名持ちのクリードは、衛兵に顔を知られているようであった。
「ああ、以前護衛の仕事で一緒になってな。何かあったかね?」
「いえ、盗賊逮捕にご協力いただいたのですが……」
「ほう? またお手柄か。 あの時も野盗退治、確か30人だったか? 一緒に居合わせたのだったな」
クリードはあたかもステファノが盗賊退治の専門家であるかのように話を盛ってくれていた。
「そうでしたか! ちょっと変わった品物を持っておったので話を聞いたまでです」
「うん? その遠眼鏡か? ネルソン商会に雇われたのだったな? 紋章を見ればわかるが……」
遠眼鏡の立派さに目を奪われていたが、よく観ればギルモアの獅子が刻まれている。
衛兵の顔色がさっと変わった。
ネルソンとギルモア家の関係は衛兵であれば、知らないはずがない。その正当な使用人にいちゃもんをつけたとあっては下手をするとギルモア家からにらまれかねない。
「こ、これはお返しする。珍しいものを見せてもらって感謝する」
「どういたしまして」
助かったと内心クリードに頭を下げながら、ステファノは遠眼鏡を受け取った。
「クリードさんはお仕事ですか?」
衛兵と別れながら、クリードが現れた事情を聞いてみる。
「ああ。護衛の仕事が終わったのでな。報酬の受け取りだ」
「先日はうちの旦那様の護衛をしていただいたそうで」
「王都までのな。あの時とは違い、襲われることもなく平穏な仕事であった」
普通はそうなのだ。「護衛つき」と知られた馬車は襲われない。盗賊とて命は惜しいのだった。
護衛とは盗賊除けに雇うべきものなのである。
「あの旅のお陰でネルソン商会に雇われ、近々王立アカデミーで魔術を勉強することになりました」
「そうか。望みの方向に進んでいるのだな。それは良かった」
「はい。またいつか、お話を聞かせて下さい。今日は人を訪ねねばなりませんので、ここで失礼します」
「楽しみにしている。達者で過ごせよ」
クリードは口入屋の建物を出て行った。先程は衛兵に引き立てられるようにして入って来たので余裕がなかったが、今は自由の身になって改めて店内を眺めてみる。
例の口入屋を除けば営業中の店内に入ったのは、これが初めてであった。ここは大きな店らしく、多くの人が出入りして賑やかだった。一方の壁一面に仕事の依頼が貼り出されている。
護衛の仕事などもここにあるのだなと眺めていると、貼り紙の前に立つ小柄な人影に気がついた。
「師匠!」
ステファノの声に振り向いたのは、まぎれもなくヨシズミであった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第145話 ヨシズミ、魔法の何たるかをネルソンに語る。」
「ふむ。『魔法』とはどのようなものかな?」
ネルソンの問いに、ヨシズミが答えた。
「『魔法』とはイデアを貫く法である。森羅万象には因果に関わる揺らぎがあり、世界をまたがる奥行きがある。無数の因果、その揺らぎの中から世界を乱さぬ因果の糸を選び出し、現実界に呼び出す技を『魔法』と呼ぶ」
「奥行きだと? 世界は同時並行して存在するというのだな? それを認識したうえで制御するのか? うーん。人間の能力で扱い切れるものなのか?」
堰を切ったように問いを重ねたのはドイルであった。イデア界の法則はドイル自身考え続けて来たテーマであった。
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