飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

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第3章 魔術覚醒編

第104話 書物に「答え」はなく、ステファノは「問い」を見つける。

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 仕事がないというのは他の人の手前とても気まずいのだが、ステファノは今は勉強が自分の仕事だと割り切るように努めた。
 朝食の後、早速ネルソンの書斎に籠って王立アカデミーへの入学準備に取り掛かった。

「まずは下調べだよね。『食材を見もしないで献立を決める奴があるか!』って、親方によく怒られたっけ」

 部屋の半分ほどを占める書架を見て歩くことにした。

「旦那様が言った通り、薬学と医学関係の本が多いな。薬学はちょっと興味があるけど、今は後回しにしておこう」

 最初から脱線するわけにはいかない。第一に必要なのは魔力を発する技術。第二にギフトの育て方であった。

「やっぱり魔術の入門書があると良いんだろうなあ。とりあえず『魔術』『魔力』と名のつく書物を抜き出してみよう」

 思った通りというべきか、魔術関係の蔵書は少なかった。ステファノは1回目の収穫を机に並べた。

「うーん。『魔力』は全滅かあ。『魔術』が2冊あっただけ運が良かったのかな?」

 ノートを広げ、発見した2冊の書名と著者を記録した。

「エミリオ著『初級魔術大全』か。術の使い方が書かれていると良いんだけど」
「ハンブル著『魔術発動媒体のいろいろとその特徴』ね。どんなことが書かれているのかな?」

 ステファノはまず「初級魔術大全」の中身から見て行くことにした。

「う~。ちょっと期待していた感じと違うなあ。こっちの期待が間違っているのかもしれないけど」

「大全」の方は「初級魔術のカタログ」という感じで、世の中に広まっている初級魔術にどんなものがあるかを整理したものだった。体系化の方法は、「魔術系統」「難易度」「人気度」「有用度」を著者が格づけした結果になっていた。

「『難易度』と『有用度』って、この人の個人的意見みたいだな。有名な学者さんなのかもしれないけど、1人の意見をそのまま丸呑みするってのもね。」
「『人気度』の測定方法も書かれて……いないね? そもそも魔術の人気度って、情報として価値があるのかしら?」
「結局客観的に評価できるのって『魔術系統』だけなんじゃないかなあ。ふーん。何だか『諸説あり』っていう項目が多い気がするな」

 魔術系統は一般的な、「火」「水」「風」「雷」「土」「光」の分類に従っていた。その根拠について何か述べていないかと探してみたが、ステファノには見つけることができなかった。

「項目数は圧倒的に『火』と『水』に集中しているね。一番少ないのが『光』か。『ともしび』の術、1点張りだもんな」

「雷」と「土」についても項目数が少なく、人気度も低い魔術分類と書かれていた。

「『雷魔術』の初級魔術が『いかづち(小)』ってどうなんでしょう。術の宣言時、どうやって発音するのかな?」

 実際には「かっこしょう」とは発音しないらしい。単に「いかづち」とだけ発声する。
「(中)」や「(大)」の時はどうするのかなと、ステファノは素朴な疑問を抱いた。

「土魔術も少ないね。『土塁どるい(小)』? それって使いどころってあるのかな?」

 入り口の狭い「雷」と「土」から上級魔術者2人を輩出していることが不思議に思えた。
 
「『雷神』ガルと『土竜もぐら』ハンニバル。ガル老師の雷魔術はギフトと関係しているかもしれない。ハンニバルさんの魔術がどういうものか、要チェックだね。」
 
 気になるポイントや疑問、確認したい事実などをステファノは独自の方法でノートに記録した。

「そう言えば、このノートも読み直してみると良いって言われたな。こいつも研究対象の1つに含めよう」

 忘れずにメモを取った。

「良し。詳しい内容は後で読み込むとして、今は一旦これくらいにしておこう。次は『媒体』の方ね」

 長杖スタッフ短杖ワンドくらいならステファノも聞き知っていたが、それ以外にも随分と様々な発動媒体があるようだった。

巻物スクロール、指輪、ネックレス、ペンダント、鏡、水晶玉、クリスタル、人骨、人形、宝剣……。え~? これって、何でも良いんじゃないの? そもそも発動媒体ってどういう働きをして、なぜ必要なの?」

