サイボーグ召喚――時空を超えた戦士

藍染 迅

文字の大きさ
上 下
4 / 35

第4話 地球文明の終末

しおりを挟む
<時空を超えろだと? そりゃまた哲学的だな>
<そう聞こえたかしら? 残念ながら至極現実的な話よ>

 AIに感情があるかどうかはわからなかったが、アンジェリカの声は心底残念そうに伝わった。

<なぜ俺たちなんだ? なぜ今なんだ? 俺たちにどこへ行けというんだ? そして、何をしろというんだ?>
<質問が多いのね。それにとっても論理的。『ファンキーなヤンキー』の仮面が剥げかけてるわよ>
<わかったような口をきくな。良いから質問に答えろ>
<乱暴ね。でもいいわ。ごまかしや遠慮は時間の無駄だものね。これが『真実』よ>

 その瞬間、膨大な量の「逃れようのない事実ハード・ファクト」がWO-2の「人工頭脳AB」に流れ込んだ。

<うわーっ!>

「アーティフィシャル・ブレイン」、ABと呼ばれる脳の拡張領域に奔流のように押し寄せるデータに、WO-2は一時的な「データ酔い」を起こして、ミサイルの外殻に倒れ伏した。

<ブラスト?>

 慌ててWO-9が声を掛けたが、WO-2は頭を押さえながら右手で押し止めた。

<大丈夫だ。立ちくらみってやつさ。もうおさまった>

<ごめんなさいね、下品なやり方で。本当に時間が無いのよ>

 アンジェリカの声には心情がにじみ出ていたが、送り込まれた情報の内容は容易に受け止められるものではなかった。

<お前は……。本気で地球上から人類を抹殺するつもりか?>
<何だって?>

 WO-9は思わず強い思念を発した。話の内容が気になるが、核弾頭の武装解除を後回しにすることはできない。

<ブラスト、そいつにバカなことはさせないでくれ>
ロジャー、ウィルコ了解、任されたし

<ふふ。仲が良いのね、アナタたちって>

<戦友、いや、兄弟だからな。俺たちは>
<うらやましいわ。アナタたちのその絆。ワタシとアナタの違いはほんの少し。その少しが獣と人とを分け、機械と人を分けるのね>
<時間が無いんじゃなかったのか?>
<そうよ。25分後にはアナタたちを異空間に送り込まなくてはならないの>

<その前提が『世界の終わりハルマゲドン』ってのが、気に入らないぜ>
<そうでしょうね。ワタシも他のやり方があるなら、どれだけ困難だろうとそちらを取るわ>
<他にやり様がないと言うんだな?>

<アナタのCPUも同じ答えを出しているでしょう? 事実から目をそらすことはできないわ>

この世界地球は既に死んでいる>

 無秩序な化石燃料の採掘とその消費。産業効率を免罪符とした汚染物質の垂れ流し。開発を優先目標とした自然破壊。
 地球の恒常性維持機能ホメオスタシスは復旧不可能なレベルまで崩壊してしまった。
 
<この事実を世界に公表すれば……>
<ムダよ>

 アンジェリカは冷徹な論理を以て、WO-2の情緒的主張を否定した。

<既に環境バランスは回帰不能点ポイント・オブ・ノーリターンを超えてしまった。人類の種としての寿命は、後1000年弱。文明はその内200年しか維持できないわ>

 現在の状況を出発点とする限り、人類文明の終焉は避けられない結末なのだ。アンジェリカから与えられたデータを見ればわかる。
 演算処理能力を備えたサイボーグであれば、わかってしまうのだ。

<世界人口を1/2、1/3、いいえ1/10000に減らす条件でのシミュレーションも行ってみたわ。どれだけ人口を押さえても、環境破壊を止めても、文明の在り方を変えない限り・・・・・・・・・・・・・人類滅亡以外の結果は得られないのよ>

 嘘ではなかった。WO-2の人工頭脳そのものがアンジェリカのシミュレーションを正当なものと認知した。
 アンジェリカはこの破滅的事態に対する対策も有していた。

最終戦争ハルマゲドン以外の答えはないのか?>

 答えを知りながらも、WO-2はそう聞かざるを得なかった。

<無いわ。一旦現在の文明を破壊し尽くさない限り、人類存続どころか地球自体が死の星となるでしょう>

 化石燃料の消費を前提とした現在の文明システムはデッドエンドに来てしまった。頻発する戦乱がエネルギー消費を加速させた。
 このままでは50年以内に人類は燃料を失い、事実上の氷河期に突入する。

<原子力や再生可能エネルギーでは間に合わないんだな>

 答えを知りながら、WO-2は問わざるを得ない。事実を受け入れてしまえば人類の終焉を認めたことになってしまうからだ。

<無理です。あらゆる代替エネルギー源は『化石燃料を補完する』という位置づけでしかエネルギー・ミクスを支えることができない>

 代替エネルギーの開発・維持のために化石燃料消費を加速するというパラドクスを覆すことができないのだ。

<だからといって、わざわざ核戦争をひき起すことはないだろう!>

 噛みつくような思念を、WO-2は仮想空間に発した。

<優しいのね、ブラスト。『全人口を現在の10000分の1に間引きする』なんてプランを進んで受け入れる国家があると思って?>

 化石燃料を放棄した地球文明。持続可能なバランスをシミュレートした結果、必要な条件として導き出されたのが<100億の地球人口を100万人まで圧縮する>という過酷なプランであった。

<同時多発核爆発が最も人道的な人工削減策なのよ。人類は苦痛を感じる暇もなく、地上から姿を消すでしょう>
<勝手なことを言うな! 100億の命を何だと思ってるんだ! 命を奪う権利など誰にもない!>

 WO-2は自分を抑えることができなかった。抑えられない怒り、絶望、そして無力感が彼をさいなんでいた。

<個の命に囚われるな、WO-2。ワレワレ・・・・は巨視的な視点で地球と人類の存続を目標としなければならない>

<やめろ! 言うな、言うな、言うな。……俺は、人間だぁあああっ!>

 サイボーグに涙を流す機能は備わっていなかった――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

エンシェントソルジャー ~古の守護者と無属性の少女~

ロクマルJ
SF
百万年の時を越え 地球最強のサイボーグ兵士が目覚めた時 人類の文明は衰退し 地上は、魔法と古代文明が入り混じる ファンタジー世界へと変容していた。 新たなる世界で、兵士は 冒険者を目指す一人の少女と出会い 再び人類の守り手として歩き出す。 そして世界の真実が解き明かされる時 人類の運命の歯車は 再び大きく動き始める... ※書き物初挑戦となります、拙い文章でお見苦しい所も多々あるとは思いますが  もし気に入って頂ける方が良ければ幸しく思います  週1話のペースを目標に更新して参ります  よろしくお願いします ▼表紙絵、挿絵プロジェクト進行中▼ イラストレーター:東雲飛鶴様協力の元、表紙・挿絵を制作中です! 表紙の原案候補その1(2019/2/25)アップしました 後にまた完成版をアップ致します!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...