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秘密

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 みちるは昔から穏花を知っており、また、頭の回転も速いため、彼女の挙動から嘘をついていることはすぐさまわかった。
 しかしそれを知ったところで、断固として美汪が無関係という意見を変えない穏花に、とりあえずはみちるが食い下がる形でこのやり取りは終わった。
 穏花は穏やかだが、自分が決めた意見はなかなか変えないという頑固な一面もあった。

「……わかったわ、穏花がそこまで言うなら、この話は一旦ここでおしまいね。とにかく、早く家に帰らないと、みんなが心配するわ」
「う、うん、そうだね」

 穏花もスカートのポケットに入れていたスマートフォンを出し、ライトをオンにすると、二人はそれらを懐中電灯代わりにして元来た道を戻って行った。
 
 太陽に照らされている時間帯はとても美しい景色を見せてくれるこの場所だが、日の光が行き届かなる夜には、街灯すらなく、木々が風に騒めく音すら不気味さを演じ、異様な空気を醸し出していた。

「……ごめんね、穏花、私……余計なことをしたのかも。穏花はやめようって言ったのに」
「そんなことないよ。みっちゃんは私のためにやってくれたんだから」
「そう? ……ねえ穏花、何かあるなら、絶対私に――」

 不意に、みちるが言葉を切り歩みを止めたので、歩幅を合わせていた穏花も一緒に立ち止まる。
 どうしたの? と聞く前に、みちるの視線を追う。
 すると、みちるが見開いた目で眺めていた一点に辿り着いた。
 
 背の高いブナの木の枝に、ぽつり、ぽつり、三つの小さな丸い点が……紫の鈍色に浮かび上がる光が、穏花たちを見ていた。
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