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第5話 救える世界、救える命
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<ワタシは『守護者』として新人類の復興を陰から見守るわ>
<……>
<ジョークを言う元気もなくなってしまったのかしら。スバル、アナタも話に加わってくれない?>
<ボクは核弾頭を武装解除するまで手を止められない……>
<これなら良くて?>
WO-9の目の前で核弾頭の制御回路が作動停止した。
一切の電圧が掛かっていないことを、WO-9のセンサーが確認した。
<どういうつもりだ?>
主回路と電源ユニットを結ぶハーネスをむしり取りながら、WO-9は強い脳波を飛ばした。
<悪く思わないで。このミサイルは単なるダミーよ。アナタたちを呼び出す招待状っていうわけ>
WO-9はミサイルの外殻を怒りに任せて殴りつけた。
<何が招待状だ! こいつは本物の核ミサイルじゃないか。放っておけば都市が1つ消し飛ばされるところだった>
<時間が無かったの。アナタも「これ」を知ってちょうだい>
WO-2を襲ったデータセットと同じものが、WO-9のABになだれ込んだ。
<くっ!>
<いかがかしら? ワタシが焦る気持ちが理解できた?>
<おい。ブラザーを虐めるのはそれくらいにしてもらおうか。こいつは俺と違って純朴なんでね>
<ブラスト! 大丈夫か>
<すまねぇな。情けないところを見せちまった。もう大丈夫だ>
WO-2は迷いを捨てた目の色をしていた。
<オレの質問に答えろ!>
<なぜアナタたちを選んだのか? なぜ今なのか? どこへ行かそうとしているのか? 何をさせるのか? 質問はその4つだったわね?>
<ああ>
<答えは1つだけよ。「世界」を救ってちょうだい>
<何を言う? 世界を滅ぼそうとしているのはお前じゃないか!>
<ああ、紛らわしくて困るわね。「この世界」は滅びを迎えている。避けられない滅びをね。あなた方に救ってほしいのは「別の世界」よ>
サイボーグたちのABに映像が流れ込んだ。見たことのない植物相。記憶にない建築様式。
見たことのない文字。
<これは……?>
<遺跡考古学はアナタの専門でしょ、スバル。この地球上にこんな都市は存在しないわ>
<これは現実なのか?>
<ええ。まぎれもない現実よ。時空連続体の歪みを通って、強い思念波として送られてきた情報の一部よ>
映像は見慣れぬ都市を映したものだったが、今まさに外敵に襲われているように見えた。
<住人は俺たちと変わらないように見えるな。だが、攻め込んできている「アレ」は何だ?>
<異世界人の言語を解析したところによると、彼らはアレを「魔物」と呼んでいるわ>
<魔物だと?>
<驚かないで。「あそこ」は「魔法」というシステムが文明の中核を占めている世界よ>
<魔法だって?>
<「アブラ・カダブラ、炎よあれ」ってやつかい?>
<冗談のつもりかもしれないけれど、その通りよ、ブラスト。異世界についての情報を送るわ>
異世界の成り立ち、言語や文化、魔法というシステム、魔物とは何か。
そして、「現在」異世界を襲っている破滅の危機とは一体どのようなものか?
それが1つのパッケージとして、ABに送り込まれた。
<何だよ、簡単な話じゃねぇか>
<魔物の侵攻から世界を救えだって?>
<そいつは確かに俺たち向きの仕事だな。だがよ……>
<こっちがだめなら、あっちってわけにはいかねえだろう>
2人の気持ちを代表してブラストが言った。「はい、わかりました」と引き下がれる話ではないのだ。
<人間は面倒くさいわね。理屈では無理だとわかっていることに、感情でしがみつく。困った物ね。だから、交換条件を用意してあるの>
アンジェリカはブラストの言葉を予期していたように、次のカードをテーブルにさらした。
<World Orderのメンバー。彼らについて核爆発はもちろん、その後の混乱期もワタシが安全を保障するわ>
WOシリーズのサイボーグ戦士は爆心地から離れていれば、核攻撃をも生き延びられるだけの防御力を持っている。
しかし、絶対ではないし、単に生き延びられるというだけでまともに生活できるかどうかはその限りではない。
メンテナンスができなければ、いずれ全員スクラップになってしまうのだ。
<お前のところならメンテナンスもできるのか?>
<もちろんよ。ワタシ自体にしてもハードウェアの更新は欠かせないもの>
WO-9の脳裏にWO-3の姿が浮かんだ。彼女に生きる可能性を残してやりたい。
人を救うために、自分を犠牲にし続けてきた優しい女性に。
だが――。
自分の仲間だけを助ける。そんなわがままが許されるのだろうか?
