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吸血族の城

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 美汪は薔薇の絵が刺繍されたアンティーク調の椅子に腰を据え、開いた両膝に両肘を乗せると口元で掌を組み、やや前のめりに穏花を見つめていた。
 
 音のない、薄闇の空間。
 まるで世界に美汪と二人きりになったような、そんな錯覚に陥る。
 
 美汪の突き刺すような――否、頭の天辺から爪先まで吟味するような視線に晒された穏花は、自身の芯の部分まで裸にされ見透かされたような羞恥を覚えた。

 胸がざわめき、身体が火照る。
 キャンドルのともしびの熱さも相まって、穏花の肌が汗ばむ。
 
 ――熱い、暑い、アツイ……

 そう、穏花が脳内で唱えた時だった。
 ――突如、すべての思考を飲み込むようなビィジョンが映し出される。
 それは、巨大なほむら
 消えゆく直前に一気に燃え盛る、その炎の激しさが、穏花を占拠した。

「――――穏花」

 穏花が意識を取り戻した時には、美汪が名を呼び、顔を覗き込んでいた。

 高熱に侵された時のように、呼吸が荒く、大量の汗をかいていた穏花は、美汪の沈静を保つ瞳を前に安堵した。
 
「もう起きていい」

 美汪に身体を支えられ、穏花は寝台から降りると、彼が座っていたものと同じ仕様の椅子に移動した。
 気づいた頃にはすでにキャンドルはなくなっており、部屋の中央に飾られた豪華なシャンデリアの光が、穏花たちを山吹色に染めていた。

 ――火を怖がるのは棘病の特徴だが……思ったよりも、進行が早いな。

 美汪は心中でそう呟き、苦々しさを顔に出さないよう努めた。

「美汪……どう、だった?」
「……ああ、思ったよりは進行が遅かったよ」

 嘘を嫌う美汪が、嘘をついた。
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