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吸血族の城

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 広い城内の玄関から突き当たり、最奥の部屋。
 廊下を挟み両端に並んだそれらよりも堂々たる風格を持つ観音開きの扉の中に、穏花は足を踏み入れた。
 ――が、一歩目にして豪快に転んでしまった。
 その瞬間を入り口付近でしかと目撃した美汪は、頭痛がする思いで深々とため息をついた。

「本当に君のボケは時と場合を選ばないね」
「い、イダダ……ごめん、真っ暗で何も見えなくて」
「何もないところで転ける理由にはならないでしょ」
「あ、ありが――ひゃっ!?」

 手を伸ばした美汪に、てっきり腕でも掴んで引っ張り起こしてくれると思った穏花は予想外の事態にすっとんきょうな声を上げた。
 それもそのはず。穏花はあっという間に美汪の腕に抱えられていたからだ。

 少女漫画などではよく見る光景を、まさか自身が体験する日が来るとは考えもしなかった穏花は、ひどく恥ずかしくなってきて手足をもぞもぞと動かした。

「また派手に転ばれては厄介だからね。……ちょっと、暴れないでくれる? ただでさえ重いんだから」
「ええっ!? や、やっぱり……最近スカートがキツくなった気がしてたけど……」

 あからさまに肩を落とす穏花を、美汪は悠々と抱きかかえたまま歩く。
 明かり一つないこの室内はまさに黒一色で、穏花の目では家具や装飾を確認することも困難だった。
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