命を決めるくじ引きに、自分たちだけが参加もせずに当たりくじをもらって良いものか?
<それは……>
<わかったぜ>
<ブラスト!>
スバルは顔を歪めた。
<スバル、ここにはもう俺たちのできることは無いんだ。俺たちにできることって何だ? 俺たちは戦士だ。戦って救える命があるなら、そこが俺たちの居場所じゃないのか?>
アンジェリカが2人に見せた映像。それは異世界の巫女が助けを求めるメッセージの一部であった。
このままでは彼らの世界は滅びを迎えると。
<こっちの終末戦争は遅かれ早かれ起こる避けられない現実だ。お前もその事実は否定できないはずだ、スバル>
それは否定できない事実であった。アンジェリカが示した改ざん痕跡のないデータを見れば、終末戦争《ハルマゲドン》による世界の終焉は回避不能なところまで来ていた。WOシリーズに装備された高性能CPUが同一の結論を出している。
WO-9が簡単に同意できないのは、自分たちがこの世界を見捨てて逃げ出すように去ることであった。
<甘えてるんじゃねえのか、お前?>
<何だって? この世界を見捨てないことのどこが甘えだと言うんだ?>
WO-9はムキになってWO-2に反論した。
<そうじゃないか。俺たちには100億の同胞を救う手段がないんだ。悔しいがそれが事実さ。だがな、あっちの世界はまだ滅んだわけじゃない。俺たち次第では、人類を救うことができるんだ>
<だが、こっちの人たちが……>
<スバル。お前、人間の命に値段をつけるつもりか?>
<……>
<ジョークを言う元気もなくなってしまったのかしら。スバル、アナタも話に加わってくれない?>
<ボクは核弾頭を武装解除するまで手を止められない……>
<これなら良くて?>
WO-9の目の前で核弾頭の制御回路が作動停止した。
一切の電圧が掛かっていないことを、WO-9のセンサーが確認した。
<どういうつもりだ?>
主回路と電源ユニットを結ぶハーネスをむしり取りながら、WO-9は強い脳波を飛ばした。
<悪く思わないで。このミサイルは単なるダミーよ。アナタたちを呼び出す招待状っていうわけ>
WO-9はミサイルの外殻を怒りに任せて殴りつけた。
<何が招待状だ! こいつは本物の核ミサイルじゃないか。放っておけば都市が1つ消し飛ばされるところだった>
<時間が無かったの。アナタも「これ」を知ってちょうだい>
WO-2を襲ったデータセットと同じものが、WO-9のABになだれ込んだ。
<くっ!>
<いかがかしら? ワタシが焦る気持ちが理解できた?>
<おい。ブラザーを虐めるのはそれくらいにしてもらおうか。こいつは俺と違って純朴なんでね>
<ブラスト! 大丈夫か>
<すまねぇな。情けないところを見せちまった。もう大丈夫だ>
WO-2は迷いを捨てた目の色をしていた。
<オレの質問に答えろ!>
<なぜアナタたちを選んだのか? なぜ今なのか? どこへ行かそうとしているのか? 何をさせるのか? 質問はその4つだったわね?>
<ああ>
<答えは1つだけよ。「世界」を救ってちょうだい>
<何を言う? 世界を滅ぼそうとしているのはお前じゃないか!>
<ああ、紛らわしくて困るわね。「この世界」は滅びを迎えている。避けられない滅びをね。あなた方に救ってほしいのは「別の世界」よ>
サイボーグたちのABに映像が流れ込んだ。見たことのない植物相。記憶にない建築様式。
見たことのない文字。
<これは……?>
<遺跡考古学はアナタの専門でしょ、スバル。この地球上にこんな都市は存在しないわ>
<これは現実なのか?>
<ええ。まぎれもない現実よ。時空連続体の歪みを通って、強い思念波として送られてきた情報の一部よ>
映像は見慣れぬ都市を映したものだったが、今まさに外敵に襲われているように見えた。
<住人は俺たちと変わらないように見えるな。だが、攻め込んできている「アレ」は何だ?>
<異世界人の言語を解析したところによると、彼らはアレを「魔物」と呼んでいるわ>
<魔物だと?>
<驚かないで。「あそこ」は「魔法」というシステムが文明の中核を占めている世界よ>
<魔法だって?>
<「アブラ・カダブラ、炎よあれ」ってやつかい?>
<冗談のつもりかもしれないけれど、その通りよ、ブラスト。異世界についての情報を送るわ>
異世界の成り立ち、言語や文化、魔法というシステム、魔物とは何か。
そして、「現在」異世界を襲っている破滅の危機とは一体どのようなものか?
