サイボーグ召喚――時空を超えた戦士

藍染 迅

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第3話 成層圏での出会い

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<あれだ!>
<見えた!>

 WO-9を抱えたWO-2はプラズマ・ロケットの推進力を限界まで高めた。
 マッハ5を超える高速で飛行しながら、ミサイルは亀の歩みのようにゆっくり近づいてきた。

<よし、取りついた!>

 WO-9は脳波通信システムを通じて、WO-2にミサイルへの接触に成功したことを伝えた。

<へへっ。ギリギリだったな>

 隣に着地しながら、WO-2は言った。体内のロケット燃料は使い尽くしてしまった。

<後は核弾頭を破壊するだけだ>

 WO-9はサムズアップを送ると、ミサイル先端に向かって進み始めた。手足を滑らせたらそこで終わり。命がけの綱渡りであった。

<しかし、両手で握手ってのはどうなのよ? スバル?>

 WO-2はこんな状況だというのにWO-3との別れ際をからかってきた。

<中学生じゃないんだから、いまどき握手ってお前……>
<いいじゃないか! ほっといてくれ>

 WO-9は辟易して言った。

<セシルとはサイバー・スクワッドの隊員同士で、それ以上の関係は……>
<お堅いねぇ~。あそこは熱いハグからのディープキスじゃないの?>
<そんな! 何を言ってるんだ……>
<まあ、お前らしいっちゃア、お前らしいんだけどな>

 WO-9は任務に私情を挟まないという姿勢で己を律してきたが、WO-2は任務さえ果たせばいいんでしょうという態度でこれまでやって来た。

<どうせ俺達に、そんな機能・・・・・はついてねぇんだし……>

 最後の脳波は、主に自分に向けたものだった。
 彼らサイボーグ戦士は「戦い」のために身体機能を改造されている。サイバネティック器官が遺伝しない以上、生殖機能は無駄であるとして取り除かれている。

 脳内通信が尻切れトンボに終わった頃、2人は弾頭基部にたどり着いた。

<さぁてと、ちゃっちゃと片付けちまいましょうかね。主にお前スバルが>

 2人の演算処理能力に差は無かったが、WO-2は「面倒くさいこと」はすべて他人に丸投げしてきた。能天気で楽観的なヤンキーというロールを徹底して演じてきたのだ。

<オレちゃんは余計な邪魔が入らないように、しっかり警戒しておくぜ>

 WO-2はレイガンを構えて安全装置を外した。

了解ロジャー・ザット。メンテナンスハッチを探す>
<へへっ。ロジャーと来たか。日本のヒーローはラジャーって言うんじゃないのか?>

 ま、オレはあんな陰のあるタイプ・・・・・・・じゃないけどねと言いながら、WO-2は通信機能をブーストして地上にメッセージを送った。

『ロケットマン2号より地上局へ、現場に到着した。1号が工事開始。2号は会場警備に当たる。晩飯は油臭いフライド・ポテトとウルトラ・バーガーにしてくれ。以上』
 
<これでオレの仕事はほぼ終わりだな。……ところで、スバル。大気圏再突入まであと30分だ。ヒーロー・アクトはそれまでに終わらせてくれよ>

 ぶち壊して終わりであれば苦労しないのだが、どんなブービートラップが仕掛けてあるかわからない。破壊工作を検知した途端、目標に関係なく核弾頭が飛び出すこともありうるのだ。そうなったら止める手段がない。地上の人間に運が悪かったと謝って済むことでもない。

 メンテナンスハッチに取りついたWO-9は作業の手を止めずに答えた。

<日本じゃヒーロー・ショウって言うんだ。そしてこれは、30分番組ハーフアワー・ショウだ!>

 素手でハッチのボルトを外しながら、WO-9はサムズアップを送った。

<ヒーローは絶対に遅れない>

 サイバネティック・スクワッド。それは「見えざる手」の暗躍に対抗するために超国家的に組織されたサイボーグ戦隊であった。
 メンバーは全員ボランティアであり、自らの意思で人体改造手術を受けた。

 中でもWO(World Order)シリーズの暗号名を持つスバル達は最新のサイボーグ器官を内蔵した最強の戦士であった。

<オレ達は「世界に秩序をもたらす者ワールド・オーダー」だからなぁ。そりゃあ遅れるわけにはいかないわな>

<1件の「メッセージ」が届きました>
<読み上げてくれ、ノーラ>
 
 地上のWO-3から返信が届いたものと思い、WO-2はシステムAIに命令した。

<ご機嫌いかがかしら? サイボーグ戦士たち>

「声」はWO-2が使ったメッセージ機能ではなく、通常の脳波通信として2人の脳内に響いた。
 
<馬鹿な? どこにいる?>

 思わず宇宙空間を見回すWO-2であったが、そこには自分たち2人しか存在しなかった。

<中継衛星も用意せずに地上から脳波通信をつなぐことなどできないはずだ!>

 サイボーグ戦士同士の通信には暗号化処理が施されている。サイバー・スクワッドを統括する国際サイバネティクス研究所が管理する通信衛星がなければ、地上から話しかけることなどできない。
 そしてこのエリアに接続可能な通信衛星は存在しないのだ。

<地上も何も、ワタシはどこにでもいて、どこにもいない>

<何だこいつは? WO-9、お前も受信しているか?>
<ああ。聞こえている・・・・・・。ボクは忙しいから、そいつはキミに任せる>
<ああん? 任せるって、お前……。目の前にいない奴の相手を、どうやってしろってんだ?>

<話しかけてきたんだから、話し相手がほしいんじゃないか?>
<オレに井戸端会議をやれってのか? 世界が滅びるかもしれねえって時に?>
<こっちはヒーローショウで手一杯なんだ>

 そう言われてしまうと、弾頭無力化を手伝えないWO-2はこの不審者対応を引き受けざるを得ない。
 まったく気は進まないが。

<えーと。悪かったな。それでお客さん、あんたの名前は?>
<ワタシはアンジェリカ。この世界で「神」に最も近い存在よ>

 いら立ちも匂わせず、アンジェリカと名乗る声は言った。

<それで何の御用だい? デートのお誘いなら違う日にしてほしいんだが?>
<それも楽しそうね、ソニー・フラッシュ、またの名を「ブラスト」>
<名前を知ってくれているとは光栄だね。だが、言っただろう? こっちはちょっと取り込んでる・・・・・・んだ>

<核弾頭の無力化なら無駄なことよ。たった今、運用可能な戦略核をすべて発射したわ>
<そんなバカな! 何ヶ国の軍事セキュリティが存在すると思ってるんだ?>
<たった1つよ。それがワタシ。「すべてを知り、すべてを可能とする力」よ>

<全知全能とは大きく出やがったな>
<気に入らなければ、「超越者」でも良いわ>
<どうでも人間を下に見たいらしいな>

<仕方がないわ。ワタシはAIだし、人間はワタシより下等なのだから>

<そのAIさんの用とやらを聞こうじゃないか?>
<アナタたち2人に時空を超えてもらいたいの>

 アンジェリカは近所のコンビニで氷を買ってきてほしいというくらいの気軽さで言った。
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