 ステファノは「魔術発動媒体」あるいは「魔術発動」の原理についてどこかに記述がないかと探してみたが、この本の中には見つからなかった。

「う~ん……。何だかはぐらかされているような感じ。知りたいことが抜けてるんだよなあ、どっちの本も」

「媒体」の方には、「魔術発動媒体」は魔術の発動を助け、術の威力を高める効果があると書かれているが、使用した場合と使用しない場合の差や、各媒体同士の違いなどは記載されていない。

「携帯しやすいとか、入手が困難とか、希少とか書いてあるけど、それって『魔術媒体』としての属性というより『その物』本来の特徴じゃないかな?」

 どうにも歯がゆく、消化不良になりそうな著作であった。これ以上この2冊を読み込んでいると、欲求不満で著者に文句を言いたくなりそうだ。

 ステファノは一旦2冊の探求を中止して、方向を変えてみることにした。

「料理は肉ばかりじゃないからね。肉に飽きたら魚だってあるさ」

「大全」と「媒体」を脇に寄せて、ステファノは別の本を探しに書架へと向かった。

「ギフトのことを書いた本はないかなあ……。あ、そうだ!」

 ステファノは何も学問として何かを勉強しようとしているのではない。あくまでも「自分の魔力を動かすため」であり、「自分のギフトをより深く知るため」である。

 だったら、「ギフトの練習」も併せて行えば良いではないか?

 ステファノのギフトは「諸行無常いろはにほへと」。「物」や「人」の来し方行く末を「視る/観る」能力である。

「ギフトの眼でも『視』ながら探したら、何か見つかるかも? 良し、やってみよう!」

「色は匂へど、散りぬるを――」

 通常の意識では「ギフトに関したタイトル」を探しながら、体の奥では「ギフトに反応するタイトル」を求める。
 やってみると、結構難しいことだった。右手と左手で違う図形を描くような……。

「違うな。求めているものは1つ。求め方が違うだけなんだ。言ってみれば、1つの曲の歌詞と旋律みたいなもんだ。歌を歌っているつもりでやってみよう」

 でたらめな旋律に「ギフト名」を乗せて歌ってみた。

「色は匂へど~、散りぬるを~」

 不思議なことに歌にしてしまうと、「意識が自由になる」気がした。残りの意識で「ギフトに関するタイトル」を探す。
 まるで鼻歌を歌いながら探し物をするように、ステファノの旋律は自然なものになって行った。

「色は~匂へど~~、散り~ぬるを~~……」

 シャーン……。

 どこかで小さな鈴がいくつか鳴った気がした。書架の一角から聞こえるような――。
 
「色は~匂へど~~、散り~ぬるを~~……」

 シャーン……。

 隣の書架に移ると音は少し大きくなった。だが、ここでもない。

「色~は~匂~へ~ど~~、散~り~ぬ~る~を~~~……」

 シャ、シャーン……。

 最後の書架ではっきりと鈴の音が響いた。この棚には、表紙の取れた書籍や糸で綴っただけの覚書、手書きのノート、書簡の入った箱などが積まれていた。
 一番下の段に粗末な木箱が置いてあった。ネルソン邸の内装とは不釣り合いの、反り返った安物の木箱。

 その箱がステファノの歌に応えて光っていた。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第105話 ギフトは詠唱に乗り7つの波動を呼ぶ。」

 いろはにほへと、ちりぬるを。

 その文字が聞こえた。それは声ではなかった。男の声でもなく、女の声でもなかった。
 大人の声でも子供の声でもなかった。

 文字の声であり、概念そのものであった。

諸行無常いろはにほへと」の概念そのものが、「いろはにほへと、ちりぬるを」の光となってステファノの本質ひかりと共鳴した。

 ……
  
◆お楽しみに。
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