それが1つのパッケージとして、ABに送り込まれた。
<何だよ、簡単な話じゃねぇか>
<魔物の侵攻から世界を救えだって?>
<そいつは確かに俺たち向きの仕事だな。だがよ……>
<こっちがだめなら、あっちってわけにはいかねえだろう>
2人の気持ちを代表してブラストが言った。「はい、わかりました」と引き下がれる話ではないのだ。
<人間は面倒くさいわね。理屈では無理だとわかっていることに、感情でしがみつく。困った物ね。だから、交換条件を用意してあるの>
アンジェリカはブラストの言葉を予期していたように、次のカードをテーブルにさらした。
<World Orderのメンバー。彼らについて核爆発はもちろん、その後の混乱期もワタシが安全を保障するわ>
WOシリーズのサイボーグ戦士は爆心地から離れていれば、核攻撃をも生き延びられるだけの防御力を持っている。
しかし、絶対ではないし、単に生き延びられるというだけでまともに生活できるかどうかはその限りではない。
メンテナンスができなければ、いずれ全員スクラップになってしまうのだ。
<お前のところならメンテナンスもできるのか?>
<もちろんよ。ワタシ自体にしてもハードウェアの更新は欠かせないもの>
WO-9の脳裏にWO-3の姿が浮かんだ。彼女に生きる可能性を残してやりたい。
人を救うために、自分を犠牲にし続けてきた優しい女性に。
だが――。
自分の仲間だけを助ける。そんなわがままが許されるのだろうか?
命を決めるくじ引きに、自分たちだけが参加もせずに当たりくじをもらって良いものか?
<それは……>
<わかったぜ>
<ブラスト!>
スバルは顔を歪めた。
<スバル、ここにはもう俺たちのできることは無いんだ。俺たちにできることって何だ? 俺たちは戦士だ。戦って救える命があるなら、そこが俺たちの居場所じゃないのか?>
アンジェリカが2人に見せた映像。それは異世界の巫女が助けを求めるメッセージの一部であった。
このままでは彼らの世界は滅びを迎えると。
<こっちの終末戦争は遅かれ早かれ起こる避けられない現実だ。お前もその事実は否定できないはずだ、スバル>
それは否定できない事実であった。アンジェリカが示した改ざん痕跡のないデータを見れば、終末戦争《ハルマゲドン》による世界の終焉は回避不能なところまで来ていた。WOシリーズに装備された高性能CPUが同一の結論を出している。
WO-9が簡単に同意できないのは、自分たちがこの世界を見捨てて逃げ出すように去ることであった。
<甘えてるんじゃねえのか、お前?>
<何だって? この世界を見捨てないことのどこが甘えだと言うんだ?>
WO-9はムキになってWO-2に反論した。
<そうじゃないか。俺たちには100億の同胞を救う手段がないんだ。悔しいがそれが事実さ。だがな、あっちの世界はまだ滅んだわけじゃない。俺たち次第では、人類を救うことができるんだ>
<だが、こっちの人たちが……>
<スバル。お前、人間の命に値段をつけるつもりか?>
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